21世紀本格
カッパ・ノベルズ

島田荘司責任編集の本書は、島田が21世紀の本格ミステリの進む方向の指標となるような短篇をアンソロジーとして編むことを企画して各作者に執筆を依頼したもの。なお島田自身の「ヘルター・スケルター」は他の執筆者へ水準を示すものとして配布されたもの。
神の手   
響堂新
生殖医学研究所は世界最先端の生殖医療や移植医療を研究しているが、れっきとした民間企業であった。その研究範囲は動物言語学や比較心理学にまで及んでいた。
その研究所はイスラエルにあったが、所長は日本人の沢渡譲、世界的に有名で、常に注目されるな研究者であった。その研究所で雌のゴリラのアマンダが、女性研究者を殺すという事件が起きた。
アマンダは女性研究者から言葉を習い、パソコンを使ってのコミュニケートの最中に突然襲われたらしい。襲った場面は誰も見ていないが、出入りはモニターでチェックされており、アマンダによる殺害としか考えられなかった。
ちょうどアマンダによる事件が発生したときに、沢渡を訪ねていたイスラエルの学者ヘレナ・ロイズマンは研究所の施設や什器に違和感を覚えた。
例えばアマンダが使うパソコンにしてもキーボードが異様に大きかったし、施設内にはブタがやたらに飼われていた。そのブタの数は実験用としても多すぎた。
元従業員が、数年前に研究所のブタから人間の子が生まれたと話していたこともあった。さらに研究所内には特別会員用としての別棟が建てられていた。それらの疑問を沢渡にぶつけると、一応それなりの答えは返ってくるのだが…

ヘルター・スケルター    
島田荘司
トマス・クラウンはベッドの上でボッーとしていると、ドアが開いてカートに乗った女医が機械に押されて颯爽と登場した。トマスはそのとき過去のことがまったくといっていいほど思い出せなかった。
自分の名前すらわからない状態だった。女医はラッセルと名乗り、トマスが交通事故にあい、脳に重大な損傷を受けていて、このままいけば廃人同様になるという。
それが証拠に、記憶がほとんど失われているはずだとも付け加えた。そして、今から特殊な薬を投与するが、その薬が効いている間に過去の記憶がよみがえれば、脳が働きだした廃人となるのは免れるだろうと告げた。
ただし記憶が戻らなければそれで終わりだし、薬は副作用や脳への負担の関係で再投与しても害はあっても効き目はほとんどないという。つまり1回きりの勝負なのだ。
薬が投与され、女医が過去のことを質問し、トマスはその質問に答えつつ自分の過去を少しづつ思い出す。ベトナム戦争で傷を負い、やがて帰国してヒッピーとなり、殺人にも手を染めて…

メンツェルのチェスプレイヤー    
瀬名秀明
レナと僕は携帯電話も通じない山中にある児島教授の家に向かった。そこで教授が新たに作成したロボット、メンツェンのチェスプレイヤーを紹介され、レナとの勝負が行われた。
対局はレナの敗北に終わり、ほくたちは寝室に引き揚げた。その夜、異様な物音に目が醒めた。壁に掛けられたモニターが一斉に教授の顔を映し出したのだ。そして教授は自分が既に死んだと語り出した。
レナと僕は教授の書斎に駆け付けるが、その扉は開かなかった。レナが体当たりして扉を開けると、部屋の中には血が飛び散っており、明らかに教授の身に異変が起きたことを示していた。
だが、教授の姿はどこにもなかった。さらに教授が死んだことで、メンツェンのチェスプレイヤーはコントロールを失いレナに人間の命を賭けたチェスの勝負を挑んできた。

百匹めの猿    
柄刀一
敬老の日の祝日を利用して行われた幣原家のホームパーティ。バーベキューを終えて、かくれんぼを複雑にしたゲームをやり、ゲームの勝者の幣原夫妻だけが寝室のベッドで寝る権利を得た。
これは幣原家のパーティでは恒例で、ゲームの敗者たちは床でゴロ寝をしなければならないのだ。そんなわけでホストにも関わらず幣原夫妻がベッドに入り、その周囲に来客たちが思い思いにゴロ寝した。
深夜、幣原和紀がうなされて起き、ベッドから飛び出てガラス戸を突き破った。ガラス戸の向こうはバルコニーで、背の低い手すりがあるだけ。和紀の体は手すりを飛び越えて、岩場の斜面を転がり落ち、下を流れる川に落下した。和紀は即死だった。
その事件の暫く前に和紀は札幌のバーで火災にあっており、その夢を見て逃げ出すつもりでガラス戸に突進した、と考えられ事故とされた。そして1年後、和紀を偲んでパーティのメンバーが再び幣原家に集まった。

