不条理な殺人
祥伝社文庫

月刊「小説non」に掲載された作品のアンソロジー。
モルグ氏の素晴らしきクリスマス・イヴ    
山口雅也
カナダ移民で、長らくシカゴで葬儀屋に勤めたモンタギュー・モルグは、一念発起してロンドンに移り住み、子供の頃からの夢だった小説家への道を歩み始めた。そしてついに「愛と哀しみのベラドンナ」という作品が出版され、あっという間にベストセラーになった。
ほぼ一昼夜で、押しも押されもしない大作家になったモルグは至極満足で、その年のクリスマスの日、交際していた女性を部屋に招き、プロポーズする予定でいた。今までの一人さびしく迎えたクリスマスとはおさらばだった。
だが彼女が来る直前、シカゴ時代の友人が訪ねて来て部屋でピストル自殺し、さらにエージェントがやって来て毒入りワインを飲んで死んでしまう。何とか死体を隠したモルグだったが、そこにやってきた彼女は…

暗号を撒く男    
有栖川有栖
広い自宅に住んではいるが、結婚しそびれ中年に差し掛かってしまった男。本人には結婚願望があったが、生真面目で不器用で、それが婚期を逸した理由というのが周囲の評。
その真面目男が会社を無断欠勤し、会社の人間が様子を見に行ってみると、少し開いたカーテンの隙間から、鋏を喉に刺されて血まみれになって絶命していた男が見えた。
男の家には廊下に牛革の鞄が置いてあったり、キッチンのテーブルにこけしが2つ乗っていたり、リビングに鋏が二丁置かれていたり、和室の床の間には皿が2枚飾られ、寝室の枕もとには破魔矢があり、トイレにはウールのセーターが畳まれてという具合に、なぜこんなものがこんなところにという状態だった。いったい、これらの不可思議な品物の意味するところは…

ダックスフントの憂鬱    
加納朋子
飼い猫が足を切られるという事件が立て続けに起きた。いずれも鋭利な刃物でスパッと足を切られていた。獣医によれば人為的に傷をつけられたものだという。そういえば野良猫も怪我をしていたようだ。
飼い猫はともかく、野良猫の方は人になつかず、刃物を持った人間が近づくことなどできないはずだった。いったい誰が何のために猫を傷つけるようなことをしているのだろうか。

見知らぬ督促状の問題    
西澤保彦
MMハイムに暮らす安槻大学の女子学生は5人いたが、家賃滞納の督促状が順番に送られてきた。その督促状は偽物で、宛名もなく、差出人もいつもとは違っていた。督促状をもらった4人目が広末倫美。
偽督促状は数日起きに出されていて、今までもらった3人は管理事務所に問い合わせ、偽物とわかったという。その情報を得た倫美は問い合わせ自体はしなかったが、気味が悪く安槻大の主であるボアンこと辺見祐輔に相談した。
そこで出され結論がすごかったのだが、その夜、まだ督促状をもらっていなかった唯一のMMハイム在住安槻大の女子大生篠原明子が、部屋で殺されてしまった。

給水塔    
恩田陸
幹線道路からそれた人通りのあまりない住宅街の一角に、ひっそりと建つ給水塔があった。散歩仲間の時枝満に誘われてやってきた関根多佳雄は、満から給水塔の怪異談を聞かされた。
最初は雨の降る夜、自転車の乗った老人が車に接触した事故だった。老人は給水塔に鬼を見たと証言し、それを見て思わず道の真ん中に飛び出して事故をおこしたという。
次は給水塔の裏手に住む主婦だった。給水塔の裏手はかなりの坂で、そこには急な石段がついていた。ある朝、主婦は階段の上から転落死したのだった。そしてその次は小学生だった。
小学生は突然行方が分からなくなったのだが、その直前に給水塔で人魂を見たと言っていた。ここに至って給水塔は人喰い給水塔と呼ばれるようになり、付近の住宅では自警団を作って自主的な見回りを始めたというのだ。

眠り猫、眠れ    
倉知淳
幼いころに母親と離婚した父が死んだと警察から知らせがあった。犯人はわかっていた。父親はギャンブルに凝り、暴力団からの借金もあった。その借金を巡るいざこざで、組の若い者に殺されたらしい。
だがひとつわからないことがあった。父親はナイフで刺され、苦しい中を這って近くの神社まで行き、しめ縄を体に巻きつけて息絶えていたというのだ。なぜ、そんなことをしたのだろうか。
とはいえ顔する覚えていない父親のことなど、死んだからといっていまさら気に掛けることもない。それより買っている猫が、老いて今にも息絶えそうなのだ。そんなとき力なく眠っているはずの猫が行方不明になった。

泥棒稼業    
若竹七海
ミチルと美嘉の泥棒コンビは、美嘉のドジで失敗ばかり。その日も美嘉が得た情報と段取りで会社社長宅に骨董を盗みに入ったものの、いないはずのドーベルマンに追いかけられて、ミチルが大怪我をした。
しばらくして会社社長と骨董屋が仕組んだ骨董盗難保険金詐欺に嵌められていたことが判明、怒り心頭のミチルと美嘉は社長に復讐することに。その場は社長が富士山麓にある別荘で開く還暦祝いの野外大パーティの場と決めた。

かぐわしい殺人    
近藤史恵
今泉文吾探偵事務所に現れた主婦大西真理恵の依頼は、夫の宗治の浮気調査だった。浮気の相手は真理恵の同級生であり親友でもある中川亜希子。調査自体は浮気している2人に全く警戒心がなく、ごく簡単であった。
調査報告を聞き終わった真理恵は、亜希子が宗治に弄ばれているという妙な感想を漏らし、亜希子のために宗治と別れさせてくれと頼んできた。

切り取られた笑顔    
柴田よしき
人もうらやむほど幸せな結婚生活を送る奈美は、友人の亜佐子に誘われてネットカフェに初めて入った。パソコンなどほとんど触ったこともない奈美だったが、ネットの面白さにたちまちはまり、ホームページを作りたいとまど思うようになった。
仕事を辞めたばかりだった亜佐子は、そんな奈美の相談に乗ってパソコンの購入から設定、さらにはホームページの作り方まで教えた。奈美も覚えは早く、いつしか奈美のページは、かなりの人気ページになっていた。そんなある日、ある女性から相談のメールが寄せられた。内容は不倫をしているというものだったが…

トゥ・オブ・アス    
法月綸太郎
真宮涼一は、街中で思いもよらず女性に声をかけられた。無口で友人もなく、大学院で研究一筋の涼一に女性が声をかけるはずはないと、涼一自身も思っていたが間違いなかった。女性は木下悠子、高校時代の同級生だった。
この出会いをきっかけに涼一と悠子は交際を始めたが、ある日のこと新聞を開いた涼一は驚愕した。北沢靖子という女性が殺され、ルームメートだった木下悠子が犯人らしいと書かれていたのだ。だが殺された北沢靖子の写真は、涼一が交際している木下悠子のものだった。


Anthologyのメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -