1976年3月号
目次
巻頭特集 第一回幻影城新人賞・小説部門発表
乾谷 村岡圭三
DL2号機事件 泡坂妻夫
さすらい 滝原満
選評
新人賞応募作品を読んで 二上洋一
未知数の魅力 権田萬治
技術が遅れている 都筑道夫
妖花一輪 中井英夫
五彩競合 中島河太郎
久しぶりに読む短篇小説 横溝正史

連載小説
朱の絶筆 鮎川哲也
遠きに目ありて・第三話 出口のない街 天藤真
蜻斎志異・第三話 怪談ホストピアズア 朝山蜻一

名作再録
 楠田匡介
人と作品=脱獄トリックの名手・楠田匡介 山村正夫

素晴らしき臍の話
 岡戸武平 幻の作家を求めて=「蠢く触手」の影武者 岡戸武平 鮎川哲也

幻影城推薦新人
お精霊舟 宮田亜佐

探偵作家風土記・東北・関東篇 玉井一二三
新刊紹介=ミステリ館への誘い 千葉健児

巻末書下し中篇
虎よ、虎よ、爛爛と―101番目の密室 狩久

全日本大学ミステリ連合通信
「怪の会」通信
第2回<幻影城>新人賞募集
幻影城サロン
 
乾谷(ワディ)
村岡圭三
古くから街道の宿場町として栄えたM市は、首都圏のベッドタウンとして発展して人口が急激に増えた。そのM市の区画整理事業地の一角で、女の死体が立て続けに見つかった。2人の身元はたやすく割れた。
ひとりは関川きく、パートで英語教材の外交をやっているM市在住の36歳の主婦、もうひとりは地元の農業信用金庫に勤める20歳の宮入雅代といった。
区画整理現場に埋められた2人の顔はよく似ていた。そして顔を西に向け、右腕を胸の前で曲げるという妙な格好をしていた。警察は目撃情報などから特定の車種が事件に関係しているとみて捜査を始めたが…

DL2号機事件
泡坂妻夫
一年前に震度7の大地震にみまわれた宮前市にあるプロペラ機専用のローカル宮前空港は、目立たないようにではあるが警察や消防の厳戒下にあった。まもなく羽田から飛んでくる定期便DL2号機の爆破予告電話があったからである。
予告電話は機の飛び立つ前にあり、羽田では徹底的な検査が行われたが異常はなく、予定通り飛行は行われた。予告電話では機が離陸後30分ほどで爆破されるはずだったが、実際は何事も起こらず宮前に向けて飛びつづけていたのだ。
そのDL2号機は緊張するパイロットのために変な着陸をし、機からは続々と乗客が降りてきた。二番目に降りた柴という男が空港ロビーで警戒中の刑事に食って掛かった。柴は爆破予告のことを知っていて、警戒態勢が甘いと文句をつけたのだ。
刑事がなぜ爆破予告のことを知っているのかと尋ねると、爆破予告をした男は柴の命を狙っていて、柴にも同じ電話をしてきたのだといった。そして自分は命を狙われ、殺されると騒いで自宅に戻っていった。
この様子をたまたま宮前空港で雲の写真を撮影していた亜が聞き、興味を示す。亜は、柴が一年前地震の直後に宮前市に移って来たことや柴を迎えにきた運転手が飲酒運転で交通事故を起こした人間であることなどを聞き出し、さらに柴が空港を出るときに階段でつまずきそうになったことを思い出してあることを推理した。

