本格ミステリ02

2001年1月1日〜12月31日に発表された本格短篇から本格ミステリ作家クラブプロジェクトチーム(二階堂黎人、貫井徳郎、末国善己)が選んだベストアンソロジー。河内実加のマンガ「消えた裁縫道具」と波多野健「京極作品は暗号である」、鷹城宏「中国の箱の謎」、巽昌章「論理の蜘蛛の巣の中で 第8回」の評論3編も収録。
不在の証明   
有栖川有栖
殺人の現場は原島ビルという5階建てのビルの2階202号室。被害者は黒須克也という男で、202号室の主である蓑田芳恵とは恋人同士だった。
芳恵は翻訳家で202号室は仕事場として借りていて、少し離れたところにあるマンションが自宅だった。克也が殺された時間、芳恵は自宅に戻っていたという。
克也には一卵性双生児の兄で作家の哲也がいたが、克也と哲也は仲が悪いことが有名で、芳恵も最初は哲也の恋人だったが、のちに克也が奪っていた。
さて、原島ビルの向いはマンションの工事現場だが、この日は日曜で工事は休み。そのかわり近所で引ったくりをした梶山という男が警察に追われ、工事現場の資材の陰に隠れていた。
梶山は乗っていた自転車が子供とぶつかり転倒し、慌てて駆け足で逃げ出したのだった。だから工事現場から逃げる機会を窺って周りを見つめていた。
梶山が見たのは原島ビルに入っていく黒須哲也と暫くして出て行く黒須哲也。梶山は黒須哲也のファンだから間違いないと警察に捕まってからこのことを証言した。
哲也が克也を殺したとすると動機も充分。ところが哲也はその日小豆島にいて、犯行時刻には大阪港に着く寸前で、まだ船の中だったという…

北斗星の密室    
折原一
白岡町の人里はなれた原野の中に建つ熊野義太郎宅。熊野は不動産業やサラ金をやっている金持ちだが、あくどい商法を繰り返したために、恨んでいる者だけで一集落できるといわれるほど。
白岡には珍しく雪の降り積もった夜に、熊野の家から火事だという連絡があり消防車が熊野宅に向かう。途中で黒星警部一行も合流し、一緒に熊野宅へ。
だが火事の様子はない。いたずらだということで消防車が帰ろうとした時に、裏手の物置から出火。消火栓が凍り付いていたので、黒星たちも協力して近くの池からバケツリレーで火を消し止めた。
消化が終わり物置の中を覗いて見ると、そこには熊野義太郎のバラバラ死体が。物置は中から施錠され、しかも火の出る前に見た時には、雪の上に足跡はなかった。死亡推定時刻は雪が降り止んだ後、したがって黒星の大好きな密室事件であった。

わらう公家    
霞流一
京都の山深く建つ一軒の旅館荘園。大文字焼きの行われる前夜、荘園は貴族階級の末裔の団体貴族院が貸し切っていた。貴族院の会員の一人寿摩輝輪子のもとに公家と名乗る人物から、脅迫状が来た。
公家とは室町時代に武士に首を斬られて、その首を弄ばれた公家の呪いが亡霊となったもので、人を襲って殺すという伝説があった。
公家に脅える輝輪子の部屋の前には見張りが2人もついたが、脅迫状にあった深夜12時、密室状態の部屋の中で輝輪子は公家に襲われた。
ドアは内側から掛け金が掛けられて開かなかったので、飾り窓を割って中を覗くとべッドの上の輝輪子に覆い被さる公家が見えたのだった。さらに密室を破って部屋に入ると公家の姿は掻き消え、輝輪子の首もどこかに持ち去られていた。

鳥雲に    
倉阪鬼一郎
あるホテルの804号室で殺された田澄桜子。桜子は俳句の同人で、宗匠は木村茜といい、句集鳥を発行している。桜子を殺したのは、同じ部屋から出てきた迫水と倉田と男。
迫水と倉田は同一人物で、犯行時は迫水と名乗り、事件後は倉田と名乗ってホテルを転々としているという。桜子のことを思って私木村茜は旅に出て、ある小都市のホテルに泊まった。そこで宛がわれた部屋が804号室…

人の降る確率    
柄刀一
病院の屋上から看護婦が飛び降りた。窓の外を看護婦が落下していくのを、建物の中から何人かが見ていたし、ドスンという音を聞いた人間もいた。
屋上には靴がそろえて置かれ、自筆の遺書も見つかったので自殺と考えられたが、遺体はどこにもなかった。看護婦が飛び降りたのは裏庭に当たる人気のない場所であったが、騒ぎが起きて20秒ほどで車椅子の人間が付き添いとともに現場に駆けつけたが、そこには遺体はおろか何もなかった。
看護婦が一人行方不明であったが、遺体もないのに警察に届けるわけにも行かず、騒ぎはそのままになった。しかし、その翌朝裏庭に看護婦の墜落死体が現れたのだ。そして死亡推定時刻は昨日看護婦が飛び降りたと考えられる時刻だった…

交換炒飯    
若竹七海
篠原郁は親友だった佐藤和恵を殺したいほど憎んでいた。和恵が勤めをやめて独立するときに、和恵の借金の連帯保証人になり、やがて債権者に追われる身となったためだ。和恵には5千万の生命保険がかけてあり、死んでくれれば郁の借金はなくなり、再スタートが切れるのだった。
羽賀菜々生にも殺したい女がいた。星野悦子という大金持ちで、羽賀に付きまとい羽賀を弄んでは楽しんでいた。その羽賀と郁は電車の中でひょんなことから知り合いとなり、お互いの境遇を話すうちに交換殺人の話に発展していき…

「別れても好きな人」見立て殺人    
鯨統一郎
アパレル会社ナラモトの娘婿奈良本好夫が自宅の玄関先で殺されていた。自宅を物色した痕があり、警察は強盗殺人としたが、好夫の義母夕美子は犯人は伊東美紀という女だと譲らない。
伊東美紀は好夫の元恋人で、好夫が夕美子の娘の明日香と結婚した後も、諦めきれずに好夫を追いかけているというのだ。それに殺害現場の玄関先には美紀の傘が、忘れ去られたように立てかけてあった。
ほかに容疑者としては妻の明日香がいるが、明日香は渋谷から原宿のかけて一人でバーをはしごしていたという。それに動機もない。間暮警部はこれを聞き「別れても好きな人」の見立てだと言い出すが…

通りすがりの改造人間    
西澤保彦
若い男の精気を吸い取る改造人間が現われた。友人の正太郎がその改造人間の餌食にされ、毎夜ホルモン焼きを食べさせられては、部屋に戻って精気を吸い取られていた。
正太郎の様子がおかしいと感じたおれと京介は正太郎の部屋に忍び込んで様子を窺うが、途中で改造人間に見つかり京介は捕らえられ、おれは逃げ出した。
おれはやっと公園まで逃げて来ると、公園の電話ボックスには髪の長い女がいた。そこに宙を飛んできた改造人間が追いついてきて、まず電話ボックスを襲った。電話をしていたのはなんと女装した男だったのだ。
女装男から精気を吸い取った改造人間は今度はおれを襲った。気絶したおれと女装男を助けて救急車を呼んでくれたのは絶世の美女。だが、その美女はその日息子を誘拐されていた。しかも誘拐された息子は殺されて発見されたのだ。誘拐事件で憔悴しきっているはずの美女が、なぜ公園などに…

フレンチ警部と雷鳴の城    
芦辺拓
英国の片田舎にある中世の館雷鳴の城。その離れで起きた殺人事件。離れのドアは内側からも外側からも鍵を使って開かなければならず、その鍵は被害者の口の中から見つかった。
おまけに雪が積もっていて、その上には誰の足跡もなかった。したがって現場は密室、その謎に挑むのはフェル博士とフレンチ警部。

闇ニ笑フ   
倉知淳
今は少なくなった名画座にかかった映画は、新進気鋭の若手監督の意欲作でキャストもスタッフも新人ばかりで作られた作品だった。
ただ内容はかなり個性的で、特にラストシーンは残酷な映像のオンパレードだった。血塗れで斃れる死体、腐乱した死体、ズタ袋に詰められた遺体が並ぶ紛争地帯、爆弾テロで吹き飛ばされた人々等々の映像が続き、それをバックにスタッフ・クレジットがはじまる。
観客も正視できない映像が続く中、一人の美女はにこやかに笑いながらそのシーンを見ていた。それが一度だけではなく、何日も続くのだ。ひょっとして美女は死体マニアなのだろうか…

英雄と皇帝   
菅浩江
商店街の楽器屋の2階で頑張るピアノ教室。そこに通う山田ハルナは才能はあるのだが、上達はいまひとつだった。母親が教育熱心のあまり、ハルナに過度の期待をかけすぎているのも原因かもしれない。
その母親は自宅を改造して防音の音楽室を設けた。ところが、その部屋でも練習するようになってからハルナの腕は確実に落ちた。ハルナも家の練習室では耳鳴りと頭痛がするというのだ。いったい練習室に何が起きたのか…

