クロフツ短篇集T
Many a Slip

基本的には長編作家であるクロフツだが、3冊の短篇集が出ている。いずれも創元推理文庫に入っているが、残念ながら絶版である。

床板上の殺人     Crime on the Footplate

機関助手グローヴァーは機関士ウィリアム・ディーンを荒野を走る急行列車の機関車の中で殺すことにした。グローヴァーがディーンの妻のロージーに横恋慕したのだ。グローヴァーはディーンの特徴である髭を準備した。もちろん付け髭だ。計画ではディーンを殺害したあと付け髭をつけて変装し、目撃者を作る。
そのときにディーンに化けたグローヴァーは踊り狂っている様子を目撃させる。目撃者は通過駅の駅員だ。駅員はディーンの異変を感じて、次の駅に停止を命じる連絡を入れる。ディーンにはしばらく前から薬を飲ませ、精神に異常をきたしているように周囲に思わせておく。このことはすでに完了し、周囲の人間はディーンの精神異常を感じていた。
次の駅に着く前に、グローヴァーは自分で自分の体を痛めつけ、その後ディーンの死体を放り出す。グローヴァーはディーンに襲われてやむなくディーンを殴りつけたところ、ディーンは機関車から落ちたという筋書きにする。列車は非常ブレーキで次の駅で停まり、グローヴァーの目論見通りになったが…

上げ潮     The Flowing Tide

弁護士ジュリアス・ホーンは、依頼人のエズラ・モリストンから預かっている証券の一部を勝手に換金して投資に回していた。その投資は安全確実で、穴埋めもできるはずだったが、ある日モリストンが証券を換金したいと言い出して窮地に陥った。ホーンが選択したのは、モリストンを事故に見せかけて殺すことだった。
モリストンは趣味である海藻の採集に出かけることがよくあり、その採集に夢中になっている間に潮が満ちて溺れ死んだことにするのが、ホーンの筋書きだった。ホーンは予めモリストンの家を訪れて隙を見て気絶させ、浴槽で溺死させた。そして夜中の干潮時に合わせて再びモリストン宅を訪ね、モリストンの溺死体を担いで海に行き放置した。すべては完璧にいったはずだった。

自署     The Sign Manual

遺産が入ったことから株を買って経営者の仲間入りをしたジョン・キーンだったが、共同経営者のサイラス・ワッグとハンフリーズはキーンのことをちっとも評価せず、対等に扱ってくれないばかり使い走りのようなことまでやらせた。
キーンの心の中では2人の共同経営者の対する恨みが徐々に造成されていったが、ある時からそれは積極的な決意に形を変えた。それはキーンが借金を負い、それが支払い不能になったからだった。
キーンは自分の負債を返すには会社の金を自由にするしかなく、そのためにワッグを殺し、殺人の罪をハンフリーズに着せて、結果的に自分が会社を牛耳ろうと考えたのだった。
手製の時限爆弾を作って機会をうかがい、郊外のワッグの自宅に爆弾を仕掛けた。ちょうどその日はワッグの自宅の近くにハンフリーズも仕事で出かけることになっていた。
キーンはぬかりなく自分のアリバイも作った。キーンの計画通りにワッグは死に警察の捜査が入った。動機の面から犯人はキーンとハンフリーズに絞られ、キーンはハンフリーズが逮捕されるものと期待していたが…

シャンピニオン・パイ     Mushroom Patties

ローラ・ブレンドが継父を殺すことを考えたのは、まったく気が合わない継母が浮気をしているのを知ったからだった。それにはローラの生い立ちも関係していた。
ローラの母親はハロラン氏と再婚し、当時は母親もローラも幸せに暮らしていた。もっともローラはハロラン氏のことはあまり好かなかったが、ハロラン氏はあまりローラと顔を合わす機会がなく、それが幸いしたのだった。
ところが母親が死んで自体が変わった。ハロラン氏は血のつながりがないとはいえ、ローラを娘として扱ってくれることはくれた。同居を許し、その代わりに家事をさせたのだ。
一方で給料はくれたから、それはそれでローラにとってはありがたかった。ところがハロラン氏がナンシーと再婚するに及んで事情が大きく変化した。ローラはナンシーが嫌いだったし、ナンシーの方もローラを好いていなかった。
そしてある日、ローラはナンシーの浮気の事実を知ってしまったのだ。ナンシーがハロラン氏と再婚したのは愛情ではなく、金であることは明らかだった。このままではハロラン氏の遺産はすべてナンシーが独り占めするのは確実だった。

そこでローラは遺言が変更される前に、ハロラン氏を殺してその罪をナンシーに負わせることにした。ハロラン氏が大好物のキノコであるシャンピニオンを、見た目がそっくりな毒キノコにすり替えるというのがローラの計画だった。
シャンピニオン料理の日は、ナンシーが森でキノコを採取し、そのキノコをハロラン氏がチェックした。ハロラン氏は好きなだけあってキノコに詳しく、確実に見分けられるのだ。
ローラはチェックされて料理を待つキノコをすり替えることにした。チェックされたキノコがしまわれるのを確認したローラは、ナンシーが外出するとナンシーの靴を履いて雨上りの道にわざと足跡をつけ、毒キノコを採取しシャンピニオンとすり替えた。
その毒キノコは調理され、ハロラン氏の口に入った。ハロラン氏は一週間苦しんだ後、息を引き取った。ローラの計画通りになったが、警察は甘くなかった。ローラはハロラン氏殺害容疑で逮捕されてしまったのだった。

スーツケース     The Suitcase

ロンドン北区の小さなホテルのボーイ兼雑用係をしているアルバート・ランクは、金に困って強盗事件を起こし、そのはずみに人殺しまでしてしまった。金を奪って逃げようとしたときに、つかみかかってきた被害者を突き飛ばしたのだが、その被害者が打ちどころが悪かったらしく死んでしまったのだ。
そのことを新聞で読んで後で知ったランクは、恐ろしさに打ち震えた。幸いにして警察はランクにたどり着くことはなかったが、ランクにすればいつ発覚するかと思うと、とてもロンドンにいつまでもいることはできなかった。そんなときランクのもとを訪ねてきたのがデーヴィッド・ターナーだった。
ターナーはランクのしたことをすっかい見ていた。ランクがいくらとぼけても無駄だった。だが、ターナーはランクのことを警察に告発することはしなかった。代りにランクを脅してきた。恐喝だったが、これはある意味で警察以上にランクには厄介なことだった。そこでランクはターナーを思い切って殺してしまうことにした。
ターナーは東部海岸線の列車の車掌をしていることがわかった。そこでターナーが勤務する列車の車掌車を殺害現場に選んだ。時期的にも列車は空いており、ランクは誰にも見られずに車掌車に入ることができた。そして隙を見てランクは隠し持っていた凶器でターナーを殴り殺してしまった。
ランクはターナーの制服を剥ぎ取って車掌に化け、客室に戻った。途中のトイレで制服を脱いで凶器とともにスーツケースに詰め、もとの姿になったのだが、誰にも怪しまれなかった。駅で降りて死体が発見される前に駅を出て、途中の川に重りを入れたスーツケースを沈め、バスでロンドンに戻った。ランクの計画は完璧なはずだった。

薬壜     The Medicine Bottle

ジョー・グレスリーは継父のガブリエル・ハインズを殺害する決心をした。遺産目当てだった。計画は簡単でハインズが毎晩飲む薬をすり替えるだけだった。ところがその機会がなかなか訪れなかった。薬の味が変わっていることに気づいたら計画は台無しになるから、医者が薬を変えることが絶対条件だった。
やっとその機会が訪れた。医者が薬を変えたのだ。しかもその薬をジョーが取りに行くことになった。ジョーはクラブに行くついでに、新しい薬を取りに行くと言って家を出た。まず薬を受け取ったあとでクラブに行き、途中でクラブを抜け出してハインズのところに戻る。用意した毒薬を新しい薬と偽ってハインズに飲ませ、再びひそかにクラブに戻る。
クラブで1時間ほど過ごしてアリバイを作り、家に戻ると思った通りハインズは死んでいた。大騒ぎをして医者を呼ぶ。ジョーは、クラブなど行かずに真っ直ぐ薬を持って戻っていればハインズは助かったと泣き叫ぶ。つまり病死という演出だ。そのために薬壜やコップの指紋にも十分な注意を払ったのだった。

写真     The Photograph

アーサー・ハーバートは妻のジョーンに思いを寄せつつあるジャック・フリートを憎むあまり、妻が結婚式のために2日間ほど家を空けるときを利用して、フリートを殺害することにした。妻の留守に、そのことを隠してフリートを自宅に招いたハーバートは、フリートの自慢の新車を写真に撮った。
写真の背景にはハーバートの家と教会を入れた。実はこの日の朝、教会の写真を別に撮ってあり、そこに移っている尖塔の時計の時間は8時50分だった。後でフリートの車の写真と教会の時計の写真を合成して、朝8時50分にはフリートは生きていたという証拠を作るのだ。
その作業が終わるとフリートを睡眠薬で眠らせ、夜中にフリートの車で採石場まで行って、排気ガスを引き込んでの自殺と見せかけて殺してしまった。家に戻ったハーバートは、フリートが一晩泊まり、朝食を食べた痕跡を作り、写真を証拠としたアリバイを補強するという計画だった。そしてことは計画通りに運んだのだが…

ウォタールー、八時十二分発     The 8.12 from Waterloo

ジェラルド・グライムズはあることでヒュー・ビルキントンから恐喝を受けていた。ビルキントンは常習の恐喝者で、そのやり方は仮借なく、このままではグライムズが早晩破滅するのは明らかだった。そこでグライムズはビルキントンを抹殺することにした。殺害現場としてグライムズが選んだのは、ビルキントンが使う通勤列車の中だった。
ウォータールー駅を午後8時12分に出る列車の車室には、幸いビルキントンひとりしかいなかった。簡単な変装をしたグライムズが発車間際に乗り込んでも、ビルキントンは気づきもしなかった。発車してしばらくしてからグライムズはビルキントンに話しかけ、隙を見て隠し持った凶器で殴り殺した。
あとはしかるべき現場に差し掛かった時に、列車の窓からビルキントンの死体を外に放り出すだけで、死体の重さには苦労したものの、その行為も無事に成し遂げた。駅に着くと反対車線の列車に乗り換え、グライムズは無事にロンドンに戻った。これで恐喝から解放されたのだった。

冷たい急流     The Icy Torrent

ジョン・モーガンとピーター・コリンズは、2人の上司であるチャールズ・フランプトンを亡きものにする計画を立てた。フランプトンの家は全くの田舎で、急流を渡る橋の先にあった。周囲にはフランプトン家以外はなく、したがって橋はフランプトン家専用だった。
モーガンとコリンズは、その橋から半マイルのところに位置するモーガンの家に集まっては、離れの工作所でよく仕事をした。その間はモーガン家の連中も決して離れへは近づかなかった。2人はこれをアリバイにすることにした。離れで仕事をしていると見せかけて抜け出し、習慣の夜の散歩をしているフランプトンを待ち伏せて、急流に叩き込もうという計画だった。
計画通りに離れに入った2人は、時間を見計らって抜け出し橋に差し掛かったフランプトンを急流に叩き込むことに成功した。そこまではよかったが、コリンズがはずみで帽子とメガネをなくしてしまったのだ。帽子は見つかったがメガネがどうしても見つからなかった。2人は仕方なくメガネが川に沈んだと考えて現場を後にした。

人道橋     The Footbridge

ディック・オーツがジョン・カウリーを殺すことにしたのは、オーツとカウリーの妻の不倫が原因だった。オーツはカウリーの妻を独占したかったのだ。そこで毎晩パブで酔って帰るカウリーを事故に見せかけて殺すことにした。殺す場所はパブとカウリー家の間にある鉄道をまたぐ人道橋にした。
カウリーを待ち伏せて橋の階段に棒を差し出してカウリーをつまずかせ、階段を転げ落ちさせることで事故死に見せかけるのだ。この計画はあっけないほどうまくいった。カウリーはものの見事に転落して死んでしまったのだ。

四時のお茶     Tea st Four

弁護士のロナルド・グレーアムは投資に失敗して、客から預かっている資金を流用してしまっていた。ところがその客が急逝してしまい、どうにもならなくなってしまった。妻のマーガレットに相談し、マーガレットの伯父で金持ちのフーゴー・スターレットを事故に見せかけて殺し、その遺産を手に入れることにした。
マーガレットはフーゴーの姉がグレーアム家の近くに住んでいるのに目をつけ、フーゴーをお茶に招待したついでに、姉にも会うよう持ちかける手紙を書いた。フーゴーは承諾したが、その後マーガレットは用事が出来たので、お茶の時間を4時間ほど後にずらしてくれるように手紙を書いた。この手紙は、わざとフーゴーの手に入らないよう遅くに出した。
つまり計画はこうだ。フーゴーは時刻変更を知らずにやってくるので、変装したロナルドがその時間に家に現れて殺し、その前後にアリバイを作っておいて嫌疑を免れようとしたのだ。計画通りに時刻変更を知らずにフーゴーはやって来て、ロナルドの毒牙にかかってしまう。

新式セメント     The New Cement

フレンチが旧友のマーク・ラッドのもとを訪れたとき、その夫人は病気のために療養をしていた。夫人のことをあまり好かなかったフレンチは心の中でありがたいと思ったが口には出さず、ふと目をそらすと机の上にセメントらしいものの入った袋が乗っていた。
ラットによると新式のセメントで、発明者から試供品として送られて来たものだった。酸と粉を混ぜ合わせたうえ、水を加えて練るタイプのものだったが、不審に思ったフレンチが庭で実験し見ると、酸と粉をごく少量混ぜ合わせたとたんに爆発が起きた。
なんと新式セメントと偽って、ラッドを爆死させるおリックだったのだ。バッドに心当たりを聞くと、ひとり金に困っている甥がいて、その甥は薬剤師だという。フレンチは甥を犯人と確信して罠にかけることに、ラッドに電話を架けさせた。別人に実験をやらせるということにしたのだ。フレンチの計画では、甥は夜中に大慌てで品物のすり替えにやってくるはずだったが…

最上階     The Upper Flat

作家のガイ・キースはヴェラ・ピータースンと恋仲にあったが、出版社社長の娘から結婚話を持ちかけられると、あっさりとヴェラを捨てることにした。だがヴェラは、承知しないばかりか、子供ができたと言ってガイを脅迫し来た。そこでやむなくガイはヴェラを始末することにしたのだった。
ガイの計画は簡単だった。部屋でヴェラを殺し、死体を室内に一時的に隠し、夜中に忍び込んで最上階のヴェラの部屋から死体を落として、自殺に見せかけるのだ。殺す時の出入りはわざと正面玄関を使って守衛に目撃させ、夜の出入りは非常階段を使う。
そのために殺し後m非常階段のドアに封筒を挟んで楔とし、ヴェラの死体を投げ落としたあとはロープを使って鍵を回して、ドアを施錠するのだ。ヴェラの殺害は計画通りに行われたが、警察はっさりとガイの犯行と見破り、ガイは逮捕されてしまった。

フロントガラスこわし     The Broken Windscreen

まじめな執事だったジョン・ロレットは、メイドの若い娘に参ってしまい、金欲しさから奉公先のヴィンセント・ブレーフォード氏が貴金属の管理に未頓着なのをいいことに、ひそかに盗み出しては故買屋に売って稼いでいた。だがいいことは続かず、ある日ブレーフォード氏が姪の結婚祝いに金細工のロケット1ダースを用意するように言いつけてきて、事態は急変した。
1ダースの揃いのロケットのうちに3つをくすねていたロレットは悩んだ末にブレーフォード氏を亡きものにすることにした。氏が外出る時を見計らって、盗み出したライフルで帰って来る氏を狙い撃ちして撃ち殺すという荒っぽいものであったが、現実は成功して氏はロレットに撃ち殺されてしまった。警察の捜査がはじまったが、しばらくはロレットは安泰だった。だがフレンチ警視に呼ばれると…

