金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲
角川文庫

無題    
京極夏彦
暑い夏の日、やっと体が癒えた私は出版社に向かった。やがて目指す建物が見えてきたが、私はそこでとうとう眩暈を起こして、道端に座り込んでしまった。ちょうどそこに通りかかった人が心配し声をかけてくれた。
その人は私のことをすごく心配してくれた。というのはその人も病気、結核に罹り肺を片方切除し、今でも時々喀血するという。私も鬱病であることをその人に打ち明けた。するとその人は…

キンダイチ先生の推理    
有栖川有栖
佐久良恭平と森村秀紀はデュオというユニットを組むミュージシャンで、最近でこそヒットに恵まれず人気は下降気味だが、まだまだファンも多く露出する度合いもそれなりに高かった。
その佐久良恭平がマンションの自室で花瓶で頭を殴られて殺された。その直前、被害者の恭平を目撃したのが中学3年のミステリマニア金田耕一。それによれば恭平は道を歩いていて、もう少しで自室だというところで慌てて電話ボックスに飛び込んだ。
恭平だと気付いた耕一が興味を持って見ていると、番号を回して相手が出るももどかしく一方的にしゃべり、電話を切るとすぐまたダイヤルを回して同じく一方的会話、さらにその後もう1回同じことを繰り返して、ご機嫌で自宅マンションに向かったという。
恭平が殺されたのはマンションに戻った直後のことで、したがって犯人を除いて恭平を最後に目撃したのは耕一だった。耕一は懇意にしている売れないミステリ作家錦田一に自慢げにこの話をしたところ…

愛の遠近的倒錯    
小川勝己
岡山で静養している金田一耕助にパトロンの久保銀造がS村で起きた殺人事件の話を始めた。S村には小松崎家と藤平家という江戸時代から続く名家があったが、やがて藤平家が当主の放蕩もあって没落し、昭和に入ったころには小松崎家の天下になっていた。
そんなとき藤平家の当主龍郎が小松崎家の前で恨み言を叫び、割腹自殺するという事件が起きた。戦争になり藤平家の人間は兵隊にとられて戦死したり、特高に睨まれて死んだりと不幸が続き、終戦時には家が絶えていた。
一方小松崎家の方も終戦時に当主が割腹自殺した。やがて復員してきた長男義政が家督を継いだが、しばらくして村の産婆が殺され、義政も同じ日に殺された。警察は小松崎家の二男邦政を逮捕しようとしたが、邦政は隠し持っていた拳銃で警官隊の前で自殺してしまった。警察は邦政を産婆と義政殺しの犯人として事件を終結させたが…

ナマ猫邸事件    
北森鴻
ナマ猫真教は猫を崇める新興宗教で、本尊も巨大な金色の招き猫というふざけたもの。さすがに宗教法人として認められず、教団では仕方なく株式会社としていたが、実態はネズミ講で信者を増やすエセ宗教だった。
実はこの教団には敵対するもう一つの教団があった。それがナマ猫正教という教団だった。実態は正教も真教も変わらなかった。教祖は正教の方が糸島大吉、真教の方が糸島大胡といった。大吉と大胡は双子の兄弟であった。
もともと用談の設立者である兄弟の父大作は双子が生まれたときにそれを嫌い、大胡を里子に出した。やがて大作は教団を大吉に譲り他界、そこに正統性を争って大胡が登場し、教団を2つに割ったのだった。以来正教と真教は対立関係にあった。
さて事件は真教の教祖大胡が首を切られて殺されたというものだった。その日は月に二度のお籠りの日で、大胡は本尊のある祭壇の間に一人籠っていた。その間に何者かに首を切り落とされて殺されたのだが、容疑者は有り余るほどの数だった。

月光座    
栗本薫
年老いて浅草の街角に立つ金田一耕助が見上げる工事中の建物は、かつてそこにあった稲妻座を再現し、新たに月光座という名の劇場の建設現場だった。稲妻座では役者の失踪事件や殺人事件が相次ぎ、それらに関わった耕助にとっては感無量でもあった。
その現場で耕助は一人の青年と出会う。青年は耕助の素性を知っており、話は自然と幽霊座事件のこととなった。そして迎えた月光座のこけら落とし。耕助は建設現場で会った謎の青年から招待を受けた。ところがその公演でまたしても事件が起きたのだった。

鳥辺野の午後    
柴田よしき
女流ミステリ作家の私が寺の門前で出会った男に語ったのは、学生時代からの友人進藤由季子のことだった。何をやってもうまくいかない私から見れば、由季子は羨ましい限りの存在だった。
私たち文学部の女子学生のあこがれだった出版社に就職し、雑誌編集に携わった由季子に対し、私は事務職という何の変哲もない仕事を続けていた。やがて由季子は結婚し、そして離婚、同時に雑誌から文芸部に異動になった。
一方の私は、何気なく応募した懸賞小説に入賞したのがきっかけで作家デビューし、今では作家専業で何とか食べられるくらいにはなっていた。そして私は由季子と再会し、たびたび会って食事をしたりするようになった。
そして2人は一人の男と関係を持ち、その三角関係は破たんした。由季子は私が男を奪ったと思い込み、私の言うことなど聞く耳を持たずに決闘を挑んできた。その結果私も由季子も毒を飲むことになったのだが…

雪花散り花    
菅浩江
京都の裏町に開業した金田一(きむ・でん・にのまえ)探偵事務所の最初の客は、花街の会員制クラブに勤める戸田満枝という女性。ある男の愛人だったが、その男が自殺をし、その直後に妙な葉書が送られてきたというのだ。
実は男は満枝のマンションの頭金を都合してくれるはずだったが、約束の時間に現れず、結局約束は守られなかった。後日、その違約を針千本に例えて、千本通りで買った縫い針を男に渡した。その日の夜、男は自殺したのだ。
満枝は男を自殺に追い込んだのは自分ではないかと気に病んだ。周囲は慰めてくれたのだが、そんなときに謎の葉書が来たのだ、葉書には100円玉と思われる絵と、ひとつだけ団子を残したの金の串が13本並んだような絵が描かれていた。気味の悪くなった満枝は、その葉書を持って相談に来たのだった。

松竹梅    
服部まゆみ
風邪をひいた金田一耕助は、人の勧めもあって近くの荏原病院に行った。すると診察してくれた院長が相談があると言ってきたが、義理の母親の荏原タケが邪魔をして、結局翌日の歌舞伎の招待券を2枚貰って帰ってきた。
翌日耕助は引退した等々力警部を誘って歌舞伎へ。そこにはタケとその双子の妹で同居しているマツ、それに2人の老女の世話をしている看護婦の宮下梅子の3人が来ていた。
タケは娘婿の院長と梅子が不倫をしていると思って梅子につらくあたっていた。昨日、耕助と院長の相談を邪魔しに来たのも梅子の件であった。そして歌舞伎の上演中にトイレに立った梅子は、何者かにトイレの中で刺し殺されてしまった。

闇夜にカラスが散歩する    
赤川次郎
ローカル線の車内でのこと、私のところに途中から乗った男が近づいてきて「闇夜のカラス」と謎の言葉をつぶやいてから、ほかの車両に移っていった。さらに次の駅から今度は紳士風の男が乗ってきて話しかけてきた。
私は何気なく「闇夜のカラス」と紳士風につぶやくと、男は「5分後にデッキで」と言い残して去っていった。私は好奇心に勝てずデッキに出るといきなり電気が消え、何者かに頭を思いっきり殴られてしまった。


Anthologyのメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -