1977年10月号
目次
連続企画 探偵小説55年を考える
悪魔黙示録 赤沼三郎
赤沼三郎書誌 島崎博・編
セントルイス・ブルース 平塚白銀
秋晴れ 西島亮
探偵小説の芸術化 野上徹夫
新しき探偵小説の出現 邦正彦
けすとえくえろ 妹尾アキ夫
探偵小説は人生の阿呆が書くか 木村太郎

連載本格探偵小説
匣の中の失楽 竹本健治

連作小説
箱入り娘 筑波孔一郎
幻の馬は遥かなる邪馬台に 新羽精之

研究・評論
猫とカナリヤ・幻影館9 紀田順一郎
探偵作家風土記・補遺篇 玉井一二三
ミステリ館への誘い・新刊紹介 二上洋一
ミステリ遊歩道 栗本薫
惨!道玄坂の首ナシ死体・影の会通信 滝原満

幻の馬は遥かなる邪馬台に
新羽精之
西暦519年、中国南朝の梁国の高官劉高明は、皇帝から国使として倭に渡るように命じられた。仏法を伝えて、倭の国情を明らかにせよというのだ。その後、宰相の張儀に聞くと、最近倭に対抗するように大和国が勢力を強め、彼の国では勢力争いが起きているというのだ。しかも、その背後には北方民族である蒙古族の影響がみられるという。そもそも彼の国の民族は中国・朝鮮系ではなく、蒙古系だというのだ。
中国にとって最も脅威すべきは蒙古であることから、今後の彼の国状況を注視することは、最重要であるということらしい。そこで北方民族に詳しい司馬仙を呼び事情を打ち明けて意見を聞いた。その結果司馬仙も高明に同行して倭に向かうことになった。

箱入り娘
筑波孔一郎
有力政治家を父親に持つ名越唯起子は芸術家を気取ってはいたが、わがままで自分勝手な女だった。今は友人の家の離れを借りて、アトリエ兼用で使っているが、今度建て替えのためにそこを出て姉夫婦のところに居候することになった。これを機に唯起子に対する監視を強めようとする、父親はじめ周囲の策略だった。
引っ越しの日、唯起子のアトリエから大小2つの木箱が運び出された。大きい方には絵などが詰められ、小さい方には展覧会に出品する予定のトルソーが詰められた。2つの木箱は、唯起子の恋人の種村とその会社の社員の村尾によって軽トラックに積まれ、2人の手で唯起子の姉宅に運ばれた。唯起子はシャワーを浴びて、別の車で追いかけるはずだった。
だが、いつまで待っても唯起子は現れなかった。しびれを切らした姉が問い合わせて見て唯起子よ行方不明が判明、そこで木箱が開けられた。すると小さい方の木箱から唯起子の全裸死体が現れた。刺殺だった。しかもその凶器はアトリエ近辺で発見された。
凶器は飾りナイフであったが、なんと木箱を積んだトラックが出発する前には、ナイフは飾られていたというのだ。つまり唯起子の死体が入った木箱が出発した時点では、唯起子はシャワーを浴びていたし、凶器も目撃されていたわけだ。もちろん軽トラックの木箱がすり替えられたわけでも、木箱が途中で開けられたわけでもなかった。

秋晴れ
西島亮
製図室で死んでいた学生酒井が発見されたのは、翌朝のことだった。徹夜するつもりで作業をしている最中に殺されたらしく、朝守衛によって見つけられたのだ。その胸には分割機が深々と刺さっていたが、死因はクラーレによる毒殺で、分割機は死亡の後に刺されたものだった。
酒井は多くの人間から憎まれ、特に同じ研究仲間からは殺されてもおかしくないほどの恨みを買っていた。だから容疑者には事欠かなかった。だが、ここに一つ大きな難問が立ちはだかった。実は製図室の入口には、別の学生の実験で赤外線が仕掛けられており、入退出が自動的に記録されていた。ところがその記録を追うと、酒井の死亡推定時刻以後は誰も出入りしていないことになってしまうのだった。

セントルイス・ブルース
平塚白銀
松倉晃文子爵の邸では、その日子爵の誕生パーティが行われる予定で、親しい友人たちが集まっていた。実は誕生パーティというより、子爵が婚約者門田悦子をお披露目するというのが本当の目的だった。もうすぐパーティが始まるという時間、1本の電話が架かってきた。執事の有村が出てみると、悦子の知人の赤樫徹平だった。
赤樫もパーティへ出席するはずだったが、まだ自宅にいるという。すぐに子爵邸に向かう予定だが、悦子に急用があるので電話口に呼び出してほしいとのことだった。有村が悦子の居室に向かおうと階段を上がりかけると、悦子の部屋の居室から銃声が聞こえた。
有村が階段を駆け上がり、悦子の居室に入ってみると、そこには子爵がピストルを持って茫然と立っていた。子爵は有村を見ると、撃ったのは自分ではないと否定、しかしそれを信じた有村が客に話をしている間に逃げ出してしまった。
実は子爵は悦子との結婚を望んでいなかった。この結婚は父親が命じたようなものだったし、子爵には思いを寄せる人がいたのだ。その女性は杉きん子といい、今日のパーティを利用して2人で駆け落ちをする手筈だった。実際事件があった時、すでにきん子は荷物とともに子爵の車で待機していたのだった。
現場を逃げ出した子爵は、きん子とともに車で京浜国道を西に向かっていた。2人はすでに死ぬ決心をしていた。子爵が殺人事件の犯人として間違いなく手配されていると考えたからだった。そんな2人の乗った車の前に一人の男が現れた。その男は子爵から事情を聞くと…

悪魔黙示録
赤沼三郎
雲仙にある白雲ホテルの一室で、日華貿易洋行の経営者立花良輔の夫人鳴海が殺されているのがみつかった。朝、女中が部屋にいないのをいぶかしんで、浴室を覗いてみて発見したのだ。鳴海は全裸で、胸を大きくナイフでえぐられて、部屋に付属の温泉に浮かんでいた。
その日はちょうど夫の良輔をはじめ、鳴海の弟の貞夫とその妻でフランス人のエルマ、それに夫人の妹の鞆江が鳴海に合流するために長崎から到着する予定だった。一行は、鳴海の死など全く知らずに到着し、事件を知って驚愕した。だがその間、捜査はの方は急速に進展していた。
容疑者としてすぐに浮上したのは同じホテルに滞在する寺崎という青年だった。寺崎は鳴海と逢引し、鳴海の部屋に出入りしているところを目撃されてもいた。ところが警察が寺崎の部屋に向かうと、寺崎は大量の睡眠薬を飲んで自殺を図っていた。幸いに発見が早く命には別条なかったが、寺崎はいかに警察に攻められようと何も語らず黙秘を貫いた。
一方、大阪××新聞通信部記者の松山一也は、別の取材で雲仙に来合わせ事件に遭遇した。警察ともコネがある松山は独自の取材を進めたが、その過程で鳴海のところに数通の新聞が送られてきたことを知る。直感で疑惑を感じた松山は新聞を精査し、新聞の活字を使った脅迫状が鳴海に送られていたことを知った。
それは新聞の活字に印をつけるというごく単純なものだったが、鳴海をはじめとする立花一族を皆殺しにすると言う内容のもので、一族の動向まで把握して記されたものだった。こえが本物だとすれば、鳴海の事件は幕開きにしかすぎず、今後一族は次々と血祭りにあげられる。
松山は発見した新聞の脅迫状を警察署長に預け、鳴海の葬儀に向かった。葬儀は長崎で行われたが、その納骨の際に今度は良輔が襲われた。墓地に向かう途中で雨が降り出し、傘を広げた直後にめまいに襲われそのまま倒れてしまったのだ。命に別状はなかったが、入院を余儀なくされた。
良輔がさした傘は、同行していた立花家の主治医津田竜助のもので、津田が気を利かせて良輔に貸したものだったが、その傘に何かの薬が仕込まれていたと考えられた。この間、鳴海殺しの容疑者として調べられている寺崎は拘束されていた。良輔の事件が脅迫状による連続事件とすれば、寺崎が犯人である可能性は薄い。すると立花一族を恨む何者かが暗躍を本格化させはじめたのか…


連続企画「探偵小説55年を考える」の第14回目は、幻の本格長篇を一挙掲載の第3弾、赤沼三郎の「悪魔黙示録」のほか中篇「セントルイス・ブルース」、短編「秋晴れ」に評論4本という盛沢山。
赤沼三郎は戦前のサンデー毎日の常連投稿家で、戦後も昭和25年ごろまで書いていた。「悪魔黙示録」は、春秋社の第2回長篇書下し探偵小説公募の当選作だったが日の目を見ず、その後大下宇陀児の推薦で半分の250枚に圧縮されて、新青年の昭和13年4月増刊号に掲載された。
「セントルイス・ブルース」はぷろふいるの昭和10年8月号、「秋晴れ」は同誌の昭和10年4月号に新人作品として掲載されたもの。評論では甲賀三郎と木々高太郎の間の探偵小説芸術論争を受けて、多くの評論が発表されたころの4篇を再録。

幻影城の世界のメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -