「シュピオ」傑作選
光文社文庫

幻の探偵雑誌シリーズ3
暗闇行進曲    
甲賀三郎
作曲家として世に立つ希望を捨てた芸術家田崎重次郎のもとに、ある日突然訪ねてきた花売娘相川ユミ子。それがきっかけで2人は同棲を始めたが、田崎は不治の病に罹っていた。それがユミ子のしるところとなったのだが、ユミ子は献身的に世話をし、花を売って生活費にしていた。だがである、田崎は疑惑を抱いた。いったい花がそんなに売れるものなのだろうかと…

執念    
角田喜久雄
東京帝大医学部を卒業した医師である私は、ある町の大きな病院の外科に勤め、いよいよその病院を去ることになった。送別会が終わったあと、私のもとにある女がやって来た。酔った勢いもあり、最後はその女性の二の腕に強い接吻をして別れたが、それから1年後新たに勤めた東京の病院に、その女性が訪ねて来て二の腕を出し、手術してくれというのだった。

猪狩殺人事件    
蘭郁二郎ほかの連作
初出時には覆面作家として登場したトップランナーはのちに小栗虫太郎と明かされたが、以下9名による連作。一人あたりの紙数が少ないこともあり、筋の展開は無理筋というよりバトンを受けて次につないだだけで、中だるみも酷い。小栗虫太郎も全体を通した評で、嘆いている。
舞台は北海道の新興の炭坑町猪狩で、本線の松音内駅との間に短い松猪軽便鉄道が通っている。人口は約5万もあるから、街の規模だけをとればかなり大きい。その町の牧師蒲原道平の娘笹尾が殺されるという事件が発生した。
そこに向かう検事の車に、地元新聞の記者田母澤が強引に乗り込むところから物語は始まる。その車の中で松猪軽便鉄道の機関車の汽笛を聞くのだが、なぜかダイヤより7分早く運行されていた。どうしたことかと思っているうちに殺人事件の現場へ。
笹尾は死ぬ間際にいわゆるダイイングメッセージを残していた。鉛筆でカタカナ書のクスの2文字。笹尾周辺には3人のクスがいた。好色な医師の楠川、軽便鉄道の機関手矢吹久壽夫、白系ロシア人のクスターロフだった。
当然この3人を中心に捜査が始まるはずだが、そこに登場するのが探偵作家大月蘭亭。アリバイを調べてみると楠川医師は松音内に滞在中、矢吹は非番で寝ており、クスターロフはバーオーロラで飲んでいたというのだが…

白日鬼    
蘭郁二郎
物書きで生計を立てている私は、銀座の喫茶店ルージュでたまたま若い女性と相席になった。その女性は、いつも小説を書きながら思い描く理想の女性であり、しばしの間見とれてしまった。すると女性は突然立ち上がり、私を無視してレジに向かっていった。
それを見て、ふと現実に引き戻される私だったが、彼女の去ったテーブルを見るとそこにはしわくちゃなメモ書きが残っていた。メモの内容は、父上は危機に瀕し、それを解決するには五時にルージュにてとあった。脅迫状だった。
さて私はルージュを出ると、その女性のことを思いながら暗闇横丁に向かった。そして一発の銃声で現実に引き戻された。第百ビルと名付けられたビルの3階か4階あたりから聞こえた。反射的にビルの入口に向かうと、そこで警官に出くわした。
警官も銃声を聞いて駆けつけてきたようだった。2人でビルの中に入ると、エレベーターは3階で止まっていた。どうも事件は3階で起きたようだ。私は階段、警官はエレベーターで3階に向かう。私がちょうど3階に着いたとき、4階から管理人が降りてきた。
3階の事務所の扉には、兜島新興株式会社と記されていたがドアには鍵がかかっていた。管理人が合鍵でドアを開けると、そこにはピストルで射殺された死体がひとつ。兜島新興の社長海老澤達爾氏だった。そして暫くしてわかったのだが、喫茶ルージュの謎の女性は、海老澤氏の令嬢美可子だった。

夜と女の死    
吉井晴一
私は恋する彼女を描くことによってのみ、芸術に対する喜びを覚え、生きがいを感じるのだった。やがて彼女の永遠の姿を望み、死を願うようになった。

柿の木    
紅生姜子
作者の紅生姜子(べにおしょうこ)は、のちに「鯉沼家の惨劇」を発表する宮野叢子のこと。
サダは子供のころから失敗をするたびに殴られたうえ、「お前を馬鹿にしたのは、あの柿の木だ」と庭にある柿の木を指さされてののしられた。いつか子供心に柿の木を切り倒そうと包丁を打ち付けていた時も、見つかった母親に折檻をされた。
以来サダは自分から馬鹿だというようになり、それ以外はほとんど口を利かなくなった。母親だけでなく弟妹からもののしられるようになったが、サダは何も言わなかった。
やがて年頃になったサダは、町に奉公に出されることになった。態のいい厄介払いだし、サダもそれを理解したが、何も言わずにしたがった。奉公先ではサダは可愛がられ、与えられた子守の仕事をこなし、赤ん坊もサダによくなついた。そんなある日のこと…

街の探偵    
海野十三
キップの装置と毒瓦斯の2篇。ある建物で天井からの音にキップの装置とつぶやいた帆村探偵は、電話の音に脱兎のごとく建物を飛び出した。そして数分後に起きたことは…一方、日本飛行科学研究所の密閉された室内で、一心不乱に研究していた7人が瓦斯にやられて死んでしまった。


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