フローテ公園の殺人
The Groote Park Murder 1923

前半は南アフリカ、後半はスコットランドが舞台。

南アフリカ連邦ミッデルドルプにある、鉄道操車場の先のトンネル付近で礫死体が発見された。死体はバラバラになっており、顔かたちも判別できず、唯一男性だというがわかる程度だった。事故か自殺かはわからないが、列車にはねられ、そのまま轢かれたものと思われた。
警察の捜査が行われて、被害者を轢いたのは前夜遅くに現場を通過した、貨物列車とわかった。一方で被害者の身許も判明した。市内随一の食料品会社ホープ兄弟商会の経理部課長補佐アルバアト・スミスであった。
次に事件は事故か自殺か、ということだがたが、現場は事故にしても自殺するにしても場所としては不自然であった。しばらくして警察に、線路沿いにあるフローテ公園から、前夜何者かが植木小舎のに入り込んだ形跡があるとの通報があった。
連絡を受けたファンダム警部達がフローテ公園に駆けつけると、確かに何者かがいた形跡があり、さらに線路に向かって重いものを引きづった後があった。事件は殺人の可能性が高まったのだ。
俄然捜査陣は色めきたち、周囲をくまなく調べた結果、凶行は温室内で行われ、誰かがスミスの死体を引きづって線路上に放置し、列車に轢かせて奇禍に見せかけようとしたと結論付けられた。

スミスの周辺が徹底的に洗われた。スミスは死体で発見される前の夜8時ごろに、旅行鞄を持って下宿先を出ていた。下宿先には泊まりになるかもしれないと言い置いていた。その後、スミスの足取りはパッタリと途絶えていた。
次の動機の面だが、スミスは社内では有能な人材とされながら、敵も多かった。何人かの社員や上役とトラブルも起こしていた。
最初に疑われたのはアンソニイ・スウェインという販売部の主任だったが、調査の結果アリバイが成立した。スウェインはスミスとほぼ同じころにスコットランドに向けて旅立っていたのだった。
スウェインのスコットランドに住む貴族の祖父の具合が悪く、唯一の肉親のスウェインを呼んでおり、その求めに応じて長期休暇をとりス、コットランドに向けて旅立ったのだった。
ちょうどスウェインのアリバイが成立したころに、スミスが最近になって賭博でダイヤの原石を多量に巻き上げたことがわかった。スミスの周辺からはダイヤの原石は一切見つからず、この線で捜査が進められたが空振りに終わった。

あせる捜査陣が次に目をつけたのはスチュワート・クローリーというホープ兄弟商会の支配人だった。スミスの上役に当たるが、情報ではクローリーの婚約者マリオンをスミスが辱めようとして、トラブルがあったとのことだった。
さらに会社の机から出てきたスミスの私物の中に、クローリーからスミスへの手紙があった。その手紙でクローリーは、スミスをフローテ公園に呼び寄せていた。
さらに事件当夜のクローリーのアリバイもあやふやで、調べるとクローリーの居所もはっきりしなかった。ファンダム警部はここにいたり決断をしついにクローリーを逮捕した。
審問が開かれ検察側と弁護側が鋭く対立した。どちらにも決定的な決め手はなかった。最初の審問では陪審員の意見の一致をみず、陪審員は解任され審問のやり直しが行われた。
その結果は意外なことにクローリーは無罪となった。釈放されたクローリーだったが世間の目は冷たく、ミッデルドルプにはいられなくなり、どこかに旅立っていった。

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南アフリカでの事件から2年以上たって、スコットランドのグラスゴーでクローリーは婚約者のマリオンと再会した。クローリーが無実であることはマリオンは固く信じていたのだが、クローリーに無罪の評決が出たときにマリオンは交通事故で意識不明となっており、クローリーが行方不明になった後に意識を回復したのだった。
その後マリオンは精神的に参ってしまい、親戚のいるスコットランドで療養していた。そこで偶然にクローリーと出合ったのだった。一方のクローリーは、ミッデルドルプを出奔した後で名前を変え、金の採掘に成功してスコットランドに渡った。
事業の成功で金には困らなかったクローリーは、スコットランドに農場を買い、そこで暮らすことにしたのだった。クローリーマリオンは、2年間の話を語り合い、さらにその後のことも話し合った。
それから数日後、手紙で呼び出されたクローリーが殺されかかるという事件が起こった。人里はなれた家で殴られて気絶させられ、家もろとも焼き殺されるところだった。
幸いマリオンの機転で焼死寸前に助け出されたが、スコットランド警察のロス警部は、クローリーが焼死したことにして犯人を安心させる作戦を立てた。事件は、2年前の南アフリカでの事件と関連あるとしか思えなかった。

