鉄道推理ベスト集成第2集
徳間書店(入手難)

鮎川哲也編鉄道ミステリ・アンソロジーで第1〜第4集がある。
急行十三時間    
甲賀三郎
戦前の本格派の雄。本作は「新青年」大正15年10月号に掲載されたもの。

高利貸A氏の息子は、私の友人であった。息子は守銭奴であるA氏を憎み、私と組んで狂言を打ち、A氏から金を巻き上げることにした。息子が暴力団に脅迫され強請られているという筋書きをA氏は信用し、私に100円札100枚の束を渡した。
この金を持ってA氏の住む東京から息子の住む大阪に向けて、運び屋をするのが私の役目だが、私のところに金を奪ってやるという脅迫状が舞い込んだ。怖じ気づいた私は、探偵を雇い車中の警護を依頼した。
急行列車の車内は、内ポケットに1万円の札束を持つ私の隣に探偵、向いの席には白髭白髪の老人と頬のこけた男の2人が座ったが…

    
江戸川乱歩
大衆雑誌「キング」の昭和6年11月号から昭和7年2月号にかけて連載された、乱歩絶頂期の作品。


S村の線路脇の森の中で、若い女のものと思われる死体が見つかった。死体は野犬に食い荒らされており、腕の一部はもぎ取られ、顔はめちゃくちゃで血の塊といってもいいくらいだった。
死体が着ていた着物から被害者は村の豪農山北家の一人娘鶴子と判明した。母親によれば、鶴子は前夜から行方不明になっており、机からはKよりと記された呼出し手紙が見つかった。それには、夜7時にお宮の灯篭で待っているから、必ず来てくれと書かれていた。
やがて容疑者が逮捕された。村長の御曹司で鶴子の婚約者大宅幸吉だった。幸吉は鶴子とは古くから許嫁の関係にあったが、鶴子を嫌い、隣町のN町に住む絹村雪子という女と恋愛関係にあった。
鶴子が殺害されたと思われる夜、幸吉はN町の雪子の部屋にいたとアリバイを主張したが、雪子は否定しアリバイを証明することもできなかった。さらに幸吉の部屋の床下から血染めの浴衣が見つかり、ここに至って逮捕されたのだ。
だが幸吉の親友で探偵作家の殿村昌一は、N町の雪子の部屋を一目見た途端に、幸吉は犯人ではなく真犯人の陥穽に墜ちたのだと確信した。

終電車    
大島秘外史
浜松町から田町に向う最終電車に乗り合わせた4人の乗客。そのうちの一人が、通りかかった車掌に対して奇妙なことを言い始めた。未来が予測できるかと問うたのだった。

恐風    
島田一男
「宝石」の昭和26年7月号と8月号に分載された中身の濃い本格中篇で、新聞記者出身の著者らしい気取らない文体の読み易い作品。


郊外の小都市にあるKK電鉄S駅の手小荷物扱所に現れた若い男に不審を感じた駅員が近づいた。男は引換証を出して、大きくて重いトランクを受け取ったのだった。
念のために中身を見たいという駅員に最初は抵抗したが、抗しきれずに中身を開ける羽目になった。鍵がないので強引にこじ開けたトランクの中からは、女物の衣類のほかに、女の絞殺死体が現れた。
若い男の身柄はその場で確保されたが、その男は列車専門のスリで、東海道線の車内で掏った女の財布の中にあった引換証を使ったことを認めたが、殺人については関与を頑強に否認した。
やがて死体の女の正体が判明した。隣駅の南S駅近くに住む大木代議士夫人美矢子であった。だが美矢子の足取りを追ううちに奇妙な事実が判明し、事件は一挙に複雑化した。
死体の入ったトランクは、7月8日の午後1時50分に熱海駅から発送され、東京駅と新宿駅を経由してS駅に午後9時17分に着き、その翌日19日の午後5時に死体が見つかった。
ところが調べて行くうちに熱海駅にトランクを預けに来たのは美矢子であり、その美矢子の姿は8日の午後10時に南S駅で目撃されていたのだ。一方で美矢子の死体は発見された時、死後40時間から45時間経過していた。いったい美矢子はどこで殺されて、どのようにしてトランクに詰め込まれたのか…

轢死経験者    
永瀬三吾
郊外のS駅近くの飲み屋である男が、線路に上手く横たわれば列車にひかれることはないと豪語。つまり枕木の上に身をすくませて縮こまっていれば、その上を列車が通り過ぎ、体は無傷だというのだ。別の男は絶対に無理だといい、2人は対立した。やがて最初の男は賭けをしようと言いだした…

自動信号機一○二号    
角免栄児
昭和35年2月の「宝石」臨時増刊号に掲載された作品で、コンテストの応募作。作者については一切不明。


中国地方の私鉄L駅近くにある自動信号機102号が、雪の降る夜に故障した。L駅からの連絡で、通信区の当直の吉岡工手が一人で修理に向った。翌朝、吉岡工手が、102号信号機の側の線路下で死体となって見つかった。
この102号信号機の近くは柵もなく、転落危険個所でもあり、雪の深夜に修理に向った吉岡工手が誤って転落死したものと考えられたのだが…

吹雪心中    
山田風太郎
ミステリのほか伝奇や時代小説でも活躍した作家で、この作品は「推理ストーリー」昭和38年5月号所収のもの。


鞍掛康雄は京都駅でかつての恋人小野寺瑞枝とばったり再会した。瑞枝がいつの間にか康雄の前から消えてしまって以来、十年ぶりの再会だった。今は2人とも家庭があったが、康雄が出張、瑞枝は旧友に会いに京都に来ていたのだった。
自然と2人はお茶を飲み、そして翌日山陰のK温泉に向った。2人とも1日だけならなんとか日程の調整ができ、昔を思い出しての小旅行を密かに楽しむことにした。ところが翌朝K温泉の旅館で目覚めた2人の前に待っていたのは、豪雪で交通が途絶するという事態だった…

ひかり号で消えた    
大谷羊太郎
江戸川乱歩賞受賞の本格派の著者による作品で、「別冊小説新潮」の昭和46年4月号が初出。


評論家磯部俊明が誘拐された。磯部はその朝、定例のテレビ出演を終えた後、テレビ局の車に乗って東京駅に向った。東京駅ではそそくさと改札を通り抜け、発車寸前のひかり号のグリーン車に乗り込んだのが知人により目撃されている。
そのまま磯部は行方が分からなくなってしまった。一方、ひかり号が出た直後に、磯部の家には犯人と思われる人物から電話があって、磯部の所持品を誘拐の証拠として、磯部家に送りつけたと言ってきた。その所持品は磯部本人から奪わなければわからないものだった。
磯部の妻は警察に連絡し、名古屋駅や京都駅でも目立たぬように非常線が張られたが、磯部はひかり号から現れなかった。磯部が新幹線に乗っていたのは車掌の証言からも間違いない。磯部は走るひかり号から消失してしまったのだ。

歪んだ空白    
森村誠一
ホテルマン出身で、昭和44年に「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞し、その後もコンスタントに作品を発表し人気作家となった。この作品は「小説サンデー毎日」の昭和46年10月号が初出。


一流企業の東日商事大阪支社に勤める中城泰子の死体が発見されたのは、3月29日午後1時半ごろであった。死体は新大阪駅の新幹線ホームのベンチに放置されていた。このベンチはホームの外れにポツンとあって、被害者はそこで胸を刺されて殺されていたのだった。
すぐに捜査が開始され、未婚の被害者が妊娠4ヶ月であることが判明し、相手の男が有力容疑者として浮上した。捜査の結果、その男は同社東京本社の田部守と分かった。
田部には最近専務の娘との結婚話が持ち上がり、泰子の存在が邪魔になり犯行に及んだというのが、捜査本部がたてた仮説だった。だが、田部はアリバイを主張した。当日はこだま191号に乗車し新大阪に向っていたというのだ。
こだま191号は新大阪着午後2時ちょうどだから、田部が本当に乗っていれば泰子を刺すことはできない。こだま191号から午前10時ごろにかけた車内電話と新大阪駅のホームに出迎えた知人が証人だった。
調べてみると確かにその日の10時前に田部は同僚に電話をし、電話局の受発信記録もそれを裏付けたし、新大阪駅で出迎えた人物も、田部がこだま191号から降りて来たことを確認した。だが捜査本部は、このアリバイに作為を感じていた。

寝台急行月光    
天城一
本業は数学者で作家活動は余技。昭和30年までは多くの短編を発表したが20年ほど休筆し、昭和49年にカムバック。この作品はカムバック後のもの。


寝台列車の乗客を狙うすりのダンロクが、熱海で乗り込んだ東京行きの寝台急行月光。その個室にもぐりこんだダンロクは、そこで男の死体を発見する。男は熱海以西で殺されたのは明らかだった。
やがて犯人に浮上した男は、関西在住、しかも前夜月光に被害者と乗っていたことを認めた。すわ犯人と捜査本部は色めきたったが、その男は京都で降りたといい、その後アリバイも成立。
次に浮上した別の男。しかしその男もアリバイを主張。東京の高円寺に死体の発見された朝9時23分にいたことが証明された。月光の東京着は9時9分。品川着は8時58分。どちらにしても高円寺に9時23分には姿を現せないことがわかった。

グリーン寝台車の客    
多岐川恭
乱歩賞作家であり、直木賞作家でもある著者は、ミステリだけでなく時代小説やSFなどまだ幅広く活躍した。本作品は「カッパマガジン」昭和51年9月号に発表された。


長崎から東京に向う寝台特急さくらのA寝台車。その14番の上下を取ったのは美男美女の2人。2人は何の関係もないらしく、会話もなければ食事も別々だった。乗客たちの中には、その2人を最初は夫婦だと思っていた人もあったらしいが、ほぼ全員が不倫の匂いを嗅ぎ取っていた。
そして真夜中、寝台特急が山陽線を疾走しているころ、幾人かの乗客が2人が同衾し、事が終わったあとで男がそそくさと自分の寝台に戻って行くのを見たり、気づいたりした。そして翌朝、寝台には男の絞殺された姿があった。

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