これが密室だ!
18Locked Room Puzzles
新樹社

18篇の密室の事件を集めた、ロバート・エイディーと森英俊によるアンソロジー。エイディーは世界有数のミステリのコレクターで、このアンソロジーは、いかなるアンソロジーにも再録されていないものを収録するというコンセプトで編まれたそうだ。
十六号独房の問題     The Problem of Cell 16
エドワード・D・ホック
どんな留置所からでも脱獄するというフランスの詐欺師ジョルジュ・レームは、その脱獄歴からイール(うなぎ)と呼ばれていた。 そのイールがボストンの美術館相手に詐欺を働き指名手配された。そして偶然ノースモントでホーソーン医師の車と接触事故を起こし、レンズ保安官に逮捕された。
ノースモントではちょうど最新式の留置所が出来たばかりで、イールはその留置所の最初の収監者になった。 ところがイールはその夜、その名に恥じぬように見事に脱獄してしまった。指名手配犯を捕まえて鼻高々だったレンズ保安官はたちまち意気消沈してしまった。
留置所の独房の格子のはまったドアは最新式のラッチ・ボルトが取り付けられ、それはドアを閉めると自動的に施錠された。 さらに留置所の外にでるためのドアがあり、そのドアの外にはレンズ保安官の部屋があった。
夕食の時にはイールは独房内にいて保安官の目の前で食事をし、夜中に酔っ払いを収監した際に様子を見た時は毛布にくるまっていた。 しかしその後に様子を見たときには毛布はベッドからズリ落ちて独房内はもぬけの殻だった。イールはその名に違わず独房、留置所、保安官事務所の3つを見事に突破 したのだ。

見えないアクロバットの謎     The Problem of the Invisible Acrobat
エドワード・D・ホック
ビガー&ブラザーズ・サーカスがノースモントにやってきた。ボストンから遊びにきていたレンズ保安官の甥のテディーを連れてホーソーン医師はそのサーカスを見に行った。
サーカスの呼び物はランピーツィ兄弟による空中ブランコだった。アルチューロ、ヌンツィオ、ジュゼッペ、イグナツィオ、ピエトロの5人がそれぞれ白、ピンク、青、緑、黄色のタイツ姿で空中で妙技を披露し始めると観客は拍手喝采した。
ところが途中でアルチューロとヌンツィオがブランコから安全ネットに落ちてしまった。ピエロたちが2人の周りに集まって、2人の重みで沈み込んだネットから助け出し、演技に戻っていった。ホーソーン医師には、これが演技なのか本当に失敗して落ちたのか判断がつかなかった。
そのうちにいつのまにか空中ブランコは4人で行われて、1人が欠けていることがわかった。しかも無人の空中ブランコが一つ揺れていたのだ。観客達もそれに気づいたが、演技は間もなく終わり、ランピーツィ兄弟は楽屋に引き上げた。
消えたのはピンクのタイツのヌンツィオだった。レンズ保安官も楽屋に現れたが、ヌンツィオが自分の意思で消えたのかどうか判断がつかなかった。保安官もサーカスを見に来ており、アルチューロとヌンツィオがブランコから落ちたあと白いタイツのアルチューロが梯子をあがっていったのは覚えていた。
一方ホーソーン医師はピンクのタイツのヌンツィオがブランコに向かって梯子を上っているのを見ていた。とにかく動きが速い上に、同時に複数の動きが行われていたために全てを見たり、覚えていたりした人間は誰もいなかった。
しかし、ヌンツィオが空中で消失したのは事実だった。さらに、その夜そのヌンツィオがピエロの衣装を着て刺殺死体となって発見された。

高台の家     The High House
ヘイク・タルボット
ダンヴァーズ家の屋敷には、オセアニアの原住民の呪いがかかっていると言い伝えられてきた。その昔ダンヴァーズ家の先祖が、オセアニアの原住民5人を騙して連れて来て、奴隷働きをさせていたが、ある日5人の原住民は呪いをかけて自ら命を絶った。
その呪いとは、ダンヴァーズ家の屋敷で、原住民の数と同じ5人の人間が死ぬというものだった。それ以来死者が3人出て、ダンヴァーズ家のものは半ば呪いを信じていた。
そして今、現家長のナットが、さしたる理由もないのにダンヴァーズの屋敷に戻って来た。ナットは部屋に閉じ困り、ひとりで呪いにおびえていたが、テラスから落ちて死んでしまった。
自殺する理由もなく、ナットの部屋に誰も近づいた者はなかったから殺人でもない。とすれば事故としか思えなかったが、いずれにせよこれで死者は4人になった。

裸の壁     Blank Walls
フランシス・マーテル
パブ半月亭裏の通路は、パブと穀物商の住まいが通路の手前半分を、その先は両側に庭の壁があった。通路の先には3人の立派な市民が立ち話をし、通路の入口からは男が独り懐中電灯を持って近づいていた。
そのとき通路の中で叫び声がし、その直後に鈍い音がした。懐中電灯の男が通路に走る。その間通路からは誰も出てこなかった。通路の中には男が、後頭部をコンクリートに打ちつけて死んでいた。
一方通路の先にいた3人の市民は、通路から誰も出てこなかったと証言した。では、殺人犯人は庭の壁を乗り越えたのかといえば、壁のてっぺんは霜で覆われ、また壁の向こうの柔らかい土にも何の痕跡もなかった。犯人は通路から煙のように消えうせてしまったのだ。

放送された肉体     The Broadcast Body
グレンヴィル・ロビンズ
ジョン・マンフレッド教授は映像や音声だけでなく、肉体自体を放送する装置を発明したという。そして甥と助手、それに弟のジョージの協力を得て実験することにした。
教授の家の部屋には装置が据えられ、そこに入った教授は1分後には12マイル離れたジョージの家に現れるというのだ。ドアの前には甥と助手が陣取り、ドアが閉まってから1分後にドアを開けることになっていた。
そして教授がいなければジョージの家に向う。もちろんいた場合は実験は失敗というわけだ。ドアの他には窓が一つあったが、その窓は鉄格子が嵌り、とても人は通り抜けられない。
やがて教授が裸で部屋に入りドアが閉められた。数秒後には大きな爆発音。1分後に甥と助手がドアを開けると、爆発の残骸の他には何もなく、教授の姿もなかった。甥はジョージの家に車を飛ばした。
ジョージの家でも同時刻に大きな爆発があり、装置が壊れたが、教授の姿は現れなかった。教授は四次元の世界に消えてしまったのだろうか。

ガラスの部屋     The Glass Room
モートン・ウォルソン
コラムニストのロイド・ルーエリンがナイトクラブにいるとき、電話が掛っていると店の娘に告げられた。ルーエリンは、店の踊り子の兄のジャック・ゲイルという男と言い争っていたが、中座してガラス張りの電話ボックスに入った。
店の客たちはその様子をもいていたが、ちょうどその時、店の証明が落ちて踊り子たちのダンスが始まった。客たちの目がダンスに奪われたが、そこで店の娘の悲鳴が聞こえた。
店の娘は電話ボックスでくず折れるルーエリンを目撃したのだ。ルーエリンは後ろから拳銃で撃たれていた。客たちは全て足止めされ、警察が来て大捜索が行われた。だが、拳銃はどこからも発見されなかった。

トムキンソンの鳥の話     Tomkinson's Bird Story
E・V・ノックス
かなり裕福な男が自分のフラットで死んでいた。明らかに長く鋭利な物で、刺殺されたのだ。フラットのドアには錠と内錠が掛けられていあたが、大きな窓は開けられていた。指紋も足跡も凶器も一切現場にはなく、それ以上に手掛かりが全くなかった。

     Deadfall
サミュエル・W・テイラー
2人の男がキャンプに行った。ヴィンスはスポーツマンであり、若いころから人気があった。一方ジムは不器用で、ヴィンスの腰巾着のような存在であり、就職も結婚もヴィンスの世話になった。
つまりヴィンスが蹴った会社に就職を世話され、ヴィンスが捨てた女を女房にしたのだ。それが今や逆転していた。年をとりヴィンスもスポーツでは食えなくなり、今やジョンの部下であった。結婚もしそこねていた。長い目で見ればジョンが勝利者だったのだ。
だがキャンプでは様子は違った。ジムは相変わらず不器用で、狩猟も散々だった。一方でヴィンスは大きな鹿を仕留めた。そんなある日、ヴィンスは誤って動物用の罠にかかり、骨折して動けなくなった。
ジムはキャンプ小屋にヴィンスを運びこんだ。ちょうどその夜から雪が降り始め、瞬く間につもり、2人は動けなくなった。すると不思議なことに雪の上に女の足跡、ハイヒールの足跡、男の足跡、子供足跡などが小屋から近くの川岸まで日々現れるようになったのだ。

湖の伝説     The Spectre on the Lake
ジョセフ・カミングス
マッドムーン湖に浮かぶボートのうえで殺人事件が起きた。銃声が聞こえたので、岸辺にいた人たちが顔を上げると、ひとりが船尾に膝をつき、もうひとりがボートの中でうずくまっていた。やがて膝をついた男の腕がぐにゃっと前方にたれたかと思うと、その男もぱったりと倒れた。それに続き第二の銃声が聞こえた。
ボートの2人の男は大の親友で、2人とも至近距離から頭の後ろを撃たれていた。ボートがこぎ出される時、ボート内には何もなく、水泳パンツ1枚の2人しか乗っていなかったのは確かだった。拳銃などもともとなかったのだ。だったらどうやって…

悪魔のひじ    The Devil's Elbow
ジョセフ・カミングス
ハンシカー夫妻とラングロア夫妻はシャレーと呼ばれるスイス風の田舎家を共有していた。スター・ハンシカーは夜スキーのために、照明を制御する装置を配列し直していたが、転倒し足をくじいてしまった。
スターはシャレーに運び込まれ手当てをうけた。それからほどなくして医者が呼ばれ、スターも落ち着いてきたので、ブリッジをやることになったが、その最中に開けた窓の外から飛んできた銃弾がスターを撃ち殺した。 銃弾は確かに外から飛んで来たのだが、外に積もった雪の上には足跡は全くなかったのだ。まさに透明人間による射殺であった。

ブラスバンドの謎    The Riddle of the Brass Band
スチュアート・パルマー
ニューヨークの街路をパレードする警察の楽隊の前に、男が空から降って来た。ランス・ビル15階にある出版社の社長T・W・ライト氏で、もちろん即死だった。
ライト氏はドアに鍵をかけ、外には秘書役の速記者がドアの正面に陣取り、作家の来客が2人待っていた。部屋の窓は全開で、一見自殺か事故かという状況だったが…

消え失せた家    The Vanishing House
ウィル・スコット
夜の闇の中、荒野をさまよう浮浪者が遠くに明かりを見つけ、引かれるように近づいて行った。すると中から言い争うような声がし、しかも状況は悪化していく一方だった。
しばらく様子をうかがっていた浮浪者は、状況を判断してそこから離れ、町を目指した。すると予期せぬことが起きた。背後で叫び声がしたのだ。浮浪者は引き返し、その家の上がり段のたもとに人が倒れているのがわかった。
浮浪者は持っていた最後のマッチを擦って確認すると、それは囚人服を着た男で、すでに死んでいるのは明らかだった。言い争いの末に、この家の人物に殺されたのだ。
浮浪者は町を目指して歩き続け、明け方に町に着いた。町では衆人の脱走で騒ぎになっていた。浮浪者は警官を連れ、死体のあった場所に引き返す。その方向には1軒の家しかなかった。だが、そこの主人は言い争いも死体も知らないという。
浮浪者の虚言ということになったが、その家から800ヤードほど離れたところで、今度は囚人服の男の死体が見つかった。その死体は草を掴んでおり、その状況から死後動かされていないことは明らかだった。つまり死体の側には家はなく、家の側には死体はなかった。家か死体が動いたという解釈も非現実的なことだ。ではいったい…

見えない凶器    The Invisible Weapon
ニコラス・オールド
犯行の場所はある屋敷の改装工事中の舞踏室で、工事の関係から入口はひとつだけで、暖炉も煉瓦でふさがれていた。そのなかに2人の男が入り、入口は工事関係者によって見張られていた。
暫くして男の一人が出てきて、工事関係者に温水暖房のスイッチを入れるように指示する。男2人が入ったのは、具合のよくない温水暖房システムの調子を見るためだったのだ。
さらに時がたち、舞踏室の中では男の一人が頭を殴られて殺され、もう一人の男は犯行を否認した。否認の最大の裏付けは凶器がないことだった。室内はがらんとしており、身体検査をしても凶器となるような鈍器は発見できなかった。
窓から投げ捨てる手はあるが、窓は鍵が掛り、窓枠を含めて男の指紋はなく、指紋が拭きとられた様子もない。つまり開けられた気配すらなかったのだ。

メッキの百合    The Gilt Lily
ヴィンセント・コーニア
秘密情報部のアネズリー・サ−ティーズ卿の部屋から、機密書類が盗まれて敵方の手に渡ってしまった。盗んだ人物はティンダーズウェイン男爵と思われたが、その方法がわからない。
ティンダーズウェイン男爵がサーティーズ卿の部屋にはいてきたとき、機密書類はサーティーズ卿の上着の内ポケットの財布に入っていた。上着の内ボタンもきちんとかけられていた。
ティンダーズウェイン男爵が薬草入煙草を吸い終わり、言葉を交わして出ていったのちに機密書類の紛失が明らかになったのだ。サーティーズ卿はティンダーズウェイン男爵が上着に手をかけたことすらないと断言した。ではどうやったら機密書類を財布から盗めたのだろうか…

死は八時半に訪れる    Death at 8.30
クリストファー・セント・ジョン・スプリッグ
内務大臣リチャード・ジョントレー卿が匿名の人物X・Kに脅迫された。大臣は3人の警察幹部を呼び、絶対に脅迫には屈しないと決意を表明した。脅迫状は大臣が要求に従わなければ、死をもたらすと述べていた。
そこで大臣と3人の警察幹部はイングランド銀行の金庫室を借りて大臣を守ることにした。金庫室に3つの椅子を持ち込み、3人の警察幹部が拳銃片手に座る。その椅子に囲まれて防弾ガラスでできた小部屋が作られ、拳銃を手にした大臣が入る。
小部屋へのロックは6ケタの暗証で構成され、知っているのは大臣ひとりで、3人の警察幹部は2ケタづつを知っているに過ぎない。さらに金庫室を二重の警備線が取り囲むという大げさなものだった。
だがX・Kはやり遂げた。脅迫状に指定された時間になると、大臣が突然立ち上がり、苦痛に顔をゆがめてもがきだし、あっという間に倒れてしまった。ドアを開けてみると、大臣はすでに息絶えていたのだった。毒物による死であった。

謎の毒殺    Poison Can Be Puzzling
マックス・アフォード
評判のすこぶる悪い二流の実業家フェルディナンド・キャスが警察に助けを求めて来た。キャスはアーサー・ハークネスの妹エリナーと結婚したが、エリナーは変な宗教にのめり込んで自殺した。
暫くしてキャスはアーサーとともに南米に探検旅行に行った。そこで現地の魔術師に、キャスは死の予言をされたらしい。それ以来人が変わってしまったが、その予言の日が今日だったのだ。
警察からリード警部が友人の探偵ブラックバーン夫妻とともにキャスのマンションに向った。居間でリード警部、ブラックバーン夫妻、アーサーの4人で話しているときに書斎で叫び声がしグラスが割れる男が聞こえた。
書斎のドアを開けてみると、そこではキャスがこと切れていたのだった。毒物による死であった。キャスは手にグラスを持っていたらしく、床には割れたグラスの破片と中身が散らばっていた。そしてその液体を猫が何事もなかったように舐めていたのだ。
さらに解剖の結果キャスの胃の中は空っぽだった。水すら飲んでいなかったのだ。問題は、どうやって客は毒物を摂取させられたのかだった。

危険なタリスマン    The Episode of the Perilous Talisman
C・デイリー・キング
評判のよくない政治家ヘンリー・ドワイヤー・ハルモアの持つ古代エジプトの箱が、人を殺すという。その箱を開けた人間は、必ず死にいたるとされ、ハルモアの手に入ってから、すでに2人の人間が心臓麻痺を起していた。2人ともハルモアの隙をついて箱を開けたのだった。
ハルモアはその箱を探偵を趣味とするタラント氏のもとに持ち込んだ。タラント氏は箱に描かれた象形文字を解読、それによれば箱を開けたものは、生き延びられないとあった。タラント氏はハルモアから箱を預かって調べてみることにしたが…

ささやく影    He Who Whispers
ジョン・ディクスン・カー
1944年11月2日にBBCで放送されたラジオドラマの一篇で、19世紀のヴィクトリア朝のロンドンが舞台。デヴィット・ヴェナー青年は、伯母のマグダとともにセントポール大聖堂の回廊で、囁くような声を聞いた。
周りを見回しても誰もいないのに、デヴィットの耳には声がはっきりと聞こえた。その声はデヴィットを必ず殺してやる、いかに部屋に鍵をかけようとも、壁を通り抜けて殺すと脅した。
そして暫くしてデイヴィットの部屋で事件が起きた。夜中にデイヴィットが息苦しくて夜中に起きるとガスが充満していたのだ。ドアには内側から鍵が掛り、窓もしまっていた。大聖堂での囁く声の脅迫は本当だったのだ…


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