フレンチ油田を掘りあてる
French Strikes Oil 1951

踏切で死んだ男はフレンチの出馬により殺人と断定された。

ブリストルの近くの広大な土地に住むサー・リー・ヴェールには、モーリス、ルパート、ロドニーの3人の息子とアンヌという娘がいた。リーの土地はチェドンとよばれる屋敷付き農園で、そのなかのチェドン・ハウスという屋敷にリーは3人の息子と住んでいた。
娘のアンヌは海外で生活しており、その代わり甥のジョージ・セルマーが敷地内にバンガローを持ち、地所の管理をしていた。ジョージにはポーリンという妻がいて、女気のないチェドンではポーリンはアンヌの代わりのような存在であった。
リーの3人の息子のうち次男ルパートと三男ロドニーは元軍人で、ルパートは少佐、ロドニーは准将で退役した。それに対し長男のモーリスは、素人画家だった。さて、ある日のこと散歩していたロドニーは、牧草貯蔵庫として使うために穴を掘っている現場を通りかかる。
その穴を何の気なしに見せてもらったロドニーは、大変なことに気づいた。地層や土の具合から判断して、この付近の地下には莫大な石油の層が眠っているに違いなかった。ロドニーは素知らぬふりで現場を離れると、さっそく家族会議を招集した。

家族会議には家長のリーのほかに3人の息子と、ジョージ夫妻が出席した。その席でロドニーは石油の発見を打ち明け、隠密裏に調査をしたうえで付近の土地をできるだけ買い占めることを提案した。
石油の採掘を自分たちでするにしろ、土地使用料を取って他人にさせるにしろ、少しでも多くの土地があったほうが有利だからであった。家長のリーは年齢的な面や、最近はめっきり健康が衰えてもいることから、決定は3人の息子とアンヌ、それにジョージで行うように述べた。
その結果がどうなろうが自分は従うというのだ。意見が交換され、最終的にジョージとルパード、ロドニーの3人は賛成したが、モーリスは頑として反対の姿勢を貫いた。チェドン・ハウス周辺の素晴らしい自然を自分たちで破壊したくないというのが理由であった。
家屋敷は代々限嗣相続されることになっており、その売買には相続人全員の同意が必要だったから、モーリスの反対は拒否権の発動に等しく、モーリスが賛成しない限り話は進まなくなった。
その日はそれで終わったが、それから暫くして事件が起きた。モーリスが死んだのだ。チェドン・ハウスの近くの踏切で、モーリスの死体が見つかった。早朝4時30分に現場を通過した貨物列車によって轢き殺されており、事故のように見えた。
警察はなぜモーリスが夜の夜中にそんなところにいて事故にあったかを重点的に捜査したが、理由がわからなかった。事故として処理されようとしたが、疑問を捨てきれない警察は、スコットランドヤードに処理を委ね、フレンチ警視が出張することになった。

フレンチは丹念に現場周辺を歩きまわり、やがてモーリスの靴や体についた土が現場付近のものではないことを突き止めた。被害者は別の場所に意識を奪われて横たえられ、貨物列車が現場の踏切に差し掛かる直前に線路に置かれたのだった。
被害者が横たえられていた場所も発見した。事件は事故ではなく、殺人だったのだ。さらに現場から少し離れたベルチャー夫人の住居の周辺で被害者の足跡が見つかり、被害者の服のポケットからベルチャー夫人の手袋の片方が見つかった。
ベルチャー夫人は、被害者モーリス絵のモデルを続けていたが、その夜モーリスが来たことは頑強に否認した。しかしベルチャー夫人の家からは、モーリスの手袋の片方が見つかった。だが、フレンチは経験からベルチャー夫人の潔白を信じた。
一方、フレンチはモーリスの弟たちやいとこのジョージが何かを隠していると確信した。やがてポーリンから石油発見の話を聞き、モーリスがひとり開発に反対していた事実を知った。事件の背後に隠されていたものが表面化したのだった。

まずは題名から。創元推理文庫版の井上勇氏の訳者あとがきによれば、現代のStrikes Oilはそのまま直訳して「石油を掘り当てる」のほかに慣用句として「うまい儲け話にありつく」という意味があるとのこと。
作中の石油の発見とそれが一族の儲け話につながりはするが事件も起きるという掛け言葉になっている。ちなみに事件解決後に石油に関する書類は破棄されるが、石油自体がどうなったかは書かれていない。ハッピーエンド的なエンディングが多いクロフツにしては珍しいといえば珍しいのではないだろうか。
さて本作品は1951年に刊行されたクロフツの32作目の長篇で、クロフツが書いた長篇は全部で33作だから、晩年の作で最後から2番目の長篇だ。また探偵役のフレンチは前作の「フレンチ警視最初の事件」から警視に昇進しており、昇進後の第2作ということになる。

そもそもクロフツという人は地味な作風で、大きなトリックを仕掛けたりケレンに走ったりするようなことは絶対にしないというよりも、できない人であった。したがってしばしば退屈と評されるような展開が延々と続き、どの作品も似たような展開に見えてしまい新鮮味はない。
さらに犯人が比較的早期に登場し、また意外な犯人という作品でも真犯人は想定内といえる範疇で、奇抜さはない。反面、作品には安定感があり、ごく一部を除いて駄作や愚作は少なく、安心して読めるのもまた事実であるし、リアリズム重視と評されるように現実的でもある。
これらの点は晩年に至るもほとんど変わらず、中期以降の作品には企業や詐欺などの社会性をより持たせた作品が多いことが特徴として加わるくらいだ。本作品もその系列に則る作品ではあるが、大きく前半と後半では雰囲気が違う。前半はいわゆるフーダニットであり、後半は倒叙形式になっており、大団円でひとひねりが加えられて、意外な犯人に結びつくという構成になっている。
晩年の作品にしては凝った構成で、意外な犯人とともにクロフツのサービス精神が溢れているといっても過言ではないだろう。ただ時代を考えても登場人物たちの思考や行動が幼すぎるのが気になった。

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意外な犯人といってもストーリーからはモーリスの親族2人の弟と甥夫妻、強いて含めれば父親までの範囲しか考えられない。やがて甥のジョージに注目が集まるように物語られる。
そしてジョージに疑惑を持った妻のポーリンが毒殺されそうになるが、それに気がついたポーリンの機転でジョージは返り討ちにあう。ところがポーリンは目の前にジョージの死体が転がると動転し、ロドニーに相談し放火を起こして事件を偽装するがフレンチに見破られてしまう。これが後半の倒叙の部分である。
確かにジョージも犯人の一人であった。この物語はいわゆる黒幕が安全なところにいて、手先を操って犯行を行うというのが骨子で、手先がジョージとチェドンに雇われている看護婦、そして黒幕はモーリスの弟のひとりであった。

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