本格ミステリ04

2003年1月1日〜12月31日に発表された本格短篇から本格ミステリ作家クラブプロジェクトチーム(二階堂黎人、佳多山大地、末国善己)が選んだベストアンソロジー。評論では波多野健「「ブラッディ・マーダー」/推理小説はクリスティに始まり、後期クイーン・ボルヘス・エーコ・オースターをどう読むかまで」を収録。
眼前の密室   
横山秀夫
県警捜査一課強行犯第四係長大信田警部の官舎を張り込む県民新聞の新聞記者相崎。官舎の玄関ドアが見える位置に車を停め、アベックを装って監視する。
ライバル紙の記者が何人か呼び鈴を押し、大信田夫人が出て応対する。中でホスト皆川とあだ名される記者だけが15分ほど招じ入れられて出てきた。皆川が出てきて暫くして相崎のポケベルが鳴った。
相崎には携帯電話はなく仕方なく玄関ドアに小石で封印して公衆電話を架けに行く。その間約15分。電話は偽電話で恐らくライバル紙の妨害行為だろうと憤然として戻る。
封印した小石は元のままで、電話に行っている間玄関ドアは開けられなかった。ホッとした相崎は監視を続け、暫くして大信田警部が戻る。警部が玄関ドアを開けると、そこには夫人の死体があった。しかも官舎は玄関ドアを覗き勝手口や全ての窓は内側から施錠されていた…

Y駅発深夜バス    
青木知己
都心のY駅の近くで日曜から月曜に日付が変わる頃、坂本康明は自宅近くのG駅を通る深夜バスに乗り込んだ。深夜バスは0時10分と1時10分の2本が運行されており、坂本が乗り込んだのは1時10分発の方であった。
S駅始発のバスにY駅から乗ったのは坂本一人で、坂本はバスから降りてきた係員に料金を払い指定された一番前の座席に座る。すぐに眠ってしまい、気づくとバスは深夜のパーキングで休息していた。
尿意を覚えた坂本がトイレに行くと、照明を落として真っ暗になった休息所の建物で、多くの人たちが空の一点を見つめる不気味な光景に出会う。あまりの不気味さに坂本はバスに駆け戻り、やがてG駅に着いた。ここで降りたのも坂本一人。
坂本はマンションに帰り着き、風呂に入って寝てしまう。翌朝、妻に深夜バスの話をすると坂本が帰り着いたのは2時ごろで0時10分のバスで帰ってきたのだろうと言われた。
坂本は反論するが、妻から1時10分のバスは土曜・休日運休と告げられ酒を飲みすぎての勘違いと納得する。だが…

廃墟と青空    
鳥飼否宇
幻のバンド鉄拳は、宇部譲氏が自らオーディションで集めたメンバーを自らの手でプロデュースし、自身の雑誌でその過程を詳報してファンを煽り、満を持してデビューライブを行った。
その会場は第四倉庫というライブハウス。もともと倉庫だったので、出入り口は一箇所しかなく窓もなかった。その第四倉庫はライブ開始時には立錐の余地もないほど。
ライブはブルーライトによる目潰しで始まり、スモークと続き、大音量の音だけが響きステージはほとんど見えない状態だった。そしてステージ上で銃声。客たちのパニック。
第四倉庫の外で入りきれない客と揉めていた警官の導入と続くが、その間にスモークが晴れた舞台からは宇部の死体と拳銃が現れた。そして鉄拳のメンバー3人はステージから消えうせていた。
事件が起きるまで出入口には受付が陣取り、出て行ったのが2人いるだけで誰も入ってこなかったという。外に出た2人も事件後事情聴取され身元はわかっていた。
そして客やスタッフは全員拘束されて調べを受けた。だが鉄拳のメンバーはどこにもおらず、第四倉庫から消えうせてしまったのだった。

盗まれた手紙    
法月綸太郎
某国のG将軍夫人が北ホテルに滞在中のアルゼンチンの外交官に一目惚れし、恋文のやり取りを始めた。その方法は夫人が状箱に南京錠Aをかけ外交官に送る。外交官は自分の南京錠Bを状箱にかけ夫人に送り返す。
すると夫人は南京錠Aをはずし再び外交官に送る。外交官が南京錠Bを外すと状箱は開くことができ、ここでやっと外交官は恋文を読む事が出来るというわけである。
ところがこれを知ったG将軍の政敵D長官は手下を使って夫人の恋文を奪い去ってしまった。その恋文でG将軍を失脚させようとしたのだ。
南京錠はどちらも各々の国の最高の職人が作ったもので合鍵は存在せず、鍵なしでは絶対に開けることが出来ないし、状箱に細工した跡もない。では、どうやって恋文は盗まれたのだろうか…

78回転の密室    
芦辺拓
昭和7年大阪、売り出し中の若手漫才師模談亭ラジオ・キネマの2人はレコード録音に臨んだ。当時のことゆえ、まだ蝋盤を使った機械式の録音で、密閉された録音室の中にあるラッパ管に向かって交互に喋る。
その録音室で2人が録音を始めて暫くして突然ラジオが叫びだした。何事ならんと録音技師や2人の取材がてら録音に同席していた仮名文字新聞の宇留木昌介記者が録音室に駆けつけると、そこには胸から血を流したキネマが倒れていた。
2人しかいない密室での出来事ということでラジオが真っ先に疑われたが、キネマの死因が銃創ということがわかると俄然事件は不可能犯罪となった。拳銃はラジオの体はおろか部屋のどこからも見つからなかったのだ…

顔のない敵    
石持浅海
NGOの手により地雷除去作業が行われているカンボジアで、立入禁止区域に入った国会議員の息子チュオンが地雷に触れて死去した。
チュオンは地雷が除去された地域から順に畑に変えていく作業を行っていて、村人からも尊敬され、またNGOからもカンボジアの将来を担う人物の一人と期待されていた。
そんなチュオンが死んだのだからNGOや村人の悲しみは計り知れなかったが、冷静になるとチュオンの死におかしな点があることが目に付いた。
例えばチュオンは頭を吹き飛ばされているとか、そもそも地雷の危険を知りすぎるほど知っているのに立入禁止区域に入るとか…はたしてチュオンの死は地雷に誤ってれたものと考えていいのだろうか?

イエローロード   
柄刀一
札幌郊外の川で発見された死体。殺害された後で川に捨てられたらしく、川の周囲には死体を引きずったような跡が残されていた。死体の身元を示すものは一切残されていなかった。
死体は長靴を履き、手には硬貨を握り締めていた。握り締めていた硬貨は100円玉が2枚、50円玉が1枚、10円玉が5枚であった。さらにポケットからは10円玉が50枚、台所用のラップで不器用に包まれて入っていた。

霧ヶ峰涼の屈辱    
東川篤哉
私立鯉ヶ窪学園E館の由来は、その建物を上から見るとアルファベットのEの形をしているからだった。建物は平屋で理科関係や視聴覚関係の教室が各々の横棒、縦棒に沿って並んでいた。
その上の横棒の右端にある資料室に一人の生徒が入ると、そこを物色していた泥棒が生徒に体当たりして廊下に逃げ出した。その音に近くの生物室からも別な生徒が出てきて2人は泥棒を追った。
縦棒にあたる廊下に曲がり2人で追いかけると、中の横棒から警備員が駆けてきた。2人の生徒の泥棒との説明に警備員も加わり3人で泥棒を追う。泥棒の逃げ道は下の横棒の廊下しかない。
3人が下の横棒の廊下に入り、廊下突端の玄関にでると、そこには用務員がいて花壇をいじっていた。用務員に聞くとE館からは誰も出てこなかったという。泥棒はE館の中で消えてしまったのだった。

筆合戦    
高橋克彦
明治時代の初期の横浜、これからは瓦版ではなく新聞の時代になるということで、筆で飯を喰っている2人魯文と吟香が5日間に渡る筆合戦を行い、どちらが優れた新聞記者か争うことになった。
本町にあった出来事を記事にして、その日の夕に外国人居留地にいるヒロとヘボンの所に毎日持参して判定を受けるのだ。
初日、魯文は外国人が連れ歩く洋犬が女子供を脅かすという記事を書き、一方の吟香は日本の呉服商と英国商人の提携を説く。翌日も同じ本町の出来事を記事にしているのに2人の記事は全然違った。そして最終日の5日目に…

憑代忌   
北森鴻
蓮丈那智研究室の助手内藤三国と佐江由美子が、民族学調査でやってきた火村地区の火村家。そこには御守り様と呼ばれる火村を守る人形があり、その人形を調査するのが今回の目的。
調査は火村家当主の恒実が依頼し、その後人形を県に寄付する予定であった。だが調査に反対する保守的な親類や県の研究機関、さらに火村家の執事などが絡み、簡単には進みそうもなかった。
内藤たちが火村で一泊した翌日、人形が行方不明になった後、無惨な破壊を受けて床の間に放置されていた。その直後に悲鳴が挙がり、駆けつけると庭に顔を潰された恒実の惨殺死体が…

走る目覚まし時計の問題   
松尾由美
発明家でもある会社社長が自作したのは走り回る目覚まし時計。ラジコンカーに目覚し時計をセットしたもので、ベルが鳴り出すと走り、どんな寝ぼすけでも起こるという代物。
社長は披露宴に出席する日、早起きしなければならず、その実験することにした。家族から邪魔をされたくないので、自室のドアに内側からチェーンをかけ、動き回る目覚まし時計だけをセットして寝た。
部屋のチェーンはその隙間から5歳の孫が出入りできるほど長すぎるが、大人は出入りできず、また手を入れて外すことも出来ない。
結果として実験は成功し、社長は披露宴に出かけ、ついでに2日間ほど温泉で静養して上機嫌で戻って来た。しかし戻ってきて動き回る目覚し時計を見てびっくり。
取り付けられた時計は動きはするが、ベルの壊れた時計だったのだ。では実験の時に鳴った時計の謎は…前代未聞の密室人越こし事件が起きた。


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