通り雨   
伊井圭
寺の山門で雨宿りしていたら、雨の中をわざわざ墓参に来た女。手に提げた籠の中にはヒアシンスの花が一輪。それを追う様に現れた男もまた墓参に来たようだ。やがて墓参を終えたらしい男が、胸にヒアシンスの花を挿して山門を出て行く。雨宿りしていた私は気になって墓地に向うと、そこには墓参に来た女の影も形もなくなっていた…

やさしい死神  
大倉崇裕
大名人と言われる落語家月の家栄楽が自宅で転倒して意識不明になり、病院に担ぎ込まれた。栄楽の家は昔からの平屋建てで、その日栄楽は風邪をこじらせ、寄席を休んで朝から寝ていた。
一人暮らしの栄楽のところには順番で弟子たちが泊まりこんでいて、前夜から泊まっていた前座は朝栄楽に市販の風邪薬を飲ませ、栄楽は薬の副作用もあってぐっすり寝ていたという。
用があったときに呼ぶために前座は栄楽の枕もとに鈴を起き、前座は掃除をしたり稽古をしたりし、正午頃に様子を見に行くと栄楽はすでに転倒していたという。
すぐに救急車が呼ばれたが、栄楽はうわ言のように「死神にやられた」と呟いたというのだ…

トリッチ・トラッチ・ポルカ  
麻耶雄崇
東北の小都市猪飼市の廃倉庫で発見された女のバラバラ死体。首や手足、衣服、凶器などは現場から見つからず3日後に隣接する鹿垣市から見つかった。
被害者は鹿垣市の人間で、当日2時〜3時半まで市内の馴染みの店でパーマをかけ、4時半に市内の和菓子屋で買い物をしていた。
美容院では複数の人間が被害者がパーマをかけていたと証言したが、和菓子屋の方は被害者の首とともに見つかった和菓子の箱とレシートからの推測だった。
鹿垣市と猪飼市の廃倉庫の間は鉄道でも車でも1時間はかかるから、被害者が殺されたのは5時半過ぎと言うことになる。被害者は主婦だったが、裏では何人かの人間を恐喝していた。
容疑者として恐喝されていた高校教師が浮かんだが、その教師には鹿垣で6時以降のアリバイが成立した。しかし古川刑事は犯人は高校教師に間違いないという…

坂ヲ跳ネ往ク髑髏  
物集高音
昭和7年11月、当時の東京府東京市芝区での出来事。天神坂と呼ばれる寺社が多い坂道に、夜中どくろがいくつか現われてふわふわと坂を下って消えてしまうという、奇怪な現象が目撃された。
見たのが一人なら幻覚と片付けられるが、それが数人に及び、さらに新聞記者や巡査まで目撃するに及んで帝都の怪異とされ、天神坂の名は亡者坂と言われるようにまでなった…

麺とスープと殺人と  
山田正紀
北海道、鹿児島、喜多方、九州、東京、沖縄、熊本の各ラーメン店が鍵型に入り組んだ路地に並ぶ、ラーメン横丁で事件は起きた。ラーメン評論家として名高いがマスコミなどへの露出は嫌いと田岡が、ラーメン横丁の全てのラーメンを食べて雑誌に発表するという。
午後の休息時間に田岡はラーメン店を回り始めたが、その途中で殺されてしまった。田岡が死んだのは横丁の一番奥まったところにあるベンチで、九州ラーメンの店主が田岡を見つけたが既に虫の息で、「しんそうが…そーき」と田岡はつぶやき還らぬ人となった。だが警察が調べてみると、田岡は各ラーメン店で実に奇妙な食べ方をしていた…

ひよこ色の天使  
加納朋子
ひよこ保育園に通う3歳児のヒロくんの家は父子家庭だった。父親は何かの理由で離婚し、会社勤めをしながらヒロくんを育てていた。その父親がある日交通事故にあい入院し、その間は大叔母がヒロくんの面倒を見ることになった。
ヒロくんの担任善福佳寿美はヒロくんを家まで送っていき、大叔母に夕食を振舞われるが、そのときヒロくんの家に、ヒロくんの一番の仲良し安寿ちゃんの行方がわからなくなったとの電話が入る。
安寿ちゃんは公園で遊んでいるうちに姿が見えなくなり、仲良しのヒロくんの家にいったのかもしれないというので、電話をかけてきたのだが…


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