1976年1月号
目次
巻頭特集 横溝正史単行本未収録作品
恐怖の映画 横溝正史
死の部屋 横溝正史
誘蛾灯 横溝正史
湖畔 横溝正史

新連載小説
朱の絶筆 鮎川哲也
遠きに目ありて・第一話 多すぎる証人 天藤真
蜻斎志異・第一話 凍てつく夜の惨劇 朝山蜻一

「宝石」作家書下し競作
路地の奥 氷川瓏
死者は犯す 千代有三
人と作品=英文学者の異色本格派・千代有三 山村正夫

「新青年」作家書下し競作
やさしい風 瀬下耽
謎の殺人 本田緒生
人攫い 地味井平造
石は語らず 水上呂理
思い出すままに 鮎川哲也

探偵作家風土記・北海道篇 玉井一二三
名探偵登場。小道具派の素人探偵・星影龍三 二上洋一
探偵文壇側面史。関西探偵作家クラブのころ 香住春吾
日本探偵小説史ノート・甲賀三郎の登場 中島河太郎
「ゼロの焦点」鑑賞 金田一郎
フランス探偵小説・ファントマ覚書 松村喜雄
対談・新探偵小説の開幕 紀田順一郎・権田萬治

巻末書下し中篇
「悪魔の手毬唄殺人事件」 小林久三

新刊紹介=ミステリ館への誘い 二上洋一
全日本大学ミステリ連合通信
幻影城ファン・クラブ通信
第1回<幻影城新人賞>中間発表
幻影城サロン
 
恐怖の映画
横溝正史
映画撮影所にある中世西洋の処刑の道具鉄の処女のレプリカ。鉄の処女は裏側に針のついた鋼鉄製の鎧のような道具で、扉を開き死刑囚を入れ、扉を閉めると針が死刑囚を突き刺して殺すという陰惨なものだった。
撮影所にあるものはもちろんレプリカで、中に針などついていなかった。撮影所の俳優菅井良一は大道具置き場で所長の妻と逢引をしていたが、所長の声に妻を近くにあった鉄の処女に隠した。
その後何食わぬ顔で撮影現場に行ったが、鉄の処女に隠したはずの所長の妻は、目をえぐられて絞殺された無残な姿で大道具置き場に転がされていた…

死の部屋
横溝正史
アメリカ帰りの木藤仙吉は、東京の山手に和洋折衷の奇妙な屋敷を買い取り住むことにした。その屋敷の前の持ち主は物理学者の畔柳信三郎といった。
畔柳博士はダンスホールに勤めていた繁代という女性と結婚したが、繁代に対しては大変に甘く、その言うところは何でも聞き入れた。
ところが繁代にはダンスホール時代に言い寄ってきた沢田譲二という男がいた。ダンスホール時代は譲二を鼻にもかけなかった繁代だったが、畔柳博士と結婚してからは繁代は譲二と関係を持ち始めた。
そしてある日繁代と譲二は手に手を取って駆け落ちしてしまった。それを知った畔柳博士は怒るかと思いきや、笑って二人を許したらしい。だが、家だけは手放し、それを今回木藤仙吉が購入したのだった。

誘蛾灯
横溝正史
酒場でガラス越しにバンガローを見ながら酒を飲む二人の男。一人は青年、もう一人は船員風。船員風がバンガローに薔薇色の灯がついているのを見て、誘蛾灯だと呟いた。
その訳を聞く青年。船員風はバンガローに住む女は亭主がいた頃、亭主の留守には薔薇色の灯をつけて男を誘い入れていたという。
ある日帰ってこないはずの亭主が帰ってきて現場を抑えられたが、その女は亭主を刺し殺し、くわえ込んでいた男をピストルで撃ち強盗殺人犯に仕立て上げてしまったという。
遺産を相続した上、貞女の鏡と世間に言われ、女はますます美しさが増し、それ以来毎夜のように薔薇色の灯をつけているという。だが、その灯に誘われていった男は翔まで全て焼かれる蛾になってしまうと…
それが船員風が言う誘蛾灯の意味だった。その話を聞いた青年は…

湖畔
横溝正史
健康を害してS湖畔で療養生活を送る私。毎朝の日課となったS湖畔の公園の散歩中に、温和で愛想のいい中年紳士に出会い知り合いになる。
その後も何度かその紳士に行き会うが、愛想のいい時とむすっとした時があり、私は戸惑うばかり。そんなある日、公園のベンチでどてら姿で死んでいるその紳士を見つけた。
そして、なお驚くことに、その中年紳士は昨夜町一番の商家に強盗に入ったというのだった…

路地の奥
氷川瓏
東京の下町に住む伸一少年が、冒険小説に触発されて、家の裏手を流れる細い川を遡りその源流を探り当てようと探検を開始。しかしその細流は大きな料亭の庭の池に行き当たり終わってしまった。だが少年がその料亭で見たものは…

死者は犯す
千代有三
原宿のマンション5階のフラットは芸能コンサルタントを務める真木夫妻の事務所兼住居であった。その事務所設立3周年のパーティーの席上、着替えるために住居に戻った真木夫人は何者かに襲われた。その悲鳴に人々が駆けつけると、ナイフを持って血まみれになって気絶した夫人、そしてその傍らにはナイフで刺し殺された夫の真木氏の死体が…

多すぎる証人
天藤真
団地の4階の部屋で日曜日の夕方に起きた殺人事件。被害者はベランダに出て叫び声をあげ、そのままこと切れてしまった。当時中庭ではママさんバレーの練習が行われていて、その場面はバレーの連中やそれを見ていた大勢の人間に目撃された。
事件の起きた団地には東西2つの出入口があったが、西出入口には3人の主婦が立ち話をしており、東出入口にはバレーの連中が大挙して押し寄せた。
東出入口からは事件後誰も出入りしておらず、西出入口からはバレーの連中が押し寄せる前に一人の女が出て行ったという。この女が犯人かも、とうことになったが、女の特徴の証言はバラバラで…
連作遠きに目ありて第一話。

やさしい風
瀬下耽
赤ん坊を置いて蒸発した妻。残された赤ん坊を段々もてあますようになった私。私はある日、赤ん坊が窓から落ちそうになるのを危うく助け、それをヒントに赤ん坊を事故に見せかけて殺そうと計画する…

謎の殺人
本田緒生
最初の殺人は元ボクサーであった。時間は夜中の2時ごろ。場所は市内の繁華街だが、地方都市の夜中のこととて人通りはない。死因は窒息死。だが誰がどうやってそのボクサーを殺したのか、皆目見当はつかなかった。
次の殺人は柔道部のキャプテンを務める高校生。時間は夜中の2時ごろ。場所は最初の事件と同じ。死因は窒息死。この殺人も最初の殺人と同じく誰がどうやって殺したのか、皆目見当はつかなかった。
若い新聞記者は殺人犯の正体を突き止めるべく、同じ時間に市内の繁華街に行ってみたが…

人攫い
地味井平造
人さらいのことが学校でも家庭でも流行のように語られ、小学2年の陽子人さらいのことをオゾとあだ名した。ある日のこと、陽子は背が高く黒いソフト帽をかぶり、白いマスクをかけた男を見かけ、オゾだと思い急ぎ足で帰宅する。その夜陽子は夢を見た…

石は語らず
水上呂理
イタリアからのポリプロピレンの技術導入契約を巡って争う日興化学と東洋化成。日興化学の杉森研究部長と東洋化成の荒谷開発部長は、もともとK銀行に同期入行した仲で、ともにK銀行時代進藤英介の部下であった。
銀行を退職し貿易商を営む進藤は、ポリプロピレン導入を巡る争いを見かねて、杉森と荒谷に囲碁で契約権を賭けた勝負をするよう提案したが…

凍てつく夜の惨劇
朝山蜻一
倉庫番の梶木伸三は最近になって「わしはただの倉庫番ではない。いまは立派な実業家だ」と家で酒に酔ってはつぶやき、そのまま寝てしまうようになった。
そんなある夜、伸三の妻砂江は六本木のクラブの名と電話番号が書かれたメモを伸三の服から見つける。まさか酔っ払った伸三の言うことが…と思ったが、砂江はその店に出かけてみた。すると店の経営者は梶木伸三であるとマネージャーが言う。砂江は放心状態で店を出て…
連作蜻斎志異の第一話。

「悪魔の手毬唄」殺人事件
小林久三
横溝正史の名作「悪魔の手毬唄」を映画化を正式に決定し、ロケ地を選定することになった。今治近郊、長岡近郊、岩手の蛇果村の三ヶ所が候補になった。それぞれ監督やスタッフが手分けをして下見に向った。岩手の蛇果村にはプロデューサーの高島が向った。
蛇果村が候補地になったのは、過疎の村に住む土光冬子という女性が、候補地選定に苦労している話を週刊誌で読んで、村おこしに一環として役に立てばと手紙をくれたからだった。
土光家は村の旧家であったが、今は見る影もなく、冬子と母親の玉江が二人だけで住み、家の修理もママならずにいるという。かえってそれが映画にはいい雰囲気かもしれない、と高島は思っていた。
三陸海岸を走るローカル列車が蛇果村の最寄り駅に近づくと、同じく蛇果に行くという高島の旧友村上と偶然出会った。村上は叔父夫婦が蛇果に住んでいて、村から委託されて蛇果の村史を書いているといった。
さて、蛇果に着いた高島は土光家に泊まり、翌日の夜、土光家の冬子、玉江と村長、川島医師、それに村上の6人で夕食をともにする。その席で突然停電があり、停電が復旧する寸前に村上が苦しみだし、そのまま死んでしまった。
川島医師によれば毒殺されたらしい。毒は停電になる前に飲んでいた潮汁に入っていたらしいが…


この号から増ページされ、表紙のデザインも一新された。巻頭特集として横溝正史単行本未収録作品として、戦前の療養時代に発表し埋もれているロマン的な短篇のなか、「恐怖の映画」「死の部屋」「誘蛾灯」「湖畔」の傑作4作品を発掘して収録。
短期連載として鮎川哲也が「朱の絶筆」の連載を開始。さらに身障者の子供を探偵役に据えた天藤真の連作「遠きに目ありて」と奇談風の朝山蜻一の連作「蜻斎志異」もこの号から始まった。
そのほか巻末読切中篇は巻頭特集に相応しく、小林久三の書下ろし「悪魔の手毬唄殺人事件」。

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