ギルフォードの犯罪
Crime at Guildford 1935

宝石商幹部殺人事件と宝石盗難事件にフレンチが挑む。

ノーンズ商会はロンドンでも有数の宝石商だが、世界的な不況の影響で、ここ数年業績が落ち込んでおり、倒産の危機に直面していた。社長のクロード・ノーンをはじめ主要な取締役達は、この危機を回避すべく何度か協議を重ねていた。メンバーはノーンのほかラルフ・オセンデン卿、アンソニー・リカード、レジナルド・スローリーの4人であった。
このままいけば2週間後には会社が破たんするという、せっぱつまった頃に4人はまた集まった。自ら破産整理を選択して再建を図るか、増資をして存続を図るかという2つの選択肢があったが、意見はなかなかまとまらなかった。スローリーは軽微な粉飾をして増資を図るべきだとの意見を強硬に主張し、いったん破産整理をして再建することを主張する他の3人の取締役と対立した。
そこで会社として最終的な態度を決定するまで2週間あることから、4人の取締役はギルフォードのノーンの屋敷に週末の土曜から日曜にかけて集まり、予備会議を開いて最終的な態度を決することにした。そしてこの予備会議には4人の取締役とともに経理部長のチャールズ・ミンターと総務部長のヘンリー・シーンを参加させることにした。
土曜日の夜の晩餐前にノーンの屋敷に集まったのは、オセンデン卿とリカードだけだった。スローリーとシーンは、シーンの娘の誕生パーティーを済ませてから車で来るために、夜中に着くはずだった。もともと体が弱いミンターは、体調が悪いために出発が遅れ、到着予定は夜9時くらいになると連絡してきた。ノーンたち3人は食事を済ませビリヤードをしながら、あとの3人の到着を待っていた。

やがてミンターが到着したが、相変わらず体調がすぐれず、挨拶もせずに取り敢えず部屋に入りベッドで休んでいた。しばらくして少し気分がよくなったとのことだったので、ノーンが会いに行った。ミンターとの面会を終えたノーンが言うには、ミンターの体調はかなり悪そうだった。
ミンターはロンドンを出る前に一度会社に立ち寄り、スローリーとシーンに会って書類を預かってきていた。明日の予備会議を前に、事前にノーンたち3人に検討してもらえると助かるとの伝言だった。3人は書類を検討したが、内容に異存はなく、明日の予備会談もなんとかまとまりそうだった。そうこうするうちにシーンとスローリーが日付が変わる頃に車でやって来た。挨拶を交わし雑談を少しした後で、全員寝についた。
翌朝ミンターを除く全員が朝食を済ませたが、ミンターはまだ体調がすぐれないらしく部屋から出てこなかった。そこで執事が様子を見に行ったのだが、ミンターはベッドの中で既に死体となっていた。医師がすぐに呼ばれたが、医師は他殺の疑いがあると言いだし、警察に連絡した。
捜査の結果、ミンターは病気で死んだのではなく扼殺されたのだった。手足を縛られた跡もあった。死亡推定時刻は昨夜10時前後、つまり到着して暫くしてから殺されたのだ。ノーンが昨夜ミンターの部屋に行ったのが、やはり10時くらいだったので、ノーンの話に嘘がなければ、その直後に何者かに首を絞められたことになる。さらに事件は翌朝大きな展開を見せた。
会社のノーンの部屋の金庫に保管されているはずの50万ポンドに及ぶ宝石が全て盗まれていたのだ。金庫の鍵は2つあり、1つはノーンが肌身離さず持ち、もう1つの鍵はミンターが持っていた。この2つの鍵を使わなければ金庫は開けられなかった。
昨夜ノーン邸で死亡したミンターの死体は、金庫の鍵を持っていた。鍵は2つとも盗まれてはおらず、その後の捜査でも鍵が宝石強奪犯人の手に一瞬たりとも渡ったとは考えられなかった。宝石強奪犯人はいかにして金庫を開けたのか、ミンターの死と宝石強奪は関係しているのか、スコットランドヤードのフレンチ警部の捜査が始まった。

「クロイドン発12時30分」「サウサンプトンの殺人」と倒叙もの2作のあとに登場したのが本作品であるが、倒叙作品ではない。かといって、従来の本格路線に立ち返ったかというと、そうとも一概に言えないところが本作品の評価が難しいところである。
本格にしては、事件はたいしたことはなく(あくまでミステリとして見た場合の話だが)、主要登場人物も限られた範囲(これもミステリ的に見れば)の人間でしかない。つまりミステリとしては厚みがないし、読み終わってみればああそうですかというのが正直な感想になってしまう。
もっと言えばフレンチ主席警部ものにしては、小粒な話といえるのかもしれない。「マギル卿最後の旅」などと比べてみれば、小粒というのは明らかだろう。何度も書いているが、クロフツが今一つ人気がないのは、こういうところにあるのかもしれない。

あらすじでは詳しく書かなかったが、フレンチは宝石商周辺で起きた2つの事件を同時に追うことになる。ひとつは殺人事件であり、もうひとつは宝石の大量盗難事件である。同一犯による犯行であるのは設定上も、状況からいっても明らかで、したがって同地らかの犯人が特定できれば(フーダニットが解決すれば)、のこるひとつはハウダニットになる。
筋的にその方向で書いてくれればいいのだろうが、クロフツはそうは書かない。妙に凝って見たり、寄り道を見つけてみたりと、複雑な動きをした挙句にやっと犯人像にたどり着く。ここまででもそうとうページ数を費やした上に、想定内の結論だから、何だかなぁという感じは否めない。
さらにトリックが陳腐かつ古い。とても今の時代に通用するものではない。厳しいようだが書かれたから80年も経っているというのを差し引いてもだ。したがって厳しいようだがミステリとして見た場合は、そんなに評価できる作品ではないということになってしまう。

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トリックとしては非常に単純で、殺人については替え玉を使った殺人現場の偽装、盗難については鍵を使って金庫を開けるところを隠し撮りして、金庫の合鍵を作るというものだ。ところがミンターの持つ鍵が撮影できず、鍵を奪う目的でミンターは殺されるのだ。事件は盗難が主で、殺人が従だったのだ。
いただけないのは、犯人は3人の共犯だということ。この事件で3人の共犯なら、はっきりいって何でもできてしまう。つまりフーダニットが成立しないのだ。せめて2人にしてほしかったし、2人でも充分に犯行は成立させられる。ミステリ的には、手間を掛ければもっと面白くできたのに手間を掛けなかったとしか思えない。そういう面からも評価できないのだ。

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