ミステリーの愉しみ3 パズルの王国
立風書房

鮎川哲也と島田荘司による決定版アンソロジーで第1〜第5集がある。
殺人演出    
島田一男
東関製粉会社の社員寮鴻々荘の二階で死んだのは青木という男。青木は4日ほど前から熱を出して寝込み、会社を休んでいた。
殺された夜も氷で冷やし部屋で寝ていたが、突然室内から大きな音がした。寮の住人達が驚いて青木の部屋に向かうと、ドアは室内から鍵がかかって開かない。
仕方ないので窓に梯子をかけて覗こうとしたが、カーテンでよく見えないし、窓も開かない。その直後に青木の部屋の電気が消された。住人達は青木が起きていると思って声をかけるが返事はなく、再び相談のうえ力ずくでドアを破った。
部屋の中は枕もとの小テーブルが倒れ、その上にあったらしい洗面器はひっくり返り、床一面水浸し。そして青木は毒薬を飲んで絶命していた。
部屋の中には毒薬の瓶があり、そこからは青木の指紋のみが検出された。ドアには閂、窓には掛け金がかかり、部屋は完全な密室になっていた。警察は状況から自殺と断定したが…

鸚鵡裁判    
鬼怒川浩
広島湾に浮かぶ島に老爺が一人で住まう大きな屋敷があった。子供が戦死し、妻にも先だたれた結果であったが、その家を滝川弘助が借りることになった。弘助は一時戦死の噂が流れたのだが、幸いなことに誤報で、復員して来たのだった。
だが相当に衰弱しており転地療養の意味で滝川家では、島の屋敷を借りうけたのだ。さっそく弘助は、ペットのオウムと許嫁の清子とともに島に移ることになったが、いくら許嫁とはいえ男女2人というわけにはいかず、友人の佐田慎介とその愛人の伊藤照枝も同行することになった。
ある夜、すでの老爺は高いびき、慎介と照枝はどこかにでかけてしまっていたので、弘助は清子を夜釣りに誘った。舟をこぎ出したまではよかったが、舟の上で海から出てきた何者かに清子が襲われて胸を刺されて殺された。
弘助も襲われて海に投げ出された。近くの漁船が気づいて弘助を助け上げたが、弘助は両手両足を手拭でしっかりと縛られていた。のちに弘助が語ったところによると海から現れたのは海坊主のような化物だったというのだが…

砥石    
岩田賛
北国のある村で農業組合の主任を勤め、村人たちからも信頼されている朝倉寅之助が、納屋で殺された。寅之助は暇さえあれば納屋に行って、そこで藁細工をしていたが、その最中に何者かに襲われたのだ。
納屋から大きな音がしたときに、納屋の戸の外には寅之助の弟の誠太郎がいた。誠太郎はすぐに戸を開けたのだが、すぐに戸を一度閉めた。そこに音を聞いた茂木原というこの家の客がやって来て戸を開けると、寅之助の死体があった。
現場には凶器となった血のついた丸砥石が転がっていた。その砥石は、軸から外され、組合から持ち帰ったものだった。さらに現場には誠太郎の煙管が落ちていた。誠太郎は寅之助から結婚を反対されており、その問題で口論していたから動機もあった。
警察は容疑者として誠太郎を拘引したが、ここに誠太郎の婚約者の兄の中根が寅之助の死の直前に納屋を訪れていたことが判明した。しかも中根にも動機があった。中根は寅之助の部下で、横領を働いており、それを寅之助に気づかれてしまったのだ。

三つの樽    
宮原龍雄
追突事故を起こしたオート三輪の荷台から転げ落ちた2つの樽。1つはなんでもない空の樽であったが、もう1つの蓋の外れた樽からは若い女の全裸死体が出て来た。
樽は2つとも須田画伯がアトリエに使っている城南荘というアパートの一室から須田画伯の自宅に宛てて運ばれる途中のもので、オート三輪に乗っていた2人の運送会社社員が十数分前にアトリエから運び出したものだった。
2人の社員の証言では、アトリエには樽が2つあり、1つは空のまま積み込み、もう1つには石膏の裸像を詰めたという。
石膏像を詰めたのは運送会社の社員で、その後事故を起こすまではほとんど樽は人目についていたことがわかった。
ほんのわずか、アトリエで画伯とモデルの2人だけの時があったが、それもほんの2分程度で、その後は運送会社社員がオート三輪に積込み、車がスタートしてからもずっと別のトラックが後ろについていたという。
オート三輪に追突したのいはそのトラックで、トラックの運転手も樽にはまったく異常がなかったと証言。しかも死体の主は須田画伯のところにいたモデルと判明。そのモデルは須田画伯とともに樽の荷造りに立会い、出発を見送っていた。
いつのまにか樽の中の石膏像が、死体に入れ替わってだけでも頭を抱える謎なのに、その死体の主は樽の出発まで生きていたという謎まで加わってしまったのだった。

