密室殺人大百科(上)
講談社文庫

新本格作家たちの書下ろし密室殺人短篇集+過去の名作短篇再録+カーのラジオドラマ+ロバート・エイディの評論「密室ミステリ概論」
疾駆するジョーカー    
芦辺拓
貸別荘の中央にあるホールで寝ずの番をする大学生二宮良太。ホールの真中に椅子を置いて、ホールの回りにある各室の出入りを夜中見張るのだ。
だが夜中になって二宮の位置から左前にある弁護士の津村の部屋からジョーカーの衣装を着た怪人物が飛び出してきて、その向かいの物置部屋に入っていった。
驚いた二宮が怪人を追って物置部屋に入ろうとすると後頭部をしたたか殴られて気絶してしまう。二宮が気がついたとき、周囲は警察官で満たされていた。津村がナイフで刺し殺されていたのだった。 しかもそのナイフは二宮の手に握られていた。犯人は二宮に濡れ衣を着せようとしたらしいが…

罪なき人々VSウルトラマン    
太田忠司
自殺の名所ともいわれるマンションの屋上から、ウルトラマンの仮面をつけた男が飛び降りようとしていた。それを見に前庭に集まった野次馬たち、駆け付ける警察官。そこで地から湧き上がるような声がした。ウルトラマンがマイクを通して野次馬に向って喋りはじめたのだった。
ウルトラマンは前庭には爆弾が仕掛けてあるとマイクを通して冷静な声で告げ、さらに嘘ではない証拠に駐車場にある車を一台リモコンで爆破して見せた。
野次馬がひとりでも逃げ出そうとしたら、前庭の爆弾を爆破させ野次馬を殺すという。野次馬を人質にしたのだ。ウルトラマンの要求は、そこにいる野次馬のひとりひとりが胸に手を宛てて考えれば自ずとわかるというのだが…
やがて事件は霞田志郎の活躍で解決し、ウルトラマンは人質となった野次馬を解放、同時に警官隊がマンションの殺到したがウルトラマンの姿は消え失せ、屋上にはポツリとウルトラマンの仮面だけが落ちていた。

本陣殺人計画    
折原一
江戸時代に白岡の本陣であった笹原家は相次いで当主が死亡し、弱冠25歳の光太郎が唯一人残り、広大な地所を相続するはずだった。
そこに20年以上前に家を飛び出し、行方知れずであった光太郎の父の弟、つまり光太郎の叔父の栄作がひょっこり帰ってきて笹原家の財産の半分を相続し、さらに光太郎の恋人だった美登里も奪ってしまった。
栄作と美登里は結婚することになり、光太郎は新婚初夜に栄作を亡き者にし、美登里を栄作殺しに犯人に仕立て上げようとする。 光太郎は横溝正史の本陣殺人事件に心酔しており、新婚初夜を笹原家の離れで迎えるように叔父に勧める。笹原家の離れは本陣殺人事件の舞台にそっくりであったのだ。
叔父達は離れで初夜を迎えることを承諾し、光太郎は嬉々として離れにある仕掛けを施した…

まだらの紐、再び    
霧舎巧
エリートの警察署長折川警視の趣味は爬虫類や両生類の飼育。深夜に関わらず、覚醒剤事件の報告に来た2人のエリートの部下が報告を終わると、蛇の話を延々と聞かせた。とくにスワンプ・アダーという沼地に住む毒蛇がご自慢だった。
暫くして署長の家に密告の電話があった。女子学生会館に住む桜川という女子学生が覚醒剤中毒だというのだ。折川警視は2人の部下とともに女子学生会館に駆け付けると、まず管理人室では管理人が死んでいた。なぜか手首が切られ、持ち去られていた。次に桜川の部屋では桜川が死んでいた。
桜川の部屋のドアには鍵が掛かり、窓は5センチほど開いていた。ただし部屋は3階で、左右上下の部屋にはほかの住人がいて不審者がそれらの部屋を通って桜川の部屋のベランダに行くことは不可能だった。
さらに桜川の部屋のドアのカギは付け替えられたばかりで、しかも特殊な鍵で合鍵は存在せず、唯一の鍵は死体のシャツの胸ポケットに入っていた。検死によると2人の死因は蛇毒、それもスワンプ・アダーという珍しい蛇の毒だった。

