列車の死
Death of a Train 1946

第二次世界大戦中、列車を脱線転覆させるという破壊工作を行った敵を暴くフレンチ警部。

ドイツ軍の攻撃が激しさを増す第二次世界大戦中期、英国戦時内閣は緊急閣議を開き、ヘッペンストール首相の決断で、国内にある全ての放電管を北アフリカ戦線に輸送することにした。
ただでさえ不足している放電管を、北アフリカ戦線に集中的に投入するのは、ロンメル将軍率いるドイツ軍の進撃を食い止めるための最終手段で、そのためにも放電管を無事に北アフリカに輸送する必要があった。
このことは英本土の防衛計画に支障をきたしたが、首相は今にも崩壊しそうな北アフリカとドイツ軍上陸までには余裕のある英本土を比較して、重い決断をしたのだった。
そうなると問題は輸送途中でのドイツ軍の攻撃であった。なけなしの放電管が、万が一にも破壊されるようなことにでもなったら、戦線全体が崩壊して勝機はドイツ軍に大きく傾いてしまう。
閣議ではこの点に特に注意が払われ、首相と軍需大臣クレイトン卿、それに軍需省主任補佐官のロナルド・ハドソンの3人で詳細な計画が策定された。
英国内の放電管保管庫から港までのグレイト・サザーン鉄道での貨物輸送は、極秘かつ最優先の輸送とされ、積荷は小火器に偽装された。運行計画も必要最小限の人間に必要最小限の情報しか与えられなかった。
乗務員や車掌、駅員などの鉄道関係者達には、最優先での軍需物資輸送の臨時貨物列車の運行は知らされたが、その積荷は北アフリカ戦線向けの小火器と思い込まされるように巧妙な手段がとられ、機密保持は徹底された。

綿密な輸送計画に従って臨時貨物列車は港に向けて出発したが、途中で機関車に予期せぬ不具合が発生し、途中駅に臨時停車して機関車を付け替えることになった。
その間に、後続の兵員輸送用の臨時回送列車が、小火器に偽装した放電管を積んだ臨時貨物列車を追い抜き、先行して進んだ。これによって当初策定されたダイヤと列車の順序が入れ替わった。
先行した回送列車がプルオーバー駅に差し掛かったときに、その回送列車は轟音とともに脱線転覆し、機関車や客車は大破したうえ線路を塞ぎ、機関士と機関助手が死亡した。
これにより後続の貨物列車は進路を塞がれたが、別の線路を迂回して遅れながらも港に到着し、無事に放電管を船に積み込むことが出来た。つまり偶然に貨物列車の機関車が故障しなければ、放電管を積んだ貨物列車が脱線して、 積荷の放電管のほとんどが壊れたわけで、それはまさに不幸中の幸いといえた。
放電管輸送は結果的に無事に終えられたが、回送列車の脱線が注目された。事故ならば大きな問題はないが、破壊工作であれば重大な問題となる。さっそく運輸省のトレヴァー大佐を長とする事故調査委員会が組織され、鉄道関係者とともに現場を調査した結果、敵の破壊工作の疑いが濃厚であった。
一方、軍需省でも事故調査委員会の調査と平行して、警視庁に極秘の事故調査依頼と、もし破壊工作であれば工作組織を突き止めるように要請がなされた。
事件は警視庁にも内密に通報され、フレンチ警部が調査の担当を命じられた。フレンチの任務は列車の脱線を企てた一味を洗い出すことにあり、現地に赴いてトレヴァー大佐から事情を聞き、さっそく独自の調査を始めた。

「列車の死」はかなり特殊なミステリである。扱われるのは、まさに列車そのものの死であって、人間の死ではない。フレンチ警部の仕事は列車を脱線転覆させるという破壊工作を行った敵を暴くことであった。
脱線するのは回送列車であり、乗客や貨物はなく被害は列車や鉄道施設、それに2人の乗務員であった。問題となるのは、本来回送列車の前を走るはずだった臨時軍需物資輸送列車が機関車故障で遅れ、回送列車が先行したことであった。
つまり死を与えられる運命にあったのは軍需貨物列車であったのである。とても偶然では済ませられず、敵国の破壊工作と思われた。機密事項が漏えいしているとしか考えられず、利敵組織の存在を疑わざるを得なかった。

そしてフレンチの捜査が始まるが、フレンチの捜査手法は殺人事件の時と同様で、綿密なる調査によって利敵組織を暴くのだが、敵に近づけば近づくほどスパイ小説のような描写が多くなる。とはいえクロフツの作品であるから、スパイ小説として見れば幼稚であり、サスペンスなどまったく感じない。
クロフツの目的はスパイ小説を書くことではないのだから、それはそれでよいのだが、ではクロフツは何を書きたかったのだろうか。おそらくそれは鉄道マンだったクロフツが、戦争で疲れ切り荒廃してしまった鉄道を見て抱いたノスタルジーだろう。
ただノスタルジーが過ぎるあまりに、着想の面白さはあるものの、物語が専門的すぎてしまって、あまり鉄道に興味のない人間には退屈な作品になってしまっているのが残念だ。

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もちろん犯人はドイツに味方する組織であり、一味のひとりは首相官邸の掃除婦になって時計に録音機を仕掛けて閣議の内容を盗み、また別なひとりは鉄道会社の人間であり、列車の情報を流し、一味は列車を脱線させることに成功した。
これに対してフレンチは誘拐事件をデッチあげて関係者に近づき、どこから情報が漏れたかに着目して捜査を行い、消去法から首相官邸の掃除婦に目をつけ、専門家の応援を得て録音機を発見する。
それから一瀉千里に組織に近づき、最後は一味の秘密会合場所に潜入し、自らの命の犠牲も顧みずに手りゅう弾を使い一味の大半を死亡させ祖国を守った。フレンチも重態となったが命は取り留め、その後警視へ昇進した。

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