本格推理傑作集
双葉社(入手難)

昭和53年初版の中島河太郎編本格推理中短篇集。昭和26年の「木箱」から昭和45年の「科学的管理法殺人事件」まで、比較的幅広い年代の傑作選。
科学的管理法殺人事件    
森村誠一
東洋ホテル1211号室で殺傷事件が発生した。殺されたのは、同ホテルの接客課長吉山晴男で、一緒に就寝していた宿泊客の大沢伸江が下腹部を刺されて3か月の重傷を負った。
1211号室のベッドに吉山と伸江は全裸で寝ており、オートロックの部屋のドアはなぜかほんのわずか開いておりロックされていなかった。犯人は伸江の夫の大沢信吾で、現場付近でホテルの保安係に取り押さえられた。
信吾は凶器も所持しており、妻の不倫を知ってカッとなって犯行に及んだと自供をした。典型的な三角関係による殺人で犯人も現行犯逮捕され、事件としては単純なものと考えられた。
しかし松岡刑事は大沢信吾の供述が進み、事態が明らかになるにつれて事件に疑問を持った。まず吉山は部屋を業務用に抑えたが、その部屋は1212号室、つまり伸江の部屋の隣室であった。
次に2人はなぜか多量の睡眠薬を飲んでいた。さらに意識が戻った伸江に事情聴取したところ、伸江は吉山など全く知らないという。
不倫は認めたが、相手は吉山などではないと頑強に否認し、睡眠薬はおそらくルームサービスのビールに混入されていたに違いないと主張した。当初単純な事件と思われていたのが、その裏には第三者の意思が働いていたようであった。

早春に死す    
鮎川哲也
東京駅八重洲口近くのビル工事現場で発見された死体は、茅ヶ崎の工場に勤める国領一臣という男だった。国領はその日、東京駅のホームで恋人の柴崎しず子と夜8時に待ち合わせていた。
国領は茅ヶ崎の工場を出て湘南電車に乗ったはずだったが、工場の守衛室の時計が6時20分で止まっていたために、恐らく8時までには東京に到着できなかったろうと、守衛は捜査に出向いた丹那刑事に語った。
工場から茅ヶ崎駅までは15分、茅ヶ崎からの電車は6時38分、6時47分、7時25分とあるが、守衛室の時計から工場を出たのは6時20分を過ぎているのは間違いなく、6時47分発の電車にも乗れなかった可能性が高い。
東京駅に8時までに着くためには6時47分発までの電車に乗らなければならず、7時25分の電車では東京到着は8時38分になってしまう。
事実、8時前に相次いで到着する電車からは国領は降りてこず、柴崎は怒って帰宅してしまっていた。さらに国領は、当日柴崎に宛てて八重洲口のポストに手紙を投函していた。
後日、柴崎のもとに配達された手紙には電車内で書いたと思われる乱れた筆跡で、時計が止まっていたために予定した電車に乗り遅れてしまった詫びと、そのあとの東京着8時38分の電車に乗っている旨が書かれていた。
したがって国領が東京駅に到着したのは8時38分以後、そのあとで現場に行って殺されたことになる。
さて、現場には犯人の遺留品と思われるライターが落ちていた。そのライターの持ち主は証券会社に勤める布田福次郎という男だった。布田も柴崎のことを想っており、国領とはライバルであった。
ところが、布田には鉄壁のアリバイがあった。当夜8時上野駅発の新潟行き列車に乗っていたのだ。列車内では相席した佐渡に住む親子と始終言葉を交わし、このことは親子によって証言された。
さらに目的地の群馬県の上牧温泉の旅館にも、布田の証言した通りの時間に到着していた。国領が東京駅に着くはるか以前に布田は上野駅を出ていたのだった。

懸賞小説    
佐野洋
サラリーマンの波多のもとを、ある日週刊東洋の沖野という記者が訪ねてきた。沖野記者は波多が応募した懸賞小説の第一等に入選したと述べた。その賞金は30万円。だが実際に懸賞に応募したのは丸亀という男であった。
波多と丸亀は屋台のおでん屋で知り合った。丸亀の方から話しかけてきて、今度週刊東洋の懸賞小説に応募するのだが、名前を借りたいというのだった。どちらも酔っていたし、波多もどうせ当選などしないと思ったから気軽に引き受けた。
その小説が当選したのだ。だから沖野記者から問われても、内容はおろか題名さえわからなかった。なんとか記者を追い返した波多は丸亀のところに飛んで行った。波多はその小説の内容を聞いたが…

幽霊と月夜    
仁木悦子
実業家井野内清之助には4人の子供がいた。長女は先妻に産ませた小夜といい、小夜だけが先妻の子供だった。二女満津枝、長男弘之助、三女佐知枝は血が繋がっていた。
小夜は夫にも死なれ子供もなく孤独であったが、財産家であった。二女満津枝、長男弘之助、三女佐知枝の方もそれぞれ結婚したが、弘之助の妻を除き配偶者は死去していた。
満津枝には栄吉、登美枝の2人、弘之助には弘一郎、聡二郎、品子の3人、佐知枝には俊平という子供がそれぞれいた。さて夏の日、井野内一族の従兄弟6人が外房の別荘に集合した。
別荘は小夜のもので、毎年夏に従兄弟たちが避暑に行くのが恒例だった。だがそこに待っていたのは連続殺人事件であった。まず登美枝が刺殺され、翌日には聡二郎が絞殺された。さらにその翌朝には品子が海から水死体で上がったのだった。

不安な証言    
笹沢左保
世田谷区成城の工藤昌平宅で、昌平の妻の清子が殺されているのを、映画から帰宅した昌平が発見し警察に届け出た。警察の調べで、凶器の果物ナイフが見つかったが、それと同時に果物ナイフをぬぐったハンカチも見つかった。
そのハンカチは清子の妹旗江のものとわかったが、現場には旗江が勤めているバーのマッチも落ちていた。さらに現場に出された湯呑からは旗江の指紋げ検出された。前夜にも旗江は清子を訪ねたが口論となり、翌日落ち着いてもう一度話し合うことになったがやはりこの日も喧嘩になったという。
警察では旗江を重要容疑者としたが、旗江は犯行を否認した。アリバイはないが渋谷の自宅に帰った時に電話があったという。その電話をしたのは松喜美沙子という女で、旗江の現在の夫の高見俊介の前妻だった。
つまり俊介と別れた妻が俊介に架けてきた電話を取ったのである。その時間が10時と旗江は主張した。もしそれが10時であれば、死亡推定時刻からいって旗江の犯行ではない。
ところが美沙子にはそれが10時だったが、9時だったかはわからなかった。しかし憎い旗江が死刑になるのならと、美沙子は電話をしたのは9時だったと刑事に告げた…

渋柿事件    
島田一男
集合住宅で一人暮らしをする大場美佐子は、メッキ工場を経営する大野保吉の女であった。しかし愛人ではあったが2号ではない。
保吉の妻は死亡しており、再婚しようと思えばいつでもできたのだが、職場には若者が大勢いるし、本人も気詰まりだからと家に入れずに集合住宅に住まわせていた。その美佐子が毒で死んだ。
ビールに入れた青酸カリで死んだのだ。状況から自殺ではないかと思われたが、岩瀬刑事だけは納得しなかった。美佐子が数時間前に浴衣を洗濯して外に干したが、それを目撃した隣家の主婦は自殺する様子に見えなかったと証言したし、第一自殺を考えている人間が洗濯などするはずもない。
部屋には布団が敷かれていたが、2枚重ね敷布団が上下逆であったこと、いい着物があるのに普段着で死んだこと、さらに渋柿を剥いて干し柿に作ろうとしていたこと等々、ひとつひとつは小さいが、とても自殺するようには思えないというのだ。
ただ他殺だとするとドアには鍵が掛り、窓からも出入りはできなかった。窓は全部で3ヶ所あったが2ヶ所は内錠が掛けられ、もう1ヶ所は鍵は掛っていなかったが内部から框に釘が打たれて人が出入りできるほど開かなかったのだった。

秘境殺人事件    
石沢英太郎
九州の自然と歴史を探る会の会員で、薬草の研究をしている北島昌二郎が北九州の秘境といわれる求菩提山で、崖から落ちて死んだ。求菩提山は開発の手が入っておらず、観光地でもないために自然が守られ、会で山歩きをした場所だった。
北島氏は求菩提山が気に入り、さらに自身の研究から求菩提山には麻が自生しているのではないかと考えていた。そして7月下旬に一人で求菩提山に登り、崖から落ちたのだ。
事故と考えられたが求菩提山行きの前夜に、会員の一人で筑紫不動産常務の五味英雄から北島氏に電話があったのが気にかかる。五味氏は北島氏ら数人の会員に不良土地を販売してトラブルになっていた。
だが、その五味氏には当日レンタカーで知床半島を旅行していたというアリバイがあった。北の秘境にいた者が、はたして南の秘境にいた者を殺せるのであろうか…

木箱    
愛川純太郎
岡山県K市の繁華街にある山根茶道具店では京都の三原黒竜洞という陶匠に大量の皿や茶器の製作を依頼し、その品が6つの木箱に分けられて配達されてきた。
その木箱を順々に開けていったところ、最後の一つから小柄な男の死体が転がり出て来た。被害者は三原黒竜洞の使用人笠原輝夫であった。
笠原は脳天を鈍器で殴られていて、それが死因でもあったがその後荒縄で首を絞められていた。
京都での荷物の引渡しと、その後の梱包には山根茶道具店から主人が行って立ち会っており、死体が出て来た木箱には茶碗や皿を詰めたはずであったという。
しかも、その木箱には釘を一回しか打った跡がなかった。つまりいったん釘付けされた後は、K市の山根茶道具店で開けられるまで開かれなかったのである。
警察は京都にも出張し、運送会社にも聞き込みを行った。運送会社では配達中には不審はなかったが、6つの木箱のうち1つだけが異様に重かったと言う。
すると死体は発想される前、京都の三原黒竜洞で詰められたに違いない。だが主人の山根も三原黒竜洞の関係者も道具を入れた後に釘付けされるのを目撃していたという。では、死体はどうやって木箱に入れられたのか?


Anthologyのメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -