1976年7月号
目次
連続企画 探偵小説55年を考える
「新青年」&「新趣味」の懸賞小説
「新青年」懸賞小説入選作品
死人の眼 伴梨軒
破れし原稿紙 八重野潮路
仏蘭西製の鏡 藤田操
頭の悪い男 山下利三郎
「新趣味」懸賞小説入選作品
血染のバット 呑海翁
噂と真相 葛山二郎

連載小説
朱の絶筆 鮎川哲也
蜻斎志異・第七話 与之介一代 朝山蜻一

泡坂妻夫短篇特集
曲った部屋 泡坂妻夫
赤の追想 泡坂妻夫

特集・幻影城論壇
現代推理小説の諸問題 権田萬治
ペシミスティックな遊び=探偵小説の本質 津井手郁輝
テーセウスの旅=ロマン主義としての探偵小説 寺田裕
幻影城新人の可能性=読者席から愛をこめて 大内茂男

新連載
博文館の侍たち・戸崎町の編集部 岡戸武平
博文館とその周辺・「新青年」の発行元博文館 小林一博
記録・探偵小説55年 島崎博

フランス探偵小説史・ガボリオとルコック探偵 松村喜雄
探偵作家風土記・中部篇 玉井一二三

巻末書下し中篇特集
仁清の茶壷 香住春吾
ファイル1の事件 九鬼紫郎

新刊紹介=ミステリ館への誘い 千葉健児
幻影城サロン
第2回<幻影城>新人賞募集
 
死人の眼
伴梨軒
夜学を終えて帰って来た謹は姉の静枝が首に衣類を巻き付けられて殺されているのを見つけ、何を思ったか静枝の左の眼球をくり抜いた上で警察に報せた。警察は左の眼球が何でくり抜かれているか不思議に思ったが、謹はある目的を持ってそんな行為をしたのだった…

破れし原稿紙
八重野潮路
誰もが春日奈良夫青年の死を自殺と信じた。亜ヒ酸を自分で飲んだ形跡は歴然とし、原稿用紙に書かれた遺書もあった。しかし楠野青年は春日の死は自殺ではないと主張した。

仏蘭西製の鏡
藤田操
デパートの宝石売場で万引事件が起きた。ひとりの貴婦人が宝石を見ていた時に、ダイヤが紛失したのだ。その瞬間を店の探偵が見ており、現場で貴婦人を取り押さえた。
貴婦人は憮然としたが探偵の要求に持ち物をすべて調べさせ、身体検査も受けた。だがダイヤはどこからも出てこなかった。困惑したのは探偵の方で、今度は貴婦人が意地悪く探偵と店員の身体検査を要求した。だが当然の如く探偵からも店員からもダイヤは発見されなかった。

頭の悪い男
山下利三郎
風采のあがらぬ教師吉塚亮吉は、街の雑踏の中で突然男に袖を引かれ「久保様じゃありませんか?」と声を掛けられた。人違いという間もなく、雑踏の中を男に連れられて、ある料理屋の座敷に案内された。
相手は吉塚のことを久保と勘違いしたまま話をし、吉塚もいまさら人違いともいえなくなって、注されるままに杯を干し、勧められるままに料理をつまんだ。すると相手の男が電話をかけに中座した。
その隙に吉塚は相手の持ち物を見てみた。相手が持っていた新聞を広げてみると、そこには株式仲買店が巧妙な手段で2万円を詐取された記事が…ひょっとするとあの男はこの詐取犯ではあるまいか、そうであれば一緒にいた自分も仲間と疑られ、問答無用で捕縛されてしまう。
そうなれば今の生活はめちゃくちゃになってしまうではないか、吉塚は俄かに不安を覚え、この場から一刻も早く逃げ出すことを考えた。

