1977年5月号
目次
幻影城作家競作
ホロボの神 泡坂妻夫
禁色 村岡圭三
決算委員会 宮田亜佐
海賊船長 滝原満
秘嶺女人奇談 高村信太郎
死者の奢り 筑波孔一郎

連作小説
火の山に跳ねろ灰兎・前篇 新羽精之
匣の中の失楽 竹本健治

連続企画 探偵小説55年を考える
大庭武年作品特集
13号室の殺人 大庭武年
小盗児市場の殺人 大庭武年

幻影城論壇
現代推理小説と医学 小林久三「錆びた炎」を巡って 権田萬治
評論・研究
オペラの怪人(下)・幻影館4 紀田順一郎
探偵作家風土記・九州篇 玉井一二三
ミステリ館への誘い・新刊紹介 二上洋一
 
ホロボの神
泡坂妻夫
太平洋戦争末期にホロボ島に上陸し、そこで終戦を迎えた陸軍部隊。その部隊の遺骨収集団が船でホロボ島に向かった。
その船上でやはりホロボ島に恐竜調査に行く亜たちの一行と出会い、ひょんなことから戦争末期にホロボ島で起きた事件を亜たちの一行に物語った。
その話とは…ホロボ島には未開の原住民が住んでいて、上陸後暫くして部隊の軍医と原住民の子供が親しくなり、さらにその子供の傷を治療したのをきっかけに原住民の酋長が挨拶に来たりするようになった。
原住民の目からはマッチやライターなどでも始めてみるものであり、上陸部隊は魔術師の集団のように写ったに違いなかった。
原住民と陸軍部隊は密林が覆う島で共存し、いつしか片言ながらも互いの言葉で、意思疎通がなんとか図れるまでになった。
そんなある日、原住民の部落から使いが来て、酋長の妻の様子がおかしいと言ってきた。軍医以下3名が部落に行くと、すでに酋長の妻は粗末な祠のなかで死亡していた。
酋長の妻は巫女、霊媒、奇術師、魔術師などを兼ねた部落の祭司であるらしかった。祠の中にはホロボの神の印である彩色された大きな柱とその根元に置かれた二つの石が据えられ、その前に遺体は寝かされていた。軍医の診断では病死に間違いはなかった。
その後3日ほどして今度は酋長の様子がおかしいと言ってきた。再び軍医達が部落に行くと酋長はこの3日間ずっと祠にこもりっきりで、今朝、日が昇ると同時に祠の中で大きな音がしたという。
原住民を説き伏せて祠に入ってみると、酋長の額の真中に拳銃の弾が撃ちこまれそこからはまだ血が流れていた。そして酋長を撃った銃は妻の死体の手に握られていた。
その銃は3日ほど前に盗まれた部隊長の拳銃だった。死んだ妻が霊となり拳銃を盗み、夫である酋長を撃ったのだろうか?
この話を聞いた亜は疑問を口にした。未開の種族は、どんな権力者が死んでも、どんな近親者が死んでも、死体を忌み嫌うものであるという。
死体は即座に焼かれるのが普通で、死んで何日も置かれることなど考えられない。しかも、その死体と同室で過ごすなど絶対にありえないことだと言うのだ。そして、この事件には陰謀が働いていると言った。

禁色
村岡圭三
加害少年比良均と被害少年賀屋信彦は、中学校時代の3年間、同じクラスであった。小柄な比良は大柄な賀屋のいじめの対象となり、比良は3年間事あるごとに嘲笑され、苛められた。
2人が通うのはミッション系の学校であったから、2人ともエスカレーター式に進学した。高校ではクラスは違ったが、寮では隣室になった。そんなある日のこと、比良の実家の庭にある稲荷の祠が時限爆弾で爆破された。
比良一家は稲荷信仰の家庭だったから、爆破事件で父親が寝込むなど混乱した。爆弾は青い文字盤の時計を使って作られていた。青い文字盤の時計、それは賀屋の持っているものだった。
比良は賀屋の犯行と確信を持ち、賀屋に迫った。賀屋は比良を近くの雑木林に誘い出し、そこでいきなり襲いかかって来た。一方、比良はポケットを探り、護身用に持ってきたナイフを握った。
比良はそれから意識がなくなったが、気がつくと手には血まみれのナイフが握られ、側には首を切り取られた賀屋の死体が転がっていた。

決算委員会
宮田亜佐
A市の決算委員会は、市内大灘区のB海蝕洞窟の中で発見された死体についての質疑から紛糾しだした。死因は餓死だったが、死体の服からは30万円が入った財布が見つかったりと矛盾だらけだった。

死者の奢り
筑波孔一郎
その怪しげな手紙をもらったのは5人だった。手紙には私の一周忌にちなんで所縁の方々を那須の山荘に招きたと書かれ、差出人は権藤亜紀子とあった。
1年前に死んだ女からの招待状だった。指定された日時に5人が山荘に集まった。山荘に着くと亜紀子の夫の権藤彰夫が迎えたが、彰夫氏は招待状を出したことは認めても、目的には口を閉ざした。
やがて山荘に事件が起きた。招待客のひとりの女性が、雪の戸外で死んでいるのが見つかったのだ。背中にナイフを深々と突き立てられ、明らかに他殺であった。

海賊船長
滝原満
スペインの軍艦に不意打ちされ、一方的に砲撃を受けている海賊船に突然現れた男は、接近してきたスペイン船に乗り移り、あっという間に船を乗っ取ってしまった。
男はエロール・フリンと名乗り、海賊の頭目になった。だがフリンは折衝は嫌い、無意味な略奪も禁じたから、やがて乗組員たちの不興を買い、追放されそうになった。不平分子の部下の海賊に簀巻きにされて海に放り込まれそうになったのだ…

秘嶺女人奇談
高村信太郎
上村秀一の弟の孝次は両親の過去を探りにヒマラヤのふもとにある秘境の部落に行くことになった。ヒマラヤからの留学生アンナ・シャルマが修一と孝次兄弟の両親の古い写真を所持していたからだ。
アンナによれば、かつて2人は部落に来たことがあるというのだ。孝次はカメラマンで、秀一は宮仕えであるから、比較的時間に余裕がある孝次がアンナとヒマラヤに行くことになったのだ。
それから1か月後、秀一のもとに航空便が届いた。アンナからで孝次が急病になり、動かすことも危険な容態なのに、医者がいないというSOSの手紙だった。秀一は取るものもとりあえずヒマラヤに向かった。

火の山に跳ねろ灰兎(前篇)
新羽精之
鹿児島市のアパート天保山荘の3階では、1号室と5号室の2人の老人が縁台将棋に興じていた。2人は約束の6時きっかりに、アパートの通路で将棋を始めたのだ。
午後6時半ごろ、通路の一番奥の6号室の住人奥津信男が挨拶しながら2人の側を通り、自室に消えていった。そして8時、今度は奥津を訪ねて来た男があった。その男は益中正次といい奥津の住まいを8時に訪ねる約束であった。
益中は奥津の部屋のドアを開けたが、すぐに飛び出してきた。2人老人も何事かとよって来た。6号室の中には奥津の死体が転がっていた。奥津は外出着のままで、部屋にあったブロンズ像で殴り殺されていた。
死後約1時間半が経過しており、帰宅直後にお襲われたらしい。ところが部屋のドアは2人老人の監視下にあり、窓は内側から施錠され、外の窓枠に積もった火山灰にも乱れはなかった。
現場は密室であったのだ。死体の側にはE・Oのイニシャルが入ったライターが落ちていて、おそらく犯人の遺留品と考えられた。奥津は釣り好きであり、また隠れキリシタンのアマチュア研究家でもあった。
釣りをするために月に1回多加良島に渡り、そこで船宿を経営する益中と知り合ったという。益中もまたキリシタンの研究家であった。そして島にはE・Oのイニシャルを持つ男が一人いた。
越知栄吾という人物で、彼もまた奥津と知り合いであり、事件当日奥津に呼び出されて鹿児島に来ていたというのだった。

小盗児市場の殺人
大庭武年
俺の秘密を知る無頼漢の竜崎は、その秘密をタネに俺のことを恐喝し始めた。俺は、毎日のように竜崎に会わなければならくなり、そのうち竜崎はに竜崎を抹殺する方法を思いついた。そしてある日のこと、母親の指輪を質入れするように脅迫されてから、竜崎と手下たちを抹殺することにしたのだった…

13号室の殺人
大庭武年
事件の舞台は日本唯一の植民地都市D市の郊外にある、ムーン・ビーチと称する海浜避暑地のクイーンホテルであった。ある日ホテルにやって来た2人の男女、男はドイツ人フリッツ・ミッツレルと名乗る音楽家で、女はギリシャ人のマリア・フェルスターと名乗った。
ホテル側はてっきり新婚旅行ででもあるのかと思ったが、2人は別々の部屋を希望し、35号室と36号室が宛がわれた。3日ほどしてマリアが部屋を変えてくれと騒ぎ出し、マリアは40号室に移った。
この様子を見て同じホテルに滞在する新聞記者ジョン・ウィリアムはマリアは精神病者であると吹聴しだした。6日目マリアはまた部屋を変えてくれと言いだし、13号室に移った。その後マリアの性格は急変したようになり、宿泊客たちはマリアが二重人格ではないかと噂しあった。
フリッツとマリアがホテルに投宿して13日目の早朝、13号室で惨劇が発生した。部屋の中でマリアが腹部をピストルで撃たれて、殺されたのだ。凶器は現場になく、したがって他殺とされたが、部屋は鍵がかけられ窓からの脱出も不可能だった。


30号記念特集として幻影城作家泡坂妻夫、村岡圭三、宮田亜佐、筑波孔一郎、滝原満、高村信太郎各氏の競作。探偵小説55年を考えるは、戦前の本格派として期待されながら、10篇で筆を折ってしまった大庭武年の特集。デビュー作の本格短編「13号室の殺人」(新青年昭和5年10月号)と本格から抜け出そうと試行錯誤した「小盗市場の殺人」(新青年昭和8年6月号)
連載は竹本健治のデビュー作「匣の中の失楽」と連作十二支のバラードとして新羽精之「火の山に跳ねろ灰兎」の前篇。幻影城サロンは前月郷に引き続き休載となった。

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