クロフツの長編第4作で、例によって全体は二部構成になっており、前半は南アフリカでの会社員殺害事件を扱い、後半では舞台はスコットランドに飛び前半の事件で容疑者とされた男の殺人未遂事件を扱う。
南アフリカでの事件では、最初は事故か自殺かと思われた鉄道での轢死事件が殺人と判明、現地のファンダム警部の地道で丹念な捜査が行われる。ところが事件関係者にはことごとくアリバイがあり、調べれば調べるほど犯人がいなくなる。
しかしファンダム警部の緻密な捜査により、これはと思う人物のアリバイが崩れ容疑者として逮捕され裁判に付されたが、弁護側の必死の反証もあって結局容疑者は無罪となった。ここまでが前半だ。
筆は冗長に過ぎるのではないかと思えるほど細部まで丁寧であり、ストーリーの流れから見ても明らかなように、これは典型的なクロフツ・ミステリであって、他の作品と比べても違和感はない。ドラマはなく、捜査活動記録のようであるのも、また然りである。

事件の後半の舞台はスコットランドである。そこで前半に登場人物たちにより、新たな事件が起こる。前半と後半の間には2年間という歳月が流れ、事件も独立している。
読者には前半と後半の登場人物の関連などは自明であるが、後半の捜査を担当するロス警部にはわからない。一方前半の事件で敗北を喫したファンダム警部も、その後登場しないから、後半の事件が起きたことすら知らない。
これが本作品の最大の特徴になっており、よくも悪くも物語を複雑にしている。処女作の「樽」もパリとロンドンという2つの舞台が用意されていたが、その間に時間差はほとんどなく、同じ事件を追う。
つまり「樽」の二部は事件を縦に掘り下げるための展開であるのに対し、本作品の二部は事件に面的な広がりを持たせるためのものだ。しかも、それはスコットランドでの関係者同士の偶然の再会という、いささか心もとない細い糸でつながっているにすぎない。

早い話がその再会がなければ事件は広がりを見せなかったのだ。このあたりが、いかにも作りすぎな感がしてしょうがない。では、それが成功しているかといえば、必ずしもそうではないところに本作品の評価が今一つ低い理由があるのだろう。
後半の事件ではロス警部による捜査が行われるのだが、事件の内容がほとんど同じ(被害者の破壊された顔と行方不明の被害者、容疑者のアリバイ、被害者が誘い出された方法等々)だから、読者にとってはもどかしくてしょうがない。
新たな謎を呼ぶまったく別のタイプの事件であれば意味があるのだが、これでは同じミステリを二度読んでいるようなものである。もっともそれがクロフツという作家なのだろうが…
南アフリカでの事件はファンダム警部、スコットランドでの事件をロス警部が扱うが、2人ともクロフツのシリーズ探偵であるフレンチ警部と同じく、コツコツと足で歩き、手がかりを入念に調べ、あらゆる可能性を調査して一歩一歩事件の真相に近づいて行くタイプだ。

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最後の最後に意外な犯人を用意してくれてはいるが、最初の被害者の顔が潰されていることから、少し読み慣れた読者なら犯人の入れ替わりトリックは想像がついてしまう。
轢死体の被害者はスミスと思われていたが、スウェインであったのだ。もちろん犯人はその後スウェインになりすまし、英国で叔父の後を継いで貴族となったスミスである。
スミス=スウェインはアリバイを提示しているが、そのアリバイトリックはホテルのボーイを買収して宿泊したように見せかけるという、いささかお粗末なものだ。いくらアリバイがメインではないとはいえ、もう少しやりようがあったのではないだろうか。

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