1977年3月号
目次
連続企画 探偵小説55年を考える
全集未収録作品特集
途上の犯人 浜尾四郎
白豹 久生十蘭
殺人ノート 小栗虫太郎
侏儒 夢野久作
評論=夢野文学の原点 山下武

新連作小説
掘出された童話 泡坂妻夫

新年懸賞犯人当て
遅れてきた密室 解決篇 筑波孔一郎

幻影城推薦大型新人
暗黒魔界伝説 高村信太郎

第2回幻影城新人・評論第二作
闇のなかから闇のなかへ・推理劇の一考察 麻田実
夢見る権利・探偵小説の精神 栗本薫
幻想の速度・国枝・夢野・久生 友成純一

評論・研究
続・書かでもの記・7 横溝正史
ロスト・ワールド・幻影館3 紀田順一郎
探偵作家風土記・四国篇 玉井一二三
寝耳に水の文芸倶楽部廃刊・博文館の侍たち 岡戸武平
出版物の取締りと著作権U・博文館とその周辺 小林一博
ミステリ館への誘い・新刊紹介 二上洋一

新年懸賞犯人当て当選者発表
幻影城サロン 選評
 
侏儒
夢野久作
九州帝国大学在勤の若い医学士が4人と高女出の若い女性が3人、あるところに集まって雑談していた。7人は探偵小説の愛読者でありファンでもあった。やがて7人の間から誰言うともなく、物語の合作の話が持ち上がった。
出だしの場所は九州帝国大学法医学標本室、そこの主である八白博士のもとに、オーストリアの法医学博士ワイテンベルグ氏が訪れたワイテンベルグ博士は、並べられた完璧に近い犯罪に関する標本に感心することしきりだった。
その部屋の隅の壁にはさらに扉があった。この扉の向こうは地下室に通じるが、そこにはまだ発表できないものがあると八白博士は言う。強烈な興味を持ったワイテンベルグ博士は、八白博士が席を外したすきに地下室への扉を開こうとするが、ドアノブは空回りするだけで扉は開かない。
ワイテンベルグ博士はあきらめて八白博士のもとを去るが、入れ替わりに訪ねて来た米国の名女優を伴って標本室に入った。この女性も標本室を見学に来たのだった。八白博士はひと通り標本室を見せたあと、特別に地下室に案内した…

途上の犯人
浜尾四郎
東京発名古屋行きの東海道線普通列車の3等車の中で、わたしはまたその男の顔を見た。また、というのは一昨夜新宿から四谷に向う市電の中でも、顔を合わせたからだった。その男は色が青白く、痩せたており、蜘蛛かナメクジを連想させた。
その男もわたしに気がついたらしく、わたしのことをジロジロと見ていた。わたしは席を替わり、顔を会わせないようにしていたが、列車が箱根を越えて三島駅を出るころに、その男が私の目の前に来て話しかけてきた。
その男は相川俊夫と名乗り小学校の教師をしていると自己紹介した。そして自分は娘を故意に肺炎にして殺したが、それはわたしのせいだというのだ。わたしが書く探偵小説を真似て殺人を犯した、つまり殺人を犯しても法律的に罰せられない類の小説ばかり書いているわたしが悪いのだ、となじりはじめた。

白豹
久生十蘭
伊豆の山中をひとりハイキングする凡太郎は、山の中で握り飯を食べていると、警察犬を従えた大規模な山狩りに遭遇した。だが、物に動じない凡太郎は平然とそれを遠くから眺めやり過ごす。
食事を終えて再び歩き始めた凡太郎の後を、自転車を引いた女が追ってきた。やはり凡太郎は気にしない。女が凡太郎に、私が犬に追い立てられたら助けてくれるかと問いかけて来たが、凡太郎は返事をしなかった。
女が追いてこようがきまいが、凡太郎は滝壺で水浴びしたが、戻ってみると女も服も消えていた。残された下着だけをつけ凡太郎は何事もなかったように山歩きを続けた。
すると木の枝にズボンが引っ掛かっていた。だが凡太郎のものではない。だが凡太郎はありがたく頂戴した。暫く行くと今度はシャツだった。それも借用した。すると最前の女が現れて、凡太郎の服をマタギの格好をした男が持っていったと告げた。それを見とがめなかったのは、先ほど凡太郎が返事をしなかった仕返しだと言った。

殺人ノート
小栗虫太郎
広津脩平の手紙によれば、脩平は父の仇である角倉一族の全滅を企図しているようだ。脩平の父親は、かつては労働運動の闘士であり、ある争議の際に会社側に勝利をおさめる寸前までこぎつけた。
だが昨日までの同士角倉要之助の寝返りにあって勝利を逃がし、さらに角倉の密告によって母と脩平の幼い妹は死去し、脩平の父は獄中死した。一方要之助は会社から報奨金を貰い、それを元手にのし上がった。
脩平は復讐に燃え、角倉の娘の楽子を籠絡してついに婚約にこぎつけた。脩平が狙うのは要之助、楽子のほかに要之助の私生児俵崎格三郎、要之助の兄帆足広玄、広玄の子の帆足亮一、要之助の甥の城浩幸の6人であった。このうち新興宗教天霊教理事長の広玄が最初の犠牲になった。そしてその事件の犯人と目されたのは…

掘出された童話
泡坂妻夫
田舎の電器店の店主から一代で実業界の大物になった池本銃吉。頑固で過去においてもかなり強引であくどい商売をし、人を泣かしてきた池銃と呼ばれるその男が童話を作って出版した。
そして側近の提案した喜寿の祝いを詫寿の祝いに替えて、そのパーティーの引き出物として自費で作った童話を配ったのだ。
詫寿の祝いとは池銃が考え出したもので、詫びの字が変が七画、作りが六画であることから強引にこじつけて76歳の祝いの会にしたものだった。
その祝いの会では、いつもの池銃に似合わず神妙かつ弱気な挨拶をした。過去において数々の迷惑をかけてきた幾多の人たちに素直に詫びたいといったのだ。
この集いも詫びる気持ちから、詫寿の祝いを考えて企画したものであり、心からお詫びすると頭を下げた。さらに引き出物が池銃に最も似合わない童話だったので皆はびっくりした。
池銃は、この引き出物にするために自費で童話を作ったのだ。しかし、その童話「もりのさる おまつり の」は誤字はあるし、区切りは変だし、とても文学的なものではなかった。
出版社に聞くと最初は誤字を直して印刷したのだが、池銃は字を直すことまかりならぬと激怒し、刷り直し費用を出してまで誤字のままで印刷をやり直させたという。
出版社でこの話を聞いた亜は、童話を穴の開くほど見つめたあと、突然白目をむいて、謎を解明するために池銃の故郷に行く言い出した。いったい童話「もりのさる おまつり の」には何の意味があるのだろうか…

暗黒魔界伝説
高村信太郎
轢き逃げにあい全ての記憶を失ってしまった川奈恵美は、歌舞伎町のクラブでホステスをしていた。もちろん川奈恵美というのも本名ではない。恵美は自分の名前すら思い出せないのだった。
そのことを恵美は秘密にしていたが、たったひとり好意を寄せる新聞記者の山岡武彦にだけは真実を打ち明けた。山岡はそのことを新聞に書いたらどうか、そうすれば手掛かりが何かつかめるのではないかと提案し、恵美も了解した。
恵美の正体を知る手掛かりはもうひとつあった。恵美が唯一口ずさむことができた民謡調の歌だった。その歌は短いが、まったく意味をなさないものだった。その歌も当然新聞に載せられた。
反響はあったが、その中で有力なものはひとつだけだった。聖寿病院の内科医宇都宮と名乗る男が、恵美は肺炎で入院していたが病院を抜け出した津島英子であると言ってきたのだ。宇都宮は英子の夫であるという男を連れて来ていた。
だが、その2人を見ても英子の記憶は全く戻らなかった。事件は数日後に起きた。知らないはずの自宅に宇都宮が訪ねて来て英子を連れ去ってしまったのだ。英子はマンションの一室に連れ込まれ、幻覚剤を投与されて自殺するように罠をかけられた。
だが強靭な意志で英子は自殺を思いとどまり、山岡に助けられた。山岡が調べてみると、津島英子という女性は実在したが、宇都宮はまっかな偽者だった。さらに調べていくと宇都宮の正体は岡本という山梨県出身の男だった。山岡は月に一度お参りと称して故郷に帰っていたらしい。
一方、英子が知っていた歌を専門家が分析すると、白滝の里という山梨県の辺境の隠れ部落が一連の事件に関連するらしい。そして白滝の里というのは山岡の故郷らしいともわかった。


連続企画「探偵小説55年…『新青年』の創刊から『幻影城』の創刊までを考える」の今回は、全集未収録作品として、昭和40年代の個人全集に収録されなかった、浜尾四郎、久生十蘭、小栗虫太郎、夢野久作各氏の短編を掲載するという、幻影城らしい企画。
また巻末に期待の大型新人として、高村信太郎の「暗黒魔界伝説」200枚を一挙掲載。編集後記によると「暗黒魔界伝説」は新人らしく新鮮な作品で、今後の探偵小説の新しい方向を探ろうとしているのがわかるという。約40年前の方向性を知る意味でも貴重な作品だ。

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