山上の岩棚     The Mountain Ledge

校長のウィロビー博士が引退することになり、その後任はヒューバート・ストーカーとタウンゼントの2人に絞られた。ストーカーはぜひとも校長の座を望んでいたが、現実にはタウンゼントの方が一歩リードしていた。そこでストーカーはタウンゼントを事故に見せかけ殺してしまうことにした。
2人は表面上は中がよく、共通の登山という趣味があって、よく2人で山に出かけた。2日後にもスキッドー山に登ることになっていた。そこでストーカーは、2人のリュックが同じ製品なのを利用して、リュックに細工をすることにした。タウンゼントのリュックの負い皮に細工をしてすぐに切れるようにしたのだ。
その細工をする間、2人のリュックは入れ替えられた。そして2人は登山をし、隙を見てストーカーはタウンゼントを殴り殺して、死体を山から突き落とした。次に切れやすくしたリュックの負い皮を切り裂き、死体に向かって投げ落とした。タウンゼントは切れたリュックでバランスを崩して遭難したと思われるだろう。だが現実は甘くはなかった。

かくれた目撃者     The Unseen Observer

ストリーターは隣人であるホレース・ヘップワースの夫人と只ならぬ仲になった。そして夫人との結婚を望み、ホレースを憎み、ついには殺してしまった。ゴルフクラブに行く途中を待ち伏せて、殴り殺したのだ。ストリーターはホレースの死体を格納庫に隠した。ストリーターは趣味で自家用飛行機を持っていたのだ。
翌朝ホレースの死体を重りをつけて飛行機に積んだストリーターは、海上に出て死体を海中に投棄し、証拠を隠滅した。だがストリーターはホレースを殺したと室警察に逮捕されtしまった。

ブーメラン     Boomerang

ジョージ・ブロードはふとしたことでシドニー・カーローという男から恐喝を受けることになった。ブロードにとっては泣きっ面に蜂だった。高利貸しのマシュー・フレミング老人から借りた金を返すあてもないのに、恐喝を受けるとは…
だがブロードは一石二鳥の手を思いついた。フレミングを殺し、その罪をカーローになすりつけるのだ。カーローに金を渡す時に手紙を書かせ、それをフレミングのファイルに入れておくことで動機にし、あとはカーローをフレミングの声色でおびき寄せておき、その30分前にフレミングを殺した。だが現実は甘くなかった。ブロードはフレミング殺しで捕まってしまったのだった。

アスピリン     The Aspirins

看護婦のフリント夫人は、仕えている老人を殺害することにした。老人はアンギーナを病んでいたが、その世話に嫌気がさしたのと、老人がフリント夫人にまとまった遺産を残すように遺言を変更したのを知ったからだった。計画は簡単でアンギーナの薬をアスピリンに変え、老人が発作を起こしても薬が効かないようにしただけだった。
案の定老人は発作を起こして死に、フリント夫人は平然と再び薬を入替え医者を呼んだ。だがフレンチ警部は状況からフリント夫人を疑い、ついに証拠をつかんで夫人を絞首台に送りこんでしまった。

ビング兄弟     The Brothers Bing

宝石商を経営するビング兄弟のところには、サムという兄弟のいとこが働いていた。といいってもサムはもともとやくざ者で、兄弟に感謝するどころか、次第にその使われ方に不満を持ち、憎しみを持つ始末だった。そしてある時からサムは会社の金に手を付けた。
兄弟の弟ビヴァリーがサムの不正に気付き、サムに自身の仕事を押し付けて、自身は楽をしだした。サムはそれを恨み、ついには殺意を持つようになった。サムとビヴァリーは従弟同士ということもあって、顔つきも体つきもきわめて似ていた。違うのは髪の色ぐらいだった。
そこでサムは夜中にビヴァリーをおびき出して殺し、鍵奪って金庫にある宝石を盗み出した。そして髪を染め変えてビヴァリーに化け、ビヴァリーの旅券を使ってフランスに出国した。税関の係員も全く疑わなかった。フランスに着くと今度はサムに戻ってとんぼ返りした。世間にはビヴァリーが宝石を盗んで、海外逃亡したと思わせる計画だった。

