1976年4月号
目次
巻頭特集 連作・江川蘭子
江川蘭子 江戸川乱歩
絞首台 横溝正史
波に踊る魔女 甲賀三郎
砂丘の怪人 大下宇陀児
悪魔以上 夢野久作
天翔ける魔女 森下雨村
解説=連作・合作推理小説史 玉井一二三

連載小説
朱の絶筆 鮎川哲也
遠きに目ありて・第四話 見えない白い手 天藤真
蜻斎志異・第四話 馬王堆に学べ 朝山蜻一

名作再録
幻想唐艸 城昌幸
人と作品=怪奇幻想の異端詩人・城昌幸 山村正夫

白鳥の歌 六郷一
幻の作家を求めて=べらんめえの覆面騎士・六郷一 鮎川哲也

書下し読切
天童奇蹟 新羽精之
幻影城推薦新人
密室のレクイエム 筑波孔一郎

日本探偵小説史ノート・乱歩登場前後の作家 中島河太郎
フランス探偵小説史・ステーマンとクラシック・スタイル 松村喜雄
暗がりの宴「日本探偵作家論」出版記念会 安間隆次
新刊紹介=ミステリ館への誘い 千葉健児

全日本大学ミステリ連合通信
「怪の会」通信
第2回<幻影城>新人賞募集
幻影城サロン
 
密室のレクイエム
筑波孔一郎
推理作家岩室十一郎は加島さつきという秘書兼愛人と2人で住んでいた。もっとも2人の間は契約期限付きの関係だったから、今度十一郎がデザイナーの片桐洋子と婚約するにあたっても障害にはならなかった。
十一郎と洋子の婚約記者会見と披露パーティが行われ、そのあと2人はさつきと洋子の弟でG社の編集者である片桐竜平とともに十一郎の家へ引き揚げてきた。
疲れ気味の洋子は客室に引き揚げ、洋子も自室にシャワーを浴びに行った。一方、十一郎と竜平は改めて酒を飲みはじめ、暫くして十一郎も書斎に引き揚げた。
少しして気分が悪くなった十一郎は、でさつきの部屋に行った。さつきの部屋は中から鍵がかかっていて、いくら呼んでも返事がない。向い側の部屋からパックを顔に張り付けた洋子も顔を出した。
十一郎はついにドアを破って中に入った。ドアのすぐ内側にバスタオルが落ちており、ベッドのそばには全裸のさつきの死体があった。腹からは血を流していたが、それを見た十一郎は失神してしまった。
見かけによらず十一郎は血が嫌いで、わずかの出血を見ても気を失うのが常だった。警察の調べで現場はドアも窓も内側から施錠された密室であり、暖炉で何かを燃やした形跡があった。
凶器はきりのような細いもので、その先端にはニコチンが塗られていたらしい。この凶器で腹を刺されさつきは殺されたのだが、凶器は現場にはなかった。
さらに調べて行くと、最近さつきと竜平は関係を結び、そのことを十一郎も知ってしまったらしい。警察は十一郎を第一の容疑者と考えたが…

幻想唐艸
城昌幸
第1話劫…砂の路を古風な二頭立て馬車で走る私、第2話曠野…果てしれぬ曠野の中を延々と行列をつくて進む裸身の赤ん坊、第3話思い出…季節はずれのホテルの一室で聞いた男女2人の会話の3篇からなるショートショート。

天童奇蹟
新羽精之
戦国時代、長崎で布教活動をするポール神父は、土民とされた日本人を一人でも多く信者とするために、多くの奇蹟を演出した。それに応えるかのよう信者は増えて行ったが、巡察師ワリニヤー師は欧州人の思い上がりから土民を愚弄視したら必ず反動が来ると忠告した。それでもポールは方針を変えず、人々を集めて説教をし奇蹟を見せた。
そんなとき伊佐という若者が恋人のえみを返せと言ってきた。ポールが諭すと伊佐は入信したいといい出した。さらに増水した川を沈まずに渡ってみせるという。
ポールは止めたが、入信したら川を渡るとすでに神に誓ったし、神がもし私を許すのなら川を渡る力を与えるだろうと言い出した。そして増水した川に踏み出した伊佐は…

白鳥の歌
六郷一
昭和22年10月、第3回日展第2部の審査に出品松下馨名義の「瓦斯タンクのある風景」という作品。審査員の感想は布施伸六のエピゴーネンというものだった。
布施伸六、それは戦前パリに留学し、そこで第二のフジタと評判を取った画家だった。やがて帰国した布施伸六は展覧会を開きさらに評判を取った。
しかしその後作品を発表しなくなったが、一方で欧州の美術館に展示されていた布施伸六の油絵のサインが相次いでkuriharaと書き換えられる事件が起きた。
だがサイン事件と呼ばれる欧州での事件もやがて忘れられ、戦後長野の弟の林檎園に疎開していた布施伸六の訃報がもたらされたのだった。松下の絵はその伸六の絵の模倣だというのだ…

馬王堆に学べ
朝山蜻一
壇麗子は夫の壇中佐が戦死し、戦後すぐに義母が死去したために檀家の最後の一人になった。代々木の広大な屋敷に、女中のふみと2人で暮らしていたが、そこに甥でシベリアから帰還した谷川暢介が同居するようになった。
麗子を中心とする3人の奇妙な生活が始まった。麗子はふみを絶対的に信頼し、ふみも麗子を絶対的に信望している。一方暢助は麗子にへつらうような姿勢で接していたが、陰ではふみに対して蔑んだ態度で臨んだ。
だがふみは麗子と一緒に暮せ、麗子の世話を出来るのであれば暢介などいようがいまいが気にならなかった。そんなふみが不思議に思うことが一つあった。ふと気付いて麗子をしげしげと見ると若返っているのだ。
いや実際は若返っているのではなく、年を取らないのだ。実際に年下であるはずのふみが、今や完全にふみより老けて見える。ふみは皺一つなく、体型も昔のままだった。
ある日のこと、麗子が大量の下血をして病院に運ばれた。その下血には大きな秘密があった。麗子は若さを保つためにあることをしていたのだった。

見えない白い手
天藤真
原川しのぶは夫の太吉が死没して以来、世田谷の広大な屋敷と逗子の別荘、それに巨額の動産を相続し、金銭的にはまったく困らなかったが、不幸にして身内に恵まれなかった。
夫婦の間に子供はなく、近親者と呼べるのは既に故人となったしのぶの姉の子の宇高義雄ただひとりだった。しのぶは篤志家で、多くの団体の役員をしていたが、甥の義雄はどうしようもない若者だった。
一応は大学生ということになっているが学校になど行ったことはなく、ついにこの夏には悪徳ブローカーと組んで手形詐欺を働き警察に逮捕された。
起訴が決まり有罪も確定的だったが、しのぶはさすがに甥を未決房に収監するに忍びなく、保釈金を積んで義雄を保釈した。この不肖の甥の義雄以外に身寄りのないしのぶは、2年半前からコンパニオンと契約し一緒に住んでいた。村田康枝というそのコンパニオンはしのぶに気に入られ、身内同然の扱いを受けていた。
ほかにしのぶが親しくしていたのは清田弁護士と長谷部誠一と玉江夫妻。弁護士は古くからの付き合いで、しのぶは全面的に信頼して財産管理を任せ、今回の義雄の事件でも弁護を担当していた。
長谷部玉江はしのぶの唯一といっていい友人で、夫の誠一とともに親しくしていた。さて、事件は義雄が保釈された夜から始まった。
しのぶには寝酒に決まった白ワインを飲む習慣があったが、その夜はワインを口に含んだ瞬間舌がしびれ、慌てて吐きだしたのだ。そのときはたまたま劣化したか傷んだのだと思ったが、後で思えば毒物が混入されたらしい。
それから暫くして、今度は渋谷駅のホームから突き落とされそうになった。周囲の人たちが支えてくれて転落は免れたが、目の前を轟音とともに電車が通り過ぎたときには生きた心地はしなかった。そして今度は脅迫状が届いたのだ。劇画雑誌から切り抜いた文字で「さんどめのしょうじきをかくごしろ」と記されていた。ここに至ってしのぶは警察に相談に行った。
しのぶは状況と動機からいって最も怪しいのは義雄であり、義雄が叔母殺しを計画していると見ていた。しのぶからの相談を受けた真名部警部は探偵社を紹介し、義雄の住むマンションを24時間体制で監視させ、さらにしのぶにも生活上の注意を与えた。だが、それにもかかわらずしのぶは何とも不可解な状況の中で殺されてしまった。

江川蘭子
幼児のころ、両親を目の前で殺された江川蘭子は、その後両親が入居していたアパートの管理人夫妻の手で育てられた。江川というのも、この管理人の姓である。
蘭子の両親は、どこかの組織に属する人間だったらしく、そのトラブルで殺されたらしいが、犯人はわからずじまい。そんな両親に育てられたからかどうかはともかく、蘭子は幼いころから異常な性質を持っていた。
愛撫より打擲を喜び、子守唄より大きな騒音を好んだ。さらに高いところから転がり落ちた時など泣くどころか嬉しそうに笑うのだった。長じていくに従って蘭子の美貌はますます魅力を増し、成績も優等であった。そしてなによりも器械体操やダイヴィングなどをやらせると、見るものすべてがその姿にうっとりと見とれてしまうのだ。一方で蘭子の中には何ともいえぬ悪魔的な、残忍さを帯びた心地が芽生えて、日に日に成長を始めていた。
小学校を卒業した蘭子は、私立学校に進ませようとする両親に反発して家出し、曲馬団に入った。曲馬団の団長は一目蘭子を見るなり、過去を問わずに採用を決めた。団長にすれば軽業などどうでもよかったのだが、蘭子は空中ブランコをやりたがった。
試しにやらせてみると、たちまち難易度の高い技をマスターし、その美貌と相俟って一躍曲馬団のスターになった。やがて関西での興行の際に、蘭子にパトロンがついた。
戸山定助という豚のように太った脂ぎった老人で、大阪で大規模に薬業を営んで財をなし、いまでは息子に跡を譲り、阪神間の芦屋村に邸を構えて隠居していた。蘭子は定助の隠居所で暮らすようになったが…


今号の巻頭特集は連作江川蘭子。昭和5年9月から翌6年2月まで「新青年」に6回にわたり連載された、江戸川、横溝、甲賀、大下、夢野、森下と当時の超豪華メンバーによる連作小説。さらに探偵作家風土記は休載して連作・合作探偵小説史の解説付き。
第1回幻影城新人賞の小説部門の応募作の中から、幻影城推薦新人として最終選考に残った2作のうち筑波孔一郎の作品「密室のレクイエム」(もう1作の宮田亜佐の作品は前号に掲載)を今号では掲載。そのほか幻の探偵作家を求めては六郷一で、掲載作品は「白鳥の歌」

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