1977年12月号
目次
連続企画 探偵小説55年を考える
長篇
疑問の三(後篇) 橋本五郎

本格探偵小説特集
豪華なるX殺人事件 寮快太郎
鴉殺人事件の真相 八重座蛍四
氏原正直殺害事件 黒田米平

評論特集=探偵小説観
探偵小説および大衆文芸の思想 伊豆公夫
探偵小説の限界性 邦正彦

目で見る探偵小説50年
続・円本ブームの落し子 島崎博

連載本格探偵小説
匣の中の失楽 竹本健治

連作小説
二匹目の幸せな羊はいま 新羽精之

研究・評論
フォーゲレート城・幻影館11 紀田順一郎
ミステリ館への誘い・新刊紹介 二上洋一
ミステリ遊歩道 栗本薫
台風一過、秋は来ぬ 影の会通信 麻田実

疑問の三
橋本五郎
神戸の湊川公園では第4の死体が見つかっていた。被害者は棚橋幸蔵の従弟横山十吉であい、ほかの被害者と同様に手の中に明治44年の1銭銅貨を握らされていた。連続殺人事件はなおも混沌とし、複雑さを増した。さてそんなとき幸蔵の伯父の壁川剛三が捜査当局に連絡もなく東京に戻った。
実は剛三のもとに東京から電報が届いたからだったが、捜査当局は壁川が逃亡したと判断し、角田警部が壁川を追って東京に向かった。壁川が受け取った電報は何と幸蔵からのもので、金に困り助けを乞うものだったが、詳しいことは何も述べられていなかった。剛三は取るものもとりあえず汽車に飛び乗ったのだ。
それと入れ替わるように、神戸の棚橋家に幸蔵が戻って来た。はつえの死を知ると捜査当局に出頭したが、行方不明だった原因は政界絡みのことだと申し立てた。一方湊川劇場で公演していた男女十郎一座も、今度は東京での公演を打つために東上した。さらに男女十郎一座に事件の鍵があると睨む田南も、単身一座を追って東京に発った。事件の舞台は東京に移ったのだった…

豪華なるX殺人事件
寮快太郎
T劇場のショーでバックの魔女や踊り子たちを前にステージで踊っていた牧蘭子が、フィナーレ近くで突然倒れてしまった。突然のことで、左右の舞台袖いた人々が駆け付けたが、蘭子はすでに息がなかった。衆人が見守る大劇場の舞台という華やかなかで、主役の姫が死んでしまったのだ。
警察が呼ばれ検死がなされたが、外傷もなく毒も検出されなかった。結論としては病死によるものとされたが、蘭子の親友でやはり舞台に立っていた芝崎ルミ子は納得せず、芸能記者を訪ね、さらに記者は探偵伊吹新太郎に事件を依頼した。

鴉殺人事件の真相
八重座蛍四
当年とって57歳の石狩泰平博士は、自動車で轢いてしまった樺山百合子というタイピストと結婚した。百合子はまだ22歳、癌の研究で有名な医学界の巨頭だが醜い容貌の博士と、失業中の美貌の女性の取り合わせは、新聞でも話題になった。
その石狩博士が、百合子の誕生パーティのあと、自宅の書斎で殺されてしまった。部屋は内側から鍵がかけられた密室、死因は室内にあった鉄の中国花瓶で左後頭部を強打されたことによるものだった。
部屋の鍵は特殊で合鍵の製造は不可能で、唯一の鍵は死体の博士の手が握っていた。手がかりは部屋の中の煙草の吸い殻と血痕。煙草の吸殻はバットと敷島で、敷島は明らかに博士が吸ったものだが、バットは誰が吸ったかはわからない。血痕は小さなもので、該当する血液型の人間は関係者にいなかった。
その関係者は10名。夫人に客が3人、そのほかは書生や使用人たちだった。そして博士が手に持っていた鍵で床板に、カラスとダイイングメッセージを残していた。

氏原正直殺害事件
黒田米平
大阪市内で自転車を営む氏原正直の家は、広壮な鉄筋コンクリートの2階建てで、家人は2階で寝起きしていた。氏原が部屋で殺された夜は、妻の貞美は外出しており、女中が一人と住込店員の安武がいるだけだった。正直の部屋の中は、書類や宝石が散乱し箪笥や花瓶がひっくり返り、ガラスが割れていた。
正直は両手足を縛られた跡があり、死因は絞殺だった。さらに正直は高利貸しをしており、市内の4人からの借用書が金庫にあったはずだが、すべて紛失していた。さらに金庫のあるはずの金も消えていた。勝手口の扉には鍵をこじ開けたらしい跡が残っていて、賊が侵入したようにみえた。だが不思議なのはこれだけの騒動のはずなのに、女中も安武も賊が入ったことに気が付かなかったtことだった。

二匹目の幸せな羊はいま
新羽精之
五島列島にある有王島は、隠れキリシタンの島であったが、この島の不思議なところは明治になってキリスト教が解禁されても、島民は皆隠れキリシタンのままであったことだ。
今その島に夏休みを過ごすために3人の若者が上陸し、岬の突端にテントを張った。島の人たちは意外なことに皆親切で、とくに隠れキリシタンに興味を持つ直江には好意的であった。
島で過ごすうちに直江は島の娘の百合と恋に落ちたのだが、ある日直江が福江島に行き、悪天候のために一泊して戻ってみると、島民たちは打って変わって冷たい目で直江を迎えた。
やがて3人のうちの一人、椿井が先に東京に帰ることになった。それから一週間ほどして直江も東京に帰ったが、先に帰ったはずの椿井は東京に戻っておらず、長崎空港から行方不明になっていた。


創刊以来まる三年を経過し、通算37号となった12月号は久しぶりに読者投稿欄である幻影城サロンが載った。愛読者葉書に島崎編集長が答える形のサロンだが、比較的幻影城発行環境も安定してきたような論調なのが、なんとなく懐かしい。
さて長編一挙掲載は橋本五郎の唯一の長編「疑問の三」の後編だが、全編通して長く複雑な割に内容が今一つともなっていない感じだった。本格短篇3本はいずれも前月号引き続き、戦前のサンデー毎日の大衆文芸に佳作として選ばれたものから3篇収録だが、いずれも作者経歴等は不明とのこと。いずれも図面が入ったりして本格の匂いがそそるが、内容的には物足りなさも残る。

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