クイーンの定員V
Queen's Quorum V
光文社文庫

アンソロジストとしても高名なクイーンが、欧米探偵小説史上で最も有名な短篇集を選び、年代順にコメントを付したもの。その選定基準は歴史的重要性、文学的価値、稀覯本としての希求度の3つ。Vの内容は第二期近代とルネッサンス。
ドロレスと三人の野郎ども     Dark Dolores
デイモン・ラニアン
セントルイスのギャングの巨頭4人が、アトランティックシティーで和平会議を持つことになった。セントルイスでは抜け駆けされたり、闇討ちされる危険があるからだった。が、アトランティックシティーでは4人のうち3人がドロシーという美女に熱を挙げ、会議は少しも進展せず、ドロシーの獲得にしのぎを削る始末だった。

見えない恋人     The Invisible Lover
エラリー・クイーン
人口745人の町ニューヨーク州コーシカで、真夜中にマクガヴァンが射殺された。犯人として逮捕されたのはロジャー・ボーエンという30歳の男だった。ボーエンは見るからに実直そうで、町の全住民はこれほど陽気で親切で優しく人当たりのいい若者は国中どこを探してもいないと思っているほどだった。
ボーエンが犯人とされたのは、マクガヴァンと仲が悪く、何度か激しい口論をしたうえ、事件発生の数時間前にも言い争いをしていたし、なによりも凶器がボーエンの所持する拳銃であったからだった。
しかもボーエンは拳銃をベッドのすぐ脇にタンスの引き出しに入れており、眠りが浅いボーエンを起こさずに拳銃を奪うことが不可能だったと自分でも証言していたからだった。つまり自分自身しか凶器の拳銃を持ち出せなかったと自ら認めたのだった。

釘と鎮魂曲     The Nail and Requiem
C・デイリー・キング
タラント氏のアパートメントの屋上にあるペントハウスは、画家のマイケル・サールティがアトリエとして使っていた。内部は天井が高く北側にアトリエ、南側には簡易キッチン寝室、西側には浴室があった。
出入口はアトリエの西側にあり、南側には普通の窓、北側は一面の窓、そのほかには採光窓があるばかりであった。そのペントハウスからレクイエムがずっと聞こえるのを不審に思ったアンテナ修理の電器屋が管理人に告げ、管理人はタラント氏やちょうど遊びに来ていたジェリーとヴァレリーの新婚夫婦とともにペントハウスに向った。
はしごをかけてアトリエを覗くと、血まみれになった全裸の女が見えた。出入口を破って入って見ると、女はナイフを突き立てられてすでに息絶えていた。アトリエにはカンヴァスがあり、殺された女をモデルにした絵が描かれていたが、死体のナイフと同じ位置に釘が打ち込まれ、血が描かれていた。
犯人はサールティと思われたが、行方が分からなかった。現場のペントハウスの出入口は内部から閂がかけられ、窓も全て内側から施錠されていた。サールティは屋上の密室からどうやって逃げたのだろうか。

綴られた名前     The Name on the Wrapper
マージェリー・アリンガム
博識だが気取り屋の探偵キャンピオン氏が夜道をドライブしていると、ひっくり返った車があった。降りて車に近づくと、足先で指輪を蹴飛ばした。魅力には乏しいが、それなりに金のかかった装身具であった。
ちょうどそこに警官がやって来てひと悶着あったが、キャンピオン氏はひっくり返った車と道端に落ちていた指輪から、どういう結論を導き出すのか…

銀のカーテン     The Silver Curtain
カーター・ディクスン
ドーヴァー海峡に面したフランスのリゾート地ラ・バンドレットのカジノでのこと。まったくつきがなく負けに負けたジェリー・ウィントンは、ホテルに帰って酒を飲んだ。
来週になればイギリスから金を送ってもらえるジェリーだったが、その前にホテルの宿泊代などをどうやって工面するかで頭の中はいっぱいだった。
そんなときファーディ・デイヴォスと名乗る男に声をかけられた。デイヴォスはカジノでジェリーとは反対につきまくっていた男で、ポケットの中には千フラン紙幣で膨らんだ財布がある事はジェリーも知っていた。
デイヴォスはジェリーに儲け話を持ちかけた。1時間後に町の中心、サンジャン広場の医師の家に行けば1万フランの金が手に入るというのだ。金を欲しいジェリーは、デイヴォスの言葉につられて雨が降る中を指定された時間に広場に向かった。
サンジャン広場は広場とは名ばかりの袋小路であった。その入口で広場に入っていくデイヴォスを見かけ、ジェリーは自然とその後を追う形になった。
そしてジェリーが突き当りの邸のドアの前に立った。そこが目指す医師の家だったらしい。そのときジェリーの目の前でデイヴォスは崩れるように倒れてしまった。ジェリーは慌てて駆け寄ったが、デイヴォスの首の後ろにはナイフが深々と刺ささっていた。手には千フラン札で膨らんだ財布を持って、すでにこと切れていた。
ジェリーがその財布をつかんだ途端に、近くにいた巡査が飛んできた。雨の夜のこととて、広場にはほかに人影はなく、ジェリーはデイヴォス殺害犯人にされてしまった。カジノに事件の捜査で潜入していたマーチ大佐は、この事態に…

ブロードウェイ殺人事件     Broadway Murder
ウィリアム・マハーグ
ブロードウェイで自称ノーディンという男が殺されるという事件が起きた。ノーディンは車の中で殺され、凶器の拳銃も車の中にあった。ノーディンは暗黒街のギャングの一人で、その晩デニンという男と一緒に車に乗るのを目撃されており、警察はデニンを逮捕した。
ところがデニンが犯行を否認し、デニン夫人も絶対にデニンは人を殺すような人間ではないと主張した。もしそうだとするなら一体誰がノーディンを殺したのか…

裏窓     Rear Window
ウィリアム・アイリッシュ
足を痛めて動けない男の部屋から見える真向かいの建物。男には別に覗き趣味はないが、動けないために一日中その建物を見ていることになる。その一つの窓、そこには夫婦が住んでいたが、あるときから夫だけしか見えなくなった。
その夫が夫人の服をスーツケースに詰め、それをどこかに送りだした。それを見て男はピンときた。直感というやつだ。夫は妻を殺したに違いない。夫人の姿がかき消すように消えてしまったことが証拠だった。
男は警察の知り合いに電話をかけ、夫をおびき出して家探しをさせた。だが夫人が殺された形跡はないといい、警察は男の話を頭から妄想と決めつけた。そこで男は夫に罠を仕掛けることにした…

判事の論理     The Judge Laughed Last
ダシール・ハメット
ドラッグストアで強盗を働き、警察に捕まった2人の男。証人もあるうえに現行犯に近いから、当然のごとく起訴された。被告となった2人の男は、なるべく若く新進な弁護士を選んだ。弁護士は男たちの期待に応えて、浮浪の罪のみ認め強盗の罪は願として認めなかった。
法廷は混乱し、検事は真っ赤になって怒り、判事は真っ青になって今にも卒倒しそうだった。それからしばらく経って、検事や判事が取った新たな戦術とは…

ゆすり屋は撃たない     Blackmailers Don't Shoot
レイモンド・チャンドラー
フィリップ・マーロー探偵は、映画スターのロンダ・ファー嬢にある手紙を1万ドルで売りつけようとしていた。ファーもさるもので、取引の場に刑事を呼んだ。
マーローはファーの呼んだマクドナルド刑事に御用となったが、マクドナルドが口を滑らして偽の手紙と言ったのが気になって…

蝋人形の死体    The Wax-Work Cadaver
リリアン・デ・ラ・トーレ
1763年のロンドン、サーモン夫人の蝋人形館に陳列される人形は、どれもすばらしい出来栄えのものばかり。エジンバラから出てきたばかりの私は目を奪われたが、ふとしたはずみで倒れた人形のひび割れた蝋の下からのぞく人間の手の骨を見て飛び上がった

医者と瓜ふたつの男    The Doctor's Double
スチュアート・パーマー
ヨハン・ウルツの主治医ピーター・フレンチ博士が、ウルツの屋敷のドアベルを押し、それにこたえて女中がドアを開けた。ここまではいつもの光景だったが、女中は驚いて「15分前に、あなたをこのドアからお通ししたんですよ」と叫んだ。
フレンチ博士はウルツが殺されるかもしれないと心配していたので、にわかに顔を引き締めウルツの寝室に向かった。そこではすでにウルツが、ドレッシング・ガウンのベルトを首に巻きつけられて息絶えていた。
ウルツとトラブルになっている隣家の俳優ウィリアム・アリスンが、フレンチ博士に化けてウルツを殺したものとして逮捕されたが…

ベッドに殺された男    The Man Who Was Murdered by a Bed
ロイ・ヴィガーズ
凶器となったベッドは、四本の鉄梁を組んで本体とし、枕元と足元に飾り板を立てたベッドである。この鉄枠に二本の角材を渡して、その上にスプリング・マットレスが敷いてある。
マットレスの堅さを調整するために、取り外しのきく、自動車の始動に使うクランクのような道具があり、これを回すとギアの働きで角材の一方が枕側の鉄枠に向かって移動する仕掛けになっている。だから、そのとき鉄枠と角材の間に何かが挟まっていれば、それは容赦なく押しつぶされる道理であった。
そのベッドのあるバンガローで、エミリオ・スタンサはベッドの頭を潰されて死んでいた。しかもその死体には頭から女の下着であるペティコートをかぶされていたのだった。


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