血染のバット
呑海翁
H大学野球部主将稲毛が高田馬場の省線電車のガード下で殺されていた。死体は上向けに倒れ、脳天から額にかけてまっすぐに滅茶苦茶に砕かれ、その傷口には一本の血まみれのバットがめりこんで、死体の右手はそのバットの中ほどを握っていた。
さっそく警察では凶器のバットを手がかりに捜査を始め、前日野球の決勝戦でH大学に敗れたW大学野球部主将久保村を犯人として拘引した。

噂と真相
葛山二郎
ある学校の寄宿舎で、生徒の山根と小川が喧嘩をした。短刀まで登場する大喧嘩で、生徒監の教師も見ていたが、短刀を突き付けられた小川が事を穏便にしたいという意向なので、学校側も普通の喧嘩として処罰はしない方針だった。
それから暫くして、生徒監が小川を呼び出した。山根の班の生徒の一人の50銭札が何者かに盗まれたというのだ。山根班の部屋に入った他班の生徒は小川だけだった。その直後に大喧嘩が起きたのだ。
そこで生徒監は形式的ながら小川を調べるというのだ。身に覚えのない小川は素直に従ったが、ズボンの左にポケットからなんと50銭札が出てきたのだった。特徴からその50銭札は盗まれたものに違いなかった。

与之介一代
朝山蜻一
戦後すぐに新宿の片隅で占いをはじめた田毎綾子は、資質があったのかその後もずっと占いを続け、今では郊外に不相応な家を持ち占断本部の看板を掲げるほどになった。
とはいえ占い師は綾子だけで、毎晩のように新宿で店を張り、占いをするのは変わらなかった。そこに一人の男が現れた。男は中津川与之介といい、農家のひとり息子で勘当されていたが、この春に父親が死亡し莫大な土地を相続した。今や大地主となった与之介は土地の一部を売り、これまた一生使いきれないほどの現金を手に入れた。
与之介はそれまでもそうだったが、ろくな考えを持たずに毎日ブラブラして過ごし、女ばかり追いかけていた。その与之介がふとしたことから綾子の店を訪れて占ってもらったのだ。
その後与之介は綾子を食事に誘い関係を持った。与之介に言わせれば、女は年齢や美醜ではないのであり、50歳を過ぎた綾子には若い女にはない魅力があった。
綾子に言わせれば、与之介の人よりも与之介の金に興味があったのだ。2人の親子のような関係は続いたが、そのうちに与之介は金にあかせて高田馬場駅近くにあるトルコ風呂を丸ごと買収してしまった。
たまたま入ったそこが妙に気に行ったからだった。綾子もこのトルコ風呂が気に入ったようだった。そして毎日午後になるとやってきて、才能のない与之介に代わって、営業面の差配をするようになった。やがて、与之介にも綾子にも変化が訪れ始めた…

曲った部屋
泡坂妻夫
亜が知り合いを訪ねた団地は、沼を埋め立てて建てられたためか、建設直後から傾きだしお化け団地といわれていた。その団地では、つい最近殺人事件があったばかりだった。
最上階に住む一人暮らしの被害者は、殺されてから一ヶ月も発見されず、団地に大量発生したシデムシに死体を食い荒されていた。お化け団地からお化けのような死体が出てきてしまったのだ。ところがこの事件には大きな秘密が…
古沼を埋め立てて建てられた2棟の4階建ての団地は、美空が丘新団地と名づけられていたが、誰もそんな名で呼ばず一般にはお化け団地で通っていた。建設当時は嬉々として新しい団地に入った住民たちは、数々の問題に直面した。
最寄のバス停からでも5kmもあるほどで交通が極端に不便でなこと、火葬場が近く風向きによっては煙や異臭が入ってくること、学校のレベルが低く地元の子供達が粗野であること。
さらに追い討ちをかけるように、火葬場が近いためかマイソウムシと呼ばれる死肉を食べるシデムシが大量に発生し所かまわず侵入し、住民を脅えさせた。
そして決定的だったのは、地盤が弱いためか団地が傾きだしたのだ。一年後の今では、外から見ても傾いているのがわかるほどだった。住民たちは一人減り二人減り、今では空き部屋も多くなってしまった。
その団地の1号棟の最上階で、殺人事件があった。一人暮らしの男が絞め殺された上、頭を砕かれていたのだ。
殺されてからかなりの日数がたっていた上に、シデムシが男を食い荒していて、死体の顔は判別できなかったが、状況からこの部屋の住人底波だと考えられた。
底波のことを調べると、殺される直前に会社もやめ、自分から身を隠そうとしたふしがあった。一階下の住民と知り合いの亜がこの事件の直後に団地を訪ねて来た。亜は知り合いの住民から話を聞いたが…

