フレンチ警部とチェインの謎
Inspector French and the Cheyne Mystery 1926

奇怪な事件に巻き込まれたチェイン氏の大冒険。

海戦で負傷したのがもとで海軍を退役したマクスウェル・チェインが、用事があって出かけたプリマスのホテルで、ヒューバート・パークスと名乗る男に面会を求められたのは3月のある日のことだった。
パークスという名に心当たりはなかったが、会ってみるとパークスはチェインの父親の友人であると自己紹介し、チェインと小説を協同で出版したいと持ちかけてきた。
チェインは海軍に入る前に一時海運会社に勤めたこともあったが、20歳のときに母親が叔父の遺産を相続し金には困っていなかった。会社を辞めてデボンシャーに母親とともに引き移り、のんびりした生活を楽しんだ。
チェインには多くの趣味があったが、なかでも文学にことのほか傾倒し、自作の小説も2篇ほど書き、うち1篇は出版されて、かなり売れていた。こんなチェインだからパークスの話を聞くにつれ思わず身を乗り出し、飲み物を飲みながら話を弾ませたが、いつしか記憶を失ってしまう。

チェインが眼を覚ましたのはホテルの一室で、支配人が心配そうにチェインを覗き込んでいた。支配人はパークスと名乗る男が薬を盛ったに違いないというが、チェインは一笑に付す。
だが、調べてみると取られたものはなかったが、手帳や財布の中身を誰かが調べた痕跡があった。やはり、支配人が言うようにパークスと名乗る男が怪しいのだろうか。
チェインがプリマスのホテルでの思わぬ出来事で手間取っている間に、ホテルから1時間ほどの距離にある自宅が強盗に襲われていた。チェインが自宅に連絡を取ったところ、その事実を伝えれらたのだった。
チェインが急いで自宅に戻ってみると、強盗は偽の電報で母親と妹を誘き出し、その間に家に押し入って女中と料理女を縛り上げ、家中を捜索して行ったらしい。
しかし調べてみると金目のものはすべて無事で、盗られたものは何もないようだった。時間的にいってプリマスのホテルでチェインを襲ったパークスが、直後に偽電報を打ち、家に押し入ったと考えるのが妥当であった。

2つの事件から8日ほど経った頃、チェインの家にひとりの訪問者があった。名刺にはアーサー・ラムスンとあった。ラムスンはチェインの前に通されると、興味深い話を始めた。船に取り付ける新しい型の位置測定器を発明したというのだ。
特許を申請する前に、船や機械に詳しいが、新機器の秘密を守れそうな人間に機械を試してもらいたい、ついては海軍勤務を経験し、海に出るのが好きなチェインにぜひ協力をして欲しいというのだった。
チェインは二つ返事で引き受けて、ラムスンとともにランチ「エニード号」に乗り込む。ところが、機器のある部屋に入った途端に背後で扉が閉まり、そのまま船室に監禁されてしまった。
激怒して怒鳴りまくるチェインにラムスンは、「アーノルド・プライスから預かった手紙をよこせ」と言う。プライスはチェインの親友であったが現在行方不明であった。
そして確かにプライスからは封緘をした書類を預かっていた。プライスからの手紙には指示があるまで中身を見ずに預かってほしいが、プライスが死んだ場合は中を開けて、自由に処置してかまわないと書かれていた。チェインはその書類を手紙を銀行に預けていた。しかし、なぜラムスンは手紙のことを知っているのだろうか?
チェインは最初は拒否していたが、飢えに耐えられずラムスンに書類のありかを教え、銀行宛の紹介状を書く。ラムスンは手紙だけが目的らしく、チェインを解放し去っていった。

チェインは解放されるとさっそくエニード号の追跡を開始した。入港した港を推測して突きとめ、列車で追いつき、一味のロンドンの隠れ家を突き止めた。 建物の中をのぞくとラムスンをはじめ、プリマスのホテルでパークスと名乗った男や、チェイン家の女中のスーザンまで仲間になっていた。
一味の隙を見て隠れ家に侵入し、奪われた手紙とプライスの書類を見るが、書類は丸で囲まれた数字や曲線が散りばめられたもので暗号のようだった。
それを奪い返したまではよかったが、そこで一味に見つかり追いかけられて捕まってしまう。そこで気絶したチェインが、再び気がついたのはどこかの道端だった。
ちょうど通りがかったジョアン・メリルという女性に助けを求め病院に運んでもらう。入院して回復したチェインはお礼のためにジョアンのもとを訪ねた。
チェインから冒険談を聞いたジョアンは興味を示し、二人で一味を探り書類を取り返そうとする。しかし、今度はジョアンが一味に捕まり、さらにチェインも時限爆弾で殺されそうになる。
ここに至ってチェインはスコットランド・ヤードに駆け込みフレンチ警部の登場となった。
本作品は1926年刊行のクロフツの第6長篇で、フレンチ警部が活躍する物語としては、2作目にあたる。前作の「フレンチ警部最大の事件」までは、作品ごとに探偵役を変えていたクロフツであったが、前作で登場したフレンチ警部が、本作品でも登場し、以降のクロフツ作品ではフレンチ警部が活躍することになる。
後年多くの容疑者のアリバイを破ったフレンチ警部であるが、本作品ではアリバイ破りどころか、あまり大きな活躍はしていない。第一本作品では死体は出てこず、かといって大きな組織や企業を相手に戦うわけでもない。金に目がくらんだチンピラ相手の戦いなのだ。
物語は大きく前半と後半に分れる。前半は、金には困っていない有閑青年のチェイン氏が主人公で、チェイン氏は突然犯罪に巻き込まれて、大きな怪我を追う。チェイン氏は素人探偵となって犯人を追跡するが、ついには手に負えなくなり、さらに命まで狙われてしまう。かろうじて命拾いしたチェイン氏は、ついにスコットランドヤードにかけ込む。
後半は、犯罪捜査のプロであるフレンチが事件捜査にあたるのだが、そこに登場するのが暗号だ。チェイン氏が犯罪に巻き込まれたのも、本人が知らないうちに暗号を持っていたのが原因だった。第1章から第12章までが前半、第13章以降が後半にあたる。

まずは前半だが、このチェイン氏は人がいいというより、人を疑うことを知らない人物としか思えない。一度ならず二度、三度と犯人たちに言いくるめられて騙されるのだ。しかも当節、子供だって騙されないようなホラ話にだ。そのうえにチェイン氏は、すぐにカッとくるという、およそ犯罪捜査には向かないタイプの人間なのだ。捜査というよりチェイン氏が騙され続け、そのあと勝手気ままに動き回っているに過ぎない。
もっとも本作品の書かれた1926年当時の小説には、こういう類が多い。昭和初期の我が国探偵小説にだって、もっと単純な話で騙されるのだってあるから、現代の視点で判断するのは酷かもしれない。だけれども古臭さだけはいかんともしがたいのだ。
前半で事件のもととなったキーワード的な書類の意味が、後半で明らかになる。チェイン氏が親友から預かった文書なのだが、それがあるもののありかを示す暗号だったのだ。
だが、これも宝探しの地図といったほうがいいくらいの代物でしかない。暗号の良し悪しを批評するのもという解説もあるが、はっきり言ってジョブナイル程度の出来としか思えない。
しかもチェイン氏とフレンチ警部が相手にする犯人たちも、所詮チンピラの域を出ず、大したことはない。本格探偵小説というより、ジョブナイル的な冒険小説という方が、本作品を端的に表していると思う。

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