1977年8月号
目次
連続企画 探偵小説55年を考える
酒井嘉七作品特集
京鹿子娘道成寺 酒井嘉七
探偵法第13号 酒井嘉七
空飛ぶ悪魔 酒井嘉七
解説=酒井嘉七追憶記 九鬼紫郎

幻の本格長篇
臨海荘事件(後篇) 多々羅四郎
春秋社の書き下し長篇 日本探偵小説史ノート 中島河太郎
連作小説
浮気な窓 筑波孔一郎
蛇が天使にかわるとき 新羽精之

連載本格探偵小説
匣の中の失楽 竹本健治

研究・評論
続・書かでもの記・10 横溝正史
下宿人・幻影館8 紀田順一郎
探偵作家風土記・外地篇 玉井一二三
新青年の思い出 森下雨村
ミステリ館への誘い・新刊紹介 二上洋一
早慶戦の夜に 影の会通信 栗本薫

京鹿子娘道成寺
酒井嘉七
歌舞伎の名作京鹿子娘道成寺の舞台で殺人事件が起こった。有名な鐘の中に安珍が入り、清姫の化身の大蛇となって現れる場面で、鐘の中に入った名優岩井半四郎は、鐘が上がったときには額を割られて殺されていた。
半四郎の安珍は、張子の鐘の中で自身で隈取をし衣装を変えて変りをするので有名で、大蛇の隈取をした姿であったたことから、鐘の中に入って暫くして襲われ殺された考えられた。凶器は三味線の象牙の撥で、鐘の中にそのまま残されていた。
しかし、それでは衆人環視の中で何者かが鐘の中に入り殺人を犯したことになるのだが、鐘の上部には空気抜けの穴が空いてはいるが、その穴も小さく人が通り抜けられるものではなく、ほかには鐘の周囲に隙間もない。道成寺の鐘は舞台上の密室でもあったのだ。

探偵法第13号
酒井嘉七
外国人の商館主ゴールドマン氏が路上で殺された。時刻は午後9時半過ぎ、場所は商館からほど近い、人通りのほとんどない路上である。ちょうどその時刻、埠頭まで客を送った帰りのハイヤーが現場を通りかかり、大きな破裂音を聞いた。
ハイヤーの運転手は、最初パンクかと思って車を停めて調べてみたが、なんともない。あたりを見回すと、近くの暗がりで男が倒れていた。それがゴールドマン氏であった。ゴールドマン氏は左胸を拳銃で撃ち抜かれていた。
凶器となった拳銃は近くの排水溝から見つかった。その拳銃はゴールドマン氏のものであったが、紛失したとして警察に届けが出されていた。そして、このところ警察には届けが出ていないが、町では拳銃強盗が立て続けに起きているという噂が流れていた。
ゴールドマン氏は殺される直前、午後9時30分に商館を出たことはわかっていた。商館に居残っていた2人の従業員が証言したのだった。ゴールドマン氏の財布は盗みとられていたから、商館を出て帰路についたところを強盗に襲われたと考えられた。

空飛ぶ悪魔
酒井嘉七
自分と清川は沙里子を巡って決闘をすることになった。決闘の方法は、一人乗りの航空機を使ったものだった。ちょうどそのころオーナー・フライヤーズを対象に、飛行機を使った宝探しゲームが行われることになった。
自分と清川、沙里子は3人ともオーナー・フライヤーだから、3人でゲームに参加するのだ。そのゲームは、離陸直前に渡された封筒に書かれた暗号によって、目的とする飛行場が示されるが、自分はそれに細工をして清川を遭難させようと考えたのだ。そしてそれは上手くいき、清川は琵琶湖に墜落してしまった。が、それを見ていた沙里子の飛行機は…

臨海荘事件(後篇)
多々羅四郎
本野義高殺害事件の容疑者として逮捕拘留された義夫を救うべく、友人の大枝登と義高の義理の姪秋川澄江が立ちあがった。澄江は義夫と婚約をしたばかりで、義夫が義高のもとを訪れたのもその報告のためだった。
義夫は義高が結婚の話を聞いて、大変喜んでくれたと供述したが、警察では容疑者本人の言うことだから一顧だにしなかった。一方、義夫犯人説に疑問を持つ警視庁のベテラン刑事長瀬は、未発見の凶器の捜索や義高の部屋から無くなったスーツケースの発見に全力を尽くすべきだと主張するが、事件を終わったとする上層部とは相いれない。
それでも最初は上司の市川警部の好意もあって独自に捜査をしていたが、日一日と長瀬の立場は悪くなり、やがて市川とも衝突しやけ酒をあおって女給を殴ったうえ器物破損事件を起こしてしまう。これが上層部の怒りを買い、免職となってしまった。
ここに義夫が犯人ではないという考えを同じくする長瀬、大枝、澄江がトリオを組み、義夫の無実を証明するために事件を洗い直すことになった。その結果、ある人物が容疑者として浮上してきたが、そこでクローズアップされたのが近藤医師襲撃事件だった。医師事件の襲撃者が浮かび上がった臨海荘事件の犯人と同一人と思われるのだ。

浮気な窓
筑波孔一郎
事件現があったのは、建物全体に4つある階段を挟んで、それぞれ向い合せに2つづつドアが並んでいるマンションだった。その左から2番目の階段の4階右側の部屋が現場だった。部屋は君島アキ子と尾関順子が共同で借りていた。
部屋の間取りは玄関を入ってすぐ右手がダイニングキッチンで、その向こうがバストイレ、左手は奥から4畳半と8畳で、4畳半の部屋で君島アキ子が首を絞められて殺されていた。そしてダイニングキッチンのテーブルにはもうひとつ死体があった。
ダイニングキッチンの死体は増見祐治という男のもので、祐治とアキ子は不倫の関係にあった。祐治の方は毒殺で、水割りを飲んでいたコップから青酸が検出された。
さて、この事件の特異なところは、犯行が目撃されていたことだった。現場の部屋は少し離れたアパートの部屋から双眼鏡で監視されていたのだ。監視していたのは祐治の昔の恋人の北側圭子と祐治の妻のちづ江だった。
祐治が浮気をしているのを偶然見つけた圭子が、ちづ江に連絡してマンションの部屋を双眼鏡で覗いていたのだ。すると君島アキ子が何者かに襲われるのが見えた。びっくりしたちづ江は圭子とともにマンションに駆けつけ、死体を見つけたのだった。
アキ子が襲われるのを目撃してから現場に駆け付けるまでは約5分、だがその間マンションの部屋への出入りはなかった。つまり祐治がアキ子を殺して、青酸を飲んで自殺した無理心中と思われたが…

蛇が天使にかわるとき
新羽精之
有香が伊吹公平助教授と知り合ったのは3年前、奄美大島でのことだった。このとき公平は奄美病害動物研究所でハブの研究をしていた。中学生のころにマムシに咬まれて一命を取り留めた公平は、毒蛇に咬まれて命を落とす人を一人でも減らそうと、毒蛇の研究を始め、奄美ではハブによる害が深刻なことを知り、わざわざ奄美に来て研究していたのだ。
有香は公平によって毒蛇、わけてもハブの恐ろしさを教えられ、植物園ではハブに咬まれる寸前を公平に救われた。やがて有香と公平の間には愛が芽生えたが、公平が学会で渡米することになった。
その間有香は公平との出会いの島奄美に向ったが、そこで聞かされたのはハブは決して恐ろしくはなく、むしろかわいそうな動物であることだった。公平の言っていたこととは逆のことを教えられたのだった。


今号のメインは酒井嘉七の特集と、前号の受けて幻の長篇多々羅四郎の「臨海荘事件」後編。酒井嘉七は、戦前に4年ほどの短い期間に10篇の短篇を発表(遺稿が戦後に発表され全作品数は11篇)しただけの短命な作家だった。その作品系列は、飛行機を題材にした作品群や歌舞伎の世界を題材にした作品群、それに作者自身の身辺を題材とした作品群の3つにカテゴライズでき、今号ではそれぞれのカテゴリーから1篇づつ再録された。
「臨海荘事件」は事件の核心に迫る後半部分だが、戦前の作らしく物語全体がやや強引な展開で、説明不足のところもあるが、書かれた年代や作者の経験から致し方ないところだろう。

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