1975年4月号
目次
特集:本格探偵小説
巻頭特集:本格探偵小説
蛇と猪 鮎川哲也
青髭の密室 水上幻一郎
三つの樽 宮原龍雄
電気機関車殺人事件 芝山倉平
解説=戦後探偵小説の推移 中島河太郎

探偵作家再評価=大下宇陀児
探偵小説不自然論


大下宇陀児論=残酷な青春の鎮魂曲 権田萬治

作品発掘
廃墟 大河内常平
人と作品=推理文壇の奇人作家・大河内常平 山村正夫

巻末読切中篇特集
冒険ロマン レシデントの時計 山口海旋風
警世SF 原子力未来戦 和地俊一
解説=未来戦争小説の系譜 横田順彌

目で見る探偵小説五十年 島崎博

新刊紹介=ミステリ館への誘い 二上洋一
ミステリクラブ紹介 SRの会 井上恵司
幻影城サロン
 
蛇と猪
鮎川哲也
南国のある県の山間部の村で、夜に納屋で縄を編んでいた農家の主人が殺された。妻、長男、二男、三女と長男の嫁が同居人。
長男は畑の獣よけの石油ランプを灯しに廻っていたといい、二男は駅からやみ商人を連れてくる途中であった。妻と三女、長男の嫁はアリバイがあるようでない。
皆は動機から長男を疑い、田舎の巡査は状況証拠だけで長男を逮捕しようとするが…

昭和23年薔薇小路棘麿名義で雑誌「ロック」の第1回懸賞小説に入選した作品。

青髭の密室
水上幻一郎
産婦人科の病院で子宮外妊娠の為に死亡した女性の、死因特定のための解剖が行なわれた。解剖が終わり院長の赤間博士は手術室から院長室に引き揚げた。手術着姿の院長が院長室に入るのは女性の母親と立会いの男が廊下の長椅子から見ている。
その直後に院長室に入った看護婦は、そこに院長の死体を発見して悲鳴を上げた。死体の側には拳銃が落ちていて、院長はそれで自殺したように見えた。
警察や検視医がやってきた捜査を始めたが、検視医は自殺ではなく殺人だという。しかし、廊下側以外の出入口には内側から鍵がかかり、窓も内側から掛け金が掛けられていた。
廊下側のドアには2人の目撃者がいたから密室殺人ということになってしまうが…

昭和23年雑誌「仮面」6月号に発表された作品。作者の水上幻一郎は数編の本格ものをいくつかの雑誌に発表し、消えていった作家で元新聞記者。

三つの樽
宮原龍雄
追突事故を起こしたオート三輪の荷台から転げ落ちた2つの樽。1つはなんでもない空の樽であったが、もう1つの蓋の外れた樽からは若い女の全裸死体が出て来た。
樽は2つとも須田画伯がアトリエに使っている城南荘というアパートの一室から須田画伯の自宅に宛てて運ばれる途中のもので、オート三輪に乗っていた2人の運送会社社員が十数分前にアトリエから運び出したものだった。
2人の社員の証言では、アトリエには樽が2つあり、1つは空のまま積み込み、もう1つには石膏の裸像を詰めたという。
石膏像を詰めたのは運送会社の社員で、その後事故を起こすまではほとんど樽は人目についていたことがわかった。
ほんのわずか、アトリエで画伯とモデルの2人だけの時があったが、それもほんの2分程度で、その後は運送会社社員がオート三輪に積込み、車がスタートしてからもずっと別のトラックが後ろについていたという。
オート三輪に追突したのいはそのトラックで、トラックの運転手も樽にはまったく異常がなかったと証言。しかも死体の主は須田画伯のところにいたモデルと判明。そのモデルは須田画伯とともに樽の荷造りに立会い、出発を見送っていた。
いつのまにか樽の中の石膏像が、死体に入れ替わってだけでも頭を抱える謎なのに、その死体の主は樽の出発まで生きていたという謎まで加わってしまったのだった。

昭和24年雑誌「宝石」の百万円懸賞短篇三等入選作品。

電気機関車殺人事件
芝山倉平
常信線の長大トンネルである三国トンネルは単線電化で、中央に列車の行き違いができるように三国信号所が設けられていた。電気機関車に引かれた客車列車は、信号所で行き違いの為に停車するはずであったが、信号所が近づいてもスピードを落さず、車掌が非常ブレーキを引いて急停車した。
しかし間に合わず先頭の電気機関車は安全側線に乗り上げて、脱線して停まった。信号所の駅員や車掌、列車に乗っていた鉄道関係者が機関車に駆けつけると、機関車の出入口は全て内側から錠がかかっていた。
だが窓から中を覗いてみると機関手が血にまみれて倒れているのが見えた。ガラスを割って機関車内に入ると機関車は頭を鈍器で殴られて運転室内で死んでおり、機関助手は機関車内の通路で感電死していた。
機関車内は密室状態であり、助手が機関手を殺し自殺したように見えたのだが…

「新青年」昭和21年12月号に新人推薦作品として掲載された。ただし作者の経歴等は一切不明で、作品もこの一篇のみ。


大下宇陀児
文士の沖野鳳亭、細菌学を研究する竹中格之進、住谷良子の3人が主人公。沖野と住谷は将来を約束した仲であったが、そこに竹中が現れ、やがて竹中と住谷が仲睦まじくなる。気の弱い沖野は表面上は普通を装い、竹中や住谷とも以前どおり付き合うが、内心は二人に対する嫉妬が日に日に燃え上がる。
そして竹中を殺す決心をする。竹中が研究で破傷風菌を培養しているのを知り、針金を使って猫の爪に似せた熊手のような凶器を作り、これに破傷風菌をつけて寝ている竹中の手を引っかく。
見た目には猫が破傷風菌の入った容器を倒し、その時に爪に菌がつき、その爪で竹中を引っかいて破傷風菌が移ったという寸法。これが上手くいき竹中は破傷風で死んでしまったが…


大下宇陀児
緒方弥一は厳しい父親と優しい母親に育てられて少年時代を送った。父の弥太郎は暴君で、弥一にもつらくあたり母親にも暴力を振るっていた。
やがて母親に男ができたが、小さい弥一は男のことを母親の知り合いの小父さんと思っている。母親はそのことを弥一に堅く口止めして、幼い弥一はそれを頑なに守る。
ある夜のこと、母親は実家に病気の母(弥一の祖母)の看病に行って、家には弥太郎と弥一の二人だけ。早寝した弥一が呻き声を聞いて目覚め、弥太郎の寝室に行ってみると、そこでは弥太郎が死ぬ寸前だった。
母親の男が殺したのかも知れぬと疑われたが、その男は歌舞伎役者で浅草の小屋の舞台に出ていたというアリバイがあった。

廃墟
大河内常平
風俗小説に近い作品で、裏町の廃墟のような侘しい場所に住まいする夫婦。夫は肺を病み喀血も激しい。妻は生活費を稼ぐために売春に走る。
客を取って住まいに連れ込み、肺を病んでいる夫わざと気づかせて同情を惹いて多くの金を得るという方法であった。最初はいやがっていた夫も、だんだんと妻に協力し、生活をわざと苦しく見せて客の同情を惹こうとしだす。


1975年4月号、通巻3号にして本格探偵小説特集となった。
鮎川哲也、水上幻一郎、 宮原龍雄、芝山倉平の4作品はいずれも幻の作品で、そのうちのいくつかは、その後アンソロジーに収録されたが、現在でも幻の作品であることに変わりはない。
評論は中島河太郎の戦後本格探偵小説の推移。 終戦により抑圧されていた探偵小説文壇が、横溝正史の「本陣殺人事件」「蝶々殺人事件」の同時連載を皮切りに、角田喜久雄、木々高太郎らが本格長篇を目指し、 乱歩も本格待望論を主張。それらにあわせるように島田一男、岡田鯱彦、鮎川哲也、高木彬光、飛鳥高ら若手が主に雑誌の懸賞小説を通じて本格の旗手たらんと続々デビューしていくという推移と論調を展開。
探偵作家再評価は大下宇陀児で、トリックよりも心理重視の作品を発表した作家。そのなかで奇抜な凶器を使った「爪」と母子間の愛憎を子供の目を通して描いた名作「凧」を収録。
名作発掘は中間小説的な作家として終戦直後に活躍した大河内常平の「廃墟」。山村正夫のわが懐旧的作家論は推理文壇の奇人作家と題した大河内常平論。

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