不可能犯罪コレクション
原書房

密室殺人大百科の続編として二階堂黎人が編んだ、密室をはじめとする不可能犯罪の饗宴。
佳也子の屋根に雪ふりつむ    
大山誠一郎
佳也子は恋人との仲を裂かれ、そのショックで元日の朝にフラフラと家を出て、結局福島県のある町の雑木林で睡眠薬自殺を図った。ところが佳也子を助けてくれた人がいた。近くで医者をしている香坂典子という女性で、典子は佳也子を自分の病院に担ぎ込んでくれた。
1月3日の朝、佳也子は目が覚め、その日一日典子はほとんどの時間を佳也子の側で過ごしてくれた。雪の降りやんだ夕方、スーパーに買い物に行き、その後夕食を食べさせてくれた。しばらくして佳也子はまた眠りについた。
再び目覚めたのはノックの音だった。警察が来ていた。なんと典子は自宅部分のキッチンで殺されていた。しかも雪の上に残るのは、夕方買い物に行った典子の往復の足跡のみ。当然のごとく佳也子が疑われることになり、警察に連行されたが、そこに密室蒐集家なる謎の人物が現れ、佳也子は犯人ではないと言い出した。

父親はだれ?    
岸田るり子
妊娠3ヶ月の大学講師竹脇七菜代は、実験室でふと転寝をしてしまったが、そのときにいやな夢を見た。高校時代の親友高田龍子が夢のなかで「私は殺された」と訴えたのだ。
高田龍子は高2の時に、学校内で飛び降り自殺をした。ちょうど七菜代は、ほかのクラスメート3名とともに英語の補習事業を受けていて、そのときに自殺したのだ。
落ちていく龍子を教師の竹脇が目撃をし、大声を上げた直後に大きな音がした。全員が窓に駆け寄り下を見下ろすと、そこには龍子が倒れていた。後でわかったことだが、龍子は妊娠3ヶ月だった。
クラスメートで親友の大庭幸子に宛てた遺書のような手紙があり、警察は龍子が飛び降り自殺を図ったと結論した。その後、七菜代は英語教師の竹脇と結婚し、やっと子供を授かったのだが、夢に龍子が現れたのだ。気になった七菜代は当時のことを調べなおすことにした。

花はこころ    
鏑木蓮
京都岡崎にある観音能楽堂では成宮玄治演じる舎利が舞われていた。成宮家は、かつては観音流の宗家も一目置いていた玄蔵が年齢と糖尿病の悪化で一線を退き、長男の玄一郎が相続することになっていた。
しかしこれは形式的なもので、次男の玄治の方が実力、人気とも遙かに玄一郎を上回っていた。玄治の名が出ただけで、能楽堂は満席になるとまで言われていた。今、その舞台上で玄治が能を演じ、観客を魅了していた。
ところがその玄治が舞台上で突然のけぞり、駆け寄った弟子に抱えられて退場していった。首を刃物で刺されて倒れたのだ。救急車で運ばれたものの玄治は死去した。衆人環視の能舞台の上で行われた凶行だった。

天空からの死者    
門前典之
企業誘致に失敗した工業団地、しかも雨の降る夏休み期間中とあっては、ほとんど人はいない。そんななか水谷テントの事務所棟の屋上から人が飛び降りた。飛び降りたのは技術開発室長の中神。
もっとも飛び降りたと言っているのは、元社員の佐久間という男だけで、佐久間はずっと無断欠勤していて解雇されていた。その佐久間がいきなり事務所棟に飛び込んできて、アラームが鳴り響いた。
佐久間は出勤していた社員に取り押さえられたが、その際に「中神室長が屋上から飛び降りようとしている」と叫んだのだ。たしかに中神は飛び降りたらしい。墜落死した死体が外にあった。だが、屋上へのドアは施錠され、そのドアを開けることができる鍵はすべて所在が分かっていた。中神が屋上へ出ることはできなかったのだ。

ドロッピング・ゲーム    
石持浅海
この国の小学校では6年の3学期に、教育委員会が強制的に決めた進学先が告げられる。もちろん本人も保護者もそれに逆らうことはできないし、社会もそれを認めている。むしろそれが、この国を世界一流の経済大国に押し上げた原動力と考えられた。
大きく進路は3つ、ごく一部のエリートは海洋学校に行き将来の政府や経済界の中枢を担う、大部分の生徒は普通科に進学し中学卒業時点で改めてふるいにかけられる、そして残る生徒は職業訓練中学に行き、生涯を単純な労働に捧げる。そのほかに特別な才能を持つ生徒は、体育選抜と芸術選抜として将来のオリンピック金メダリストや芸術家を目指す道が用意されていた。
さて米国人教師ヒルが担任するクラスでの仲良し4人組の進路は、旭奈津美が普通科、石田桃子が体育選抜、金崎啓介が海洋、宮村翔一が普通科だった。エリートの啓介と、スポーツ万能の桃子は全く問題がない予想通りの結果だ。
また容姿抜群の奈津美も、希望である将来のスターを目指すためには普通科への進学が必須であった。問題は翔一だった。翔一は努力家だったが、いつも啓介に負けその後塵を拝していた。翔一自身は海洋を希望していたようだが、それはかなわぬ夢だった。
案の定、翔一はショックを受けたが、啓介、桃子、奈津美にフォローされ、立派に立ち直った。その翔一が、卒業式の前日に屋上から飛び降り自殺した。屋上には翔一と啓介がいて、卒業制作の垂れ幕を降ろしていたが、突然翔一が手すりを乗り越えて飛び降りたのだった。
その様子は校庭にいた多くの生徒や教師が目撃していたし、そのなかには垂れ幕をチェックしていたヒルや桃子や奈津美もいた。屋上にいた啓介は、翔一から10メートルほど離れて別の垂れ幕を降ろしていて、とても止められなかったのだ。しかしショックから立ち直った翔一は、なぜ自殺などしたのだろうか…

「首吊り判事」亭の奇妙な犯罪    
加賀美雅之
英国のシャーウッドの森のそばにあるアルフレッド・ハーボットル卿の邸で起こったのは、奇怪な二重殺傷事件だった。まず邸に付随する礼拝堂で、毎週日曜の夜に行われる家族だけの礼拝の後、今日の美貌の後妻が暗殺者の短剣と呼ばれる、代々伝わる短剣で刺殺されたのだ。
しかもそのとき内部から密閉された礼拝堂の中には、被害者のほかに3人の目撃者がいた。被害者が神父の忘れ物を取りに祭壇に向かっていると、突然短剣が飛んできて、それが被害者の喉笛に突き刺さったのだ。
当日、風邪で寝ていて礼拝を欠席した卿は、話を聞いて憔悴し、礼拝堂の一室に暗殺者の短剣とともに籠った。部屋の窓と扉は内側から施錠し、さらに扉の隙間には目張りまでするほどだった。数日後、今日はやはり部屋の中で短剣を喉笛に刺さされた状態で絶命していたのだった。
短剣を卿の喉笛に刺し貫いた力はものすごく、その切っ先が喉を貫いて反対側に出るほどであり、とても自殺とは考えられなかった。卿は明らかに密室の中で何者かに短剣で突き殺されたとしか思えなかった。


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