本格ミステリ05

2004年1月1日〜12月31日に発表された本格短篇から本格ミステリ作家クラブプロジェクトチーム(乾くるみ、歌野晶午、佳多山大地)が選んだベストアンソロジー。評論では天城一「密室作法(改訂)」をまた高橋葉介のマンガ「木乃伊の恋」収録。
大きな森の小さな密室   
小林泰三
辺鄙な村の森の奥深くある蓮井錬治の別荘に呼ばれた3人の男と3人の女。ケチで強欲な錬治はあくどい商法の金貸しもしており、集まった男女はいずれも訳ありの面々。
午前中に面会できたのはひとりだけで、錬治の昼食時になってしまった。呼ばれた人物は食事も無く、また山の中だから食堂や店もない。
しかたなく面々は付近を散歩したりして、1時に戻ってきたが、その間に錬治は何者かに殺されていた。錬治は首の後ろをナイフで刺され、しかも腹を裂かれて内臓を掻きだされているというむごい姿で、その死体は部屋のドアによりかけられていた。
錬治の死体がもたれかかっていたので、ドアは外からは開かず、窓も全て内側から鍵が掛けられていて、現場の部屋は密室状態であった。もちろん死体の状況から錬治が自分でもたれ掛かることなどあり得なかった。

黄昏時に鬼たちは    
山口雅也
雑居ビルの谷間の路地の奥、居酒屋と喫茶店とファストフード店の共同ごみ置場に置かれた大型のポリバケツの中から、若い男の死体が見つかった。
鈍器で頭を数回殴られており、凶器となったブロック片はそばに落ちており、ポリバケツの底に被害者の血が滴っていたことから、現場はこのゴミ置場であったことは明らかだった。
居酒屋の調理師がゴミを捨てようとして見慣れないポリバケツに気づき、そこから靴が覗いていたので不審に思って蓋をあけ、死体が発見された。
死後、ほとんど時間は経っておらず、調理師は死体発見の直前に調理場の窓から不審な白髪頭の男女が慌てた様子で路地を出ていくのを目撃していたという。
死体の主は通称オサル、ネットサークルの隠れ鬼に参加中だった。引籠りの人間の社会復帰を目指すNPOの活動と大学のサークルがジョイントして、大人のかくれんぼとして隠れ鬼が行われ、その最中にオサルは殺されたらしい…

騒がしい密室    
竹本健治
その校内放送は突然はじまった。画面に現れた春山成美はtuと刺繍された傘を握りしめながら、「ウミヒト君聞いて!…この傘に…思いあたるところがあるでしょう。…正直に言って!でないと私、もうどうしていいか…」と一方的に言って画面から消え、放送は終わった。
校内から放送部員をはじめ何人かが放送室に向かった。放送で名指しされた津島海人もその中のひとりだった。海人は成美にああ言われたものの、心あたりは全くなかったし、第一傘も海人のものではなかった。
それに海人は成美とはほとんど面識もなく、名前を知っている程度で、口をきいたことすらほとんどなかった。海人が放送室の前に来ると、そこでは大騒ぎだった。鍵が掛けられていて入れないのだ。
やっと合鍵を持った教頭が来て鍵をあけると、そこには成美の死体があった。さらに放送室の鍵は放送機器の上に放り出されるように置かれていた。現場は密室だったのだ。
そのこともあって成美は自殺したと判断されたが、とばっちりを受けたのは海人だ。まったく心あたりもないのに、成美の自殺の原因が海人にあるように言われて…

覆面    
伯方雪日
凍てつくような早朝、後楽園ゆうえんちの園外のゴミ捨て場の後ろ側で、その死体は発見された。その死体は外から隠されるように遺棄されていて、盛り上がった筋肉が衣服の上からでもはっきりわかるほど体格がよかった。年齢はまだ若く、背中からナイフで刺し殺されたものらしい。
もうひとつ不思議なことに、後頭部の髪の毛一部が切り取られていた。これは後日凶器のナイフで切り取ったらしいとわかった。
初動捜査に出た刑事は現場が後楽園ホールの近くで、前夜格闘技の試合があったことから、被害者はレスラーではないかと見当をつけた。そして伝説のプロレスラー新東京革命プロレスの寿仁を訪ねた。寿は死体の写真を見て、覆面レスラーのカタナ、本名棟方創であることを認めた…

雲の南    
柳広司
大ハーン・フビライの統べる都に到着したマルコはフビライの信頼を得、雲の南という気候と水に恵まれ実り多い豊かな土地にフビライの使者として派遣されることになった。
雲の南の人々は皆おだやかで争いごとを好まないというのだが、なぜか過去に派遣されたマルコに優るとも劣らない賢き者たちが行方不明になってしまうのだった。
噂では雲の南の人々は常に毒薬を持ち、間違いを犯したときは罪に服して辱めを受けるよりは、毒を飲んで死んだ方がいいと考えているという。マルコはそんな雲の南に使者として使わされ、大歓迎を受けたのだが…

二つの鍵    
三雲岳斗
15世紀の終わり、ミラノの富豪フェブリツィオは遺言書をしたため、専用の箱に入れて金の鍵でその箱を締めた。フェブリツィオには女1人と男4人の子供がいたが、男の子のうち1人は庶子で、3人が正妻の子であった。
フェブリツィオは遺産を分割するよりは、そのすべてを子供の一人に残したいと考え、遺言書にその名を認めたのだ。そして条件を付した。
遺言書が開かれるのはフェブリツィオの死後、全相続人立会のもと、それまでに遺言書が開かれた場合には、全財産はフェブリツィオの愛人ガブリエッラに譲るというのだった。
そして3人の正妻の男子に銀の鍵を1つづつ与えた。遺言書を納めた箱は特殊な造りで、金の鍵で締めた場合は銀の鍵でしか開けられず、銀の鍵で締めたときは金の鍵でしか開かないようになっていた。
つまり今金の鍵で締められた箱は銀の鍵でしか開けられず、それは3人の子供たちが持っている。こうしてフェブリツィオは遺言書が覗き見られることを防いだのだったが、無惨にも殺されてしまった。
そして現場からは遺言書を入れた箱と金の鍵が紛失していた。その話を聞いたレオナルド・ダ・ヴィンチは俄然事件に興味を示した。

光る棺の中の白骨   
柄刀一
ノルウェー北部、北極圏の村の丘の上に建つ小さな石造りの小屋は、もともと村長のヨークの家の燻製小屋だった。
そっけない石造りのその小屋は、ヨーク村長が引っ越してからもポツンと取り残されていたが、子供が閉じ込められるという事故が5年前にあってから、ドアが溶接され誰も入れないようにされた。
それが今回、敷地が人に譲られて小屋が取り壊されることになりドアの溶接がはがされた。ドアが5年ぶりに開いたのだが、中から白骨化した死体が現われて大騒ぎになった。
溶接前には小屋の中は確認されており、人間が入り込んで閉じ込められたり、死体が持ち込まれ封じ込まれるようなことは絶対になかった。これには複数の証人があった。
溶接後はドアはもちろん石造りの壁を壊すことは不可能に近く、その痕跡もなかった。あとは煙突だが、狭くて人間は通り抜けられない。ではどうやって密閉された小屋に死体が現れたのだろうか…

敬虔過ぎた狂信者    
鳥飼否宇
善良かつ品行方正、神のような人と慕われていた神資生神父が殺された。日曜の朝、礼拝が終わった後でドアの蝶番を自ら取り替えているときに何者かに襲われたらしい。
そして神父の死体はドアに釘で打ち付けられて、キリストのように磔にされ、口の中からはロザリオの十字架が見つかった。まさに神父は死んでも神になったのだった。立派過ぎる神父をいったい誰が…


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