1976年2月号
目次
巻頭特集 第1回幻影城新人賞・評論部門発表
探偵小説と笑い 津井手郁輝
ゲームの規則 寺田裕
選評
予選を兼ねての感想 大内茂男
自由な発想や形式の開拓を 尾崎秀樹
創造的な視点を 紀田順一郎

探偵作家再評価=大阪圭吉
デパートの絞刑吏
白妖
大阪圭吉論=本格派の鬼 権田萬治

名探偵登場
怪奇を抱く壁 角田喜久雄
ヘビー・スモーカーの大男・加賀美捜査一課帳 二上洋一
探偵文壇側面史・靴の裏―若き日の交友懺悔 光石介太郎

連載小説
遠きに目ありて・第二話 宙を飛ぶ死 天藤真
蜻斎志異・第二話 ある時計の進み方 朝山蜻一
朱の絶筆 鮎川哲也
人と作品=推理文壇きってのトリックメーカー・鮎川哲也 山村正夫

「宝石」作家書下し競作
暗い墓場 香住春吾
寝台特急「月光」 天城一

探偵作家風土記・東北篇 玉井一二三
日本探偵小説史ノート・大下宇陀児登場 中島河太郎
フランス探偵小説史・ファントマの周辺 松村喜雄

巻末書下し中篇
あわしま―又は夢の播種 日影丈吉

新刊紹介=ミステリ館への誘い 千葉健児
全日本大学ミステリ連合通信
「怪の会」通信
第1回<幻影城>新人賞・小説部門第二次通過作品発表
幻影城サロン
 
デパートの絞刑吏
大阪圭吉
ある朝のこと、都心のデパートの東北の露地に死体が転がっていた。その死体は前夜に宿直をしたデパートの貴金属売場の男性店員で、路上には血が流れ、近くには真珠の首飾りが落ちていた。
被害者の死亡推定時刻は前夜の10時〜11時の間で、その後屋上から露地に向かって投げ落とされたらしい。地上に投げ落とされたのは、状況から深夜12時くらいと推定された。
昨夜は被害者を含めて10人が宿直をしていたが、一緒に寝ていた店員は被害者がいなくなったのにほとんどの者が気づかなかった。
そして被害者のそばにあった首飾りは、前日の営業時間に貴金属売場から盗まれたものだった。探偵青山喬介は、犯行現場と思われるデパートの屋上に上がり、あるものに注目した。

白妖
大阪圭吉
箱根の十国峠と箱根峠を結ぶ自動車専用有料道路。この道路は両端に料金所のゲートがあり、ゲート間は一本道でわき道は一切ない作りだった。
大月弁護士の乗った一台の車が夜中、この有料道路に向かっていたが、その直前に走っていた車がゲートの手前で轢き逃げ事故を起こした。
被害者を車に乗せた弁護士はゲートに着くと、事故の該当車は少し前に有料道路に入ったという。大月は事情を説明し反対側のゲートで車を停めるように電話で依頼させ、自分は有料道路に入り該当車を追った。
ところが、この車は途中で消えてしまっていた。反対側のゲートまで一台の車にも行き会わなかったのに、反対側のゲートでは該当車はきていないと言い張った。いったい車はどこに消えたのだろうか?
さらに車の持ち主のところに電話をして調べてもらうと、確かに車はなくなっていたが変わりに客が死体となっているというのだ。この死体と車の消失の関係は?

怪奇を抱く壁
角田喜久雄
上野駅地階のC食堂で、加賀美捜査一課長の席に近い片隅のテーブルに相前後して腰かけた2人の男。2人とも極めてよく似た古ぼけたトランクを持っていた。
先に入った男は日に焼けた肉の厚い顔に小さな眼、茶色の外套に同色のベロア帽、後から入った男は乙号国民服に同色の外套を着て眼鏡を掛けている。
5分ほどしてベロア帽の男が注文したレモンスカッシュを飲み終えて勘定をしているときに、眼鏡の男がすばやくトランクをすり替えた。それを目撃した加賀美は、眼鏡の男の跡を追けた。
男は駅前広場を渡ると郵便局に入り、トランクの中から新聞紙包を取り出すと小包を作って窓口に行った。さりげなく加賀美が近づいてみると、その小包のあて名は警視庁捜査一課長、加賀美敬介殿。
なんと男は加賀美に宛ててトランクの中身を送ったのだ。その後、男は空のトランクを提げたまま喫茶店に入り裏口から消えてしまった。
翌日になって加賀美宛に昨日眼鏡の男が送った小包が届いた。中から出てきたのは現金60万円。そして小包の差出人の名は井手隆一郎とあった。
井手隆一郎とは最近新聞に頻繁に訪ね人の広告を出している人物だった。訪ね人の名は井手洋子。洋子の居所かハンドバックの所在を知らせてくれれば3万円の謝礼をするというのが新聞広告の内容だった。

宙を飛ぶ死
天藤真
多摩川べりに建つ5階建てのときわホテルから一人の男が消えた。その男の名は井沢武夫、三光銀行頭取のひとり息子で、本人も同じ銀行の秋葉原支店で勤務していた。
その日の午後4時から、平日にも関わらずホテルの宴会場で武夫の出身小学校の同窓会が行われていた。平日の夕方に行われたのは恩師の都合で、同窓会の出席者は21名。
武夫は30分ほど遅れてきて席に着き、前菜を少しつまんだだけで、後は飲みかつ談笑していた。途中でトイレに行ったまではわかっているが、その後忽然と消えてしまったのだ。
6時過ぎに会が終わってから、武夫の上着や鞄がそのままで、靴も玄関に残ったままであった。しかし武夫の婚約者弓川とき子によれば、武夫はこの日は同窓会などに出席する予定はなく、愛車を駆って諏訪湖畔まで石山須美子という女に会いに出かけていたという。
石山須美子は、とき子の前に武夫が付き合っていた女で、武夫がとき子と婚約すると武夫を罵り脅してきた。やっと慰謝料500万で別れることを納得したので、武夫はこの日休暇をとって諏訪湖畔で待つ須美子のもとに愛車で向ったというのだ。確かに石山須美子は諏訪湖畔の別荘にいた。
だがいくら待っても武夫は来なかったというのだ。この不可解な状況のなか、諏訪湖の湖心近くに武夫の絞殺死体が浮いているのが見つかった。
解剖の結果、ホテルの同窓会の前妻がほとんど未消化で残っているのが見つかり、同窓会出席直後に殺されたことが判明した。東京で殺された死体は諏訪湖まで宙を飛んだのだった。
連作遠きに目ありて第二話。

ある時計の進み方
朝山蜻一
自称風俗研究家の久和木賢三と刑事近藤速夫の2人は、表参道のイタリアンカフェのガラス越に、10mほど先の歩道でイヤリングやアクセサリを売る本場陽道という男を見ていた。
近藤刑事の言うところでは、陽道は間違いなく殺人者、それも複数の人間を殺した男だという。だが、殺人が実行されたとき陽道には必ずアリバイ、それも強固なものがあって逮捕できないのだという。
陽道が並べている品物の中央にある大きな懐中時計、それが事件を解く鍵だと近藤刑事は睨んでいた。だが、その時計が殺人の時にどういう働きをするのかは、さっぱりわからなかった。
連作蜻斎志異の第二話。

暗い墓場
香住春吾
紅葉谷公園で警邏中の巡査が中年女の死体を見つけた。その死体は日本手ぬぐいで両足首と手首を縛られて身動きを封じられ、さらに口と鼻には肩凝り用の大きな絆創膏がペタリと張りつけてあった。死因は窒息死。
絆創膏にはほんのわずかだが通気性があるので、窒息するまでにはかなり時間がかかったものと思われた。自由を奪った上で時間をかけて窒息させるという、非常に残酷な方法で殺されたのだ。
この奇妙な死体が発見されて現場検証が終わった直後、今度は浮浪者が歩道橋の階段から落ちて死んだ。通称フラ天という、アル中で知能が少し弱い男だった。
事故か他殺かはわからなかったが、フラ天は女持ちの財布と肩凝り用の大きな絆創膏を持っていた。後でわかったことだが、財布は紅葉谷公園で死んだ女のものであり絆創膏からはフラ天と女の指紋が検出された。紅葉谷公園で中年女を殺したのはフラ天と思われたが…

寝台特急「月光」
天城一
寝台列車の乗客を狙うすりのダンロクが、熱海で乗り込んだ東京行きの寝台特急月光。その個室にもぐりこんだダンロクは、そこで男の死体を発見する。男は熱海以西で殺されたのは明らかだった。
やがて犯人に浮上した男は、関西在住、しかも前夜月光に被害者と乗っていたことを認めた。すわ犯人と捜査本部は色めきたったが、その男は京都で降りたといい、その後アリバイも成立。
次に浮上した別の男。しかしその男もアリバイを主張。東京の高円寺に死体の発見された朝9時23分にいたことが証明された。月光の東京着は9時9分。品川着は8時58分。どちらにしても高円寺に9時23分には姿を現せないことがわかった。

あわしま―又は夢の播種
日影丈吉
与党総裁で時の首相の秘書成瀬と、野党党首の秘書亘理は高校時代から親友だった。社会に出てお互いの政治的な立場の違いから一時疎遠になったが、成瀬の父親の死に際して亘理が弔問したことから旧交が復活した。
前にも増して語り合うようになった2人は、与野党の党首が話をしてこれまでの日本の政治になかったムードを醸し出そうと画策する。そしてその方法として、各々の党首に相手の党首の夢を見させ、それをきっかけに会談を実現しようと目論んだ。


今号では第1回幻影城新人賞の評論部門が発表された。入選作はなく佳作に選ばれた津井手郁輝、寺田裕両氏の評論が掲載された。
幻影城サロンと題された読者からの意見や反響の紹介ページでは、先月号から連載開始された鮎川哲也の朱の絶筆に対する反響が多数紹介されている。実は鮎川は本来は「蝋の鶯」と題する鬼貫警部ものを連載する予定であったが、週刊読売の読者アンケートで自信を失い、急遽星影ものの「朱の絶筆」に掲載作品を差し替えた。読者の反響の大半は掲載差し替えを残念なこととするものだった。
そのほか巻末読切中篇はいぶし銀の作家日影丈吉の書下ろし「あわしま―又は夢の播種」で読み切り100枚。

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