幻のテン・カウント
講談社文庫(入手難)

鮎川哲也氏編集による、戦後間もなくデビューしたアマチュア派の才人の作品集。
青髭の密室    
水上幻一郎
産婦人科の病院で子宮外妊娠の為に死亡した女性の、死因特定のための解剖が行なわれた。解剖が終わり院長の赤間博士は手術室から院長室に引き揚げた。手術着姿の院長が院長室に入るのは女性の母親と立会いの男が廊下の長椅子から見ている。
その直後に院長室に入った看護婦は、そこに院長の死体を発見して悲鳴を上げた。死体の側には拳銃が落ちていて、院長はそれで自殺したように見えた。
警察や検視医がやってきた捜査を始めたが、検視医は自殺ではなく殺人だという。しかし、廊下側以外の出入口には内側から鍵がかかり、窓も内側から掛け金が掛けられていた。
廊下側のドアには2人の目撃者がいたから密室殺人ということになってしまうが…

テニスコートの殺人    
岩田賛
海岸にあるセメント会社社長の別荘は、週末には社員の保養施設として開放されていた。そこにあるテニスコートで、ある朝保養にきていたセメント会社社員佐伯の銃殺死体が発見される。
凶器の拳銃は少し離れたところに転がっており、拳銃の銃座にはコートの白線を引いた石灰粉が付着していた。佐伯は前日に保養所にきていたセメント会社社長の婚約者茅原雅子を恐喝していた。
雅子は佐伯と交際していたことがあり、佐伯はそのころの雅子からの手紙を買い取るよう雅子に求めたのだった。テニスコートで死体を発見したのは、その雅子であったのだが…

疑問の指輪   
鷲尾三郎
神戸港の西防波堤付近で、市内会社社長鰐淵剛蔵の死体が波間に漂っているのが発見された。鰐淵氏は数社の社長を兼ねており、前々日の午前11時過ぎに、市内の会社から会社へ車で移動している途中行方不明になった。
普段は専用車での移動だが、その日はたまたま運転手が欠勤したために、朝からタクシーを雇って移動していた。タクシーの運転手によれば、鰐淵氏は移動の途中で車を停めさせて、忘れ物をしたといって降りていったという。それが鰐淵氏の姿が目撃された最後であった。
そして死体からの衣服の間から、黒真珠の指輪が一つ出てきた。調べてみると、この指輪は進駐軍の軍人の夫人からひったくられたバックの中にあったものだった。
はたして鰐淵氏の死は、事故か、自殺か、殺人か…名探偵三木要は指輪が事件を解決する鍵だというのだが…

黄色の輪    
川島郁夫(藤村正太)
T県C湖畔Sホテルに避暑のために宿泊していた植村氏の一家。夫人の美也子と娘の都留子、それに女中のとよは長逗留し、主人の植村慎太郎は会社重役のために週末だけ泊まっていた。
その植村氏が留守の間に、湖畔の反対側にある眺望台に絵を描きにいった都留子がC湖に転落して溺死するという事件があった。
その事件は事故として片付けられたが、それから暫くして植村氏のもとに奇妙な小包が連続して届く。羽子板の羽根とか苗札とか押麦とかが毎回丁寧に包装され、千代紙で作った黄色い輪が同封されていた。
そしてある日の夕方、いつものように散歩をしていた植村氏の前を行く若い男が、小包に入っていたのと同じ千代紙で作られた黄色い輪を落としていったのだった…

犠牲者    
飛鳥高
時は3月初旬、所は上越の山の中にある小さな温泉町の寺で住職が殺された。発見されたのは朝のことで、寺の墓地の中で住職の死体の上に人形が凶器を握って覆いかぶさっていた。
凶器は裁縫や靴の製作に穴を開けるために使う、中空で突端が刃になっている鳩目という金具で、中空部分には毒物が仕込んであり、磨きこまれた切っ先が刺さって毒物が入り、殺されたのであった。
住職が墓地に線香を供えるのは日課で、前日の夕方も墓地で線香を供えている姿が目撃されており、凶行はその直後のことと思われた。
そして、この温泉町では寺に寄宿していた未亡人が、暫く前に寺近くの裏山で首を吊って自殺し、それ以来その場所で未亡人の幽霊が目撃されていて、その幽霊が住職を刺したとの無責任な噂が流れた…

5−1=4    
島久平
悪徳弁護士の事務所に一人の男が弁護士に呼び出されてやって来た。事務の女性が私室の弁護士にそのことを告げると、応接室待たせておけという返事。事務の女性は男を応接室に通す。
少しして同じような男が現われ同じように応接室に通された。さらに3人目の男が同じように応接室へ。その次は女で、これも応接室へ。
皆がイライラし始めた頃に女の事務員が来て、順番に客を弁護士の部屋に通す。皆は数分いて帰って行った。そして最後の客が弁護士の部屋に入ると、そこには刺殺された弁護士の死体があった。ふと気づくと事務の女性も消えていたのだった。

アリバイ    
藤雪夫
新潟県の谷中の森といわれる林の中で水商売の女の絞殺死体が発見された。女は商売柄多情であり、多くの男が調べられたが、皆アリバイがあったり動機が弱すぎたりして容疑者はなかなか特定できなかった。
事件から一週間後にひとりの男が犯人らしき男を見たと警察にたれこんだ。男の証言から逮捕されたのは中島和男という、S化学の実験室に勤める男。中島は女に惚れていたが、邪険にされてから生活にあれていた。
中島は当日5時まで会社にいたとアリバイを主張したが、4時以降は見たものはなく、そのうえ女の持つハンドバックからは中島の鮮明な指紋が検出されて逮捕の決め手になった。
しかし中島の潔白を信じる妹の由美子は、中島の旧友で警視庁に勤める菊地を頼り、中島の無実を証明してくれるよう訴えた。

Fタンク殺人事件    
仁科透
工業地帯にあるT石油のフローティングタンク。フローティングタンクとは浮屋根式の原油タンクで、満タンの場合は屋根が一番高い位置になり、空になると最も下に下がる。
今、そのタンクは原油が少なくなっており、したがって屋根はかなり下にきていた。その屋根に従業員の一人が落ち死んでいるのが見つかった。
事件は事故か、殺人か、それとも自殺なのか…自殺する動機はなく、警察は事故と考えた。だが同じ製油所に勤める男の婚約者は殺人を主張した…

ある密室の設定    
宮原龍雄
アパートの部屋でナイト・クラブのホステスが洗濯物を取り込んでいる間に締め出された。なんとなかから掛け金が掛けられたのだ。窓も内側から鍵が掛けられていて、部屋は密室になっていた。大家を呼んで窓を破ったが、どうして密室になったのかはわからずじまいだった。ただ、部屋の中から盗まれたものはなく、不思議ではあったが大騒ぎにはならなかった。
そんな出来事があってから一週間後、そのホステスが部屋の中で殺された。首をロープで巻かれて窒息死していたが、死後に胸を2度も刺されていた。
ドアは内側から掛け金が掛けられていたが、窓は開いていたから今回は密室ではなかった。犯人は窓から脱出したらしいのだ。被害者を刺したナイフは近くの干上がった川から見つかったが、そこでは殺害時刻前後に道路工事が行われていて、犯人らしき人物は誰も通らなかったと工事の警備をしていた警官は断言した。
犯人は現場からは脱出できたが、ナイフを捨てることができなかったのだった…

春嵐    
天城一
国粋主義団体飛鷹会幹部の櫨山の別荘は、底なし沼に面した岩壁の上にあった。その開いた窓から嵐の夜に大砲の弾が撃ち込まれ櫨山が殺された。大砲弾は山砲のもので比較的小さかったが、それにしてもどうやって撃ち込んだのだろうか…


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