さすらい
滝原満
麗子には夢があった。新興住宅地の貸家ではなく、丘の上のメルヘンのような庭つきの家で、夫と息子3人で暮らすことだった。だが現実には小学校4年生の息子の崇を甘やかす隣家の栗原夫人に困っていた。
先週の崇の誕生日には鉛筆入れをくれたし、今日は今日で七宝焼の高価なペンダントをくれたのだ。それとなく崇に意見をすると、崇はふてくされてしまう。母親より栗原夫人を慕っているのだ。
夫に相談しても頼りにならず、むしろありがたいことだと栗原夫人に感謝する始末。翌日、お礼かたがた栗原家を訪ねた麗子は、最後に崇を甘やかさないように釘を刺した。
その日学校から帰って来た崇が栗原夫人のもとへ遊びに行き、その様子に聞き耳を立てていた麗子だったが、2人が別れ際に崇が栗原夫人を母さんと呼んだことにショックを受けた。
そしてその日から崇と栗原夫人の交際を禁じ、麗子も一切の付き合いを絶った。それから暫くして栗原夫人が毎日外出をしだした。
庭の手入れだけが趣味で、ほとんど外出などしない夫人が毎日のようにいそいそと出かけて行くのだ。気になった麗子はある日外出した夫人の跡を追けた…

出口のない街
天藤真
赤沢巡査と平野婦警は歳末特別警戒で多摩川の堤防近くの地区をパトロールしていた。すると赤沢巡査が岩堀を見つけたといい、平野婦警に本署への連絡を命じ、自分はその跡を追け出した。
赤沢はかつて江東地区の暴力団担当の部長刑事だったが、暴力団幹部との癒着を疑われ、降格配転となって、今は新人婦警と組んでのパトロールをしている。
赤沢は癒着を否定したが、決定的な証拠はなく、調査官は降格配転の処分を下したのだが、その癒着相手とされた暴力団幹部が岩堀だったのだ。
岩堀は行方が知れなかったが、その岩堀が見つかり証言が得られれば赤沢との癒着が本当かどうかが判明する。だから赤沢は岩堀の行方を血眼になって捜していた。
その岩堀が見つかったのだ。平野婦警を通じて本署に連絡が取られて緊急配備が引かれ、その結果岩堀は多摩川べりの一地区に封じ込められた。
だが岩堀は包囲されたその地区の中の隠れ家で、死体となっていた。掘りごたつの中で首を絞められて殺されていたのだ。岩堀が生きてこの地区に入っていったのは確実で、その後にこの地区に入っていった人物は1人だけ。常識的にはこの人物が犯人なのだが…
連作遠きに目ありて第三話。


楠田匡介
厳寒の季節の樺太での事件。評判の悪い金貸し早川久三老人がロシア風の丸太小屋を改造して作った書庫兼書斎で、後頭部を強打されて殺された。
現場の丸太小屋は、頑丈な出入口には閂が掛り、窓は二重窓で内側から施錠された密室であり、隙間風を防ぐために和紙で目張りまでしてあった。
当夜は数人の客があったが、いずれも金銭のうえのことで被害者との間にトラブルを抱えており、動機の面ではことかかなかったが、密室の謎を解かないことには犯人追求もできない状況になった。

お精霊舟
宮田亜佐
研修で訪れた湘南の海で朝早く散歩をしていて見つけたのは藁舟。畳一畳半ほどの大きな舟であったが、私はその中から毛髪を見つけた。その毛髪には毛根がついていた。毛根のついた毛髪とは…生きている人間か死体から抜けたのに違いない、と考えた私は、その舟がどこから流れてきたかに興味を抱き…

怪談ホストピアズア
朝山蜻一
新宿の高層ビル中にある縫製メーカーが、若いの男女を中心にヌーディズム実践委員会というのを作った。下着と上着の区別を出来るだけなくすにはどうするか、というような曖昧糢糊とした遊びのような委員会だった。
そこに集う委員のうち地元の人間は3人。酒屋の娘野木華枝、料亭の息子三田正雄、そして下駄屋の娘安倍冬子であった。この3人は根っからの土地っ子で三代前には3人の祖父母たちの間に三角関係を生じ、悲惨な結末を迎えたという。
この土地には「ひとの怨みは三代たたる」という諺があったが、本当は「ひとの怨みは三代目にたたる」というのだそうだ。そして2人の女と正雄の間はまさに事件に発展しそうな関係になりつつあった。

