急行出雲
カッパ・ノベルズ(入手難)

「下り”はつかり”」に続いての鮎川哲也篇鉄道ミステリ・アンソロジー。
西郷隆盛    
芥川龍之介
推理小説として書かれた作品ではないが、推理小説的作法での作品が多い龍之介氏の一篇。

東上する夜行列車の食堂車で本間さんは一人の男と出会った。その男と話すうちに、男は実は西郷隆盛は生きていて、しかも隣の一等車の車室で眠っているという。男に誘われるままに一等車に行った本間さんは、そこに眠っている西郷隆盛を見て驚いた…

一枚の切符    
江戸川乱歩
乱歩のデビュー作「二銭銅貨」とともに書かれ、第二作として発表された初期の作品。


屋敷の裏手を走る鉄路で轢殺された冨田博士夫人。夫人は肺病を患っていて遺書もあり、当初は自殺と考えられたが、黒田刑事は轢殺現場と博士との間に不審な足跡が一つあることから、博士が自宅で夫人を昏睡させて列車に轢かせたと推理し、博士を逮捕した。
ところが線路から少し離れたところにあった大きな石の下に、切符が1枚あったことから博士は冤罪ではないかと考える人物が出て…

夜行列車    
成田尚
「新青年」大正14年4月号掲載の懸賞入選作品。この作者の作品はこの一篇のみ。


札幌駅を出た根室発函館行の最大急行列車が、市内の踏切に差し掛かると、二等車の化粧室の窓からオペラバックが捨てられた。
踏切番がバックを拾い開いてみると乱れた文字で救助を「わたしは殺されるかもしれない…」と救助を求めていた。踏切から札幌駅へ、札幌駅から列車の次の停車駅の小樽駅へと連絡がつけられた。
当夜の列車の乗客は少なく、二等車には数名がいるのみで、小樽で車内を調べたが別段の異常はなかった。安心しているとさらに次の余市駅から二等車内の化粧室で女が絞め殺されているとの連絡が入った。
さらに小樽〜余市間の線路に同列車から転落して轢死したらしい男の死体があった。女の死体は襦袢にコートを羽織っただけで、女の着物は轢死した男が纏っていた…

街角の文字    
本田緒生
戦前に数編の短篇を発表した作家で、本作は「新青年」大正15年1月号に掲載されたもの。


山本君はある日のこと街の角々に数字をチョークで書き付けて歩く紳士を見つけた。興味を持って後をつけると、その紳士はある街角で、ほかの男と煙草の火を貸し合うふりをしてすばやく密談を交わした。
その後2人は別れ、数字を書き付けた紳士は路面電車に飛び乗って行方をくらました。山本君は街角に書き付けられた数字は暗号に違いないと踏んだ。そしてそれを解読すると…

夜行列車    
覆面作家(六郷一)
日本推理作家協会の前身である土曜会の例会の席上で発表された話。覆面作家とはその後小林隆一という文学青年であると判明。


青森に向かう夜汽車の二等車で、一人の青年がたまたま乗り合わせた別の青年に催眠術をかける。催眠術をかけられた青年は殺人で手配中の身で自殺を考えており、死ぬ前に一目母親に会いに行くところだという。この話を聞いた催眠術をかけた青年は…

記者を招く少女    
丘美丈二郎
丘美丈二郎は、昭和20年代から30年代前半にかけて作品を発表した怪談作家。


あるローカル線の駅のすぐ先は岬を巡るトンネルになっており、700mほどのトンネルを抜けた先には信号所が建っていた。ある晩信号所の当直となった友人の勧めで、信号所に一緒に泊まることになった私。
終列車が通過し、その後しばらくした頃、亡霊のような少女が線路に立っていた。するとそのときにトンネルを抜けてきた驀進する列車。信号所の友人は、はじかれたように建物を飛び出して少女の元へ。
だが列車の通過に間に合わずに少女も友人も跳ね飛ばされてバラバラの死骸となった。少女と友人は終列車後の幽霊列車に轢き殺されたのか…

悪魔の下車駅    
渡辺啓助
大学教授朝倉秀人はひょんなことから通勤の途中にあるR駅の最寄に住むチャコと浮気をするようになった。夫人に気づかれぬように夜間講座があると嘘をつき、毎週木曜にチャコの住む一軒屋で4時間ほど過ごすのだった。
そのたびに教授は簡単ながら変装をしてチャコのところに通った。4回の逢瀬が無事に済み、5回目を迎えた。その時に教授を向かえたのは生きたチャコではなく、死体となったチャコだった。

急行出雲    
鮎川哲也
大阪市内のアパートで三田が殺されたのは朝9時30分。これは、隣室の主婦が大きな物音を聞いたことと、その1時間後に郵便配達によって死体が発見され、検死の結果からもほぼ間違いなかった。
有力な容疑者は八王子で果樹園を営む唐沢。三田は唐沢の婚約者を恐喝し、婚約者はその恐喝がもとで精神病となって入院してしまい、唐沢は三田を殺したいほど憎んでいた。
その唐沢は事件の日に大阪に行っていた。婚約者入院の件で三田に会いに行ったのだ。しかし、大阪に行くのに使ったのは急行出雲。出雲の大阪着は朝9時22分。これでは、三田のアパートに9時30分までに着くのは無理だった。
旅なれない唐沢は、列車の手配を義弟で旅行社に勤める空知に任せ、出発時には空知が東京駅に唐沢の見送りに着ていた。
空知のよれば唐沢は確かに出雲に乗ったが、出雲の車内で同席したはずの人たちを警察が探し出し、唐沢の面通しを行ったが、一様に唐沢が乗っていたことを否認。
唐沢は出雲に乗っていたことは主張したが、警察が捜した同席したとされる面々とは会ったこともないと言う。お互いに乗車日や列車や号車や座席の位置まで合っているのだが…

踏切    
高城高
高城高は、昭和30年から15年余りに渡り作品を書いた正統派ハードボイルド作家。


札幌市内の線路で若いチンピラ風の男が列車に轢かれているのが見つかった。死者は死後10分ほどして列車に轢かれたらしかった。
そして死者は麻薬の密売人に接近を図っていたらしいことがわかり、事件は麻薬がらみと思われた。そして一人の女が捜査線上に浮かんできた…

磯浜駅にて    
小隅黎
余技のSF作家によるショートショート。


隣りの浜谷駅を出た列車が磯浜駅にすべり込みドアが開く。本を読んで列車を待っていた私は立ち上がり、何気なく近くのドアから車内に入った。するとそこに座っている乗客たち全てが死者であった…

機関車、草原に    
河野典生
北極圏での二度の水爆の爆発で世界の沿岸部は壊滅的な打撃を受けた。東京も例外ではなく、21世紀の半ばのいま荒野と化し、猛獣まで割拠するほどであった。
沿岸部は全て放棄され、生活は中央都市帯を中心に営まれ、全てがコンピューターにより管理制御されていた。ところがコンピューター不順応人間もいて、それらは中央都市帯から逃亡し廃墟となった沿岸部に隠れ住んだ。
政府はその拠点を潰すべく東京にもミサイル攻撃をかけることを決定。東京に残留する老恩師を思う一人の男は政府を説得して、ミサイル攻撃の始まる直前の東京に乗り込んだ。

剥がされた仮面    
森村誠一
昭和44年に「高層の死角」で乱歩賞を受賞した森村誠一の初期の短篇。


甲府市の西隣にある山梨県韮岡市。そこの田んぼの中で早朝に女の死体が発見された。死亡推定時刻は前夜19時ごろで、これは被害者の壊れた腕時計の時間とも一致した。
死因は青酸による中毒死で、そばに落ちていた缶ジュースから青酸が検出された。被害者は原田京子という東京にある中堅の証券会社大信証券に勤務するオールドミスであった。
京子は大信証券の幹部の信頼が厚く、また一方で大信証券は中小証券会社にありがちな管理の杜撰さもあって、3千万にものぼる架空預り証を発行していたことが警察の捜査で判明した。
警察は京子一人だけの意志で3千万の架空預り証を発行したとは思えず、捜査を続けると背後に岩本始という営業マンが浮かんできた。岩本は京子の住むアパートにも出入りしていたらしい。
しかも架空預り証を担保に金を借り、思惑買いをしていた節もある。ところが岩本には京子が殺された時間のアリバイがあった。中央線で松本に向かっていたのである。
警察は韮岡を通る中央線に乗車していたアリバイに、偽物ではないかと色めきたったが、新宿での乗車と韮岡での停車時間中に友人に資料を渡したとするアリバイは崩せなかった。

ある崩壊    
大西赤人
大西巨人氏の子息である赤人氏によるSFショートショート。


毎日朝夕満員電車に揺られている身長156センチと小柄なS氏は、ある日のラッシュアワーで…

子供のいる駅    
黒井千次
「問題小説」昭和50年9月号に大人のメルヘンとして発表されたショートショート。


テルは友達の誕生日に招かれて生まれて初めて一人で電車に乗ることになった。テルにはそれが嬉しくてしょうがない。しかし行きは途中で友達と一緒になってしまい、一人で電車に乗る夢は叶わなかった。帰りは一人で電車に乗りたさに、早めに誕生会を抜けて一人で電車に乗った。ところが…

特急夕月    
夏樹静子
夏樹静子はわが国女流推理作家の草分け的な存在で、この作品は別冊「小説宝石」昭和50年9月号掲載。


宮崎で行われる接待ゴルフに向ったP化学工業社長羽島は、岡山発宮崎行きの臨時夜行特急夕月のグリーン車に乗った。夜10時を過ぎて柳井駅を発車して暫くすると、隣の席に秘書課長の恩田が現れた。
恩田はこの日専務とともに熊本に出張し、翌日は明石工場に入るために、上りの夜行急行阿蘇で明石に向っているはずであった。しかも羽鳥は恩田が大嫌いだった。
上り列車に乗っているはずの恩田が夕月に現れるのさえおかしなことなのに、恩田はさらにおかしなことを言い始めた…

急行さんべ    
天城一
本業は数学者で昭和20年代後半に不可能犯罪を扱う短篇を多く発表したのち筆を折り、昭和50年代にカムバックしてからは時刻表を利用したアリバイものを多く書いた。


七洋銀行の行員厳木と米内沢ひろみは、ふとしたきっかけで知り合い銀行の金の横領を始めた。ひろみが支店の書類を偽造し、その金を厳木が株式に投資するのである。
株式投資はうまくいき、横領もばれずに済んでいたが、ある日久保木ゆかりが厳木のもとに現れたことから状況がおかしくなってきた。ひろみが疎ましくなった厳木はひろみを殺してしまう。死体は厳木が東京で乗り回していた車のトランクから見つかった。
厳木がひろみを殺し、車のトランクに死体を入れたと思われる土曜日、23時ごろに東京赤坂に厳木がいたのは間違いない。厳木は翌日曜日の14時45分に大坂発の「急行さんべ」で鳥取駅に降り立っている。
時刻表をあたってみると「急行さんべ」に乗るためには、東京を23時前に出ていなければ不可能なのだが…
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