1976年11月号
目次
連続企画 探偵小説55年を考える
「新青年」1924・6&1925・4
琥珀のパイプ 甲賀三郎
孤児 水谷準
上海された男 谷譲次
浮かれている「隼」 久山秀子

連載小説
朱の絶筆 鮎川哲也
蜻斎志異・第十一話 一○一夜物語 朝山蜻一

珠玉短篇集
影の殺意 藤村正太
ポッポちゃんの下で 鈴木五郎
ゲッペルスの潜水艦 滝原満

作品発掘
写真解読者 北洋
幻の作家を求めて=不肖の原子物理学者・北洋 鮎川哲也

書下し読切中篇
電話 山沢晴雄

連載
続・書かでもの記 横溝正史
日本探偵小説史ノート・好敵手角田と水谷 中島河太郎
博文館の侍たち・日本橋本町時代 岡戸武平
博文館とその周辺・薄利多売で急成長 小林一博
フランス探偵小説史・鉄仮面とその謎 松村喜雄
探偵作家風土記・近畿篇 玉井一二三
「犬神家の一族」と「黒猫亭事件」鑑賞 金田一郎
新刊紹介=ミステリ館への誘い 千葉健児

現代推理作家展望・狩久
らいふ&です・おぶ・Q&ナイン 狩久
すとりっぷと・まい・しん 狩久
狩久論=私小説風探偵作家・狩久 二上洋一

渡辺剣次追悼特集
剣次郎は逝った 阿部主計
渡辺さんのこと 鮎川哲也
その臨終 氷川瓏
渡辺健治さんの想い出 古沢仁
真実の鬼・渡辺剣次 松村喜雄

幻影城サロン
 
琥珀のパイプ
甲賀三郎
関東大震災があってから、まださほど経たぬころ、深夜の東京山の手の住宅地で火事があった。最近住宅を新築した福島家の台所付近から出火したが、近所の人間の必死の消火活動で消し止められた。
だが、家の中から死体が3体出て来た。正面からナイフを刺された男、背中からナイフを刺された女、その女が抱いていた幼児。幼児の死因は、薬物による中毒であった。
死んだ3人は福島が頼んだ留守番の夫婦とその子供であった。また奇妙なことにさらに、台所では砂糖壺が燃えて砂糖が焦げ、水銀の玉が落ちていた。さらに謎の数字や記号を書いた紙片もあった。

孤児
水谷準
孤児院で兄弟のように育った山田義雄と佐野義雄。山田は孤児院で一番の乱暴者で、院長も手を焼いていたが、同名の佐野にだけはやさしく、まるで本当の弟のように可愛がった。佐野の方も山田のことを慕っていた。
やがて2人は院を出て共同生活を始め、町工場に勤めた。2人は貧しいながらも長屋で生活し、周囲の人間からも仲の良い2人組と見られていた。
ある夜、佐野の好物の餅菓子を買って山田が家に帰ると、中から話し声が聞こえた。そっと聞き耳を立てると、来客は院長だった。何年振りかで訪ねて来たのだ。
院長は佐野に向かって語った。ブラジルに移民として渡った父親が判明、その父親が多額の遺産を残し、その一部を幼い時に分かれた義雄という子に贈ると遺言したことを佐野に語った。それを聞いた山田は…

上海された男
谷譲次
神戸の海員周旋宿で同室になった坂本新太郎は、翌朝為吉が目覚めたときには、すでにいなくなっていた。だからといって為吉が新太郎の行方を気にしたわけではない。
船乗りの仕事を探している為吉は、その日も仕事を探しにいったが求人がなく、仕方なく宿に戻って来た。するとそこには刑事が待っていた。
刑事は新太郎が殺され、容疑者として為吉を連行するという。為吉には覚えがなかったが、刑事は強引に引っ立てた。しかし為吉の方が一枚上手で、連行途中に隙を見て逃げ出し、出港直前のノルウェー船籍の貨物船に乗り込んでしまった。

浮かれている「隼」
久山秀子
スリの隼お秀は仲間からの連絡で房州のある港町へ仕事の手伝いに行った。仕事の都合で男装した隼は、仕事が終わって仲間と女郎屋に上がり女に囲まれた。そこである女の境遇を聞いた。
その女は東京でかどわかされて売られてきたのだ。隼は憤った。女から詳しく話を聞いて、東京に戻ると女がかどわかされた場所に向かった。自らおとりになって男を警察に突き出そうというのだ…

影の殺意
藤村正太
八巻直久と兄の恭平とは異父兄弟にも関わらず子供のころから仲が良かった。しかし恭平と義父の仲が悪く、社会に出てから恭平は家を出て独り暮らしを始めた。
恭平は両親に反発するように行動し、悪い仲間もいるようだった。義父が死亡したあとも恭平の素行は改まらず、いつしかマンションからも失踪し行方が分からなくなった。
母は恭平のことを心配して寝込み、やがて衰弱して病死した。直久は仲が良かった恭平の身を案じ、死んだ母のためにも恭平の行方を追った。
その結果、都下小金井に住む江沢由香と恭平が付き合っていたことを突き止めたが、由香の行方も分からなかった。そこで恭平は由香の姉の朋子に近づこうと考えた。
朋子はハケと呼ばれる武蔵野丘陵の断崖地に、由香と住んでいたが、由香の行方が分からない今は独り暮らしだった。そこで呉服の仕立てをしていた。
そこで直久は小金井の小さなデパートの呉服部に職を得て、そこの仕入先である江沢朋子の担当となった。直久は何度か朋子のところに通いカマをかけた。やがて朋子の家の近くの崖から白骨が見つかった…

ポッポちゃんの下で
鈴木五郎
ある会社のコンサルタントをしている私は、会社の三沢部長から個人的な調査を頼まれた。三沢の娘のサチが、三沢の部下の大友と結婚すると言い出したのだった。
大友は大学時代はヨットの選手であり、スポーツ全般が得意で、有能でもあった。昨年会社の技術顧問の娘の和子と結婚したが、やがて和子はノイローゼとなり、昨年暮れ放心状態で歩いているところを車にはねられて死んだ。
その和子はサチとも親しく、サチは大友に同情を寄せ、それが恋に発展したというわけだった。親の三沢としては、和子のノイローゼの原因をぜひ知りたい、その原因がサチを不幸にするものかどうかに重大な関心があるというのだ。
そして大友と和子は恋人時代から「ポッポのお家」という東京駅八重洲口にある喫茶店でよくデートをしており、そこに取っ掛かりがあると教えてくれた。

写真解読者
北洋
蒙彊自然科学研究所の所員皆川が行方不明になり、飛行機を使って空からの捜索が行われた。広いゴビの砂漠を写真を撮影して手掛かりを得ようとしたのだ。
カメラマンはロシア人のショスタコウィッチ氏で、彼が撮った写真を現像すると砂漠の中にジープが乗り捨ててあった。これぞ手掛かりと再び飛行機を飛ばすと、着陸に失敗して飛行機は破損し、所員の2人が怪我をした。
このためにさらに救援機が飛ばされた。数日して皆川所員は無事に発見され、飛行機事故で負傷した2人も、ラマ教の構想に助けられて無事であった。
だが、今度は救援機で現地に向かったショスタコウィッチ氏が行方不明になった。研究所に戻るとショスタコウィッチ氏の机の上には、函館に住む夫人への手紙と木の箱に入った黒い小さな石が残されていた。ショスタコウィッチ氏は自らの意思で、砂漠の中へ失踪したのだった。

電話
山沢晴雄
2日午後9時半ごろ、大阪市平野区の栄運送の事務所に強盗が入り、警備員が重傷を負い、現金が盗まれた。のちにわかったことだが、犯人は2人組で、盗難車のライトバンを使い現場から逃走した。
一方、同じ日の午後9時40分ごろに平野区背戸口の路上で三浦玲子という主婦が交通事故にあい死亡した。玲子を死亡させた車は、これものちにわかったことだが栄運送に強盗に入った犯人達の運転するライトバンだった。
同じ日の午後10時少し前に小堀啓介は阿倍野区内の行きつけのスナックで、中学時代の同級生岡田源一を目撃した。この岡田がのちに栄運送に入った強盗の一人と判明する。
小堀は午後10時少し過ぎに自宅に戻ると、家の前に不法駐車しているブルーの乗用車があった。翌朝、この乗用車はまだ同じ位置に停められており、小堀からの通報で出動した警官により、その車のトランクから女の死体が見つかった。死体は和泉弘子のものだった。
和泉は前夜、つまり2日に午後6時30分、あつみ工芸という会社に所長の戸倉を訪ねている。弘子があつみ工芸を出たのは午後6時50分、その後阿倍野区の喫茶店に午後7時半に現れているのが判明した。
一方、ブルーの車は午後8時には小堀宅前に停められていたのがわかっている。つまり弘子が殺されたのは2日の午後7時半から8時の間であった。この30分の間にアリバイがあれば犯人足りえないことになる。
ところがここにつじつまの合わない事実が見つかった。ひとつは玲子が車にはねられた後、午後9時55分に玲子を見たという人物が現れたことだった。
一方逮捕された岡田は、玲子をはねたことを認めたが、その時間は間違いなく午後9時40分であった。それは岡田が小堀に目撃された時間からも確かなことと思われた。では午後9時55分の目撃情報は何だったのか…

一○一夜物語
朝山蜻一
横地大介は新妻のかな子とイタリアに新婚旅行に行く予定だったが、飛行機の都合で出発が1日遅れてしまった。そのために2人は初夜を箱根の旅館で迎えることとなった。
かな子は処女であり、そのことがまた大介を満足させた。翌朝、湯船につかりかな子のことを思うと、大介は最高の気分だったが、部屋に戻ってみるとみるも無残にその気分はうち砕かれた。
部屋には置き手紙が残されていた。手紙には1年間ほどしなければならないことがあり、決して捜さないでくれれば、1年後には必ず戻ってくると記されていた。
帳場によれば、かな子は20分ほど前に車を雇って出て行ったという。大介もすぐに車を呼んで捜したが、かな子は見つからなった…

ゲッペルスの潜水艦
滝原満
ナチスドイツが連合国に降伏する直前、ノルウェー沖の深海を行くUボートの中には、ヒトラーと結婚してその妻になったばかりのエヴァ・ブラウン、それにヒトラーの忠実な部下であり、ナチドイツの宣伝相ゲッペルス夫妻らが乗り込んでいた。
この潜水艦はゲッペルスの命令で秘密裏に製造されたもので、ヒトラーを新世界オーディンの宮殿ワルハラに導くためのものだった。今、地上でドイツが滅亡しようとするとき、ゲッペルスはヒトラーとともに戦士のパラダイスであるワルハラに向っているのだ。

らいふ&です・おぶ・Q&ナイン
狩久
狩久が死んだとの死亡通知があちこちに舞い込んだ。狩久は生前、自分が死んだら面白い葬式をやろうと思っていると語っていた。
その面白い葬式というのは、椅子にかけさせた干からびた死体を前にしたパーティであった。死亡通知の切手の部分が、巧妙に作られた会場への地図であった。パーティには11人の人間が集まった。
その中には狩久の妻と2人の息子もいた。指示通りテープが廻され、生前の狩久の声が聞こえだした。やがてテープの声は途絶えたが、その間にも黒衣の女が乱入したりと、出席者の予期せぬハプニングが続いた。
無音のテープを前に、やがて起きたのは狩久が宇宙に行ったのではないか、その間地球にいたのは狩久を装った宇宙人ではないか、という入れ替わり説であった。

すとりっぷと・まい・しん
狩久
結核で病床に伏している私を親身になって看病してくれているのは叔母であった。私はその叔母を愛していた。そして人の良い叔母から、財産を半ばかすめ取った叔父が許せなかった。そこで私は叔父殺害計画を立てた。
というより家のベランダで狂犬病に罹ってよだれを垂らしている猫を見て思いついたといった方がいい。私は注射器で猫の唾液を吸い取り、空になったアンプルにその唾液を入れ、足らない分は蒸留水で薄めた。
蝋を使ってアンプルに蓋をし、それを往診の医師の正規のアンプルとすり替えるのだ。医師は私のところに往診した後、叔父の所に行くのが順序だった。
その日の往診時、私は朝方血痰が出たと嘘をついて、医師に鞄からアンプルの入った容器を出させ、アンプルの一つを狂犬病の猫の唾液入りのものとすり替えた。私はアンプルを使う医師の癖も知っていた。一週間ほどして叔母の口から叔父が狂犬病になったらしいとの報がもたらされた。


連続企画「探偵小説55年…『新青年』の創刊から『幻影城』の創刊までを考える」の今回は、「新青年」の大正13年6月号と大正14年4月増大号から2篇づつ。いずれも探偵小説創作集として、まだ我が国に創作探偵小説が定着する以前の比較的早い段階での特集が組まれた号であった。
珠玉短篇集は藤村正太、鈴木五郎、滝原満の3篇、関西在住の難解な本格もので有名な山沢晴雄の中篇、さらに「現代推理作家展望」の第4回は狩久が書下ろし中篇「らいふ&です・おぶ・Q&ナイン」を引っさげての登場。

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