本格ミステリ06

2005年1月1日〜12月31日に発表された本格短篇から本格ミステリ作家クラブプロジェクトチーム(乾くるみ、歌野晶午、佳多山大地)が選んだベストアンソロジー。評論では小森健太朗「攻殻機動隊とエラリイ・クイーン」を収録。
霧ケ峰涼の逆襲   
東川篤哉
2階建ての変哲もないアパートの1階3号室。そこに人気俳優の安藤タケルが入っていった。その部屋は某劇団の女優水原真由美の部屋。
安藤を尾行していた芸能カメラマン2人は、スクープを狙って3号室を前後から見張る。やがて夜になって一台のワンボックスカーがやって来て3号室の前に止まった。
ワンボックスカーの運転席から赤いジャンパーを着た男が降りて、車の前を廻ってアパートに消えた。その直後にワンボックスカーの後ろのハッチが開いて、今度は白いジャンパーを着た男が脚立を持って降りてきてアパートに消えた。
そして暫くしてアパートから脚立に乗せられた水原真由美が出てきた。病気で病院に向うところだという。中には安藤が一人でいるはずだと考えた芸能カメラマン2人は、翌朝まで3号室を見張った。
すると水原真由美が薬を持って帰って来て、見張っていることを抗議した。そして3号室には安藤など最初からいないと言って、部屋の中を見せた。そこには確かに真由美の言うように誰一人隠れてはいなかった…

コインロッカーから始まる物語    
黒田研二
ローカル線の無人駅、羽柄駅である日コインロッカーに棄てられている嬰児が見つかった。嬰児は命に別条はなく、施設に預けられた。同じ日にコインロッカーの前で黒猫の死骸が見つかった。その死骸は耳と脚が切断されて、右目がくりぬかれているという無残な姿だった。
翌月、今度はコインロッカーに預けていたJリーグの選手のサイン入りのサッカーボールを取り出そうとした男が、おばさんに鉄パイプで殴られて、その隙にサッカーボールを奪われるという事件が起きた。

杉玉ゆらゆら    
霞流一
酒蔵の研究所に勤めて酵母の改良に情熱を燃やしていた早瀬宗晴が殺されたのは零時から1時の間で死因は絞殺。その時には雨が降っていたが、その雨がやんだのは3時45分ごろ。
5時過ぎに向いのうどん屋の女主人がのどが渇いて起き、窓越しに見たけれどそこには死体がなかった。早瀬の死体はオレンジ色のトレーナーに黒いズボンだから、うどん屋の女主人が見逃すはずはない。
死体を見つけたのは研究所の同僚の女性で6時半に寮の窓から死体を発見し、駆け付けたのちにうどん屋を起して110番した。その女性が寮から慌てて駈け出して来たところを散歩の老人が見ている。そして雨に濡れた地面には、発見者の女性の足跡しか残っていなかった。

太陽殿のイシス(ゴーレムの檻 現代版)    
柄刀一
カルト系宗教ヘリオポリスの船の幹部だったゴレームは教祖ラーに造反して捕えられ、神殿内の独房に監禁された。独房は横幅7m、奥行き4mで天井が高く、厚さが1m半以上もある硬い凝灰岩のブロックで造られていた。
窓は一か所で70cm四方で二重になっており、外側の窓は嵌め殺しで鉄格子があり、内側の窓は磨りガラスであった。ドアも一か所で監視しやすいように硬い樹脂製の透明なものであった。
このドアは電子錠に付いていて自動的に電気制御がかかり、ドアの前には監視員が24時間4交代制で詰める監視室があった。独房の中は薄暗く、それを補うための電気スタンドがあった。ほかには机があるだけであり、もちろん人の隠れるようなスペースはない。
さてこの独房からゴレームが消えて見せると予告し、事実消えた。ドアが中から紙で覆われ始めたのを見た監視員はすぐに警備責任者に連絡し、駆け付けた責任者と監視員が独房に入ってみるとゴレームは見事に消えていた。
さらにゴーレムは独房から逃亡したのだが、逃亡経路も全く不明だった。窓の鉄格子は破られておらず、ドアから出ても人の目があった。ゴーレムの姿は独房から消えた後、誰にも見られていないのだった。

この世でいちばん珍しい水死人    
佳多山大地
南米コロンビアのウクカ川に三体の死体が流れていた。死体は警察に引き揚げられたが、いずれもTシャツに半ズボンというラフな姿で、全身を自動小銃で蜂の巣にされていた。
この国では川を他殺死体が流れている光景などさほど珍しいものではなく、麻薬組織かゲリラの抗争によるもの考えられたが、不思議なのは三体とも死因が水死であることだった。
一方ウクカ川の上流にあるウクカ刑務所では、囚人でもなく訪問者でもないひとりの男が深夜脱走を図り、監視所の看守に銃で撃ち殺されていた。この2つの事件に繋がりはあるのだろうか…

流れ星のつくり方    
道尾秀介
海辺の宿から夜の散歩に出た北見凜は、バス停のところにある自動販売機で玄米茶を買ってバス停に座って飲んだ。するとバス停そばの家の窓際でラジオを聞いていた男の子が声をかけてきた。
凛と話をするうちに男の子は将来医者になるか警官になりたという。医者になるのは自分と同じ病気の人を救いたいため、警官になるのは友達の両親を殺した犯人を捕まえるためであるという。
そして少年が小学校1年生の時の事件の話を始めた。その友達の家は泥棒に入られたために警備会社と契約し、セキュリティシステムは万全、おまけに事件の日には家の前で道路工事をしていた。
犯人は9時過ぎに宅急便を装って侵入し、少しして道路工事が始まったという。そこまでは近所のおばさんが見ていた。昼すぎになって少年の友達が帰宅し、そのあと30分ほどして道路工事が終わり、さらに暫くして死体が見つかったという。
宅急便を装った犯人は侵入してすぐに殺害に及んだと考えられたが、犯人が出て行った姿は誰にも目撃されていなかった。犯人はどうやって家を脱出したのだろうか…

黄鶏帖の名跡   
森福都
中国は宋の時代、皇帝直属の巡按御史趙希舜の一行は新姚県にやって来た。県知事の王敬元が無実の人たちを投獄しているという噂があったのだった。
知事は身寄りの少ない良家の子弟、それも大金持ちは避けて、いくらか後ろ暗いところがある成金の子弟を難癖をつけては投獄した。
その間に自宅は捜索されるが、本人の扱いは意外とよく、牢獄の環境も悪くはないし食事もそれなりだった。しかも10日ほどすると釈放され、知事は「これも県の平安を守るためのこと。許せ」と詫びまでいうのだった。
趙希舜の一行は身分を隠して旅館に泊まり探索を始めたが、知事はなぜか一行を逮捕し牢獄にぶち込んだ。

J・サーバーを読んでいた男    
浅暮三文
玩具メーカーを定年退職し、妻にも先立たれた私は、自宅で少年たちの玩具の修理屋を始めた。ある日のことRCカーを持った小学校5年生くらいの少年が訪ねて来て、ときどきRCカーが暴走するのだという。調べてみると車にもリモートコントローラーにも受信機にも悪いところはなく、外部要因おそらくは無線の混信と考えられた。
さらに話を聞くと今日はとくに動きがおかしく、近くの廃止された流通倉庫に忍び込んでレースの練習をしていたところ、三角、丸、三角という変な動きを繰り返すのだという。それを聞いた私はRCカーを借りてその流通倉庫に向った。

砕けちる褐色    
田中啓文
「グレイト・ジャズ・バイ・ザ・シー」は海外からも著名なミュージシャンが参加する大型ジャズフェスティバルだ。今年も海外を含めて著名なジャズバンドが登場した。
中でウッドベース奏者の片桐芳彦は超一流の腕を持っていて世界的にも有名だったが、反面性格は悪くトラブルメーカであった。特に片桐が愛用するベースの名器「フランソワ」は3千万といわれ、片桐は命よりも大事にしていた。
そのフランソワのために片桐は温度調整できる個室の楽屋を望み、それが契約条件でもあった。この日は予定していた楽屋のエアコンが壊れ、別のグループを追い出して新たな楽屋にするなどトラブル続きだった。
さらに片桐たちのバンドの演奏時には雨が降り出し、片桐はフランソワに変えて、別のバンドのベースを使って演奏した。その片桐がアンコールでソロをやりステージを降りてきて楽屋に入ると、何とフランソワのネックの付け根に数センチの穴が開けられて壊されていた。片桐は激怒し、犯人を探し出して殺してやると息巻いたが…

陰樹の森で    
石持浅海
キャンプに来た6人はキャンプファイヤーを囲み、飲みかつ食べた。酔いが回って事件が起きた。メンバーの一人で銀行に勤める牧原徹郎が顧客の金を横領している事実を恋人の守谷英恵が口を滑らしたのだ。
楽しかった雰囲気が一変し、徹郎は酔いを醒ましてくると森の中に入っていった。徹郎の戻りが遅いので、英恵が様子を見に行った。ところが英恵も戻ってこない。
ほかの4人が捜しに行き、森の奥で首を吊って死んでいる徹郎とナイフで胸を刺して死んでいる英恵が見つかった。後追い心中のように見えたが、いくつか不審な点があり、徹郎は自殺らしいが英恵は殺されたと考えられた…

刀盗人    
岩井三四二
中世の荘園でのこと。村の有力村民太兵衛が村の湯屋に入っている間に名刀を盗まれた。刀は衣服とともに脱衣場に置いてあったという。
太兵衛が盗人として訴えたのは、一緒に風呂に入っていて先に出た豊次郎と彦右衛門、それに風呂焚きのおきぬの3人。この3人の中にしか盗人はいないように思われたが…

最後のメッセージ    
蒼井上鷹
ストーカーに悩む美人ミステリ作家葵からの訴えに、芸能プロに勤める三谷は葵のそっくりさんを替え玉にする作戦を考えて実行に移すが…

シェイク・ハーフ    
米澤穂信
高校2年の小鳩常悟朗は友人との待ち合わせの時間つぶしに駅前のハンバーガーショップに入った。そこで久しぶりに同級生の堂島健吾に会う。堂島とは小学校が同級、中学は別、高校は一緒だがクラスが違う。
堂島は新聞部の取材がてら探偵をしていて、今も薬物乱用のグループを追って張り込んでいるところだと打ち明けた。暫くして堂島がいきなり立ち上がる。張っていた人物に動きがあったらしい。
堂島はあわただしく常悟朗にメモを残し、暫くして何も動きがなかったらここに連絡してくれと言い残して出て行った。チーズバーガーを食べながら上の空で聞いていた常悟朗だが、何も動きがなかったらという堂島の言葉に苦笑した。
誰がターゲットなのかもわからないのに、見張りようがないからだ。相変わらずの堂島にあきれながらメモを見るとさらに唖然とした。そこにはただひと文字「半」と書かれていただけだった。


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