AUジョー    
氷川透
2020年代に発生した海綿状脳症の大流行によって日本の人口は激減し、国家は人口管理を強化し、すべての人員は登録監視され、それは生まれる前にまで及んだ。
さらに国民は細かく分けられた居住区での生活を義務付けられ、居住区間の移動は許可がない限り禁止された。
居住区の境には関所が設けられ、境界線には電磁波バリアが張られ、無法にバリアを突破すれば個人IDがたちまち関係する警察に通報され、即座に逮捕された。
これにより居住区の住民はすべて顔見知りとなり、事実上日本国民は江戸時代の村社会と同様の環境に置かれることとなった。このひとつの居住区の中で殺人事件が起きた。イサムという若者が公園で殺されたのだ。
イサムを発見したのは同級生のシュンだが、シュンによれば発見時イサムにはかすかに息があり「ジョーにやられた」と呟いた。前世紀にあったミステリという小説によく使われるダイイングメッセージだ。
だが、この居住区にジョーという名の人物は一人もいなかった。ほかの居住区から合法的に入ってきたのなら関所に記録が残るはずだがそれもない。ジョーとはいったい何者なのか…

原子を裁く核酸    
松尾詩朗
紫外線照射株式会社の5階はフロアすべてが実験室にあてられていた。そのなかでも最も広い第一実験室が事件の現場であった。
そこでは徹夜で実験が行われる予定で、竜崎課長、近石主任に課員の後藤の3人が、9時過ぎに実験室に入った。翌朝、最も早く出社した社員が異変に気づいた。第一実験室の中で3人が死んでいたのだ。
現場は異様であった。近石と後藤の死体は真っ二つにされ、下半身同士、上半身同士がそれぞれ抱き合うようにされ、それをベルトで括り合されていた。ベルトは竜崎のものと近石のものだった。
さらに近石と後藤の死体の4つのパーツには通電した跡があった。これらは竜崎が行ったらしく、竜崎は近石らの死体を真っ二つにしたナイフで自分の喉を切り裂いて死んでいた。
さらに奇妙なことに3人の死体を解剖してみると、いずれの血中も酸欠の状態であることがわかった。

交換殺人    
麻耶雄嵩
木更津悠也の探偵事務所を訪れた中年男の平山勝は、ある夜ある飲み屋である男と交換殺人の約束をしたという。その日は覚えていたが、飲み屋の名も、相手の名も思い出せなかった。泥酔していたというのだ。
平山が依頼したのは妻の俊子の殺人、一方平山が依頼されたのは湯舟啓一というおとこの殺人であった。うろ覚えの記憶をたどると、実行するのは平山の方が先で、湯舟の死を確認した後に相手が俊子を殺すことになっていた。
ところが酔いがさめてみると小心な平山は青くなり、どうしようかと悩んだ。相手への連絡すら取れないのだ。だが、平山が先に湯舟を殺すのだから、平山が手を下さない限りは大丈夫であろうと考えることにした。
ところが、湯舟が殺されたのだ。深夜、酔って帰る途中を襲われて、鈍器でめった撃ちにされたのだ。驚いたのは平山だ。平山が湯舟を殺したと相手が理解すれば、相手は俊子を殺しに来る。
平山は俊子を広島の実家に避難させ、慌てて木更津のところに依頼に来たのだ。一刻も早く湯舟殺しの犯人を捕らえてくれと…

トロイの木馬    
森博嗣
ある企業の情報セキュリティ部門にいる千宗は、会社のシステムに穴をあけたかもしれなかった。もらったゲームソフトをインストールしたが、そこにウィルスが仕込まれていたのかも知れなかった。
そのウィルスはトロイの木馬の一種で、それによってある国立の研究機関のシステム内に待機していたウィルスの侵入を受けた。
結果的に会社のシステムは甚大な被害をうけていて、修復が終わり次第、詳細を調査されれば千宗は馘になるかもしれなかった。
半分破れかぶれの千宗は、国立の研究機関のシステムに侵入した。そこで見たのはトービックというシステムの管理者が残した日記。その日記によればトービック氏は命を狙われているようだった…


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