新世紀「謎」倶楽部
角川文庫

十人目の切り裂きジャック    
篠田真由美
羽田から電話が架かってきたのは、大学以来のことだった。久しぶりに切り裂きジャックについての話をしたいというのだ。羽田は当時の恋人だった黒沢真理亜の影響か、ずっと切り裂きジャックのことばかり考えている男だった。
それも8年前に真理亜が部屋で殺されてから、より異常になり、口を開けばその話題は切り裂きジャックだった。その羽田の部屋を訪ねることになったのだが、その部屋というのがかつて真理亜が住み、そして殺された部屋だった。
8年ぶりに会う羽田には、学生時代の面影は全くなくなっていた。そして案内されたのはかつて真理亜が殺された部屋。真理亜はこの部屋で顔がわからなくなるほど傷つけられ、体も無惨に切り刻まれて死体となっていたのだった。

インド・ボンベイ殺人ツアー    
小森健太朗
インド、ボンベイで国枝という日本人が殺人容疑で逮捕された。殺人事件は急行列車の中で起き、殺害時刻は午後10時から10時半までの間。急行列車は午後7時55分にイタルシ駅を発車し、次に停車するのは午後11時25分のジャバルプールだった。
事件はこの間に起きたのだが、国枝は午後10時にはイタルシとジャバルプールの間にあるピパリアという駅で人に会っていたというのだ。ピパリア駅のアリバイを証明するのは日本人の結城とインド人のジャバーブ氏。だがボンベイの警察は時刻表などまったく信用できないと相手にしてくれなかった。

ホテル・ミカドの殺人    
芦辺拓
サンフランシスコのホテルミカドで事件は起きた。22号室の中で銃声がし、駆け付けた人々の前には、日本刀でハラキリをした日本人と銃で撃たれた白人女性がいた。
市警察のダンディ警部補は、たまたまサンフランシスコに来ていたホノルル警察のチャーリー・チャン警部とともに現場に赴いた。現場検証の結果、女の死因は首を絞められの窒息死で、死後に銃弾を撃ち込まれていた。
男に身元は日本の軍人でタツギ大尉、女はデビーという娼婦であったが、現場には地元の探偵サム・スペード、日本領事館のマコヤマ事務官、通信社のアキ記者、それにホテルの雑役夫の日本人なんとかコフスキー、サンフランシスコ武侠会のナボシマなどが次々に現れて…

藤田先生、指一本で巨石を動かす    
村瀬継弥
ある日のこと藤田先生は「このクラスの中で一番力があるのは下川だ」と皆の前で言い出した。下川という子は、 病弱で背も小さくクラスでも浮いてしまっていた。クラスの皆は一斉に反発。そこで藤田先生は一つの提案をした。
校庭にある大きな石を、校舎の端から端まで下川一人で移動させるというのだ。具体的には校舎の西側の入口に石を置き下川だけを校舎に入れ鍵を掛ける。その後しばらくして東側の入口に行って中から下川が鍵を開け、自分一人で移動してきた石を見せるというものだ。その間100m以上あるし、石は大人一人でも動かないほど重たいものだった。
しかも下川と石しかないことをクラス全員にチェックさせたあと、鍵を掛け、異動後もクラス全員で校舎内を分担してチェックするというのだ。こうすれば工具や重機がないことや大人が隠れて手伝ったりしていないことが確認できる。そして下川を本当に石を移動し、ヒーローになったのだった。

鬼子母神の選択肢    
北森鴻
秋の半ば、新聞に京都嵐山にある大悲閣という寺の近くに松茸が自生している場所があるという読者投稿が載った。それ以来、大悲閣への参拝客が大きく増えたのだが、不気味な発見もあった。なんと男の死体が山中にあったのだ。
男は自殺と断定されたが、どうも男の遺族の動きが変だし、大悲閣への参拝客にもいわくあり気な人が多い。さらに松茸の自生自体がガセネタに近いものなのだ。どうも一連の出来事の裏には何かがあるようだ。

観覧車    
柴田よしき
白石和美という女性を尾行する女性探偵唯。和美は京都に単身赴任している建設会社社員遠藤祐介の愛人だった。実は遠藤は2月15日から無断欠勤をしており、失踪していた。一方和美の方は同じ会社に勤めていたが、2月中旬に退社していた。
遠藤の妻が唯に夫の捜索を依頼し、唯が和美を探し当てて尾行をする毎日だった。だが和美の行動は毎日判で押したように同じだった。自宅を出て電車で八瀬遊園に行き、そこにある小さな観覧車に乗ったあと、園内のベンチでボンヤリすごし、また家に帰るのだった。
そんなある日、唯の肩をたたく者がいた。府警の兵頭刑事だった。

縞模様の宅配便    
二階堂黎人
信介が友達の鈴木あきらの家に遊びに行くと、縞模様のゼブラ便の宅配車が停まっていた。信介の姿を見ると、母親はちょっと狼狽したようになり、あきらの留守を告げた。信介は近くの公園からあきらの家の様子を見ていると、あきらの母親は宅配便の車に乗ってどこかへ行ってしまった。
1時間ほどしてあきらは母親とタクシーで帰宅し、2人はそそくさと家の中に入ってしまった。このことが信介の家で事件ではないかと問題になった。刑事をしている信介の父親によれば、最近誘拐事件が頻発しているという噂があるのだそうだ。噂で済んでいるというのは、被害にあった親たちが警察に届けるどころか、協力すらしないというのだ。
ただ警察では確かに誘拐が起きていると確信していて、信介の父親も捜査にあたっているのだった。そこで探偵にあこがれる信介の母親で元アイドルのルル子は、信介にあきらの家が取引している銀行を調べるように命じ、独自に捜査をすることにした。

だって、冷え症なんだモン!    
愛川晶
死体の主小沼志津子が身に着けていたスリッパ、手袋、イヤリングはことごとく左右がアンバランスだった。スリッパは右が室内履きで左がトイレ用、手袋は右が皮で左が毛糸、イヤリングは右が金で左が真珠。しかも死体の発見されたのは室内であった。被害者志津子は寒がりだったが、室内で手袋とは…
検死の結果は死亡推定時刻に3時間巾が出た。というのは昨夜雪の影響で1時間ほど停電があり、死体の置かれた状況がわからなかったからだ。警察の捜索の結果、現場の部屋から3枚の念書が見つかった。
いずれも志津子との婚約を反故にした慰謝料として一千万円支払うという内容で、期限は翌日に迫っていた。書いたのは松川左右吉、取違孝太郎、岸掛仁作という3人の男だった。3人とも念書の存在は認めたが、一様に犯行は否認した。アリバイも三者三様だった。
松川は停電になったときまでのアリバイはあったが以降はなく、取違は停電の間のアリバイがなかった。一方岸掛は停電が回復してから後のアリバイはあったが、それまではなかった。犯人はその3人のうちの誰かなのか、そして被害者はどうして左右アンバランスな格好をしていたのか…

蓮華の花    
西澤保彦
ほとんど無名ながら作家専業になった日能克久は、20年ぶりに高校時代の同窓会に出席することになった。日能は何年か前に新聞で同級生だった梅木万里子が交通事故で死んだという記事を見ていて、同窓会の誘いの電話でそのことを友人だった高柳に言うと、高柳はそんなことはなく梅木は結婚して元気にやっているという。
日能の記憶違いなのだろうか。でも確かにその記事を見たことは間違いない。日能はもどかしい気持ちで同窓会に出席し、そして梅木万里子に会った。

新・煙突綺譚    
谺健二
ぼくがまだ9歳だったころ、同じアパートにシュミネさんという50歳過ぎくらいのおじさんが住んでいた。近所のガラス工場に勤めていて、真面目で礼儀正しい人だったが、街の噂では奇人だということだった。
例えば箸や茶碗など、すべての物体には心があるといい、それらに名前を付け話しかけたり、人間の祖先は鳥であると信じていたり、かつて自分は身長2ミリの時代があったと公言したりしていた。ぼくはなんとなくシュミネさんの話に引かれ、やがて友達になり、よく川の土手に座って話をしたものだった。
ある日、シュミネさんの部屋を訪ねたとき、シュミネさんは手作りのオカリナをくれた。ぼくはうれしくなったが、狭いアパートの中では吹くわけにいかず、学校に行く前に河原の土手で吹くことにした。
ところが土手に座ってオカリナを鞄から取り出そうとすると、オカリナがなかった。慌てて探し回ると少し離れた草むらにオカリナが落ちていた。それを拾ってその先を見ると、そこには死体が横たわっていた。
死体は不良中学生のものだった。警察の調べでは殺されたらしい。やがて容疑者としてシュミネさんが浮上した。少し前に殺された中学生のグループとトラブルになっていたからだった。
そして警察はシュミネさんの逮捕に踏み切ったが、隙を見てシュミネさんは逃走、行方不明になってしまった。6日後、付近の廃工場の煙突を爆破して取り除く作業が行われた。爆破の直前、煙突の下に現れたのがシュミネさんだった。
見物人たちも驚き息をのんだが、間に合わず煙突は爆破されシュミネさんの上にその残骸が降りかかった。ところがその後いくら捜索してもシュミネさんの死体は見つからなかった、シュミネさんは煙突とともにこの世から消え失せてしまったのだ。

ドア⇔ドア    
歌野晶午
東栄荘は四畳半一間に半畳の流し場、共同便所、風呂なしという典型的な学生下宿で、1階には1〜5号室、2階には6〜10号室の五部屋が並んでいた。
1月3日の夜、年末年始の帰省や外出をせずに東栄荘に残っているのは3人、4号室の信濃譲二、6号室の恩田道夫、10号室の山科大輔の3人。
信濃は夜のアルバイトで部屋におらず、山師である恩田は1年ぶりに東栄荘に戻って来たばかり、山科は帰省せずに部屋で卒論を書いていた。
恩田と山科は酒を酌み交わす中で、1年ぶりに戻った恩田は土産と一升瓶を手に山科の部屋を訪れた。ささいなことで切れた山科は、泥酔した恩田を恩田の持っていたアーミーナイフで刺し殺してしまう。
我に返った山科は頭を絞って偽装工作に掛る。恩田が自室で強盗に襲われて殺されたことにするというのが基本計画であったが、最大の問題が10号室の引き戸。血痕が飛び散っていたのだ。
そこで山科はドアの交換を思いつく。6号室のドアと10号室のドアを取り替えたのだった。指紋の工作もぬかりなく行い、鍵も取り替えたが…


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