1975年6月号
目次
大特集:「ぷろふいる」傑作選
探偵雑誌「ぷろふいる」全冊表紙誌上展
空間心中の顛末 光石介太郎
探偵小説家の殺人 金来成
解説=「ぷろふいる」五年史 中島河太郎

就眠儀式 木々高太郎
人と作品=芭蕉に挑んだ文学派の長老・木々高太郎 山村正夫

闖入者 大阪圭吉
ルソン島に散った本格派・大阪圭吉 鮎川哲也

狂燥曲殺人事件 蒼井雄
蒼井雄論=死霊の群れを呼ぶ風景 権田萬治

探偵小説の新しき出発 中島親
「ぷろふいる」編集長時代 九鬼紫郎

巻末書下し中篇読切
死神はコーナーに待つ 天藤真

第1回幻影城新人賞
第1回幻影城新人賞選者のことば

新刊紹介=ミステリ館への誘い 二上洋一
幻影城サロン
 
空間心中の顛末
光石介太郎
久しぶりに久地生馬に会った筆者は、生馬の妻嬰子がどこかに行ってしまったと打ち明けられた。なおも事情を聞くと、生馬は死んでしまったも同然だと言い捨てて去って行った。
そんなこと聞いては放っておけないから、生馬の家のそばをウロウロして様子を探ろうとすると、同じように生馬の家の様子を探る男がいるのに気がついた。
その男は末十一郎といい、1年ほど前に著名な評論雑誌の懸賞小説に一位入選した、若年ながら将来を嘱望された男であった。その十一郎がなぜ生馬の家の周囲をうろついているのだろうか…

ぷろふいる創刊二周年記念特別懸賞募集入選作品。

探偵小説家の殺人
金来成
海王座の探偵劇「二発の銃声」は、先般世間を騒がした海王座座長朴永敏殺害事件に取材したもので、座長の友人であり探偵小説界の惑星である劉不乱氏の原作であった。
すでに死んでしまった朴永敏のは劇団員洪が扮し、また犯人として拘束されている朴永敏氏の夫人李夢蘭には同じく劇団員楊が扮して、「第二の銃声」の幕が開いた。
舞台も筋の運びも朴永敏殺害事件とまったく同じであったが、朴永敏が実際に射殺され場面になると劇団員の羅雲鬼が銃を構え、弾を発射した。
実際に朴永敏殺害犯として逮捕拘留されているのは李夢蘭であるのに、これはどうしたことだろうか。本当は羅雲鬼が犯人なのだろうか。
劇場内に席を得ていた刑事と検事は飛び上がったが、証拠があるわけでもないので劇を続けさせることにした。翌日も翌々日も劇は続けられたが、つに耐えきれなくなったのか、羅雲鬼が朴永敏を殺したのは自分であり、李夢蘭は冤罪だと自白したのだった。

ぷろふいる創刊二周年記念特別懸賞募集入選作品。

就眠儀式
木々高太郎
鎌倉に住む工学士の松代という人の娘水尾子が、このところ不眠症で悩んでいるという。最初は自分の部屋を整理しないと眠れないと言い出し、次には時計を止めるか腕時計などは新聞紙に厳重に来るんで机の引き出しにしまわないと眠れなくなり、さらに応接間のドアは半開きにしなければダメになり、ナイフなどの刃物類をすっかりしまわなければ床にもつけぬようになった。
精神医学的には就眠儀式と呼ばれる症状であった。それが月に一回だけは緩和され、儀式をしなくても眠れるというのだ。
一方、水尾子の家には月に一回、高輪という男が訪ねて来た。その高輪がある夜、松代家を訪ねた帰りに川に転落して死亡するという事故が起きた。その事故以来、水尾子の病気はすっかりよくなり、就眠儀式を何一つしなくても安眠できるようになったというのだ。

闖入者
大阪圭吉
富士山の北麓に建つ山荘岳陰荘にやってきた洋画家の川口亜太郎と妻不二、亜太郎の友人金剛蜻治の3人。山荘に着くと亜太郎は2階の部屋に閉じこもったが、やがて死体となって発見された。
亜太郎は旅装も解かずに絵を描き始めたようで、死体は絵筆を握りパレットは放り出され、イーゼルには仕上がりかけた絵があった。
絵には大きく薄紫の富士山が夕景を背景にして描かれていたが、検死をした医者が部屋が東向きであることに気がついた。つまり部屋の窓からは富士山が見えないのだ。
この事実に、俄然捜査陣は色めきたった。亜太郎は南向きの部屋で絵を描いているときに殺されて、何らかの理由で東向きの部屋に移されたに違いないというのだが…

狂燥曲殺人事件
蒼井雄
複雑な家族関係をもつ喜多野家の当主鉱造氏が、喉を短刀で刺されて殺された。家には本妻のみよのほかに息子と娘の家族3人のほかに、妾の植原篠、女中2人の7人が住んでいた。
本妻のみよは後妻であり、息子の駿は鉱造の先妻の連れ子で、鉱造ともみよとも血はつながっていなかった。娘の淳子はみよの義理の姉の子供を養女にしたもので、これも鉱造夫妻とは血のつながりはなかった。
鉱造が殺された時に叫び声がし、その声を聞きつけて息子の駿がたまたま来ていた友人の弘世とともに部屋に駆け付けて死体を発見したのだ。
検死が行われたが、鉱造は喉を深々と短刀で刺されているにもかかわらず、出血量は驚くほどわずかで、これが疑問として後々までも残った。
鉱造は吝嗇でワンマンではあったが、財産は相当なもので、動機の第一には遺産が考えられた。しかもつい先頃鉱造は遺言書を書き換えたという。
書き換え前は鉱造の財産はすべて他人名義になっており、本人の遺産としては微々たるものだった。ところが妾の篠が鉱造の子供を身ごもっていることがわかり、それを知った鉱造は財産の名義を自分に変えて、さらに遺言書も書き換えて、まだ生まれもしない篠の子に遺産のほとんどを譲ることにしたのだった。
だが篠にはアリバイがあった。叫び声がした時間には茶の間でラジオを聞いていたのである。直接見た者はいないが、ラジオ番組の内容や茶の間から駆け付けた様子などから犯人とは思えなかった。では犯人は篠以外のもので、動機も遺産とは無関係なのだろうか…

死神はコーナーに待つ
天藤真
しがない工員の村木王次は、いきつけのスナック「ピコ」で、たまたま入ってきたルミと知り合った。いや、知り合ったというより、店に入ってきたルミを一目見て運命を感じ、それはまたルミの方も同様だった。
その後、数回「ピコ」で合っても2人の仲は進展せず、王次をやきもきさせたが、ルミが大事なものを交換したら夜の公園に行こうと言い出した。
ルミが差し出したのはロケットで、命の次に大事なものだから中は絶対にあけるなと言った。一方、王次の方は何も渡すものがなく、仕方が無いから昨年無理して取った免許証を渡した。
交換が済むと約束だからといって翌日の夜、待ち合わせて公園に行くことになった。待ち合わせ場所に行くと、なんとルミは金のかかった服を着て、新車で来ていた。
2人が着いたのは、恋人同士がカーセックスをすることで有名な公園。だが、ここで悲劇が起きた。ルミは車を降りて公園の中の暗がりに向った。王次も後を追ったが、そこでルミが口汚く王次を罵ったのだ。
思わずカッとした王次はルミの首を手で絞め、気がついたらルミはぐったりとして倒れていた。そこに女の悲鳴。公園の外の道路に一人の女がいて一部始終を見ていたのだ。
焦った王次は、その女を追いかけようとしたが、公園の外と中はフェンスのほかに巾3mほどの川で隔てられており、大きく迂回しなければならなかった。
王次は途中まで走ったものの、とても追いつけないと悟りルミのところに引き返した。ルミは凄まじい形相で死んでいた。王次は現場から逃げたが、目撃者までいる以上、捕まるのは時間の問題だった。
王次も翌日には逮捕されるものと覚悟したが、警察はまったくとんちんかんな捜査をはじめ、王次はまったくの容疑圏外だった。


「ぷろふいる」は昭和8年5月に創刊された探偵小説誌で、昭和12年4月号で廃刊するまで全48冊が刊行された。有名な「新青年」に次いで寿命が長く、また内容は数ある同種の雑誌の中で最も純粋であったといわれる。
本特集号では巻頭に、創刊二周年記念事業の特別懸賞募集入選作5作のうちから、光石介太郎の「空間心中の顛末」と金来成「探偵小説家の殺人」を掲載。
また編集部の推薦で昭和9年9月号に掲載されたのが蒼井雄の「狂燥曲殺人事件」、木々高太郎の「就眠儀式」は大心池博士のシリーズで昭和10年6月号に発表された。大阪圭吉の「闖入者」は昭和11年1月号の掲載で、鮎川哲也の探訪記が付録されている。
巻末読切は新探偵小説第一弾と銘うって、昭和50年代のホープといわれた天藤真の170枚の中篇「死神はコーナーで待つ」

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