フレンチ警部と紫色の鎌
The Purple Sickle Murders 1929

フレンチのもとに助けを求めに来た若い女性。その背後には組織的な犯罪が…

スコットランドヤードのフレンチ警部のところに、サーザ・ダークと名乗る若い女性が相談にやって来た。サーザ・ダークは弁護士のところに相談に行ったが、スコットランドヤードの方が相談相手として適当だとされて、フレンチのもとを訪ねてきたのだ。
サーザ・ダークはロンドン市内の映画館のチケット売り場に勤めていたが、その語る話はフレンチにとって実に興味深いものになった。その話はサーザ・ダークの友人で同じく映画館のチケット売り場に勤めていたアイリーン・タッカーという女性のことから始まった。
アイリーンは、この年の始めにサリー州の採石場のはずれで死体となって発見されていた。水溜りの中に倒れていて、死んだあと水中に数日あったらしかった。検死の結果アイリーンの死は自殺と断定された。しかし、サーザ・ダークはアイリーンは殺されたに違いないと信じていた。
サーザ・ダークは、アイリーンの死の直前にアイリーンからの手紙を受け取っていた。その手紙によると、アイリーンは金の問題である男との間でトラブルになっていた。詳しいことは書いていなかったが、アイリーンはその男に恐怖を感じていたようだった。その男の名前も書かれてはいなかったが、男の手首には紫色の鎌のような形をした痣があったという。その手紙がサーザ・ダークに届いたあと、アイリーンは死体で発見されたのだった。

ここで話は変わって、しばらく前にサーザ・ダークは地下鉄での通勤の途中、ふとしたことでグェン・レストレンジと名乗る女性と知り合った。グェンはやはり映画館に勤めているといい、意気投合した2人はすぐに親しくなった。ある日、そのグェンから金儲けの手段として、賭博を勧められた。
グェンによれば、ロンドンにいる胴元を通じてモンテカルロにいる代理人に賭けを申し込み、結果の配当を受けるというやり方で組織的に行われていて、グェンも参加しているという。典型的な詐欺であるが、サーザ・ダークは言葉巧みに引き入れられ、グェンに胴元のウェスチングハウスと名乗る男を紹介される。
この手の詐欺の常套手段で、サーザ・ダークは最初は勝ち続けた。サーザ・ダークは知らないうちに賭けにのめりこみ、段々と掛金を大きくして熱中していった。そして気づいてみれば、サーザ・ダークは借金を負わされていた。そこでウェスチングハウスの態度が急変し、サーザ・ダークに借金の返済をしつこく迫った。
ここで再びグェンが登場し、今度は従兄のスタイルという男を紹介された。スタイルはサーザ・ダークの借金の一部を肩代わりする代わりに、ある仕事を頼みたいと言ってきた。簡単な仕事で資格や技術も要らず、今の仕事の片わらでやれるもので、セックス絡みのいかがわしいものでもないという。
さすがにうさん臭い話にサーザ・ダークは数日考えさせてくれと答えた。そのときにスタイルの手首の内側が見えたが、そこには紫色の鎌のような形をした痣があった。アイリーンが自殺する前に会って、悩みの種となっていた男の特徴と同じであった。サーザ・ダークは、その足でスコットランドヤードに駆け込んだのだった。

話を聞いたフレンチは、警察としても非常に興味のある話であって、捜査をする約束をし、サーザ・ダークには暫くの間は身辺に用心するように指示して帰した。しかしサーザ・ダークは二度とフレンチの前に姿を現さなかった。行方がわからなくなり、さらにポーツマスの沖合いで死体となって発見されたのだった。
自殺か事故と考えられたが、フレンチは死体の解剖を依頼し、その結果死体からは海水ではなく真水が検出された。サーザ・ダークはどこかで溺死させられて、海に投げ込まれたのだった。サーザ・ダークの死は殺人事件とされ、フレンチの捜査が始まった。しかし、フレンチの捜査はすぐに行き詰まり停滞した。手がかりがまるでないのだ。
そこで方針を変え、詐欺事件の方から糸を手繰ることにした。アイリーンもサーザ・ダーク同様に賭博絡みの詐欺に引っかかっているならば、ほかにも同じような被害者、それも映画館のチケット売り場に勤める若い女性がいるに違いないと考えたのだ。
しかし、その捜査も簡単ではなかった。ねばり強い調査の結果、同じような若い娘が3人ほどいるらしいことを突き止めた。そして、そのうちの一人から話を聞くことができた。口はかなり固かったがフレンチの粘り強い説得で話をしてくれたのだ。その話をもとに、さらに捜査を続けていくと事件の背後には大掛かりな犯罪が見え隠れしてた。
この作品は、アリバイ崩しでもなくフーダニットでもなく、クロフツにしては毛色の違った作品であることは間違いない。系統的には「製材所の秘密」の延長線上にあると思えばいいだろう。冒険小説として読んだ方が、すっきりする作品である。
書き出しもフレンチ警部のところに、若い女性が犯罪の相談にくるところから始まり、すぐにその女性は死体となってしまう。これはクロフツのミステリでは、かなりショッキングな展開だ。依頼者を守るといいながら守れなかったフレンチの執念の捜査が始まり、殺人とその背後に潜む組織犯罪が、章を追うごとに明らかになってくる。
その展開の中で、新たなヒロイン役が登場してくるが、ヒロインといっても華々しくはなく、重要な関係者程度の描き方だ。フレンチの捜査も、少しもたつき気味のところもないではない。が、これを犯罪者の側から見た場合は、まったく違ってくる。この犯罪組織は有能優秀なのだ。
犯罪者の側が、いかに捜査側を欺くかという決して素直ではない読み方の方が、むしろすっきりするかもしれない。事実、これまで犯罪は暴露されずにきたし、フレンチをはじめとする警察の捜査からも逃れる可能性は、かなり高かったのだ。最後にはフレンチの前に白旗を上げるが、それはフレンチの手柄ではなく、犯人側の不幸の結果であった。そういう意味でも異色な展開といってもいい。

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