1977年2月号
目次
第2回幻影城新人賞・小説部門発表
殺人・弥三郎節 加藤公彦
炎の結晶 霜月信二郎
拒まれた死 辻蟻郎
選評
全体として低調 権田萬治
熱と力を 都筑道夫
彗星の軌跡 中井英夫
待てば海路の 中島河太郎
情熱の欠除を痛感 横溝正史
探偵小説の醍醐味を 二上洋一

連作小説
アリバイあげます 筑波孔一郎
黒い牡牛は死のマーク 新羽精之

評論・研究
続・書かでもの記・6 横溝正史
吸血鬼ノスフェラテュ・幻影館2 紀田順一郎
探偵作家風土記・中国・四国篇 玉井一二三
ミステリ館への誘い・新刊紹介 二上洋一

現代推理作家展望・仁木悦子
最も高級なゲーム 仁木悦子
かあちゃんは犯人じゃない 仁木悦子
仁木悦子論=ザインとゾルレンの相剋 二上洋一

城昌幸追悼特集
詩と十手と算盤 中島河太郎
哀愁と無類の詩人の魂 秋谷豊
思い出あれこれ 永瀬三吾
思い出は愛し 渡辺啓助
若さま侍捕物帳のユニークな趣向 武蔵野次郎

幻影城サロン
 
炎の結晶
霜月信二郎
渥美半島伊良子岬のBホテル302号室で、新婚旅行で宿泊した加瀬順次が刺し殺されていた。新婦の可奈子は行方不明となったが、室内は荒らされておらず、順次に抵抗した様子もないために、警察では可奈子が順次を刺し殺して逃げたものとして行方を追った。
その可奈子は風呂に入ったあと、眠いと言って寝てしまった順次を部屋に置いて、ホテル内をブラついて部屋に戻ると、順次が刺し殺されていたためにパニックになり、ホテルを飛び出してタクシーで豊橋に、さらには名古屋に行き旅館に一泊した。
翌朝、可奈子は美術商を営む父源吉の線から、知多半島の孤高の常滑焼の作家江河嵩清を頼って、人里離れた嵩清のもとを訪れた。嵩清は可奈子の話を聞き、私立探偵南雲宗一郎を雇い、事件の捜査を依頼した。

拒まれた死
辻蟻郎
雪の積もった米代高校のグラウンドで、ひとりの青年の遺体が発見された。死体は半ば雪に埋もれ、校舎の屋上から飛び降り自殺かとも思われた。その青年は死ぬ前に不思議な遺言をしていたという。それは「林彪もおれも空から落ちる。秋田おばこを聞いてくれ」というものだった。
アームチェア・ディテクティブを気取るが、そのわりには10円玉の占いばかりやり御託宣を垂れる、皆川木公という老人は、新聞記者貢から事件の話を聞き、さっそく占いを始めたが、事件はそれにとどまらなかった。
今度は神父が殺され、金が奪われたのだ。神父は幼稚園も経営しており、金は無造作に管理されていた。その金は園児の保育費として集めたもので、机の引き出しに突っ込んであった。それを強盗に奪われ、無惨にも神父は殺されたのだった。

殺人・弥三郎節
加藤公彦
津軽のF町の町長選挙に、旧友の工藤弥三郎が立候補していることを、青森駅頭で知った民謡研究家の甲斐佑太郎は、弥三郎の陣中見舞いにF町に寄り道していくことにした。
F町に来てみると町を二分する激しい選挙戦が戦われていたが、この地方の風土のためか、それは中傷や選挙妨害、はては金が飛び交う醜い戦いだった。そんななか工藤家を訪れた佑太郎は、弥三郎と妻の和香江に大歓迎を受けた。
だが工藤家の内情がわかるにつれ、佑太郎は眉をひそめざるを得なかった。弥三郎の母くらが弥三郎の出馬に反対し、あろうことか敵陣営を応援しているのである。さらに選挙参謀の和久井という男が、敵陣営のスパイであるらしい。
聞きしに勝る謀略選挙に佑太郎も巻き込まれそうになった。そんなおり盆踊り会場のテープから流れる弥三郎節が、工藤弥三郎を誹謗中傷する歌詞に代えられて流されるという事件が起きた。
しかもその内容は、弥三郎の前妻で弥三郎とくらにいびり出されたと噂される滋子が、本当は殺されて、林檎の木の下に埋められているという、悪質なものだった。この歌を聞いた弥三郎は怒り心頭に達し、林檎の木の下を掘らせたところ、そこから白骨が現れた…

アリバイあげます
筑波孔一郎
殺されていたのは興信所に勤める伊能圭介という、38歳の独身男。後頭部を青銅製の花瓶で殴られたのが死因だった。被害者の周囲には人形やブックエンドなどが散らばり、部屋の中はめちゃくちゃに荒らされていた。
発見したのは中江マサ子という近所の主婦で、週に二日か三日来て掃除などをしていた。この日も7時過ぎに来て、被害者を発見した。マサ子の証言により容疑者が何人か浮かんだ。被害者のガールフレンド、被害者が強請っていたと思われる会社の重役とその娘の3人だ。
それぞれ事情聴取が行われたが、その中で重役は伊能を知っていることは認めたが強請られていたことは否定した。一方、被害者の周囲に散らばった人形やブックエンド、それに凶器の花瓶は重役宅の物であることを証言した。

黒い牡牛は死のマーク
新羽精之
ゴルフ場やレジャーランドの経営に成功した間部家の御曹司富士彦は、間部家経営のレジャーランドの専務として辣腕をふるっていた。富士彦は企画魔と言われるほどのアイデアマンで、次々と企画を打ち出してヒットさせ、レジャーランドをますます賑やかにしていた。
その富士彦が次に目をつけたのは闘牛だった。本場スペインに視察に行き、さらに闘牛に魅せられ、帰りにはまだ幼い牡牛を3頭、既に役立たずとなった老牡牛を2頭買いつけて来た。
この5頭の牛を使ってミニ闘牛場を作り、闘牛のテストを始めた。スペインでよく行われる、カペアと呼ばれる危険でない牛を使った飛び入りの闘牛会を真似たのだ。最初の幼牛は富士彦にうまくかわされた。そこで次に年老いた牛が引き出された。
そして悲劇が起きた。老牛は最初から富士彦の体を狙い、富士彦は牛の角にかけられてズタズタにされ、命を落としてしまった。

最も高級なゲーム
仁木悦子
東京郊外の古いレンガ造りの洋館神泉家で、ミステリサークルの例会が行われた。出席者は5人、心理学者の松原、ピザ店経営の北沢、学生の羽根木、エンジニアの駒場、画家の代田の5人だ。それに一度も例会に参加したことがない幻の会員硲井がこのサークルの正式メンバーで、神泉家の一人娘真知子が準会員だった。
例会が神泉家で行われたのは真知子が準会員であったほか、交際していた駒場と真知子が最近喧嘩をし、そのよりを戻す意図があったのだった。だが真知子はまったく姿を見せなかった。
例会では毎回犯人当てゲームが行われ、このときは郵送された硲井氏の作品が朗読された。朗読を終わり、犯人が当てられて雑談になったとき駒場が差し入れのウィスキーを出した。
その直後に停電となり、部屋は真っ暗になった。ブレーカーが落ちたのだ。すぐに電気がついてが、見ると駒場が花瓶で頭を殴られて、その場に倒れ伏していた。

かあちゃんは犯人じゃない
仁木悦子
和夫は母親と継父の3人暮し。母親はかつて質屋をやっていた継父に金の面倒を見てもらった縁で後妻に入ったが、その後に商売が傾き、今では貧乏暮し。継父は酒を飲んでは暴力をふるい、母親は離婚したがっている。
ある朝、継父がささいなことで母親を怒鳴り、母親は近所の親戚に愚痴をこぼしに行き、和夫は外に遊びに行った。和夫が帰ってくると母親はまだ帰っておらず、継父は畳の上で大いびき。
この隙に和夫はシャボン玉を作ろうとして継父の石鹸を盗もうとしたが、そのとき家の中で音がした。障子越しに移る影を見ると母親ではないらしい。てっきり継父が目を覚ましたと思った和夫は身をひそめるが、そうではなかったのだ。
やがて静かになったので、さらに間をおいて和夫が戻ってみると、継父の首筋には刃物が刺さり、継父はこと切れていた。警察は動機の点から母親を犯人としてしょっぴっていってしまった。


今号では第2回幻影城新人賞の小説部門が発表された。選考にあたった各氏の評によれば、第1回に比べ小粒で低調であったとのことで、入選作はなく、加藤公彦「殺人・弥三郎節」、霜月信二郎「炎の結晶」、辻蟻郎「拒まれた死」の3篇が佳作に選ばれた。
前月号から泡坂妻夫と交代で隔月に登場する筑波孔一郎は、「くさや刑事鼻つまみ捜査ノート」と題して連作を開始。現代推理作家展望では女流作家の草分け仁木悦子を取り上げ、仁木氏の70枚の書下ろし短編「最も高級なゲーム」を掲載。第2回新人賞や連作、仁木氏の特集などのために連続企画「探偵小説55年…『新青年』の創刊から『幻影城』の創刊までを考える」はお休み。

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