赤に捧げる殺意
角川文庫

砕けた叫び    
有栖川有栖
零細な探偵事務所を経営する木内聖治が自宅のマンションで殺された。木内の事務所とマンションは隣同士で、夜10時過ぎに木内の助手であり、事務所の唯一のメンバーである湯田賢が電話をしたところ、木内の部屋に人の気配を感じた。
湯田が問いかけると木内は顧客とトラブルになり、顧客に怒鳴り込まれているらしかった。気配を察した湯田は木内のマンションに駆け付け、そこで木内の死体を発見した。
死因はナイフで胸部を刺されたことによる失血死で、手には部屋にあった陶製の人形握っていた。人形はアメリカ製で、ムンクの叫びを模したもので、粉々に砕けていた。とても反撃に使えるようなものではなく、ダイイングメッセージと考えられた。
木内の事務所では調査報告の内容を巡って坪井華江と、調査料金を巡って犬養喬浩と、そして調査対象者と木内が交際を始めたことで乾健助と、それぞれトラブルになっていた。事件の経緯から犯人はこの3人の中にいるようなのだが…

トロイの密室    
折原一
奥秩父の山中にある古い洋館。土建業者の土呂井竜蔵は、昔の雇い主の柴崎から借金の方にこの屋敷を奪い取った。柴崎はそれを恨んで、「必ずおまえを殺す」という脅迫状を土呂井に送りつけてきた。
脅迫状の指定の日、土呂井は地元の町長と町長の腰ぎんちゃくで土呂井の商売敵玉川光男らを招いてパーティを行った。すると柴崎から棺桶が宅配便で送りつけられる。
やがて雪が降り始め、町長も玉川も洋館に泊まることになった。深夜、洋館の呪われた部屋と呼ばれる、もともとダンスホールとして使われていた部屋に泊まった玉川が、死んでいるのが見つかった。
玉川の部屋は内側から鍵が掛った密室で、柴崎が送りつけてきた棺桶が何故か入れられており、その棺桶を開けてみると柴崎の死体があった。さらに土呂井竜蔵も密室状態の自室で死んでいた。3人の死者を前に呆然とする一同…

神影荘奇談    
太田忠司
喫茶店にいた若い男は、ひどく顔色が悪く、コーヒーカップを見つめてはため息ばかりついていた。その男が店に入ってきた狩野俊介が少年探偵と知ると、忌まわしい館の話を聞いてくれと懇願してきた。
瀬戸祥造とうのが男の名で、山奥の田舎から大学に入るために都会に出てきていた。ところが都会になじめずに、よく周辺の田舎町に出かけては故郷を懐かしんでいたが、ある日のこと丹名瀬という鄙びた村に行き、山道を歩いていて迷子になってしまった。
やがて日が暮れてきたが、心は焦るものの一行に道がわからない。そんなとき目の前に西洋館が現れ、それを見たとたんに気を失ってしまった。次に気が付いたのは長椅子の上だった。どうやら瀬戸は西洋館に運び込まれたらしい。その西洋館は神影荘といった。
だが、その西洋館で起きるのは奇怪なことばかりで、ついにそこに住んでいるのが人間ではないことがわかってしまった。そして瀬戸も彼らの仲間に入れられてしまった。鏡を見せられると、顔中毛むくじゃらで角が生えていたのだった。
鏡に映る忌まわしい自分の姿を見て再び気絶し、次に気が付くと目の前では殺人が起きた。それを見てまた気絶し、次に気が付いた時には戸外に横たわっていた。そこから逃げるように歩き、やがて丹名瀬の村人に助けられた。だがその村人は、村には西洋館も神影荘もないというのだった。

命の恩人    
赤川次郎
新幹線のホームから落ちた我が子を、線路に飛び降りて間一髪で救ってくれた男性がいた。その男性は名前も言わずに立ち去ったが、駅員の機転で下山浩二という名前と大手建設会社に勤めていることがわかった。
さっそく母親である久美子は礼に行ったが、なんと下山は先代社長の御曹司で、専務の地位にあった。気後れしながらもなんとか礼を済ませたが、後日その下山から変なことを頼まれた。
実は下山には藤原しのぶという名の恋人がいるのだが、なんとその人物は架空だというのだ。周囲から結婚をせっつかれて、窮余の一策ででっち上げたものだという。下山の頼みとは、今度下山家で行われるパーティに、しのぶ役で出席してほしいというものだった。

時計じかけの小鳥    
西澤保彦
高校1年の高木奈々が、小学校からの同級で親友の栗田満智子と下校途中、久しぶりに三好書店の前を通った。三好書店は、彼女たちが小学生だった頃に、よく立読みをしては店主のタヌキさんにはたきで追い払われた思い出が懐かしい店だが、中学以降通学路が変わってしまってからは、まったく行くことがなかった。
その懐かしい書店に立ち寄ろうとすると、なぜか満智子がいやな顔をし、代わりにお好み焼き屋に誘った。付き合った奈々は帰りに三好書店により、そこでクリスティの文庫を買った。かなり古い版で、今の店主でタヌキさんの息子のパンダさんはやる気がなさそうに袋に入れた。
家に帰ってページを繰ると、なかから1枚のメモが現れた。すべてカタカナで「ミヨシショテンニコレヲウレ」と書かれていた。そして一番最後のページにはメモ的な書き込み。しかもその書き込みは、筆跡や特徴から奈々の母親のものだった。
それから奈々の回想が始まった。たしか三好書店では、奈々が小学4年のときの5月14日にタヌキさんが店番中に心不全で死んだはずだ。なぜそれを覚えているかというと、その日奈々は学校をさぼり、満智子の家で同級生4人で遊びほうけていた。そして夕方、家に戻ると母親が激しく怒り、ぶたれたのだった。
後にも先にも母親にぶたれたのはその時だけだった。そしてそれが引き金になって、奈々の教育方針を巡り両親が対立し、奈々が小学6年の時にとうとう離婚してしまったのだ。今日、三好書店で買ったクリスティの本の書き込みには、その日に購入したことが記されてあったのだ、それも母親の字で…

タワーに死す    
霞流一
特撮怪獣映画「クツルー来襲 砂漠の決戦」の撮影現場。屋外に作られた東京のミニチュアオープンセットに建つ高さ3メートルの東京タワー。そのてっぺんに死体が突き刺さっていた。特撮監督横谷倫造の死体だった。
横谷の死体は頭に殴られた跡があるものの、直接の死因はタワーに刺さったためだった。しかしタワーの周りは基本的に砂地。脚本では砂漠化した東京で行われる怪獣決戦だから、きれいに砂がならされいた。そこには足跡ひとつなったのだ。どうやって犯人は横谷の死体をタワーに突き刺したのだろうか。

Aは安楽椅子のA    
鯨統一郎
探偵事務所への依頼は被害者の首を捜してもらうこと。被害者は足立原昌男という38歳の会社員で、典型的な仕事人間だった。昌男の死体は多摩川の支流で発見されたのだが、首がなかった。犯人もわからず、首も見つかっていない。
昌男の家族は妻の伸絵と高校生の娘の真由。依頼してきたのは真由だった。真由は伸絵が犯人であることに確信を持っていた。伸絵には誰かはわからないが愛人がいるというのだ。そして目的は保険金。たしかに昌男は3千万の生命保険に加入したばかりであった。

氷山の一角    
麻耶雄嵩
名探偵メルカトル鮎の提案で、ワトスン役の美袋がメルカトルと役回りを交換することになった。メルカトルのもとにつてを頼って殺人事件の依頼が舞い込んだのだった。
事件は芸能プロで起きた。マネージャーの灘儀という男が、事務所で殺されダイイングメッセージを残していた。そのメッセージは被害者が自身の血で書いたもので、4つの十字だった。
被害者の担当する中にフォー・クルセイダーズという4人組のコント集団があった。まさに4つの十字そのもの。張り切った美袋はさっそく事件現場を調べ、容疑者であるフォー・クルセイダーズのメンバーをひとりづつ呼び込んだのだが…


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