名探偵13人登場
ベストセラーノベルズ

昭和50年に中島河太郎の編集で出版された、金田一耕助、神津恭介、星影竜三、加賀美警部、陶展文など名探偵13人による推理。
夢の中の女    
横溝正史
大勝利というパチンコ屋で働いている本多美禰子は、空想癖が強いことから、漫画の主人公の名をとって「夢見る夢子さん」とあだ名されていた。その夢子さんが、廃屋の中で殺されているのが発見された。その廃屋は美禰子の姉田鶴子が住んでいたところで、美禰子は何者かに誘い出されて殺された。
しかも犯人は美禰子を誘う出す方法として、金田一耕助の名を騙ったのだ。田鶴子はかつてある男の妾として養われていたが、ある夜に庭を散歩していて、やはり何者かに殺害された。死体のそばには蛍がたくさん入ったランタンが転がっていた。田鶴子は蛍の明かりで夜の庭を散歩しているときに、襲われたらしい。
その事件を機にパトロンは離れ、美禰子も経済的に困り果てて、今はパチンコ屋勤めをして糊口をしのいでいた。だが美禰子は姉の敵には執念を燃やし、パチンコ屋の客でもある金田一耕助に田鶴子殺しの犯人を捜してくれるように頼んでいた。今度の事件の犯人は、その金田一耕助の名で、殺された姉と同じ格好をして廃屋に忍んでくるように手紙を出したのだった。しかも思わせぶりな新聞の切り貼りの手紙だった。

怪奇を抱く壁    
角田喜久雄
終戦からしばらくしたころ、上野駅地階の食堂で加賀美捜査一課長はある犯罪を目撃した。ベレー帽を被った30代後半の男が食堂に入ってきて飲み物を頼み、直後に20代後半の国民服の男が入ってきて、最初の男の後ろに席をとった。
しばらくすると後から来た男が、前の男の持っていたトランクと自分のトランクをすり替えたのだ。前の男はそんなことも気づかずに、自分のとは違うトランクを持った出て行った。後の男はすり替えたトランクを持って出て行く。その後を加賀美が尾行した。
男は郵便局に入り、トランクを開けて包を取り出して包装し小包で送った。加賀美が宛名を盗み見ると、その小包は警視庁の加賀美宛に送られたものだった。翌日その小包が届いた。中から現れたのは100円紙幣で60万円。そして差出人には井手隆一郎と書かれていた。

X重量    
木々高太郎
大心地教授のもとに青柳幸次郎と名乗る人物から手紙が届いた。大心地の教え子で軍医になって戦死した鹿島藤吉のもとで衛生兵をしていたのが青柳で、このたび戦時中の日記を同封したので読んで感想をくれというものだった。こういう類の手紙には返事はしないのが慣例だったが、この青柳という男はのちに人間の死間と死後の体重を量り、その差が魂の重さであるという研究をしていることが分かった。
文章からいっても研究内容からいっても狂人とは片付けられず、しかもその研究は鹿島が指導していたという。一方警察の岡田警部は、最近自殺が立て続けに起き、どうもその自殺に青柳という男が裏で関係しているとみていた。青柳は闇で高利貸しをしており、自殺した人物は皆青柳から金を借りている身寄りのない人で、葬式一切は青柳が面倒を見たというのだった。

選挙殺人事件    
坂口安吾
三高木工所社長の三高吉太郎が衆議院議員選挙に立候補した。政策があるわけでも、地盤があるわけでもなく、演説もどこか間の抜けたものだった。従業員は応援に駆り出された。
だが当選する可能祭はゼロ。100票とれればいい方だといわれ、妻さえ馬鹿にする始末だった」。新聞記者の寒吉はこの話に興味を持ち、三高を追いかけることにした。
三高は会社のトラックを使って、娼街で演説したり、花見の中に飛び込んで一席ぶったりしていたが、いつもそこには目つきの良くない男がいた。寒吉はその男をサクラと踏んだが、ある日突然そのサクラが見えなくなった。
そして選挙が終わった。三高の票はわずか123票。選挙が終わると三高は選挙には全く興味を失ったがごとく、選挙関係のものをすべて処分してしまった。だが、寒吉はサクラの消失が気になって巨勢博士に相談することにした。

変化牡丹    
山田風太郎
西門慶の屋敷では、西門の6人の夫人と取り巻きたちが集まって酒を飲みながら談笑していた。そのなかで取り巻きの一人である画家に夫人の絵を描かせることになり、結局一番の美人を独りだけ描くことになった。そうなると候補は第5夫人の潘金蓮と第7夫人の楊艶芳の2人。
だが金蓮の方はさっぱり乗り気ではなく、最後は艶芳にゆずるほどだった。そしてアクセントに黒い牡丹の花を持った方がいいとまでアドバイスして、自らその花を艶芳に手渡した。艶芳も素直に礼を言い鼻に顔を近づけて匂いを嗅ごうとしたその時、花の中から大きな蜂が飛び出して艶芳を襲った。
艶芳は蜂に刺されたところから毒が回り、顔は腫れ上がってみるも無残な有様。半狂乱になって金蓮を恨み、鋏を持って金蓮を襲おうとするのを皆で押しとどめるほどだった。西門はじめ皆も不愉快になるばかり。そしてついに金蓮は艶芳に自慢の髪をズタズタに切られてしまった。
その翌日、どうしたことか艶芳はしおらしく反省した様子で皆の前に現れた。一方金蓮の方は髪を切られたショック部屋に籠った。しおらしい艶芳に皆は酒を進め、和解の意味を込めて皆も酒を飲んだ。直後に艶芳は苦しみだし部屋を走り出た。皆が追いかけると艶芳は自室の前で倒れていた。毒を飲まされたらしく、すでに息はなかった。誰かが酒に毒を仕込んで、艶芳を殺したとしか思えなかった。

電話でどうぞ    
島田一男
南郷弁護士のもとに暴力団田宮組の組長田宮十兵衛から遺言状を作成してほしいとの依頼があった。最初は躊躇した南郷も、依頼に応じることにして田宮組長に会いに行き、遺言状作成依頼を正式に引き受けた。田宮組には大福こと太田福之助、団十郎こと小芝辰五郎、田宮の娘の勝代、田宮の情婦のお葉の4人の副組長がいた。
遺言状の下打合せが終わり、田宮の意向に4人の副組長は同意し、南郷も事務所に戻った。それからしばらくして田宮から南郷のもとに電話が架かってきた。そのときに電話の背後で銃声がた。誰かが撃たれたらしい。南郷も受話器を置き田宮組に駆け付けた。
田宮組の事務所はパチンコ屋の上で、内部の階段を上がって入るようになっていた。拳銃で撃たれ、その階段から転げ落ちてきたのは大福だった。だが不思議なことにパチンコ屋の客は誰一人として大福以外誰も階段を下りてこないと言い、一方事務所で電話をかけていた田宮は、誰も階段を上がってこなかったという。いったい誰がどうやって大福を撃ったのだろうか…

赤い痕    
仁木悦子
仁木雄太郎と悦子兄妹は、秩父に住むばあやの家に招待されたのだが、到着早々村で殺人事件があったことを知った。おかねという東京から9年ほど前に移り住んだ、独り暮らしのばあさんが、首を絞められた上に川に投げ込まれて死んだのだ。死因は窒息で、たすきに使っていた赤い腰ひもで絞め殺され、そののちに川に投げ込まれたのだった。
犯人はすぐに逮捕された。数日前から村に行商に来ていた戸垣という男で、事件の直前におかねと話をしているのを目撃され、手には赤い染料が付着していた。さらにおかねの手には、外れた戸垣のズボンのボタンが握られていた。戸垣を逮捕したのは、警官をしているばあやの息子で、ばあやは鼻高々だったが…

滝に誘う女    
戸板康二
竹野記者の同僚武井浩が京都で竹野や雅楽に会ったあとで立ち寄った清水寺で事件は起こった。夕刻で人気のない境内に佇んでいると、女が一人声をかけてきた。
武井はその女とともに音羽の滝に行き、そのまま坂を降りて坂下の茶店で2人で茶を飲んだ。女はバックから薬を飲むといいながら薬袋を取り出して、白い散薬を飲んだ。
その散薬が毒であることがわかったのは、女がその場に倒れて事切れ、警察が来てからであった。

砂とくらげと    
鮎川哲也
事件のあった出版社の寮の住人は、作家鮎川哲也夫妻のほか写真家今里利平、服飾研究家吉村徹子、元モデル水戸つね代の5人であった。
ある夏の日の午後のこと、昼寝から醒めた鮎川は、庭の片隅の木陰で今里とチェスをしていた。すると薔薇荘から水戸つね代がサングラスをかけ、日除けのストローハットにオレンジ色の艶やかなワンピースといういでたちで海岸に下りていった。
海岸にはいつもの習慣で既に吉村が日光浴をしているはずであったが、水戸と吉村は仲が悪く、昨夜もささいなことから激しい喧嘩をしていた。
心配した今里が様子を見に海岸に下りて行ってみると、そこには全身を電気クラゲに刺されてショック死した吉村と服の上からナイフを刺されたうえ頸まで絞められた水戸の死体が転がっていた。
沖合いには漁船が何艘も出ていて、海岸に近づいたものは誰もないない証言したし、陸側に戻れば鮎川たちのほかに芝を刈っている爺さんもいて、水戸のほかには海岸に降りていった者は誰もいない。
唯一の回答は吉村が水戸を殺し、その後クラゲでショック死したというものだったが、吉村は小児麻痺に罹っていて手が不自由であり頸を絞めるのは物理的に不可能。
吉村はショック死としても、水戸を殺した犯人は密室状態の海岸から煙のように消え失せてしまった。

縄の繃帯    
陳舜臣
瀬戸内海にある姉島に家族旅行に来た陶展文は、そこで旧知の原田刑事にあった。刑事は殺人事件の捜査中であった。事件の容疑者はアリバイを主張しており、そのアリバイというのが犯行時間に姉島の旅館にいたということだった。
事件は神戸で起きたから、数時間の空白があればアリバイは不成立だが、容疑者は犯行時間に姉島の旅館で撮った写真を証拠として示した。容疑者は18人の団体客の中のひとりで、写真は旅館の裏庭で18人全員が写っていた。時計も写しこまれており、その時刻はまさに犯行時間であった。
あとは日にちの問題だが、旅館の女中はその日その時刻であることを証明した。つまり容疑者のアリバイは成立している。が、どう考えても殺人を犯したとしか思えないというので、刑事が捜査に来たのだった。
陶展文も刑事から問題の写真を見せてもらったが、構図もめちゃくちゃだし、どう見ても下手な写真で、作為的なにおいがプンプンした。

アドリブ殺人    
都筑道夫
最近評判になっている地方劇団白馬座で、主役の女優花房ゆりが、劇団の稽古場でタイツ姿で殺されていた。花房はテレビの連続ドラマの主演が決まり、劇団としても期待の星だっただけに衝撃が大きかった。
調べていくにしたがって、誰も花房を殺す動機がないのだ。花房に嫉妬を抱く者もいないし、殺して得をする者もいない。一体誰が何のために花房に手をかけたのだろうか…

浮気する死体    
海渡英祐
死体があった現場は戸建て住宅の2階にある寝室で、そこのダブルベッドの上で全裸の男女が毒を飲んで死んでいたのだ。男の方は食品関係の会社を経営する尾関恒夫といい、女の方は尾関の部下の桑原という常務の妻の康子だった。つまり2人は不倫関係にあったのだ。
現場には2人の情事の痕跡があり、無理心中にも見えたが、薬瓶も薬包紙も見当たらないことから、警察では無理心中を装った殺人と断定した。ところが調べていくと尾関は手当たり次第といっていいほどのプレイボーイで、この夜も複数の女が出入りしていたようだった。そのうちのひとりが犯行に及んだかもしれないというわけで、捜査が開始されたが…

月世界の女    
高木彬光
中禅寺湖の畔に近いホテルに滞在する竹内元子爵家の令嬢月子は、絶世の美女ながら狂気が入っているらしく自身は月の姫だと思っていた。
その月子を追って結婚希望者の財閥の御曹司大倉、元伯爵家の元海軍士官大友、苦学生の判事阿部の3人が相次いでやってきて、ホテルにいた松下研三とともに月子争奪戦となった。
しかし、その月子がホテルのロビーから消えてしまった。ロビーからは外への出入口が二つあったが、一つからは月子を追って松下が入ってきたし、もう一つは中から鍵がかかっていた。
さらにロビーから二階に上がる階段からは大倉が降りて来たし、両翼に伸びる廊下の一方からは大友がやって来た。残るはもう一方の廊下であったが、そこからも月子は見つからなかった。松下は知人の名探偵神津恭介に電話をするが、恭介は謎のようなことを言うばかり。月子は月の姫として月に帰ったのだろうか…


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