綺譚会事件    
飛島星象
天体物理学者栃辺木則彦の自邸で密かに行われた交霊会の席上、栃辺木夫人令子が急死した。真っ暗闇の中、霊媒少女の比津子がリューメンという語をかすかな声で叫んだとき、女の悲鳴が聞こえ、人が倒れた音がした。
慌てて蝋燭が灯されたが、それが令子夫人の死の場面であった。当局をはばかる場であったために、現場には秘密裏に探偵加賀見智明が呼ばれたが…

六人の容疑者    
黒輪土風
古い赤レンガのビルの古風な会議室にあつまる7名の男たち。財閥の中番頭鈴木享輔を中心に、代議士武内周之助、山辺元陸軍少将、大和信託登内常務、建築業界の老舗東城組専務東城至、柳内弁護士、享輔の甥で秘書の鈴木虎夫。
この胡散臭いメンバーによる取引が終ろうとする頃、山辺少将に注がれたウイスキーを口に含んだ直後、鈴木享輔は立ち上がり、不気味な声を発するとともにうつ伏せに倒れ、こと切れてしまった。
死因は青酸による中毒死で、享輔のグラスの中からのみ毒物が検出された。それから2週間ほどして、柳内弁護士は死んだ享輔を除く6人の容疑者を集め、風采の上がらぬ探偵滝井藤兵衛に事件の解明を依頼したのだった。

文殊の罠    
鷲尾三郎
南米アルゼンチンで成功して、莫大な財産を成した鷺宮雄作は、終戦後に故国の日本で暮らしていたが、喉頭癌を発病してしまい、半年後の秋までの命と宣告された。雄作はパリにいる姪の滝口美樹子を呼び寄せたが、美樹子が日本に戻る前に、再びアルゼンチンに戻って行ってしまった。
雄作はブエディオというアルゼンチンの町に住んでいたが、そこがいたく気に入っていて、日本の屋敷もブエディオの屋敷をそっくりまねて建てるほどだった。そのお気に入りの地のブエディオの地を見たかったのと、アルゼンチンでの管理人に指示をするのが目的で、飛行機をチャーターしてベッドのままアルゼンチンに向かったのだった。
付き添ったのは雄作の甥の茂木惣一と益枝夫妻に主治医の松尾藤吉の3人。だが、雄作はブエディオに着いてしばらくして自殺してしまったのだ。わざわざ姪の美樹子を呼び寄せておいて会いもせずにアルゼンチンに向かい、しかも自殺してしまう、この行為に不審を感じた美樹子は南郷探偵事務所を訪れた。

死の黙劇    
山沢晴雄
相生橋で起きたタクシーの交通事故で、乗客が死亡した。その乗客は顔を包帯でグルグル巻きにしていたが、包帯を外して見ると怪我ひとつしていなかった。タクシーの運行記録などから男は桜木駅前のホテルから乗ったことがわかった。男はホテルに投宿しており、ホテルには酷い火傷と包帯の理由を説明していた。
宿泊カードは偽名であったが、包帯男は有名な私立探偵砧順之介の紹介文入り名刺を所持しており、その名刺から木村信吉というブローカーだと分かった。砧は実業家の小泉氏の自宅に滞在しており、そこをたまたま訪ねてきた木村に名刺を渡していたのだ。
さて、タクシーの事故があったのは9時40分ごろ、木村がホテルからタクシーに乗ったのが9時30分であった。ところが木村は9時に佃駅前の洋菓子店でケーキを購入し、それを手土産にして小泉邸を訪れた。
小泉氏は不在で妻の玲子が応接し、そのとき滞在していた砧にも紹介された。砧はその時に名刺を渡し、木村の手土産の洋菓子も食べている。その木村が小泉邸にいたのは9時5分から40分の間だった。しかもそのときの木村は包帯はおろか、顔には火傷も怪我も負っていなかったのだ…

勲章    
坪田宏
旧時代の遺物ともいえる古閑英良が、台風一過の朝、源氏池に浮いているのが発見された。死因は溺死、一見事故か自殺のようにも見えたが、つじつまの合わないことが多く、密かに他殺の線で捜査がなされた。
第一に古閑はセルの安物の和服に、晴れの場ではいつも佩用している勲章9つをすべてつけていた。古閑は勲章をつけるときは、常に羽織袴の正装だったが、普段着の着物に勲章をつけるというのがおかしいし付け方も序列を無視したまったくのでたらめだった。
第二に被害者の下駄がどこにもなかった。現場まで古閑の家からは相当の距離があり、暴風の中の悪路をはきものなしで歩いたとは思えなかった。
さて他殺となると、ここに容疑者がひとりいた。関忠志という運送会社の男であった。関は当夜トラックを運転していたが故障し、代車を他の運送天から借りて帰っていた。
その途中、いつもよる酒屋でおやじと2時間半も酒を酌み交わしていたが、それがアリバイとなっていた。一方事件は、調べれば調べるほど他殺が濃厚となり、そうなると関のアリバイも作られたものと考えざるを得なくなった。

肌の告白    
土屋隆夫
妻が肺を病み入院している杉岡達吉。杉岡の妻は部長の娘で、しかも出戻り。器量もよくはなかったが、出世のためにもらったようなもので、事実結婚後杉岡は係長に昇進した。しかし妻は結婚2年目に肺病で、療養所に入ることになった。
妻がいなくなって杉岡は、エネルギーの刷け口を社内の事務員に向けた。その事務員の名は中条宗子。何度か体の関係を結んだが、宗子は本気で杉岡に惚れてしまった。
宗子が言うには生涯愛人にしてくれればいいというのだが、遊びでしかなかった杉岡にしてみれば、とんでもないことだった。ついに、宗子は情死を言い出した。
杉岡は情死に乗ることにし、2人で信州に旅立った。ところが死んだのは宗子一人。しかも自殺としか思えない状況でだった。ほくそ笑む杉岡だったが…

ポプラ荘の事件    
大庭武年
郊外にあるポプラ荘は、ドイツ人の元大学教授ゲルハルト博士が、若く美しい日本人の後妻と、先妻との間に生まれた高慢ちきな娘と住んでいた。ほかには女中が2人と下男がひとりいた。
事件が起きた時、娘は外出中、夫人は部屋にこもり、使用人たちは好きなことをしていた。博士は書斎で何かに没頭していたようだ。事件が発見されたのは午後10時半、女中の一人によってだった。
その女中は10時半に、予め命じられていた通りに博士に夜食を持って行った。そこでピストルで射殺されている博士を発見したのだ。現場に凶器はなく、事件は殺人と思われた。娘と博士の仲は悪く、その日も口論の末に娘は家を飛び出していたし、一方日本人の妻は声楽家の男とよろしくやっていた。
その夜も声楽家が客としてきており、博士の逆鱗に触れて追い出されていた。このように動機の面からは容疑者に事欠かなかったが、では犯人となると凶器も見つからず決め手がなかった。

    
山本禾太郎
兵庫県武庫郡夙川村五甲にある、神戸の貿易商野口甚市の別荘で、甚市の姪で26歳になる清子が絞殺された。別荘は母屋と離れに分かれ、清子は離れで寄宿していた。当夜は離れに清子が就寝し、次の間には下女の林ふくが寝ていたが、これはいつものことである。なお林ふくは聾唖者であった。
一方、母屋には神戸の野口合名会社の社員で支配人の山下誠一、店員の安田敏雄、同じく店員の山口要吉の3人が泊まりに来ていた。この別荘は、もともと甚市が住居として買い入れたものだが、須磨に新たに家を建ててからはほとんど使われず、清子が寄宿するだけとなっていた。そんなことから店員がよく気分転換に遊びに行き、平日・休日問わず泊まることも多かったから、これは何も特別なことではない。また別荘には別荘番兼管理人として林房蔵がいたが、房蔵は下女ふくとは縁戚関係にある。
下女ふくはただならぬ気配で目を覚まし、清子の寝室を覗いたが、そのときに黒い影が寝室から逃げだすのが認められたが、すでに清子はその時点で殺されていた。
警察の捜査、解剖結果などから、清子には死ぬ前に情交があった痕跡が認められ、母屋と離れの間を白棒縞の浴衣の影が二往復、黒い影が一往復したことが明らかになった。白棒縞の浴衣は別荘の備品であり、山下・安田・山口の3人とも寝衣として用いていた。さらに清子の部屋にあった紙入と蟇口から現金が盗まれていることが判明した。これが当夜の事件のあらましであった。

空間心中の顛末    
光石介太郎
久しぶりに久地生馬に会った筆者は、生馬の妻嬰子がどこかに行ってしまったと打ち明けられた。なおも事情を聞くと、生馬は死んでしまったも同然だと言い捨てて去って行った。
そんなこと聞いては放っておけないから、生馬の家のそばをウロウロして様子を探ろうとすると、同じように生馬の家の様子を探る男がいるのに気がついた。
その男は末十一郎といい、1年ほど前に著名な評論雑誌の懸賞小説に一位入選した、若年ながら将来を嘱望された男であった。その十一郎がなぜ生馬の家の周囲をうろついているのだろうか…


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