無人踏切
光文社文庫

カッパノベルズの鉄道ミステリ・アンソロジーを文庫化した際に、新たに編まれた第4集。
「雷鳥九号」殺人事件   
西村京太郎
大阪発金沢行きの特急雷鳥9号が、滋賀県と福井県の県境の新深坂トンネルを走行中に殺人事件が起きた。トイレで男が至近距離から拳銃で撃たれたのだ。
男は悪徳貴金属販売業者のワンマン社長だったが、この社長が車中で若く美しい女性と話しているのを、車掌に目撃されていた。その女性は三浦由美子、福井で下車して九頭竜湖にいるのを発見され、身柄を確保されたが捜査には一切黙秘を通した。
社長を撃った拳銃はトイレの窓から捨てられて、新深坂トンネルを出たあたりで見つかったが、なんとその拳銃は事件の朝に金沢で別の殺人に使われていたことが判明した。
金沢で凶器として使われたあと、雷鳥車中で再び凶器とされることは不可能で、つまり凶器にアリバイがあったのである。

誰かの眼が光る    
菊村到
金曜日の夜、国電Q駅で電車を待つ浅野正一は少し酔っていた。そのとき背後で騒ぎがおき、男が浅野の背中にぶつかってきた。浅野はカッときて、ぶつかってきた男を押し返したが、男ははずみでホームから落ち、ちょうど入ってきた電車に轢かれて死んだ。
浅野は反対側に同時に入ってきた電車に乗ったが、のっぺりした顔の男にジッと見られているような気がした。もしかして、そののっぺり顔の男は、浅野が男を突き落としたところを見たのではないか…

虹の日の殺人    
藤雪夫
相模灘の湾に面するM町は東京から電車で1時間半の距離であった。そのM町駅に着いた貨車の中から男の死体が出てきた。
死体は阿部義夫というM町駅の日通支店詰めの社員で、一昨日の午後から恵比寿の貨物駅に出張していた。恵比寿駅に確認すると、阿部は確かに昨日の午後3時ごろまで貨車専用ホームにいたことが確認された。
阿部の死亡推定時刻はそれを裏付けるように、昨日の午後3時から6時の間。一方、阿部の死体が出てきた貨車はビールケースが積まれ、午後5時ごろに錠がかけられて午後6時に恵比寿駅を出発していた。
貨車はその後2回の編制替えを経てM町駅には昨日の夜10時に着いた。状況から阿部は恵比寿で殺され、貨車に積まれたとみるのが妥当であるが…

消えた貨車    
夢座海ニ
弘前から同じ日に発送されたリンゴを積んだ無蓋貨車2両。1両は14キロケース736個を積んだ秋葉原駅行のトラ13887号で、荷送人相馬君平、荷受人坂上良一、もう1両は14キロケース740個を積んだ大阪市場行のトラ15459号で、荷送人白取紋三郎、荷受人竹越宗一。
ところがどうしたことか弘前駅ではこの2両の車載票を入れ違えてしまった。間違いに気づいたが、途中での変更は却って混乱を招くと判断され、着駅で行先変更されることになった。
その結果、本来秋葉原に行くはずの貨車が大阪へ、大阪に行くはずのものが秋葉原に着いた。ところが現場でも混乱や連絡不備があって、13887号の貨車がどこかに消えてしまったのだった…

やけた線路の上の死体    
有栖川有栖
英都大学ミステリ研の一行4人は夏休みに紀州の南部という町にやってきた。メンバーの一人望月の実家に遊びに来たのだ。到着した日の夜、紀勢本線の線路で男が列車に轢かれて死んだ。
最初は自殺かと思われたが、警察の捜査で死因は後頭部の打撲であり、死後轢断つまり殺人事件と断定された。現場は見通しの悪い急カーブで、死体は上り線路に横たえられていた。
死体を轢いたのは現場を8時6分に通過する急行列車で、その5分前に現場を通過した下り特急列車の運転手は異常を認めていないので、死体は8時1分から6分のあいだの5分間で横たえられたことになる。
被害者は資産家で、容疑者は2人。被害者の甥で金に困っていた男と元従業員で横領で馘になったが被害者を逆恨みしていた男。だが2人とも8時前後にはアリバイがあって、現場に来ることはできなかった。

無人踏切    
鮎川哲也
高利貸しの小浜専造が茅ヶ崎郊外の自宅で死んでいるのが見つかったのは翌日のことであった。死亡推定時刻は前日の午後6時過ぎ、専造の腕時計も6時30分で止まっていた。
さっそく捜査が開始され、阿漕な専造の取り立てにあって困っている2人が容疑者として浮かんだが、1人は返済のめどが立ちかつしっかりしたアリバイがあったので容疑が消え、もう一人の製薬会社社員日高節夫に的が絞られた。
しかし日高節夫はアリバイを主張した。当日は女性2人とドライブし、千葉からフェリーで横須賀に渡り、東京に戻ったというのである。6時30分ごろにはちょうど逗子付近にいたという。
アリバイの証人として一緒にドライブをした呉和子と石沢みねにも刑事が事情聴取した。すると6時過ぎに逗子付近の踏切近くで車がエンストし、日高は自動車屋か自転車屋を捜して来るといって外に出て行ったという。
しかし付近には何もなかったらしく20分ほどで戻ってきた。その後再びエンジンをかけてみると、車は機嫌を直して動き出したというのである。
その直後に踏切に差し掛かると、ちょうどそこに横須賀線の下り電車が来たという。時計を見た石沢みねは、目の前をヘッドライトに照らせれたクリーム色と水色に塗り分けられた横須賀線の電車が通り過ぎたのは、6時35分と断言した。この瞬間、日高節夫のアリバイが成立した。

「死体を隠すには」    
江島慎吾
山村の分教場に赴任して7年になる田沢良三のもとを訪れた旧友の三木と江島。7年ぶりの再会であった。田沢は結婚し、妻の信子はやはり分教場の低学年担当の教師。
ただ三木と江島から見ると2人の仲はうまくいっていないように思えた。思ったよりも寂れた山村は何もなく、田沢は三木たち2人を分教場に案内した。それくらいしか見せるものはなかったのだ。
翌日、江島が起きたころには既に信子は畑仕事、田沢は分教場に行っていた。夏休みだが仕事があるということだった。江島は急いで食事を済ますと三木とともに分教場に行った。
教室に入るといきなりスピーカーから田沢の悲鳴が聞こえ、慌てて田沢のいるはずの宿直室に向かうと戸が開かない。中からは田沢の叫び声と瓶の割れる音、そして何かのはずみでスイッチが入ったのかテレビの大きな音。隣の放送室から宿直室に通じる戸を押し破ると宿直室の中はもぬけのから。
宿直室からの戸は全て中から鍵がかけられていた。窓は開いていたが、窓には鉄格子がはまり人間が出入りすることはできない。田沢も田沢と争っていた相手も消えてしまった。そして夕方、裏山の沢で田沢の死体が見つかった。

親友 B駅から乗った男    
秦和之
2両編成のグリーンの電車がのんびりと走る都会の片隅の路面電車的ローカル線。この2両の車両は行き来ができず、走っている間はそれぞれが密室になる。
K駅まで1両目にいるのはa1人だが、K駅でbが乗って来て2人になった。そのとき2両目には3人の客がいた。B駅についてaが降り、発車直前に2両目にcが乗った。この時点で1両目はbだけ、2両目はcを含め4人。
このB駅発車直前には1両目でbが運転手に話しかけているから、bは確実に生きていた。次のC駅で2両目からcを残し3人が降りる。1両目はb、2両目はcそれぞれ1人だけ。そして終点D駅。
ドアが開きcは降りたがbはなかなか降りない。気づいた運転手が声をかけると、bは背中にナイフを刺されて殺されていた…

砧最初の事件    
山沢晴雄
細井耕造は小野と名乗る男から呼び出しを受けた。細井は大企業の営業課長の傍ら、覚醒剤やピンクフィルムの密売の内職をしていたので、その方面の客であった。
まず喫茶店で30分待たされた上にホテルのロビーに待ち合わせ場所を変更され、さらにスナックに変えられた。しかもそのスナックはデタラメで、教えられた場所には工場しかなかった。
家を出てから5時間、あちこち引き回されたあげく、体よく騙されたのだ。怒って家に戻ると、その間に空巣に入られヤミの顧客名簿を盗まれていた。
さらに近くでバラバラ殺人事件が起き、その被害者が細井の仇敵であったことから細井に疑いの目が…しかも事件のあったころには細井は騙されてあちこち引き回されていたのでアリバイもない。困った細井は開業したばかりの探偵砧順之介を訪ねた。

鮎川哲也を読んだ男    
三浦大
友人から勧められて鮎川哲也のミステリを読んだ浦和達也は、旅行好きであったこともあって、たちまち鮎川ミステリの大ファンになった。
達也は兄の一夫の妻と不倫の関係に落ち、ついに一夫を亡きものにしようと計画。鮎川ミステリに心酔していた達也は、鬼貫警部も脱帽というトリックを考え、その計画に基づいて一夫を殺したが…

無人列車    
神戸登
たかが食い物のことで争い、相手を殺したオレは列車に乗り込んだが、その列車は乗客も運転手もいない無人列車だった。すばらしいオチのついたショートショート。

或る駅の怪事件    
蟹海太郎
ある田舎町の小駅の駅長が行方不明になった。交代時間の午後2時に助役と勤務を交代し、駅の便所で駅員2人に相次いで目撃されたが、そのとき駅長は制服制帽で鞄を下げていたという。
そののち銀行に行って売上金の45万円を預け、官舎に戻るはずだったが、そのまま消えてしまった。駅長は銀行にも現れなかったという。翌日になっても駅長の行方はわからなかった。
あとでわかったことだが、この日駅長は弟が勤める小学校に現れて、弟宛の封筒をことずけている。弟は授業中で直接会ってはいなかったが、校長と学校の前の煙草屋がその姿を見ていた。
校長らによると駅長は制服制帽であったといい、弟に渡された封筒には3万円が入っていた。ここに至り駅長には公金拐帯の容疑が濃厚になった。
弟は金に困っていて、兄の駅長に借金を申し込んでいたから、餞別代りに横領金の中から3万円を渡し、残りを持って高跳びしたものと考えられたのだ。

暗い唄声    
山村正夫
群馬県を走る吾妻線の特急列車はわずかな乗客を乗せて終点の万座・鹿沢口駅に滑り込んだ。そのわずかな乗客の一人に滝連太郎がいた。滝は嬬恋村で行われる大学のオカルト研究会の合宿に遅れて参加するためにやってきたのだ。
列車がホームに入る直前に、一人の老婆が3号車から御詠歌のような歌を低い声で歌いながらやって来て、2号車にいる滝の脇を通り、先頭の1号車に消えていった。滝は不気味に感じながらも慌てて老婆の後姿を写真に撮ったが、その時列車がホームに着いた。
滝は改札口で待っていたが老婆らしい人間は降りてこず、出迎えに人間に聞いても滝の前に通った乗客の中に老婆はいないという。首を捻っていると駅員が飛んできて、3号車で若い男が殺されていると叫んだのだった…

幽霊列車    
赤川次郎
寂れたローカル線の終点は、これまた寂れた温泉町の岩湯谷駅。ある日の早朝、岩湯谷を6時15分に出る始発列車に8人の客が乗り込んだ。いずれも大阪から来た団体客で、駅前のゆけむり荘に一泊したのだった。
この8人が列車に乗り込んだのは間違いない。駅長も車掌も機関士も証言したし、ゆけむり荘の主人も朝早くに発つ客を見送っていた。ところがこの8人は次の大湯谷に着いたときに列車から消えていた。
車内には確かに乗客がいた形跡があったが、客の姿はどこにもなかった。途中で列車は停止もしなければ、客車から飛び降りることも不可能だった。
飛び下りれば確実に怪我をしたろうし、両駅間は切り立った崖が続き飛び降りるような場所すらなかった。事件はたちまち評判となり、世間は幽霊列車と呼んだ。


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