閉じた空    
鯨統一郎
大正3年10月31日、前日までの雨があがり快晴となった東京小石川。そこのこの日気球搭乗会が行われた。主催者は若くして莫大な財を築いた経済人津田龍二朗。
まず津田氏は自身が気球に搭乗することにして、潔く籠に乗り込んだ。すぐに気球が空に上がり、高さは早くも30間に達した。と、そのとき気球の中からピストルのような音が続いて2発。気球を降ろせの声が響いた。
降ろされた気球の籠の中には右手にピストルを持ち、胸を撃った津田氏の姿があった。誰もが自殺と考えたが、ミルクホール和泉軒の女給で津田の婚約者の山口順子は絶対に自殺ではないと主張した。

五匹の猫    
谺健二
阪神淡路大震災が起きて数カ月、まだ公園にはテントで生活する被災者たちがいた。有希真一もそのひとりで、テント生活をしながら職探し家探しをしたいた。そんなとき公園で知り合った同じ被災者の少女芦原美香。
美香はいつもひとりでブランコに座って、黒い野良猫を相手にしていた。やがて美香は両親とともに仮設住宅に移ったが、その数日後に仮設住宅が火事になり美香が焼け死んだ。美香の両親が鳥取に帰省しているあいだの出来事だった。
さらに一週間後、今度は有希たちが避難している公園で美香の母親の陽子が死んだ。雨上がりの朝、ブランコの前で喉をナイフで刺された陽子の死体が横たわっているのが見つかった。
凶器はなく、さらに陽子の死体の周囲には殺されたと思われる猫の死骸が五体。だが、不思議なことに雨上がりのぬかるんだ土の上には、陽子の足跡しか残っていなかった。

正太郎と田舎の事件    
柴田よしき
正太郎が桜川ひとみや浅間寺竜之介とともに連れて行かれたのは、福井県N村にある人気ミステリ作家玉村一馬の実家。そこには大きな蔵があり、中には先祖が集めた7億円ともいわれる骨董品が詰め込まれていた。
玉村家では相続税対策を含めて蔵ごと村に寄付することにして、そこはN村の博物館として無料で一般公開されることになった。無料とはいえ、骨董品が収蔵されているので、セキュリティシステムが付けられ、午後6時の閉館後は表から太い閂がかけられたうえ、3つの鍵が付けられた。
一馬自身は東京在住で今回里帰りし、それに合わせて知り合いだった浅間寺を誘ったというわけだった。一馬の実家は一馬の兄の勝馬と妹の愛子、それにいとこにあたる二卵性双生児の姉妹舞と萌の4人が暮らしていて、一馬の帰省と浅間寺たちの来訪に、うちわで歓迎の宴を開いてくれた。
6時に蔵を施錠して、その直後から宴始まったが、村の診療所に勤める舞だけが帰ってこなかった。それがいつまでたっても帰ってこない。やがて捜索が始まり、舞は密室となった蔵の中で絞殺死体となって発見された。

泥具根博士の悪夢    
二階堂黎人
超常現象研究家として知る人ぞ知る泥具根秋人博士の住まいは、青森県の十和田湖畔にあった。かつては天才科学者といわれ、多くの医学的発見をし、特許を多数取って、そこからの収入で一生かかっても使い切れないほどの財産を築いた博士だったが、愛妻の死をきっかけに偏屈で人嫌いになり、ついには超常現象に凝って、十和田湖畔の奥深くに隠棲し、めったに外へも出ずに超常現象の研究に明け暮れていた。
それでも博士には財産があったから、怪しげな霊能力者や超能力者、心霊術師に宗教家、魔術師に占い師などが代わる代わる訪れ、博士もそれらの人物の話に耳を傾けた。
さて事件は超能力者の冬木麻耶子とその兄の紫季男、彼ら2人の紹介者で宗教ゴロの嘉納源治郎がやって来たときに起きた。サイコキシネスを使って麻耶子が博士を殺害したのだ。
博士は裏庭に作られた霊応堂という不思議な建物の中で殺された。霊応堂は麻耶子のサイコキシネスの実証実験のためにわざわざ建てられたもので、入口がひとつあるほかは窓一つない正方形の建物だった。その正方形の建物の中には外側よりも少しずつ小さくなった別の正方形の部屋が3つ入っていた。
その四角い部屋は外側から第一界、第二界、第三界、第四界と呼ばれ、第四界は4m四方の大きさだった。それぞれにドアは一つずつついており、第一から順に北、東、南、西にあった。そのほかには機械室とトイレがあるだけだった。
博士は第四界で背中をナイフで刺されていた。そして第一から第四の全ての扉には内側から鍵がかけられていた。第一と第二の扉は分厚い樫で出来た扉で、さらに閂が掛けられており、鍵穴にはハンカチが内側から詰め込まれていた。
第三と第四の扉はスチール製で、さらに鉄板で補強がされ、内側から鍵穴をガムテープで塞いであった。そして雪の積もった霊応堂へは博士が向った足跡しか残っていなかった。つまり博士は五重の密室の中で殺されたのだった。

