死の鉄路
Death on the Way 1932

鉄道技師だったクロフツの独壇場、鉄道工事現場での事件。

英国ドーセット州の海岸沿いを走るサザーン鉄道の線路で、鉄道会社の次席技師ロナルド・アッカリーが列車に轢き殺された。現場はレッドチャーチ駅とウィットネス駅の間で、岬に近い見通しの悪い区間であった。
レッドチャーチに向っていた砕石運搬用の機関車が、その場所に差し掛かると、前方の線路上に横たわる何かを発見して急ブレーキをかけたが間に合わなかった。その線路上に横たわっていたのが、アッカリーだった。
サザーン鉄道ではレッドチャーチ駅とウィットネス駅の間で複線化工事が行っており、アッカリーはその工事現場に詰めていた。その日の夕方アッカリーは、工事現場で起きた土砂崩れの様子を確認するためにウィットネスを出て線路沿いを歩いて行った。
予定ではアッカリーは検分を終えるとそのままレッドチャーチまで歩いて向かうはずだったが、何らかのアクシデントにより機関車に轢き殺されたものと考えられた。
アッカリーを轢いたのは砕石運搬車には見習技師のクリフォード・パリーやアッカリーの上司で設計主任のブラッグも同乗していて、アッカリーが轢かれる場面を目の当たりにしてしまった。

検死審問が開かれたが結論は事故死であった。当日は雨が降っていて視界が悪く、アッカリーは線路脇の側溝に足を取られて倒れ、運悪く線路に頭を打ち付けて気絶してしまった。そこに砕石運搬車が走ってきてと推測されたのだ。
しかしその後、アッカリーが轢き殺された現場近くで、事故の直前に不審な男が目撃されたとの情報が入った。そこで地元警察ではスコットランドヤードに応援を求め、フレンチ警部が派遣され、再捜査が行われることになった。
フレンチが捜査を始めると、現場近くを自転車で走った形跡が見つかり、さらにその自転車が海に投げ捨てられているのが発見された。不審者の目撃と合せて、事故死と考えられていたアッカリーの死は俄然他殺の疑いが濃くなってきた。
アッカリーは人柄もよく有能な人間で、他人から恨みを買うとは考えられなかったが、誰かが何らかの理由でアッカリーの命を奪ったのだった。その男は現場でアッカリーを待ち伏せて気絶させ線路に横たえ、自分は自転車で現場を離れたのだ。
フレンチにより、アッカリーが最後に現場事務所で目撃されてから轢死体となるまでの、関係者のアリバイ調べが行われた。しかし関係者全員に不完全ながらもアリバイがあり、誰もアッカリーを殺すことはできなかった。

ここから先は面白さを損なう恐れがあります。そのため背景色と同色で記述してあります。 お読みになりたい方は、カーソルで反転させてお読みください。
捜査はこう着状態に陥ったが、そんな時に第二の事件が起きた。工事現場にある下請会社の小屋で、マイクル・ケアリーが首を吊って死んでいたのだ。ケアリーは複線化工事の下請けをしているスペンス社の現場主任だった。
さらに、その後の調査で複線化工事を巡って大掛かりな詐欺が行われていることが判明した。図面が改ざんされて、実際の土砂の掘削量より多めの計算がされ、差額が下請会社に支払われていたのだ。その詐欺の中心となった人物がケアリーだった。
アッカリーはその詐欺に気づいていた様子もあり、してみるとケアリーがアッカリーを口封じのために殺害し、その後自殺したものと考えられ。フレンチも最初はそう考えたが、ふとしたことからケアリーの死も他殺に違いないと確信した。
ケアリーが小屋で死んだのは真夜中だったが、部屋の電気のスイッチが切られていたのだ。夜中に電気なしでは暗すぎて梁にロープをかけることも踏み台の椅子に乗ることも無理だった。第一、真っ暗な中で自殺しなければならない理由は何もない。
ましてや首を吊った人間が電話のスイッチを切れるはずもない。何者かが何らかの手段でケアリーの首を吊って殺し、無意識に電気のスイッチを切ったのだ。それを裏付けるように、梁にはロープが横に擦れた跡があった。再びフレンチ警部の地道な捜査が始まった。

よく知られているように、クロフツは長年北アイルランドで鉄道技師として働いていた。1920年に大病を患って、その療養中に書き綴った物語がデビュー作の「樽」として出版され、以後鉄道技師と作家という二足のわらじを履くようになった。1929年、クロフツ50歳のとき再び病を得、それを機に作家専業となっっている。
本作品は1932年8月に出版されたというから、専業作家になった直後に書かれた作品だ。しかも、つい先年まで身を置いていた鉄道会社での事件を描く本作品は、クロフツ自らの経験を生かして書いたものだろうし、一種のノスタルジーを込めているのかも知れない。
したがって現場の様子や図面の扱い方、機関車内の描写などは事実ありのままであろうし、詳しく活き活きと描写されているのがよくわかる。もっともあまりに詳細に渡り、ときとして専門用語が登場するから、予備知識も何もないと頭が痛くなるかもしれない。
もともとクロフツは技術的な面をおろそかにしないタイプで、作品自体のメインテーマが船なら船、ガソリンならガソリンと、詳しい技術解説を盛り込む。それがもっとも経験豊かな鉄道だから、その描写は微に入り細に入る。凝り症といえば凝り症、几帳面といえば几帳面である。

本作品の舞台はサザーン鉄道の複線化工事現場で、ある雨の日の夕方、鉄道技師が列車に轢き殺される。最初は事故と思われ、検死審問の結果も事故死であった。ここまでは鉄道会社の見習技師の視点で描かれる。
視点は地元警察に移り、そこに一人の人物が現れ新たな事実を告げることにより、事件は一変して殺人の様相を示す。この展開はクロフツ流ともいえ、著者の作品ではオーソドックスなものである。本作品での新たな事実とは、現場付近の不審者の目撃情報で、フレンチ警部の登場となる。
暫くはフレンチ警部の捜査を追うことになるが、これの視点の移動もクロフツ流だ。やがて事件に転機をもたらす第二の事件が起きる。このあたりから物語はやや退屈な展開になる。視点が一定せず物語は不安的になり、同時にフレンチの試行錯誤で推理の進行は遅く、加えて技術的な煩雑な描写が増えてくる。これもクロフツの作品では珍しいことではないのだが、停滞感は否めない。
しかも鉄道工事現場という男の職場の事件だから色気もなく、かといって大掛かりなアリバイも出てこない。つまり地味であり、メリハリに乏しいのだ。物語の展開自体は工夫されているのだが、クロフツ慣れしていないと飽きてしまうかもしれない。それがクロフツだと言われれば、そのとおりなのだが…

ここから先はネタバレです。そのため背景色と同色で記述してあります。 お読みになりたい方は、カーソルで反転させてお読みください。
クロフツにしては意外な犯人を用意してくれている。冒頭から暫くは主人公となるクリフォード・パリスが真犯人だから、記述者犯人パターンともいえる。ただパリスの記述者としての視点は不十分で、とても叙述的トリックといえるものではない。単に意外性があるというだけだ。
事件のプロットを書いておくと、ケアリーは根っからの悪人で、工事量水増しによる詐欺の片棒をパリーに担がせた。パリーが金に困っていることを知ったからだ。ケアリーと組んで詐欺行為を働いていたパリ―だが、アッカリーが感づいたのを知り、事故に見せかけて殺してしまう。アッカリーを襲って殺し線路に横たえ、付近に隠した自転車で事務所に戻りアリバイを造るのだ。
ところが自転車に乗っているところをケアリーに見られ、今度はケアリーから脅迫される。そこで詐欺の責任をすべてケアリーに負わせ自殺に見せかけて殺したのだ。

Freeman Wills Croftsのメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -