鮎川哲也と13の殺人列車
立風ノベルズ(入手難)

鮎川哲也が編んだ第10巻目の鉄道ミステリのアンソロジー。
振り出し    
荻一之介
明治生まれで本業は医師であったという。本昭和11年のもの。
柏木鷹夫はT医学専門学校の実習で会った患者を見て驚いた。その女はカフェの女給をしていて、柏木が一夜の関係を持った女性だった。さらに驚いたことに、その女は先天性の梅毒の疑いが濃厚だった。
もう柏木は実習どころではなくなり、その日を境に思い悩む日を送った。そんなある日、柏木のもとにどうやって調べたのか、その女から手紙が届き呼び出しをくった。
気が進まないながらも行ってみると、女は柏木との行為で妊娠したのだという。これを聞いた柏木はお先真っ暗になったが…

探偵殺害事件    
星田三平
作品数の少ないまぼろしの作家の一人。サスペンスタッチの本作品は昭和6年に「新青年」に発表されたもの。


夜行列車の一等車で岩崎探偵が眉間を拳銃で撃たれて殺された。岩崎探偵はT市の銀行で起きた盗難事件の捜査のために、T市に向かう途中であった。
銀行側は二家くにという秘書を岩崎の案内役としていたが、くにが便所に行っている間に襲われたのだ。岩崎の座っている座席の窓は嵐にもかかわらず開いており、座席も岩崎の服も雨にぬれていた。
事件があった後に誰かが列車から飛び降りたという。一等車には5名しかおらず、その乗客の証言でドテラを着た男が消えていた。ドテラの男が岩崎氏を撃ち、列車から飛び降りて逃走を図ったと推測された。
線路沿いを捜索するとドテラの男が死体となって見つかった。その男はハコ師(列車専門のすり)の定、何人もの警官が顔を知っていた。事件は一件落着と思われたが…

陰影    
伝・江戸川乱歩
この作品は、「婦人グラフ」の大正15年6月号〜8月号に各10枚づつ連載された作品で、作者は江戸川乱歩とあるが、文体は乱歩とは似ても似付かず、内容も構成も素人の域を出ず、贋作であるのは確実だが、誰が書いたかはわかっていない。


活動写真の帰りにかろうじて終電車に間に合った相沢八郎は、妻にそっくりな顔をした女と乗り合わせる。その女は終点の一つ手前でふらふらと降りて行ったが、八郎もつられるように降りた。
女は電車を降りてからどこに行ったのか、その姿を見失ったが、八郎のたもとにはさっき見た活動写真のプログラムが入っていた。
それは女が入れて行ったものに違いなく、それには「明夜、8時、K高台にて、助けて」と書かれていた。そして翌夜8時、ステッキを武器代りにK高台にやってきた八郎は…

急行西海    
天城一
本業が数学者であり、独特の文体で余技に執筆する天城一は、熱烈なファンを一部に持つ作家で、密室・アリバイ・不可能犯罪物の短篇を主に発表。


外房の別荘で首つり自殺した油木貴美代が江南一二三に送ってきたのは、遺書代わりの詩とサンキューひふみさんと書かれた一片の紙だった。
警察は自殺に見せかけた他殺も疑った。しかし容疑者として浮んだ人間にはアリバイがあった。だが一二三は警察に訴えた…他殺であると。
なぜなら一二三曰く…私は油木さんとそんなに親しくないんです。なぜ親しくもない人間に遺書なんか送るんでしょうか?

京都発”あさしお7号"    
山沢晴雄
山沢晴雄は関西出身で本業が公務員。創作は余技のために作品数はあまり多くないが、難解で有名。本作はこのアンソロジーの為に書き下ろしたもの。


元警官で現在は探偵をしている音村伸治の事務所は新大阪駅の近くにあった。音村が事務所で果物ナイフを胸に刺されて殺されているのが見つかったのは月曜日の朝。
死亡推定時刻は2日前の土曜日の午後4時半から6時半の間とされた。土曜日の午後4時47分に音村は新聞配達の少年に目撃され、午後5時50分には江坂の喫茶店に現れて名刺を置いてすぐに立ち去り、6時20分には黒川という旧知のセールスマンが事務所を訪ねて5分ほどで帰っている。
黒川が5分で帰ったのは、音村がこの後すぐに来客があると言ったからで、これらの証言から音村は土曜の6時半ごろに殺されたと考えられた。
何人か容疑者が浮かんだ。その一人は大井といい6時20分に千里で友人と会い、それ以後はずっとアリバイがあった。田村尚美は名古屋19時27分のひかり163号で同窓会に出席するために姫路に向かっていたと主張。
島田悦子は松江の親戚の法事に出席するために、京都発16時32分の特急あさしお7号に乗っていて、18時11分着の福知山で夫の友人に荷物を渡したと述べた。

西海号事件    
種村直樹
種村直樹はレイルウェイライターとして鉄道雑誌や旅行誌でも活躍。ミステリの長篇も刊行している。本作品は学生時代の昭和31年に発表されたもの。


東京行きの急行西海が大垣を出て岐阜に向かっていた時、一人の男がトイレに立った。その男は山本という大阪のサラリーマンで、同僚の浜田と一緒に東京へ出張するところだった。
トイレから戻った山本は窓際に置いたうどんを手にとり一口すすったが、その途端に苦しみだして死んでしまった。のちにわかったことだが、死因は青酸による中毒だった。
山本が食べたうどんは、浜田が米原で調達したもので、山本はすぐに食べずに蓋をしたまま窓際に置いていた。その後、一度蓋を取ったが食べずにいて、トイレから戻って冷えきった状態で箸をつけたものだという。
うどんは浜田も食べており、うどんのなかに最初から青酸が混入されていたとは考えにくく、同じボックスに座っていた浜田が隙を見て山本のうどんに入れた可能性が最も高いと判断され、浜田は警察に拘留された。

浦和が嗤う    
沼島りう
北大推理小説研究会の機関誌の鮎川哲也特集号に発表されたもの。タイトルは鮎川氏の「達也が嗤う」を意識したもの。


徹夜マージャンの最中にテレビをつけると岩見沢駅が映っており、列車の遅れに抗議しているダークスーツの男がいた。結局列車は10分程度の遅れだったが、その程度で抗議をするのも大人げないとメンバーは笑った。
その後、そのダークスーツの男が札幌駅のホームに並んでいるのが別のニュース番組で流れた。その時間は21時4分の小樽行き列車を待つ列。岩見沢で10分遅れた列車は20時44分に着き、その後小樽までは何本か列車がある。
急いでいるから列車の遅れに抗議していた男が、なぜ札幌駅で何本かの列車を見送って遅い列車を待つ列にいたのか?麻雀好きであるメンバーは、同時にミステリ好きでもあり、思い思いに推理を始めたが…

巡査と踏切    
江島伸吾
いつもの巡回コースである田圃の中の小さい踏切に近づいた田舎町の巡査は、そこに黒いスーツに黒いネクタイ、足元に花を置いて佇むひとりの男を見た。
飛び込み自殺を警戒した巡査は、何気なさを装って男に話しかけた。男は7年前にこの踏切で起きた中学生の死亡事件について話し始めた。
その事件は自殺とも事故ともわからなかったが、男は中学生を死に追いやったのは自分だというのだ。自分は中学生を殺したのも同然であり、その冥福を祈りに7年ぶりに踏切にやって来たのだと語った。

白い鳥を探せ    
相生彰
上り寝台特急富士の中で発見された男の死体は光邦軽金属社長曾根吉彦のものだった。曾根の死亡推定時刻は朝の5時半から6時半、その時間は富士が名古屋と浜松の間を走行中であった。
一方、同日の下り新幹線こだま263号の車中では、光邦軽金属副社長水島孝が殺された。水島の死亡推定時刻は朝の7時半から8時半、その時間はこだまが浜松と名古屋の間を走行中であった。
光邦軽金属では社長と副社長が銀行系の役員を解任しようと画策し、それがほぼ成功を治めつつあった。そんな折の事件である。やがて容疑者として浮んだのは、銀行系の役員に有卦がいい2人の課長。だが、2人ともにアリバイがあった。ひとりは北陸本線、もうひとりは山陰本線の列車内にいたというのだ。

    
北村昌史
男は福井駅から富山行きの下り特急雷鳥35号に乗った。この後、富山駅から夜行の高山経由名古屋行きの急行のりくら12号、さらに名古屋から始発の新幹線を乗り継いで東京駅近くのホテルに入る。
だいたいホテルに入るのは9時近くの予定であった。男は夕方に東京駅近くのホテルにチェックインし、その姿を印象付けている。今晩一晩はホテルの部屋にいたことになっており、その証明もできるようにしてある。
その間、ホテルを抜け出して福井に来て、男の会社で残業をしている上司の胸にナイフを突き立てたのだ。憎い上司を殺した男を守る完璧なアリバイ、男は上司を殺した後に乗った雷鳥35号の車中でほくそ笑んだ。

雨美濃    
K・ヒロシ
本作品は星新一選によるコンテスト優秀作のショートショート。


谷川岳をトンネルで貫く上越線。水上、湯檜曽、土合、土樽と駅が続き土合駅は下り線がトンネルの中にあり、地上まで長い階段を使うことで有名である。
私は高崎駅で上越線の下り列車を待っていると、貧相な初老の男が声を掛けてきて土合の先に雨美濃という駅があるという。その話に興味を覚えた私は男に雨美濃に連れて行ってくれと頼んだ。
土合を過ぎて暫くすると列車がガタンと揺れ、車内が一瞬停電した。停電後、初老の男は消えていた。車内のどこにもいなかった。それから私の雨美濃捜しがはじまった…

夏の最終列車    
津島誠司
津山発岡山行きの津山線最終列車が山間部に差し掛かったとき、非常ブレーキがかかった。車掌である私は、そのときちょうど車内改札をしており、列車が停まると運転席に駆け付けた。
運転主任は人が飛び込んできたという。2人で降りて列車の下を捜すと、女の轢断死体があった。その死体は首が轢かれてちぎり取られていたが、運転主任は近くの溝からその首を見つけた。
首は運転主任の奥さんのものだった。だが、私は津山駅で発車する少し前に、運転主任と駅で口論している奥さんの姿を見ていた。奥さんは最終列車に乗っておらず、車の運転もできない。
第一津山から現場までの道路は、工事区間もあって列車より早くつくことは不可能だった。自殺にしても、どうやって奥さんは現場まで来たのだろうか…


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