大密室
新潮文庫

有栖川有栖、法月綸太郎、山口雅也ほか8人が密室に挑む。各作者の密室へのエッセイと千街昌之氏の特別解説つき。
壺中庵殺人事件
有栖川有栖
壺中庵と名付けられた部屋はその家の地下室だった。コンクリートで囲まれ二面は書棚、一面には掛け軸が一本、そして残った一面には机があった。
入り口は一つだけで天井にあり、そこから狭い梯子で降りるようになっていた。したがって唯一の出入り口は扉は上げ戸であった。
この家の主人が天井の電灯を吊るす金具にかけたロープから吊る下がっているのが発見されたとき、この上げ戸には中から閂が掛っていたという。外から上げ戸を大工道具で壊して入ったのだ。3人の発見者がそれを証言している。
ただ、索痕の状況などから自殺でないことは明らかだった。さらに奇妙なのは被害者の頭にすっぽりと壺が被せられていたことであった。

ある映画の記憶
恩田陸
子供の頃の海辺での出来事。岩場の陰で絵を描いていた叔母。岩場の陰は周囲から隔離されて見えなかったが、そこへ行く細い道は海岸の監視員から丸見えであった。
叔母が岩場に陰で絵を描いているのは何人もが知っていた。その叔母は潮が満ちてきたのも気づかずに絵を描きつづけ、そして気づいたときには潮に流されて溺れ死んだ。
叔母を遠くから最後に見たのは、おそらく自分であったし、その後は誰も叔母に所に近づいたものはいなかった。事故であった。本当に…

不帰屋
北森鴻
東北地方の山間の小村にある護屋家。そこには小さな入り口と小さな窓だけを持つ離れがあって、中は板敷き、壁も板壁で囲炉裏のほかは何も無かった。
3月、まだこの地方は冬といっていい季節、民俗学者とその助手が護屋家の依頼でやって来た。護屋家では離れは何のためにあるか民俗学的な調査を依頼してきたのだ。
調査が始まり5日目の朝、離れの中で護屋家の娘が死んでいるのが発見される。頭を薪で殴られて殺されたらしい。発見時は死後2〜3時間経っていた。そして離れの周囲の雪には発見者の往復の足跡しかなかったのだった。

揃いすぎ
倉知淳
4人の自由業の中年男。ライター、翻訳家、作詞家、イラストレーターと職業は様々だが、いずれも売れず、所得税すら納めなくてよいほどの年収しかない。
その4人は2〜3月に一度は集まって麻雀をやり憂さを晴らすのが恒例行事だった。集まるのは唯一一軒家に住むイラストレーターのところ。
その日も夕刻から鍋をつつき、3時くらいまで麻雀をやり、家の主人のイラストレーターは寝室に入り、ほかの3人は客間で飲み始めた。
やがてギシギシの間と呼ばれる書斎から幽霊のような声。恐る恐る行ってみるとイラストレーターが死んでいた。首には紐が掛り、紐の一端はイラストレーターが握っていた。
窓には中から鍵が掛り、ギシギシの間には外からの出入りは不可能。イラストレーターの死は幽霊の仕業なのか…

怪獣は密室に踊る
西澤保彦
新婚早々の京介がマンションの自室で監禁された。京介は後ろ手に縛られて、男二人に監視され一週間も部屋に閉じ込められた。男達によると新妻は別の場所で監禁しているという。
監禁されている間に、監視の隙をついてメモを外部の人間に渡したり、ベッドの下に偶然に転がっていた携帯電話で警察に連絡したりしたが、誰も助けに来ない。
やっと連絡がついた友達に助けを求め、二人は京介のいるはずの部屋を外から監視する。ちょうどその時監視の男達が部屋を出たはずだったが、監視している京介の友達の前では部屋のドアは開かなかった。そこに怪獣が現れて京介のマンションを踏み潰したが…

ミハスの落日
貫井徳郎
スペイン、バルセロナでの話。幼馴染の女に出会った男は、子供の頃に近所にいて子供たちを可愛がっていたパコが死んだことを思い出した。
パコの死体を発見したのは、当時まだ少年だった男で、死因は電気ストーブによる感電死であった。そして死体のあった部屋は窓もドアも内側から鍵のかかった密室であった。
男は、当時のことを思い出し考えていくうちに幼馴染の女が犯人ではないかと疑いだす…

使用中
法月綸太郎
駅ビルの喫茶店に勤める真美子は、推理作家新谷弘毅を殺す決心をした。新谷はその喫茶店を編集者との打ち合わせに、よく使用した。真美子は新谷がやって来ると、新谷のコーヒーに下剤を仕込む。真美子はその直後に気分が悪いと申し出て店を抜ける。
やがて新谷がトイレに駆け込む。真美子は先回りして男子トイレに入り、二つあるうちの1つの個室に忍ぶ。新谷が隣の個室で用を足して個室を出る瞬間を狙い、忍んだ個室から出て新谷を個室に押し戻し、針金で首を絞める。
そこまでは上手く行った。ことを終えて女子トイレに戻った真美子は胸のネームプレートがないのに気づく。恐らく新谷の死体がある個室に落としてしまったのだろう。男子トイレに戻る真美子。ところが、新谷の死体のある個室は使用中となっていてドアも開かなかった…

人形の館の館
山口雅也
ドイツ、ニュルンベルグにある人形の館の館。そこはドールハウスを蒐集してきた伯爵の館であった。そこに15年ぶりに伯爵に会いに訪れたヒュー・グラント。
ヒューと伯爵は15年前に一人の女性を巡って争った間柄。その女性は現在は伯爵夫人になっている。そして今回伯爵から招待を受け、ヒューも15年前のことを水に流すつもりで訪れたのだった。
屋敷に着くと伯爵は屋敷の中を案内してくれたが、狭すぎる馬小屋や広すぎるキッチンなど、その屋敷はどことなく不思議な作りであった。さらに伯爵は自慢のドールハウスのコレクションを見せてくれた。だが伯爵夫人の姿は見えず、なぜヒューが呼ばれたのかもわからない。
その疑問をヒューが口に出すと、先ごろ伯爵夫人の殺害を予告する手紙がきたという。伯爵夫人は医者に行っていて間もなく戻るが、ヒューに夫人を守って欲しいというのが伯爵の希望でった。
そうこうするうちに伯爵夫人が帰館した。ところが玄関ホールに入るやいなや銃声が…慌てて駆けつけるヒューと伯爵。
だが、ホールには夫人の姿は無く、夫人は予告状どおり密室となった部屋で死体になって見つかった。玄関ホールから密室に瞬間移動したのだった。


Anthologyのメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -