鉄道ミステリ傑作選
フタバノベルズ

昭和62年に鮎川哲也の編集で出版された、未発表やオリジナルなどを中心とした12篇で、比較的レアな作品が多い。
東京市電牛込見附停留場    
長谷川卓也
戦時中に大阪の我が家に居候していた父の知り合いの土井という男から聞いた話は、子供心にも嘘としか思えない話だった。土井がまだ東京にいた明治の終わりころ、当時の東京電気鉄道牛込停留所で電車を待っていたのに一向にやって来ない。
土井は電車でやって来るはずの人を待っていたのだが、1時間待っても電車が来ない。あきらめて帰ってしまったが、なんと電車一両は乗客もろとも行方知れずになってしまったというのだった。

汽笛    
牛島龍介
船乗りの俺の相棒は、その航海中に毎夜同じ夢を見た。線路に向かって歩いていると汽笛が鳴るのだ。しかも一晩経つごとに相棒は線路に近づいて行くのだ。相棒は恐れた。このままでは記者に轢かれてしまう。だが相棒は勝った。轢かれなかったのだ。だが、その晩相棒は船から落ちてしまった…

二つの時計と一つのとけい    
枝入君江
列車の中で私の向かい側に座った40歳過ぎの中年男性は、箱に入った2つの婦人物の腕時計をしげしげとながめ、なにやら考え込んでいる様子だった。それをいぶかしげに見る私に、男は理由を話し出した。男の妻が叔父を殺害した容疑で逮捕されたが、その容疑を晴らす証拠の品がこの時計なのだという。
男の妻は同じ時計を2つ持っており、そのうちのどちらか1つをして叔父の家に行った。そこには見知らぬ女がいて、その女が妻の時計に興味を持ち、その時計を借り受けて指紋をつけたというのだ。その時計が判別できれば、少なくとも妻のほかにも容疑者がいるということになる。男は妻のしていた時計を特定するために、列車に乗っているのだという。

あのひばりを狙え!    
峰村潔吾
その日は東北本線郡山〜白河間に爆弾を仕掛けたという電話があり、安全確認のために東北本線のダイヤが大幅に乱れていた。上野11時19分着の特急ひばり2号も郡山駅で足止めを食い、2時間ほど遅れた13時20分に上野に到着した。
折り返しの清掃作業に入ったひばり2号であったが、今度は1号車後方にあるトイレの中から若い男の死体が見つかった。他殺死体だった。死体はサラ金に勤める酒井という男で、警察の捜査の結果前夜まで仙台にいたことが分かった。
酒井は松川、辻というが学生時代の友人とともに前々日から仙台入りし、辻は1泊して盛岡の実家に帰り、松川と酒井は2泊した。その日の朝、松川は1本早い特急ひばり1号で帰京、酒井はひばり2号に乗った。そして松川と辻は酒井の勤めるサラ金から金を借りており利息すら払っていなかった。
警察は動機の面から松川と辻に疑いを向けた。だが2人にはアリバイが成立した。松川も辻も酒井が殺されたひばり2号には、どうやっても乗れなかったのだ。

希望のともしび    
佐々木清隆
老人は自分の家への帰り道にいつも線路を横断する。その日も線路を横断しようとして、そこに男が体を線路に紐で結びつけて横たわっているのを発見した。男は自殺したがっていて、自分で自分の体を線路に縛り付けたのだった。そこで老人は…

鉄路の殺人    
木蘇穀
昭和初期、濃霧のある早朝、千葉県市川の総武鉄道の線路際に男の轢死体があるのが発見された。近くに住む馬喰の松村重助が近道して線路際を歩いていて発見したのだった。死体は首が切断されて土手際に転がり、明らかに汽車に轢かれたものであった。
死体は東京神田にある矢野商店の主人矢野欽次郎のもので、欽次郎は前夜妾のお千代の家を出てから車を雇い、ひとりで市川までやって来たことが判明した。その日の始発はまだ走っておらず、前夜の上り最終列車に轢かれたものと思われた。
最初は鉄道自殺とも考えられたが、ここに2つほど不自然なことがあった。ひとつは死体のそばまで靴跡があったこと。この靴跡は前夜雨が上がったあとでつけられたものであり、欽次郎は下駄をはいていたので欽次郎のものでもない。そしてもう一点は欽次郎が所持していたはずの大金が消えていたことであった。

遠ざかるモロッコ    
雨貝夕
ラッシュの中央線下り電車の車内でエリカは強盗にあった。数人の男たちがエリカの周りを取り囲み、ひとりが刃物を突き付けてエリカのバックの中から金を出させた。周囲の乗客たちは男たちによって巧妙に隔離され、誰も気づかない。新宿〜中野間の短い間の出来事であった。
男たちは中野駅で降りたが、主犯格の男は最後までナイフを突きつけ、ドアが閉まる寸前に電車を降りた。その時にエリカは男の尻ポケットから財布を抜き取った。それから数日後、中央線の朝ラッシュ車内で、男がナイフで背中から心臓を一突きにされ殺され、さらに一週間後には別の男が同じように殺された。

夜行列車    
平野健爾
青森から上野に大雪の中を驀進する夜行列車の二等車内で盗難事件が発生した。杉本という有名な実業家が、重要書類と金の入った黒鞄を盗まれたのだ。氏も用心はしていたが、つい向かいの席に腰かけた男に酒を勧められ、飲んで居眠ってしまったわずかの間のことだった。
男は氏の鞄を持って、何食わぬ顔で山間の小駅であるT駅で降りたという乗客の証言があった。すぐに車掌が手配をしたが、T駅では二等から降りた客は誰もいないという。ほかの駅にもあたってみたが、同じであった。そのうちに便所がずっと使用中だということが分かった。そこで鍵を破って入ってみると、窓が壊されていた。男はT駅で降りると見せかけて便所に入り、走行中の車内から雪原に飛び降りたようだった。

階段    
泡坂妻夫
その私鉄の小駅の跨線橋から、連続して人が転落した。終電間近、最後に橋を渡って階段を下りる途中で足を踏み外して転落するのだ。転落者はすべて酒に酔った中高年で、メガネをかけたり老眼だったりと共通点があった。すでに5人もが転落し、4人が死亡していた。ここまで続くと偶然とは考えられなかったが…

満員電車    
青柳竜一郎
終点の新宿駅に到着する直前の朝の満員電車の車内で、ひとりの乗客が死んだ。東洋物産の車両部の武井次長で、外傷はなく病死と思われた。ところが武井次長は病死ではないというタレコミがあった。しかも東洋物産は某国の地下鉄を巡るリベート問題で大揺れに揺れ、その中心人物の一人が武井次長だったのだ。

さらば愛しの者よ    
坂井薫
ゆきは恋人の勝間とともに、勝間の同僚柳瀬の住む下宿を訪ねた。その帰路、ゆきと勝間は積もった雪の上を2人で歩いていたが、とつぜん勝間が忘れた用事を思い出し柳瀬の下宿に戻った。少しして戻って来た勝間とともにゆきはまた歩き始める。
それからしばらく歩き鉄道が大きくカーブする踏切近くで2人は立ち止まり、話をし、抱き合った。が、その直後に再び勝間がそわそわしだした。尿意を覚えたのだ。勝間は恥ずかしそうに雪に断り、少し離れた川淵に行ったが、そこで叫び声をあげた。河原に男の死体があったのだ。その死体はなんと柳瀬のものだった。

駅猫    
上田廣
国鉄台栄線の終点は栄駅、その一つ手前が美田、さらに手前が椎という駅である。ある朝、椎駅近くの小松山に女の死体が遺棄されているのが見つかった。その死体は美田駅前で運送店を経営する安田健吉の妻春枝のものだった。春枝は死ぬ直前に暴行された形跡があり、死因は首に巻きつけられたマフラーによる絞殺、死体からはかすかに石油の匂いがした。
捜査の結果、安田は病弱の妻を思う優しい夫であったが、そのライバルがいることが分かった。黒崎順三という椎町で金物店を経営する男で、春枝に横恋慕していたというのだ。しかも黒崎の店では石油も扱っていた。警察は黒崎がくさいと睨むのだが…


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