マーキュリーの靴    
鮎川哲也
雪の密室…それは新宿の超高層ビルの屋上の一角に作られた建物で起きた事件だった。そこには女流推理作家今井とも江が住んでいた。
その建物は、もともとビルのオーナーの息子が愛人のために建てたものだったが、息子と愛人の中は破局し、息子の知り合いの今井がただ同然ながら家賃を払って借り受けていた。
今井とも江の死体は、朝早く原稿を取りに来た編集者の戸山正によって発見された。この日の未明に1時間ほど降った雪が5cmほど積もっており、屋上への出入口から建物に向かって一筋の靴跡がついていた。
建物のドアには鍵がかかっておらず、そのドアをあけるといきなり胸にペーパーナイフを突き立てられた今井とも江の死体が転がっていた。
戸山から連絡を受けた警察の捜査で、現場に唯一残された靴跡は今井の部屋にあった靴のものと完全に一致した。雪が降っていたのは午前0時から1時の間だから今井は1時過ぎに殺されたことになる。
一方解剖の結果、死亡推定は前夜10時から翌3時までだから、今井が殺されたのは雪が降りやんだ午前1時から3時の間と考えられた。 つまり雪が降りやんだあとは、今井のほかは誰も現場に出入りしていないわけで、その結果今井の死は自殺と断定された。
最近今井の書くミステリは精彩がなく、トリックも枯渇して、執筆が大幅に遅れることも多かったという。かつてはミステリの女王など十もてはやされた今井が、そんな状況を苦にして死を選んだと考えられた。
ただひとつ奇妙なことがあった。午前4時に石橋という友人の女流作家が電話をしたのだが、そのとき確かに電話に今井が出たのだという。ただし風邪気味だからと言って、愛想もなくすぐに切ってしまったそうだ。
そのときに「猫と金魚」という落語が聞こえたとも石橋は言った。だがこれは死亡推定時刻から1時間も後のことで、警察は石橋の電話の掛け違いと判断したようだ。
今井とも江は生命保険に入ったばかりで、自殺では保険がおりない。他殺か事故死であることを証明して欲しいとの依頼が遺族から肥った弁護士に、さらに「わたし」に廻ってきた。

クレタ島の花嫁 贋作ヴァン・ダイン    
高木彬光
ファイロ・ヴァンスのもとにやって来たマーカム地方検事が取り出したのは、クレタ島トロイの遺跡から発掘された首飾り。昨夜ハドソン川に浮かんだ男の水死体のポケットから発見されたものだった。
水死人の身元はキクロペスという名のクレタ島生まれのギリシャ人。アンゼリカという美貌の姉がいて、その姉は億万長者にして素人考古学者フランク・カルバートの妻であった。
あったというのは、つい最近フランクが自室で急死したからだった。キクロペスの所持していた首飾りもフランクが発掘したものであった。それをなぜキクロペスが持っていたかは不明だが…さらにキクロペスの死因は青酸中毒と判明、これは明らかに恣意的な死を意味した。
ファイロ・ヴァンスはフランクの死も殺人に間違いないと言い出したが、フランクは鍵のかかった密室に状態の寝室で死んでいたのだった。

デヴィルフィッシュの罠    
ジョン・ディクスン・カー
不可能犯罪の巨匠カーのラジオドラマ。キューバ、デヴィルフィッシュ湾で米西戦争の時に沈没した船を引き揚げようとするエドマンド・スタンリー。
その船には過酷な奴隷労働により巨万の富を蓄えた赤い悪魔と呼ばれる男が、上陸してきた米軍から逃げるために財宝を積んで湾に乗り出したところ、海から巨大なタコが襲い船ごと財宝を海底に沈めたという伝説があった。
雇ったダイバーを潜らせてみたが、連絡が取れなくなり空気管も胸索も切られてしまった。スタンリーの娘婿のディックが救援に向かうことになったが…


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