かもめ岩     Gull Rock

骨董商モーリス・ブラックは、共同経営者のライスの妻に惚れてしまい、ついにはライスを亡きものしようとする計画を立てた。ライスをコーンウォールの海岸にある小さな村に誘った。そこの村には、いかにも掘り出しものがありそうだったし、なによりも鳥の楽園といわれるかもめ岩があることで有名だった。
鳥の観察が趣味のライスは、喜んでついて来て小さなホテルに泊まった。夜間、ブラックはライスを散歩にかこつけて海岸に誘い出し、隙を見せ殺してしまった。そのまま岩場から海に死体を投げ落とした。鳥を観察している途中で、誤って転落死したという筋書きだった。
いったんホテルに戻ったブラックは、ライスの靴を履き、カメラやフラッシュなどを持って殺害現場に戻り、観察の工作をした。これでライスが事故死したと判断されるのは確実なはずであった。

無人塔     The Ruined Tower

ロナルド・ストーンは義父で土建会社社長のジャスティン・ヴェレカーを経済的な理由で殺害することにした。方法は簡単で、ヴェレカーの薬の中身に農薬を混ぜるだけだった。ヴェレカーの薬は医師が往診をしたあと、医院に戻って処方され、その薬が医院の棚に置かれており、それを家人が取りに行くというシステムだった。
ロナルドはそのシステムに目を付けた。医院の棚に置かれている薬の中身を少し捨て、農薬を混入するのだ。その時間は約2時間。ロナルドはうまく医院に忍び込み、近くの無人の塔に入り、予めヴェレカーの物置から盗んでおいた農薬と入替えた。指紋を拭い、薬を委員の棚に戻した。まったく簡単なことだった。翌早朝、ヴェレカーは急に具合が悪くなり息を引き取った。ロナルドは笑みを浮かべたが…
「クロフツ短篇集T」と銘打たれ創元推理文庫の1冊として、1965年に初版が世に出た。すべてクロフツ警視もので、警視時代の事件や、警視になって昔の事件を語るもの、犯人が手記形式などさまざまなパターンで書かれている。
すべて「イブニング・スタンダート」に掲載されたもので、倒叙もの。犯人のミスを探すもの、二者択一のフーダニット、犯人が証拠として残した手がかりを当てるものなど謎もさまざまである。文庫版で十数ページと短いのもまた特徴である。

ここから先はネタバレです。そのため背景色と同色で記述してあります。 お読みになりたい方は、カーソルで反転させてお読みください。
「床板上の殺人」…グローヴァーのミスはディーンの死体の置き場所にあった。狭い機関室の中でディーンの足は6分間も火にあぶられ、大火傷をしていたのである。そんなディーンが踊り狂えるはずはなく、グローヴァーの目論見はついえてしまった。
「上げ潮」…もちろん海で溺死したはずなのに、解剖すると真水が肺に入っていることでばれるのだが、フレンチが解剖させるきっかけとなったのは腕時計。モリストンの腕時計は最初にホーンが訪ねた時間で止まっていたのだった。
「自署」…この話は犯人がどんなミスをしたかではなく、どんな証拠を残したかというテーマ。犯人は爆弾を作るときに木をカンナで削るのだが、そのカンナの刃の跡が爆弾の木の切り口と一致したのが犯人特定の決め手となった。

「シャンピニオン・パイ」…ナンシーがシャンピニオンを採取したのは雨が降る前、なのにローラは雨上りの道にナンシーの足跡をつけてしまった。ちっとした勘違いだが、策士策に溺れるとなってローラの首を絞めてしまった。
「スーツケース」…ランクのミスはスーツケースにあった。スーツケースの不要な旅だったのに、名zスーツケースを持って出たかの説明ができなかったのだ。
「薬壜」…フレンチは現場を一目見て殺人と見破り犯人も特定した。根拠は薬壜にあった。薬は水薬で沈殿するタイプのものだった。飲むときに撹拌するのだが、再沈殿するまで2時間かかるのだった。医者が呼ばれたときの薬壜の状態がジョーの説明とあっていなかったのがフレンチの決め手になった。

「写真」…ハーバートの犯罪が発覚したのは、証拠の写真に写っているべきものが写っていなかったことにあった。それは家の玄関先に置かれた牛乳瓶だった。毎朝配達される牛乳瓶が写ってなかったことが写真偽造の証拠になってしまったのだ。
「ウォータールー、八時十二分発」…犯罪発覚の証拠は往復切符。ウォータールー駅で回収された帰路切符の往路分を捨てるのを忘れたグライムズは、事のポケットから出てきた切符に唖然とするほかはなったのだ。
「冷たい急流」…死体は川で発見されてしまった。2人の計画では海まで流されるはずだったのだが、フランプトンが川面に接した時点でショック死したために、死体が水に浮き思いもかけずに川で発見されたのだ。そしてその手にはコリンズのメガネが握られていた。

「人道橋」…だがカウリーはあまりにずさんだった。凶器の始末すらしなかった。だから現場のペンキの擦れた跡から殺人と断定されると、動機を持つオーツはすぐに疑われ家宅捜索を受けるとペンキの付いた凶器がたちまち見つかってしまったのだ。
「四時のお茶」…ロナルドはアリバイを作ってフーゴーを殺した時に、うっかりして配達されていた手紙を家に取り入れてしまった。したがってアリバイがパーになり、フーゴー殺しで逮捕されてしまった。
「新式セメント」…これはフレンチの失敗談。犯人は甥ではなくラッドの精神的に病んだ妻であったというものだ。妻は電話を聞いて犯罪が発覚したと悟り、自殺した。

「最上階」…なぜガイが逮捕されたかといえば、死体は落下するはるか以前に殺されたことが証明され、調べてみると楔に使った封筒が残っており、それにはガイの指紋がくっきりとついていたのだった。
「フロントグラスこわし」…ロレットは一時的にライフルを隠したのだが、最後は発見されて指紋が証拠となって逮捕されてしまった。
「山上の岩棚」…リュックは発見されフレンチによって調べられた。フレンチは負い皮に不自然さを感じて徹底的に調べ、人為的に細工されたものであることを突き止め、ほかの証拠を積み重ねてストーカーを犯人として告発したのだった。

「かくれた目撃者」…実はストリーターと夫人の間柄は警察に知られており、動機の面からすぐにストリーターに容疑が掛った。さらに死体投棄の現場を駆逐艦の目撃され、さらに駆逐艦は現場から海上に漂う一冊の手帳を拾い上げた。その手帳にはストリーターの名前が記されていた。
「ブーメラン」…策士策に溺れるで、ブロードがカーローに書かせた手紙の内容が問題になった。その内容はカーローが指示されて書いたのだが、そのことはブロードしか知らないことだったのだ。
「アスピリン」…フレンチがつかんだ証拠とは、アンギーナの薬すべてについたフリント夫人の指紋だった。老人は薬の管理には神経質で、決して人には触らせなかったのだった。

「ビング兄弟」…サムの苦心の計画も泡と消えた。実はビヴァリーは金庫には大した宝石入れておらず、重要な宝石はストーブを改造した隠し金庫に入れていたのだ。そえがそっくり残っており、したがってビヴァリーは事件とは無関係で、被害者と断定されサムが容疑者として急浮上したのだった。
「かもめ岩」…ブラックは工作をしたのはいいが、工作時間を誤ったのだ。ライスが行方不明とわかった翌朝、皆は海岸にライスを捜しに行った。その時にライスの足跡が砂浜にくっきりついていた。だが、ライスが鳥の観察に行った時間から翌朝までの間に満潮があり、足跡は消えていなければならなかったのだ。
「無人塔」…問題は薬壜の指紋だった。ロナルドは自分の指紋に注意するあまり、そこになければならない医師の指紋まで拭き消してしまったのだ。

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