1977年4月号
目次
連続企画 探偵小説55年を考える
発禁探偵小説特集
霧しぶく山 蒼井雄
勝者敗者 甲賀三郎
陳情書 西尾正
解説=取り締まられた探偵小説 長谷川卓也

連作小説
足跡にご注意 筑波孔一郎
虎は死して皮なれば 新羽精之

新連載・本格探偵小説
匣の中の失楽 竹本健治

作品発掘
夢の殺人 南沢十七
夢の追跡者・南沢十七 鮎川哲也


評論・研究
オペラの怪人(上)・幻影館3 紀田順一郎
探偵作家風土記・九州篇 玉井一二三
木々高太郎誕生・日本探偵小説史ノート 中島河太郎
シムノン再説・フランス探偵小説史の内 松村喜雄
幻影城の影から推進力へ 村岡圭三
1976年度・推理小説 武蔵野次郎
「幽霊塔」と「無惨」他鑑賞 金田一郎
ミステリ館への誘い・新刊紹介 二上洋一
 
霧しぶく山
蒼井雄
私が大峰登山を思い立ったのは、上田秋成の随筆歌集を読んだのがきっかけだった。私は同行者として友人の久我時哉に白羽の矢を立て、案内人として久麻助という地元の男を雇った。
登山行の途中で、我々は大木に海老反りの形でくくりつけられた男の死体を発見した。我々は男の死体を降ろし、取り敢えず近くに穴を掘って埋めることにしたが、その男のポケットから参謀本部発行の地図が出て来た。
地図は4枚あり、いずれもこの付近のものであったが、その裏には恐るべき物語が、薄い鉛筆で書かれていた。それによると普二郎、泰二、礼二の3人の男は留美という女とともに山に入った。
やがて山は濃い霧に包まれ、一寸先も見えなくなり、どこかに避難にしなければならなくなった。普二郎は地元の人間らしく、近くにある洞窟を避難場所として提案した。そこからは普二郎による殺人の物語だった。
普二郎は濃霧の中で礼二を殺し、さらに泰二を殺した。そして留美を洞窟に誘い込んで…というところで物語は終わっていた。留美と普二郎はいったいどうなったのだろうか。
そうこうするうちに、周囲は霧に包まれ私たちもどこかに難を避けなければならなくなった。久麻助に近くの洞窟に案内されたが、その奥の方からは女の声が聞こえて来た。どこかに風の通り道があるらしいのだ。そしてその女の声は留美のものに違いなかった…

勝者敗者
甲賀三郎
勇次は兄を訪問した。が、兄は留守であった。留守の時間を狙っていったのだ。会社勤めの人間が、昼間いるわけもない。嫂の京子が一週間前から風邪気で寝ていた。勇次はその枕元にシュークリームを置いた。京子の大好物だ。そして兄の家を出る。
シュークリームには猫いらずがたっぷりと仕込んであった。そう、愛する京子を殺すために。兄のものになってしまった京子を殺すために。家に戻って暫くすると、兄から電話があった。京子が死んだというのだ。慌てて兄のところに駆けつける勇次…

陳情書
西尾正
文士青地大六から警視総監に宛てた陳情書によれば、大六はある日ある時、男に誘われて女を買ったという。男に連れられて車に乗り、あるしもた屋の前で降りた。ところがそのしもた屋にいたのは、大六の妻の房枝であった。
家にいるはずの房枝がなぜ…しかも体を売っているとは…大六は翌日から妻のことを監視し始めたのだが…

足跡にご注意
筑波孔一郎
杉並の閑静な住宅地にある二階家が事件の現場であった。庭には離れが建ち、そこに暮らす根来信治という41歳の男が被害者だった。根来は相棒の岩倉晋也という男と一緒に食品関係の輸入会社をやっていた。
当日、根来は8時から8時半のあいだに母屋で食事を済ませ、離れへ帰って行った。母屋には宮永誠介と詢子の兄妹と半沢トキ子という女性がいた。半沢は宮永兄妹の友人で、昨夜は誠介に呼ばれて遊びに来ていた。
さて根来が離れに行った時刻には、雪が降っていた。雪は9時過ぎにやんだ。母屋から離れまでは根来の靴の足跡が一つだけついていた。その足跡は当然離れへ向かったもので、離れの玄関には靴が揃えてあった。
ほかに母屋と離れの間にあるのは、発見者によるサンダルの往復の後だけだった。死因はウィスキーに入れられた青酸。離れの炬燵の上にはグラスが2つあり、そのうちに1つから青酸が検出された。
炬燵の電気は切られており、これが他殺説の有力な根拠だったが、では犯人はどうやって離れから雪に足跡を残さずに、脱出したのだろうか。

虎は死して皮なれば
新羽精之
相良教授が行方不明になった。相良は城田寺房雄教授の一周忌に出席したあと、土方教授とともに房雄の弟の城田寺春昌教授のところへよった。夜8時ごろにそこを出てから消息がわからなくなったのだ。
調べていくと1年前にインドで死んだ城田寺房雄教授の事件が関係しているらしい。というのは城田寺房雄教授はインドの国立公園で、ホワイトタイガーに襲われて命を落としたのだが、そのとき相良も一緒にいたのだった。
その城田寺房雄教授を襲ったホワイトタイガーの写真が先ごろ雑誌に掲載されたのだが、その写真を撮ったものの正体がわからなかった。いったいインドで何があったのだろうか…

夢の殺人
南沢十七
赤坂昭和アパート9号室に住む吉富助教授は、隣室に住む春川於奈美が部屋で死んでいるのを発見した。於奈美は最近浅草で名をなしている舞踏家で、また吉富とは幼馴染であった。
吉富が於奈美を気にしていたのは、自分の実験の成果が於奈美に現れたと思ったからだったが、警察にはそんなことは言えない。凶器は解剖用のメスであったが、於奈美の部屋から発見されたそのメスには、於奈美と吉富の指紋しかついていなかった。
警察は吉富を追及したが、吉富は頑強に否認した。そして審理中にも関わらず、吉富は行方をくらました。それから2ヶ月後、吉富はこともあろうに製氷会社の氷結槽に身を投じて、凍死自殺を遂げたのだった。


「黒死館殺人事件」「ドグラ・マグラ」「虚無への供物」と合わせて四大奇書とも呼ばれる竹本健治のデビュー作「匣の中の失楽」が、今号から連載開始。連続企画「探偵小説55年…『新青年』の創刊から『幻影城』の創刊までを考える」の今回は、発禁探偵小説の特集で、蒼井雄の「霧しぶく山」をはじめ3篇。
「霧しぶく山」250枚、「匣の中の失楽」150枚、連作の新羽精之「虎は死して皮なれば」130枚などボリュームのある作品が揃ったためか幻影城サロンなどが休載となった。

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