赤の追想
泡坂妻夫
加那子は久しぶりに飲んだ桐男から、最近失恋しただろうと言い当てられ、吉島航一との一件を話し始める。航一との始めての出会いは山の上で、そのとき雷雲が近づいているのに、航一はライターで煙草の火をつけようとして、雷に打たれた。
幸い命に別状はなかったが、それが縁で付き合い始めた。だがいつまでも肉体関係はなく、ひょんなことからホテルに入ると航一は結婚していることを告げたという。
この言葉を聞いて加那子はホテルを飛び出し、以来航一とも会っていないというのだが…

仁清の茶壷
香住春吾
終戦直後にヤミ市でガラクタ道具を手がけ、昭和25年ごろに古美術品茶道具彩光堂の看板を上げて25年、大儲けもしない代わりに生まじめで律儀な商売をして信用を得、お得意先を増やして堅実に歩んできた喜兵衛は、ある夜茶壷を前に考え込んでいた。
この茶壷はお得意様である会社社長から預ったもので、千二百万円もする仁清作の茶壷だった。ある理由から喜兵衛は首を吊るか茶壷を叩き割るかで悩んでいたのだ。
そばでは妻のたみが、そんな夫を見ながらイライラしていた。やがて喜兵衛は茶壷を叩き割ることに決めた。それもただ叩き割るだけではなく、狂言強盗によって叩き割られたという筋書きだった。
茶壷を叩き割った喜兵衛は、たみに腕を縛らせて警察に電話させた。が、そこに本物の強盗が入ってきたことが事件をややこしくした。

ファイル1の事件
九鬼紫郎
日本秘密探偵社に依頼に来たのは、関東ゴルフ企業KK社長新見伍郎の秘書の桜井京子。新見社長の娘の花枝が、今年の春から4回に渡って、新見社長の先妻モト子の声を聞いたというのだ。
花枝は新見社長の後妻の子供で、モト子の声は知らないが、声は自分はモト子と名乗り、新見にいじめ殺された、新見とおまえが憎くてたまらない、きっと殺してやるというものだった。
最初は自宅、2日目がゴルフ場、3回目はホストクラブ、4回目が自宅で聞こえたという。さらにアラビア数字とローマ数字が不規則に組み合わさった時計の文字盤に、針の変わりに首吊り人形の姿が描かれた気味の悪いものが郵便受に投げ込まれていたという。この事件は探偵社に勤務する元刑事の私の興味をそそり、さっそく調査に乗り出すことになった。


本号より巻頭特集を従来の横糸的なものから、縦糸的なものに変えて、「探偵小説55年…『新青年』の創刊から『幻影城』の創刊までを考える」という企画がスタート。
この号の再録作品6篇は、江戸川乱歩登場以前の作品で、珍品の部類とのこと。また島崎博編集長自身の筆による、記録・探偵小説55年は年表+資料+解説の組み合わせで、第1回にあたる本号では新青年が発行された大正9年から11年までの3年間を掲載。
前号の筑波孔一郎の2中篇に続き本号では泡坂妻夫の2篇を掲載したほか、巻末書下し中篇は香住春吾となんと九鬼紫郎の2篇。

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