本格ミステリ07

2006年1月1日〜12月31日に発表された本格短篇から本格ミステリ作家クラブプロジェクトチーム(乾くるみ、歌野晶午、円堂都司昭)が選んだベストアンソロジー。評論では福井健太「本格ミステリ四つの場面」、巽昌章「宿題を取りに行く」の2編を収録。
熊王ジャック   
柳広司
動物記で有名なシートン氏よりジエラネバダ山脈の森林の中で聞いたクマ殺人事件の話。
金持ちの息子マイクとその従兄弟のトニーが狙うのはジャック熊と恐れられる巨大なグリズリー。話を聞いたシートン氏が眉をひそめるのは、マイクが功名心だけでジャックを仕留めようとしていることだった。
金で多くの猟師を雇い、すこぶる熱心なマイクに対してトニーの方は一刻も早く町に帰りたい様子。あるときジャックの痕跡を見つけたマイクたちが、その跡を追って行くと目の前にジャックが現れた。
立ちすくむマイクに、横合いから咄嗟にトニーが銃を撃ち、ジャックにダメージを与え退散させた。その翌日、ジャックの跡を追って一行が馬に乗って崖を進んでいると、崖の上からマイクめがけて岩が落ちてきた。
マイクは岩の直撃を受けて馬ごと崖下へ。さらに崖上からはトニーの悲鳴と銃声が。トニーは毎日の日課で近くの町に電報を取りに行っていたのだ。慌てて一行が崖の上に行くと、トニーがジャックに襲われたと身を震わせていた。

裁判員法廷2009    
芦辺拓
有賀誠彦は、鷺坂コンサルティングのオーナー鷺坂太一殺害の容疑で逮捕され起訴された。有賀は鷺坂との間にトラブルを抱え、サバイバルナイフを持って鷺坂コンサルティングに鷺坂を訪ねたことを認めている。
ナイフで鷺坂を脅し、鷺坂が背を見せて携帯電話を架け、その後振り向いたら血だらけになっていた。驚いた有賀はナイフを放り出して逃げた、これが有賀の証言で、殺人については無罪を主張した。
有賀が鷺坂コンサルティングの部屋から血だらけになって飛び出して来たのを、向いの店の主人が目撃している。警察の調べでは鷺坂は有賀が所持していたナイフで刺殺され、押収された有賀の服には鷺坂の血が付いていたのだから、当然に有賀を逮捕した。
そして有賀は殺人容疑で起訴され公判に。有賀は冒頭陳述でも無罪を主張し、検察側と全面的に対決することとなった。検察官は頭の切れそうな女性菊園綾子、対する弁護士はどこかぼーっとした森江春策…

願かけて    
泡坂妻夫
宝引の辰捕物捕者帳の一話。
吉原で遊んだ辰の子分の松は朝早くに吉原を出たが、そこでお尋ね者の玉子の黄兵衛を見つけた。黄兵衛の方でも気づいて、一目散に逃げ出した。
松も追いかけたが、黄兵衛の脚はめっぽう早く追いつくどころか差は開くばかり。だが周囲は吉原田圃といわれる田圃の中の一本道で、黄兵衛が脇に逃げたり隠れたりする気遣いはなかった。
しばらく走ると向こうから女の子の手を引いた隠居と見える男がやって来た。松は逃げて行った黄兵衛の様子を聞いたが隠居は誰ともすれ違わなかったという。
隠居は釘抜屋という大きな質屋の隠居で信心深く、お尋ね者を庇うような人間とも見えない。すると黄兵衛はどこに消えたのか…

未来へ踏み出す足    
石持浅海
地雷除去のために新たに開発されたむかで型ロボット。センサーで地雷を探り出し、地雷に接着剤を注入して無力化してしまうというすぐれたもので、その実用テストがカンボジアの地雷原で行われた。
ロボットの開発に直接かかわった岡田、弓削、谷村の3人の技術者とジャーナリストの永井綾子の4人のチームが、地雷除去NGOのコン・ソルンとともにキャンプを張り、地雷除去実験を重ねた。
そんなある夜、5人だけのキャンプで弓削が殺された。奇妙なのは弓削の死体で、その頭部はむかで型ロボットから噴射された接着剤で固められていた。

想夫恋    
北村薫
時は昭和戦前、お嬢様学校の友人綾乃さんが行方不明になった。綾乃さんのお母さんが私を訪ねてきて、そのことが明らかになった。綾乃さんは手紙を置いて行った。
その手紙には先安赤勝大勝仏勝…と謎の文字が並び、さらに日記帳から破り取った3月、5月、8月、10月、12月の予定を書き込む欄の日付欄に、それぞれ先勝、友引、先負、大安、仏滅、赤口など六曜のほかに先引、友安、赤滅など漢字2字を組み合わせた文字が並んでいた。つい先日2人で話した映画に出てくる暗号を使った手紙のようだが…

福家警部補の災難    
大倉崇裕
福家警部シリーズの第5作にあたる。
ハラダ警備保障社長の原田明博は鹿角諸島をめぐる周遊航海中の豪華フェリー「マックス」の船中で、川上直巳を殺害した。かつて2人で探偵をしていた時に、何人かの顧客をゆすったが、金に困った川上はその秘密をタネに原田をゆすって来たのである。
鹿角諸島のクルーズが終わり、東京に向かっているとき、原田はウィスキーのボトルを手に直巳の船室を訪ね、特殊警棒で背後から襲った。
その瞬間に目覚まし時計が鳴り出して気を取られ、狙いが外れて格闘となったが何とか殴り倒して気絶させ、ウィスキーのボトルで頭を殴って殺した。
したたかに膝を打ったり、マニキュアの瓶が倒れてこぼれたりと予期せぬアクシデントはあったが計画通りに直巳を殺し、直巳を尾行していた岡山というやくざに罪を着せるよう工作を開始した。
工作を終え船室でくつろいでいるとノックの音がした。ノックの主は警視庁の福家警部補と名乗った。

忠臣蔵の密室   
田中啓文
四十七士が吉良邸に討ち入ったとき、すでに仇吉良上野介は死んでいた。討ち入ってから1時間、上野介はまだ見つからず四十七士の間には疲れと焦りが見えた。
大石内蔵助はまだ炭小屋が探されていなと知ると、その捜索を命じた。炭小屋の戸には錠がかかっており、それを浪士が蹴破って中を捜すと炭俵の脇から白装束の死体が転がり出した。
それが目指す敵上野介だった。すでに上野介は事切れており、その脇腹には深々と短刀が刺さっていた。
炭小屋には錠がかかった戸があるだけで窓はなく、しかも周囲の雪には上野介のものも含めて足跡が一つもなかった。なんと討入前に目指す仇が密室の炭小屋で誰かに殺されていたのだ。

紳士ならざる者の心理学    
柄刀一
学園祭の真っ最中の私大のキャンパスに勝平愛子教授を訪ねた天地龍之介は、そこで盗難事件が発生したことを知る。勝平教授は学生たちとチームを組んでゲーム制作にも取り組み、ヒット商品を世に送り出していた。
そして最近クロスティックという新たなゲーム機を開発し、その試作品を完成させたのだが、その試作機が盗まれたのだ。だが、窃盗犯がどうやって試作機を現場から盗んで行ったかがわからなかった。
試作機のあった部屋には人は沢山いたし、部屋への出入りも自由だった。実際に何人かが出入りしていたし、段ボール箱も持ちだされていた。
だが段ボール箱の中身はすべてわかっており、小型のビデオデッキほどの大きさと重さを持つ本体と、薄型ながらそこそこの大きさのディスプレイを段ボール箱の中に入れる余地はないはずだった。
警察にも届けられて捜索が行われたが試作機の行方は不明であった。さらに学生の一人がフェンスに接触して感電死する事故も発生した。
配電盤の裏の電線の被覆がはがれ鉄パイプが接触し、さらに鉄パイプの先端がフェンスに接していたのだ。おそろしい偶然ながらそのフェンスに触れた学生は、一瞬のうちに感電死してしまったのだ。

心あたりのある者は    
米澤穂信
「10月31日、駅前の巧文堂で買い物をした心あたりのある者は、至急、職員室柴崎のところまで来なさい」という校内放送が神山高校に流れたのは11月1日の放課後。
この放送を聞いた千反田えるは折木奉太郎に、この放送がどういう意味で行われたか推論してみよ、と挑戦した。挑戦を受けた折木が出した結論とは…


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