本格ミステリ03

2002年1月1日〜12月31日に発表された本格短篇から本格ミステリ作家クラブプロジェクトチーム(二階堂黎人、佳多山大地、末国善己)が選んだベストアンソロジー。03からは本格ミステリクラブの会員外からも作品を採用することになった。千街晶之「論理の悪夢を視る者たち<日本篇>」、笠井潔「本格ミステリに地殻変動は起きているか?」の評論2編も収録。
凱旋   
北村薫
「我死なば 鯉幟をば 立てよかし 凱旋したることのあかしに」
これが母の伯父がかつて送って来た回想録の中に載っていた短歌であった。それから少しして伯父は亡くなった。伯父は母の一番上の兄であった。5人の兄弟のうち男は4人で、末っ子の母だけが女であった。
伯父以外の3人の男の兄弟は戦死し、伯父と母だけが生き残った。伯父たち男の兄弟4人はいずれもキリスト教に入信したが、それにしては伯父の短歌の凱旋という勇ましい言葉が気になった。

彼女がペイシェンスを殺すはずがない    
大山誠一郎
フェル博士やハドリー警がロンドンのコッパーフィールド夫人の屋敷に駆けつけた時には、すでに夫人は死体になっていた。
その部屋はドアに内側から掛け金が掛けられただけでなく、ドアの隙間にはご丁寧にも内側から目張りをされていた。そのドアを破ると猛烈なガスの臭い。慌てて窓を開け放ったが、窓にも内側から鍵が掛けられていた。
夫人を部屋から外に出し、ガスが屋敷に広がるのを防ぐためにドアを閉めた。夫人は死亡が確認され、検死の結果はガスによる中毒死だった。
夫人はわき腹に当て身をくわされており、気絶したあとでガス栓が開かれ、約40分後に充満したガスで死んだらしい。夫人が飼っていたオウムのペイシェンスの死骸が、同じ部屋の中の床にあった。
自殺とも考えられたが、夫人が可愛がっていたペイシェンスを殺すはずはないとの意見から殺人事件とされた。だが犯人は密室にどうやって目張りをしたのだろうか…
カーター・ディクスンの「爬虫類館の殺人」にカーの探偵フェル博士が挑戦するパスティーシュ。

曇斎先生事件帳 木乃伊とウニコール    
芦辺拓
本格捕物帳曇斎先生シリーズ第4話。
大坂の豪商匠屋西次郎は、大坂では珍しく現代で言うところの政商であった。大藩の大坂屋敷の留守居役なども出入りしており、この日も千明陣内というさる大藩の大坂詰めの役人がやって来た。
千明が匠屋に来たときは西次郎は外出中であったが、番頭が気を利かして奥のオランダ座敷に通した。やがて西次郎が帰って来てオランダ座敷に向おうとする寸前に、座敷の方から短筒の轟音が…
まっさきに駆けつけた西次郎の目の前には、短筒を撃たれた千明が転がっていた。すぐ後ろから来た番頭に医者を呼びに行かせ、改まって千明を見ると白い角のようなもので体を刺されていた。さらに座敷を見回すが、そこには千明以外誰の姿もなかった。
医者が来て千明の死亡を確認し、奉行所の手先が事件を調べるが手に余る。手先は曇斎先生のところに相談に行くと、千明に刺さった角はウニコールという西洋にいる一角獣の角とわかった。

百万のマルコ    
柳広司
マルコ・ポーロと名乗る人物は、かつて東洋を旅し、大ハーン・フビライに信任され、その依頼で黄金の国ジパングに渡った。そこは道端にも黄金が随所に転がっている国で、国中がまばゆい限り。
マルコは大ハーンのために黄金を持ち帰りたいとジパングの王に頼むが、黄金は無価値でも他国人にあげたり交換したりしてはいけない決まりだという。さらに黄金に限らず物を盗めば死刑だとも…
どうしても黄金を持って帰りたいマルコは一計を案じ、自分の手で黄金を採掘したいと申し入れ、許されたが…

目撃者は誰?    
貫井徳郎
その会社の社宅は2棟からなっていた。一棟はI字型で、それと平行してL字型のもう一棟があった。そのL字型の棟で不倫をする男と女。男は会社の社員であり女は社員の妻であった。
不倫は女の夫が夜勤の夜に、男の部屋に忍んでくる形で行われていた。そしてある日のこと、男のもとに「不倫を見た、2万円を払え」との脅迫状が届く。
男は女が出入りするところを見られたと考え、その時間灯りが付いていたI型棟の3軒のうちの誰かが脅迫者だと見当をつけた…

腕貫探偵    
西澤保彦
深夜のバス停のベンチに横たわっている下着一枚の男。純也はその男に見覚えがあった。同じマンションに住む良太郎という男だ。最初は酔いつぶれているのかと思ったが、触って見ると良太郎は確かに死んでいた。
純也は慌てて近くの電話ボックスに駆け込んで警察と救急車を呼ぶ。ところが連絡を終えて戻ってみると死体は消えていた。
大騒ぎの挙句にマンションに戻ってみると、良太郎の部屋のドアが開き、そこには下着一枚の良太郎の死体があった。

GOTH リストカット事件   
乙一
萩原は子供の頃に人形の手首を切り落としたことで異常な興奮を覚え、それ以来猫や犬の前足を切断したり幼児の手を切断したりとエスカレートし、最近では大人を襲って気絶させ、手首を切り取っては冷蔵庫に保存して楽しんでいた。一方、萩原の行為は新聞でリストカット事件として大々的に報道されていた。
高校生の僕は化学教師の萩原の手伝いをして化学教室の大掃除をしていたとき、ゴミ箱に捨てられていたものから萩原がリストカット事件の犯人ではないかと疑い、萩原の家に忍び込む決心をした…

比類のない神々しいような瞬間    
有栖川有栖
最近売れ始めた女性評論家上島初音が自宅のマンションで殺されているのが見つかった。初音は自分の血でダイイングメッセージを残していたが、それは数字の1011のように見えるのだが、数字かどうかもわからず、当然意味もわからない。
初音の周囲に最近明石と名乗る男がうろつきだした。明石はかなり前に初音と付き合いがあったが、今はホームレス同然の暮らしをしていた。
初音殺しの犯人は明石かもしれないと考えられたが、その明石も廃工場の井戸の中で死体で見つかった。そして明石の手には千円札が一枚握られていた。明石が握っていた千円札には何か意味があるのだろうか…

ミステリアス学園    
鯨統一郎
M市郊外にあるミステリス学園ミステリ研究会、略してミスミス研の部員の間には数々の事件が起きて部員が死亡し、いまやミスミス研のメンバーは小倉部長と湾田の2人だけになった。
小倉部長は湾田にいままでの5人の部員の死にはダイイング・メッセージが読み取れると言うのだが…連作ミステリアス学園の第6話。

首切り監督   
霞流一
映画スタジオに来ない湯島敦監督と桜庭雄治プロデューサー。肝心要の2人がこないために手分けして監督の家とプロデューサーが泊まっているホテルにスタッフが手分けをして行った。
ホテルについたスタッフはバスルームで切断された監督の首とプロデューサーの胴体を発見。一方、監督の家の風呂場にはプロデューサーの首と監督の胴体があった。
犯人はなぜ2人の首を切断し、そのうえ首を入れ替えたのだろうか…

別れてください   
青井夏海
臨月の栗木の妻は助産婦による自宅出産を選んだ。夫も協力的で、妊娠後期に入って2週間に一度となった妊婦検診のときも必ず休暇をとって家にいてくれた。
だが、妊婦は助産婦に「おなかの子は主人の子ではない」と打ち明け、子供を生んだら離婚して、子供の本当の父親と暮らす予定だと言った。そして夫は誠実そうに見えるが自分を裏切っているとも話す。
助産婦が気をつけて見ていると、夫の周囲には一人だけではなく三人もの女がいるようで、しかも妻が子供を生んだら別れて結婚の約束を三人全てにしているようだった…


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