新本陣殺人事件

雑誌「旅行」の専属カメラマン酒匂薫は、恋人でもある全国紙扶桑新聞の遊軍記者甘宮洋幹とともに、東海道由比宿に残る本陣を取材することになった。甘宮は新聞の仕事ではなく、休暇扱いで、外向けには薫の助手という触れ込みだった。
取材当日は前夜からの雪が降り止んで、あたりは銀世界だった。昨夜のうちに薫は本陣の当主神谷孝範に連絡を取り、朝早くに足跡の全くない新雪と本陣という組み合わせで写真を撮りたいと申し入れ、神谷の快諾を得ていた。
薫と甘宮は朝早くに甘宮の車で由比本陣に向った。神谷は文部科学省の事務次官を最後に退官したエリート官僚で、今度行われる県知事選に立候補する予定であった。本陣の取材が季節外れのこの時期になったのも、県知事選の日程とも絡んでいたからだった。
薫たちは本陣に着いたが、肝心の神谷とは連絡が取れなかった。神谷は昨日の夕方から離れにこもっていたのだが、離れにいくら電話をしても通じなかった。離れの周囲いの雪には足跡は全くなく、神谷は離れにいるはずであった。

不審を感じたそこで薫たちは、家人とともに離れに向った。玄関も雨戸も中から締りがしてあった。そこで仕方なく玄関のガラスを叩き割って腕を突っ込んで締りを外して中に入った。そこには神谷の死体が転がっていた。
神谷の死因は毒物、それもスズメバチの毒によるものだった。雪の降るこの季節にスズメバチはいない。もうひとつ離れにあった金庫の扉が開かれていたが、中には何も入っていなかった。家人によると金庫には、選挙資金として債権や現金合わせて30億円ほどが入っていたはずだという。
それが一切見当たらないのだ。では殺人事件かというと、離れの玄関と窓は内側から締りがかけられ、そのうえ離れの周囲の雪には足跡はない。では犯人はどうやって離れから去ったのだろうか。
一方、そのころ東京井の頭公園近くにある聖華女学院の体育館でも、同じような状況で死体が見つかった。体育館の周囲の雪には足跡はなく、体育館の扉も施錠されていた。
死体は学院長の蒲原善吉郎のもので、天井の狭い鋼鉄の通路から荒縄で吊るされていた。死亡推定時刻は深夜2時ごろだったが、この学校は完全なセキュリティシステムの管理下にあった。
のちにセキュリティシステムがチェックされたが、昨夜から今朝まで学校に出入りした人物はいなかった。さらに学院長室の金庫を開いて見ると、そこにあるはずの債券や現金合わせて30億円が消えていた。
この金は蒲原が大学を設立する目的で保管していたものだった。金庫から消えた金、雪密室と蒲原と神谷の死は関連があるとしか思えない。しかも蒲原は由比の隣の宿場蒲原の本陣の当主で、両家は古くから縁戚関係にあったというのだ。
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