素晴らしき臍の話
岡戸武平
永久運動をする器械の製作にとりつかれた男に、同棲しているホステスのミン子は完成すれば巨額の金が入ると喜んだ。だが、いつまで経ってもでき上がらず、部屋中を部品で狭苦しくする男に腹を立て、帰りは遅くなり休日も男をほっぽってどこかに出かけるようになった。
そんなミン子の様子にも男は構わずに器械の製作を続けたが、ある日のこと朝早くから化粧をして友人と買物に行くというミン子をいぶかった。ミン子が出かけた後で残っていた鞄を開けると手紙が出てきた。
佐々木という人物からで東京駅で待ち合わせる手紙だった。男はあわてて東京駅に向かうと、ちょうどミン子が男とともに列車に乗り込むところだった。
その夜ミン子は12時頃に戻り、嬉しそうに蓄音機とレコードを買って来たと男に告げた。レコードの中の一枚は、佐々木緑光という男が唄う「恋はせつない」という流行歌。これがミン子の浮気相手に違いないと直感した男は…

虎よ、虎よ、爛爛と―101番目の密室
狩久
密室専門の探偵小説作家江川蘭子の家は、戦時中の軍の地下貯蔵庫を利用したもので、地上にあるのは玄関にあたるドアがひとつだけ。その後には築山のようになっていて、主要部分は地下にあった。
蘭子の住居を作った大工の棟梁辰五郎はひとつの癖を持っており、自分の作った家には自分にしかわからない抜け穴を作っていた。それも鍵がかかって初めて機能する抜け穴であった。
江川蘭子の家のドアにもそれは作られていたが、辰五郎にとって誤算であったのはドアの表と裏を勘違いしていたことだった。辰五郎同様に蘭子の方も相当に代わりもので、ドアのカギは外にだけあればいいと考えていた。
つまり鍵というのは家が留守の時に勝手に侵入されないように必要なものだから、家に人がいるときにはなくても良いというのだ。だから蘭子の家のドアは外側だけに鍵穴があり、家の中からの施錠はできなかった。
ところが辰五郎は中からだけ施錠できるドアを作ってしまったのだ。そのためにドアは裏表を逆にして付けられた。だから辰五郎苦心の抜け穴もまったく役に立たないものと化したのだ。
さて、事件は深夜に起きた。江川蘭子の新刊用のヌード写真の撮影(蘭子は新刊を自分のヌード写真で装丁するのを常としていた)しにきた写真家の砂村喬が、蘭子の家から数分の場所で毒矢で殺されたのだ。
しかも指で土の上に「らんこにやら」とダイイングメッセージを残していた。常識的には江川蘭子に殺られたと言いたかったのだろう。
毒矢は蘭子の家にあったもので、マレー半島を旅行した時に土産として持って来たものだった。ところがその事件、蘭子の家のドアは外側から施錠されて蘭子が家の中に閉じ込められていることが判明した。
ひつしかないドアの鍵も外側の鍵穴に刺さっていて、その状態は蘭子を慕うサーカスの猛獣使いアルフォンゾ橘とパトロール中に船山巡査に確認されている。
しかも蘭子は家の中でアルフォンゾ橘が放った虎と素っ裸で戦っていた。蘭子に邪険にされたアルフォンゾ橘が虎をけしかけて、さらに外から鍵を掛け、蘭子と虎を閉じ込めたのだ。
砂村が殺された時間、蘭子の家は世にも稀なる犯人を閉じ込めた密室になっていたのだ。蘭子は密室を破って犯行に及べたのだろうか…


今号では第1回幻影城新人賞の小説部門が発表された。入選作は村岡圭三「乾谷(ワディ)」、佳作に選ばれたは泡坂妻夫「DL2号機事件」と滝原満「さすらい」の2篇。滝原満はその後田中芳樹と改名し、活躍は周知の通り。
ほかに幻影城推薦新人として最終選考に残った宮田亜佐と筑波孔一郎両氏の作品も掲載されることになり、今号では宮田氏の「お精霊舟」が収録された。
そのほか名作再録として楠田匡介の名篇「雪」、巻末読切中篇は狩久の書下ろし「虎よ、虎よ、爛爛と―101番目の密室」で読み切り140枚。

幻影城の世界のメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -